「ああ、そういうことか。それ変幻の術だろ」
俺はホルスターに銃を収納し、警戒態勢を解いた。
「え、ええ!?さっきのおじさんがこの女の子!?どういう魔法を使ったんですか!?い、いや機械技術!?」
「あまりこの状況を見られるのはまずいから、奥の部屋で話しましょ?」
ミシェルの言葉に毒気を抜かれた一同は「あ、ああ」だの「ええ」だの「うん」だのそれぞれ答えた。
しかし、ミシェルは「その前に」と言って俺に視線を合わせた。
合わせたというよりは、俺の目線よりやや上の、額を見ていた。
「その、それ……刺さったままだけど大丈夫?」
ミシェルの言葉にアリーシアは「あっ!」と恐ろしげなものを見るような顔で俺の額に指差した。
「ク、クナイ!クナイ頭に刺さってます!」
「いたくないの?」
「え?何言ってんだお前?そんなもんユニコーンがうに食べてマグカップに砂糖菓子を電子レンジに入れた後乾いた地面が涙を啜るようなもんだろ?」
「なんて?」
俺は手元を狂わせながらも頭にブッ刺さったクナイを引き抜くと、額からビュルルと血が吹き出し、俺は身体の力が抜けて地面に卒倒した。
「あらら倒れちゃったわ」
「クナイくらい躱すか弾き落としてくださいよ……」
「ギルドの元幹部って聞いてたから大丈夫だと思ったのに……」
アリーシア達の呆れとため息が混じった話し声が聞こえたが、俺の意識は一度ブラックアウトしてしまい、彼女等が具体的に何を言っていたのかは聞き取れなかった。
そして次に目を覚ました時には、既に密談用の部屋へと移動しており、俺は横になっていた。
部屋は6、7人は余裕で入れる空間で、長いソファーが三つあり、横長のテーブルがそれらに囲まれるように鎮座されている。
そしてテーブルの真ん中には3Dホログラムのディスプレイが設置されていて、テレビ番組や過激なヌードも見ることができる。
室内にはBGMが流れていたが、萌え系のアニソンしか流れていなかったためBGMの切り替えを何度も試したが、全部同じような曲しか流れず、俺は舌打ちをして音を消した。
「よお、運んでくれたのか。サンキューな……」
俺は重かったであろう成人男性の意識のない身体を運んでくれた事に感謝の言葉を述べたが返事が来ず、どういうことかと奴等の方へ近づいた。
「ねぇねぇ、へんげの術もできるってことなら、ふんしんの術もできるよね?ドルソイもやってたもんね」
「もちろんできるよ」
「へ、変化の術をしてください!変化の対象はアイドルグループイケメン⭐︎ギルドのリューセイ君を……!」
「忍者の術は魔力を使うのか?それともチャクラか?」
「チャクラて……それは流石にNARUT●の見過ぎよ」
「セアノサスさん、それ隠せてないです」
俺が寝ていた間に、アイツらはミシェルと楽しそうに雑談をしてやがった。
「よぉ!?運んでくれて!ありがとうな!?」
「わっ、びっくりした」
「起きていたのか」
タマリとアルカンカスが振り向き、俺に見た。
だが俺を見たのは一瞬で、直ぐにミシェルの方に向き直し、また忍者の話をし始めた。
「なぁオイ、忍者タートルトークで盛り上がってるとか悪いんだが、そろそろ真面目な話をしてもいいか?」
「もちろんだぜーさいこーだぜー」
「うるせぇよ」
タマリが両手をバンザイさせて某ネズミの国にあるアトラクションであるカメのモノマネをしながら言ったことについては特に触れずに一蹴し、改まって全員で顔を向き直し、ミシェルの方へと視線が移った。
「俺達の目的はドルソイの部下であるミシェル、お前を探し出す事、そして最近流行ってるマジガミの開発者であり洗脳作用のあるデバイスを開発、拡散した人物、テミナ・アーヴァンを捕まえて尋問する事だった」
俺はこれまでの事を振り返りながら語り始めた。
「そこでまずは第一の目標、ミシェルと接触し、生存している事を確認できたわけだが……一体どういうわけか聞かせてくれないか?何故連絡が取れなくなった?何故俺達を変装して誘き寄せようとした?」
俺はミシェルに確認するように語りかけた。
突然音信不通になり、救援に駆けつけた途端罠にかけるように変装して俺達に近づいた。
挙句クナイまで投げて俺達を危害を加えるつもりかは知らないが、試すような真似まで。
返答次第ではコイツを脱出させることは難しいものになる。
「そこの金髪のチンピラ、い〜い質問だぜ〜」
真面目に答えるかと思ったらコイツもタマリのノリに合わせてタートルトークごっこをしでかしてきやがった。
「お前までやるのかよ。タートルトークはもういらねぇよ。つかチンピラじゃねぇよ!」
「お前、最悪だぜ〜」
「クラッシュそんなこと言わねぇよ!」
「どこから話そうかな……」
ミシェルは今のふざけた態度から一変し、少し困ったように呟くと、「ああ、じゃあここから話してみようか」と呟いて話題を決めたのか、自分の独り言に首を縦にして頷きながら言葉を紡ぎ始めた。
「私の上司のドルソイさんと私や彼の部下は、主に国内外の諜報任務に就いてるんだ。ウィルヒルに関わる危険を陰から事前に取り除く役割を持っていたの」
「ああその辺は知ってるぜ。根暗にはぴったりの仕事だよな」
「あなたいちいちそういうトゲのある事言うのやめなさいよ。友達無くすわよ?」
セアノサスが俺に戒めるように言う。
「うるせぇよ。それで?なんで今まで連絡も帰還もできなかったんだ?」
だが俺はそんなことは間に受けずにミシェルに問いかける。
「ドルソイ師匠から任務を下され、私は一人マッドギアに潜入した。以前にも何度