(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第133話 おっさんの偉人を女体化すると、元がおっさんであればあるほど複雑な気持ちになるものだ

 

 マッドギアの中でも都心部である、メトロポリスキングダムにて、俺は項垂れながらうろうろしていた。

 

 かつてあのギラギラとした危険な街並みは、もはや最初からなかったかのようにオタクの聖地、秋葉原のような姿形へと変化していた。

 

「ねえねえ、次僕もさるのわくせいごっこしていい?ぼく名前忘れたけど、どっかの大統領の顔が猿になってぜつぼーしてる主人公のシーンがすきなんだよね」

「しらねーよ……今映画談義できるメンタルじゃねぇんだよ……」

「何がそんなに気に入らないのだ。良い事だろう。周りの奴らは軟派になって攻撃性もない。大人しく親切で害もない」

 

 アルカンカスが俺を宥めるかのようにして言った。

 

「だからってこんな偉人を女体化してソシャゲのキャラにするアホみたいな国に住みたいと思うか?」

「いや全く」

 

 俺の反対意見に対して素直に肯定するアルカンカス。

 そりゃそうだ、キリアン・マッドギアはおっさん、見た目はただのおっさん。そしてジジイになってこの国に多大な貢献をしてくたばった。

 そんな歴史の教科書に載るような偉人を女体化美少女化させてキャッキャッ言ってる国民ばっかの国とかさっさと滅んだほうがいいだろ。

 

 アルカンカスも俺と同じことをおそらく考えてくれているだろうが、普段は俺に対して否定的なことばかり言うコイツも流石にこの国の異常な雰囲気に気圧されているのだろう。

 

 そう、明らかにおかしいのだ。

 

 あのゲームがいつ頃流行っていたのか、それは分からないが、たかが一つのゲームだけでここまで街全体が変容するのは普通じゃない、明らかに何かされている。

 

「とりあえず目的の一つのドルソイさんの部下を探しませんか?」

 

 アリーシアが俺に提案した。

 

 そうだ、忘れていた。

 俺達の目的はこの騒動を巻き起こしたと思われる人物、テミナ・アーヴァンの確保と連行、そしてその任務に従事していたが、現在消息不明のドルソイの部下のミシェルを探す事だ。

 

「でもどこからさがす?これだけ広いとみしぇるって女の人探すのはほねがおれそーだよ」

「いや、心当たりが一つある」

「え?ほんと?」

「ああ。この国で一番情報が集まる場所がある。そこで情報収集を始めよう」

 

 奴の部下であるミシェルを探す。

 そのためには、マッドギア中の新鮮な情報が次々現れては埋もれていくある秘密クラブへ行かなければならない。

 

 そのクラブの名は───

 

 

 

 

 

 

 

「Noah's Arkねぇ……」

 

 セアノサスは鼻から息を吐き出しながら懐かしむように呟いた。

 

 俺達は目の前の大きなクラブを見上げていた。

 

 紫色に眩く発光するネオンが店名である『Noah's Ark』の文字一つ一つに血を通わすように電光を流して表していた。

 

 外観は建てられてから100年は経過しているのにも関わらず、未だ現役だ。

 

 そして目の前には屈強なガードマンが二人いた。

 どちらも黒いスーツに黒い髪、黒いサングラスをかけておりオタクには見えない。

 

「悪いがこの先は……」

 

 ガードマンが俺達の行く手を阻む。

 しかし俺は上着のポケットから一枚のカードを取り出し、奴等に見せつけた。

 そのカードはカードケースに収納されていた。

 黒いケースの中に入っていたのは金一色に覆われており、真ん中にツノの生えた骸骨が火を吹いているイラストが印字されてあった。

 

「それは……」

 

 俺の持つカードに驚きの顔を見せたガードマンをたじろぐ。

 

「これで文句はねぇな?コイツら俺の連れなんだ、入れてもいいだろ?」

 

「失礼いたしました。どうぞお入りください」

 

 さっきまで余所者は帰れと言わんばかりに佇んでいた男二人は牙が抜けたように突然下手に出て礼儀正しく頭を下げて道を譲った。

 

「よし、お前ら行くぞ」

「え、ええそうですね……」

「かっくいー」

「ここがあのクラブなのねぇ……」

 

 セアノサスはしみじみとしたトーンで呟く。

 

「ああ、そういやお前は知っているんだったな」

「あなたからの話で小耳に挟んだくらいなだけで、直接この目にしたことはなかったけど、ここがあの……」

「この場所がなんなんですか?」

「10年くらい前か、俺はここに破壊工作のための潜入任務でここに頻繁に通っていた。この場所は裏の仕事の話や大物のゴシップ、売れば値千金のレア物の場所やら、ありとあらゆる情報を集めやすくてな、よく利用してたもんさ」

 

 俺はそう言ってノアズアークの入口扉を開いた。

 ギィ、という古びた木製の扉特有の音が鳴り、俺達は中に入った。

 

 中は暗く、下に階段があり、それを降りていくと、もう一つ扉があった。

 この先がノアズアークの本当の入口だ。

 

「この先は危険なアウトロー共がうじゃうじゃいる。気をつけねぇと格下だと舐めてかかられて面倒なことになるからな」

 

 さっきはあまりの変わりように取り乱してしまったが、ここから先はもっと危険な奴らがいる。

 傭兵に賞金稼ぎ、それらを上回るマッドギアの伝説の傭兵もいるだろう、気を抜けば即座に殺し合いの始まりだ。

 

「あ、あうとろー……ゴクリ……」

「タマリ、危ないから私にぴったりとくっついてくださいね」

「さて、どうなることやら……」

「……」

 

 4人は期待と不安を胸に抱えながら地下の扉をゆっくりと開けた。

 

 開けた扉の向こうには、平和とは程遠い血生臭い雰囲気を持つ傭兵達が酒を酌み交わしながら仕事の話を「ちょwwwwwいやだからそれ『とこしえのカタパルト』だから今は使えないってwwwwww」

 

 え?

 

「攻撃力は?」

「5200」

「たっかwwwwww」

 

 え?

 

「お前金獅子リリ2枚使ってない?不正してるだろ?」

「してな、してないし!」

 

 なんだ、これは……?

 なんなんだ、これは……?

 

 10年前に来た時と、何もかもが違う。

 なんで傭兵達の溜まり場がカードショップみたいになってるんだ。

 なんで傭兵は皆チェック柄のシャツとジーパン履いてメガネかけてるんだ。

 しかもよれよれの長袖服とボサボサの髪のやつもいるし。

 

「あ、あの……」

 

 俺は恐る恐るバーの店員らしき人物に声をかけた。

 

「ここってノアズアークですよね」

 

 頼むから違うと言ってくれ。

 呆っとしてうっかり違う店に入ったと信じさせてくれ。

 

「ああ、ここはノアズアークだよ」

「お前ら聞いたか?どうやらうっかり別のクラブに入っちまったらしい。じゃそういう事で一旦出るか」

「いやお店の人ちゃんとノアズアークって言ってますけど」

 

 アリーシアが俺の言葉を即座に否定していたが、俺は知らん振りして出て行こうとしたが、彼女に「いやいや間違ってませんて」と言われ首根っこを掴まれた。

 

「ああもしかして昔来たことがある観光客の人かな?だいぶ変わったけど、ここは間違いなくノアズアーク、傭兵達の交流の場だよ」

「へ、へぇ。あ、あそう。なんか随分雰囲気が変わったねぇ」

 

 俺は店員から現実を突きつけられ、しどろもどろになりながら普段ではありえない言葉遣いで返した。

 

「まーねぇ。ちょっと前は怖いあんちゃんとねぇちゃんがいたが、今じゃ別の意味で騒がしい場所になったよ」

 

 店員が「ほら」と言って目線で誘導する。

 そこには猿みたいに騒ぎながらカードゲームに熱中する男共がいた。

 

 そこには何を言っているかわからない早口でターンがどうだのカード効果がどうだのヒットポイントが〜コストが〜とか、まるで人間の言葉とは思えない言語でとにかく高速で喋っていた。

 

「あ、ああ……」

 

 俺はまたしても地面に両膝を突いて目を虚にささらながら絶望した。

 

「おっ、またさるのわくせいごっこしてる。ぼくもやろっと」

 

 タマリが面白がって俺の隣に近づいて俺と同じような体勢になる。

 完全に馬鹿にされているのに怒る気力すら湧いてこない。

 俺のあのギラギラした思い出は完全に吹き飛んでしまったのだろうか。

 あの頃の血の気の多い傭兵達がいた何が引き金になるか分からない危険でワイルドな雰囲気は、完全に消えてしまったのだろうか。

 

「二度あることは三度あるってやつね……」

「いや、コイツがこんなアホなことやってるのはこれで二回目だからな」

 

 セアノサスが頷きながら言い、それに対してアルカンカスがまるで俺を矮小な物であるかのような蔑んだ目で見ながら言っていたが、それでも怒りは湧いてこなかった。

 

 さよなら、俺のマッドギアの素晴らしきアウトローな日々よ……

 

「お前ら、マッドギアの外から来たのか?」

 

 そんな時、俺たちに声をかけてきた人物がいた。

 俺はそいつの方へ首を動かすと、俺は正気を取り戻した。

 

 何故ならソイツは赤と青、そして白髪が混じった壮年の男であり、俺たちと同じようなパンクな服を着ていたからだ。

 

「い、いた……この街はまだ終わっちゃいなかった……」

「こんどは泣いてるよ。じょーちょふあんていってやつだね」

「えっと、貴方は一体……?」

 

 アリーシアが首を傾げながら尋ねると、男は「ああ、俺は…」と言って自己紹介を始めた。

 

「ミゲルってもんだ。いやあこの街も随分変わっちまったよな。前はもっとこう、殺伐としてたもんだが」

「そう!そうなんだよ!!お前話分かるじゃん!!!」

 

 俺は猛烈に感激してミゲルの両肩を掴んで激しく揺さぶった。

 ミゲルは「ちょ、揺れる揺れる」と言って俺の言葉に同意を示していた。

 

「だよな、お前もそう思うよな!」

「やめなさいよ!その人脳みそ揺れまくって気分を悪くしてるわ!」

 

 俺はセアノサスに脛を蹴られて怒られた。

 俺は痛みと同時に奴を放した。

 

「もし良かったら向こうで話さないか?この街がなんでこうなったのか教えてやるよ」

「え?良いんですか?私達まだ会って間もないのに……」

「そのままほっといたら可哀想だしな。それに俺はこの街に住んで40年は経つ。なんでも教えてやるよ」

「そんな親切に……ありがとうございます!」

「やさし〜」

「ああ、そうだな。良い人間だ。良い人間過ぎるが……」

 

 ミゲルの言葉に各々反応を示しながらクラブの別室に案内された。

 俺はここの構造を今も覚えているのでどこに向かうのかは大体分かる。

 俺たちが向かっているのは傭兵達が仕事の話をする時に使用する盗聴盗視を防ぐ防音機能のある個室だ。

 

「…サビター」

 

 アルカンカスは俺に小さく耳打ちしてきた。

 

「ああ、分かってるさ」

 

 俺は短く答え、明るいトーンで「そういやよぉ!」とミゲルに話しかけた。

 

「俺ァ10年ぶりにこの国に来たんだが、エバンスのダイナーはまだやってるか?久しぶりにアイツの出すハンバーガーセットが食いてェな」

「ああ、あの汚い豚の餌を客に寄越す店か?不思議なことにまだあるぜ。あんな所に通う奴等の気が知れねぇな。全くどこが良いんだか」

「なんだよ、それなりに美味いんだぜ?衛生局に睨まれてるがな」

 

 俺の世間話にミゲルは笑いながら返した。

 俺はこの街の近況についてもう少し知りたかったためいくつか聞いてみることにした。

 

「伝説のソロ傭兵、セインツ・ノーハートはまだこの街にいるのか?せっかく来たんだ、挨拶くらいはしていきたいんだが」

「いや、奴はアールウェーンに行ったよ。なんでも悟りを得たいからって修行に行ったらしい。アイツもう100歳のジジイだぜ?よくもまあそんな元気があるもんだ」

「そうだそうだった!そんな事言ってたよなあ!耄碌したんじゃねえかと疑っちまったが、元気でやってると良いな」

「そうだな、伝説の男は伝説のままでいてほしいってのは俺みたいなアマチュアファンのエゴなんだろうなぁ」

「どうだかな……そういや銃職人のテレンスは知ってるか?マッドギアの傭兵はまず最初にアイツの銃をつかうのが様式美みたいなもんだったろ?」

 

 俺は昔のことを懐かしみながら言った。

 俺たちの会話に他の四人は首を傾げて理解をしていなかったが、俺はまだまだ聞きたいことがあり、またミゲルに話題を振った。

 

「そうだな、まずはあの人のペイルバンダー1258を買うことから始まって、金が貯まったらもっと上の武器にグレードアップするのが黄金律だよな」

 

 ミゲルの言葉に俺は首を縦に何度と振りながら頷いた。

 コイツはもう間違いなくマッドギアの住人だ。

 ここまで詳しいと、むしろ俺の方が浅く思えてくるほどだ。

 

「テレンスの奥さんは元気か?よくあの人にはクッキーを渡された。もう一度食べてぇな。母の味って感じがするんだよ。俺に母ちゃんいねぇけどな」

「ああ息災だよ。40年も時間が経ったのになんであんな元気なのか目を疑うほどだ」

 

 俺は「そりゃ良かった!」と返すと、ミゲルにB.B.を突きつけた。

 

「テレンスの奥さんは10年前に病気で死んだ。俺は葬儀の参列者として参加もしたぜ。テメェ誰の話してんだ?」

 

 俺の言葉を聞いた仲間の4人はすぐに事態の異常さに気づき、剣や杖、拳を構えて警戒をする。

 

「そこまで事情通だと誤魔化しきれないか……」

 

 そう言ってミゲルはゆっくりと俺たちの方へ振り返り、そして腰の袋から何かを投げてきた。

 

 アリーシア、セアノサス、タマリ、アルカンカスはそれぞれ武器や拳で投擲物を弾き落とした。

 

「え?これって……」

 

 セアノサスはミゲルの床に落ちた投擲物を拾い上げ、驚いた顔で彼を見た。

 落ちていたのはクナイ。

 主に忍者と呼ばれる陰に生きる戦士が使う暗器である。

 

「あなたまさか……ミシェル!?」

 

 彼女の発言にアリーシアとタマリとアルカンカスは目を見開いて驚愕した。

 そしてそれと同時に、ボンッ!と音を立ててミゲルから白い煙が発生し、徐々に姿を現したのは、紫髪の短髪の女、『陰』のドルソイの部下にして弟子のミシェルであった。

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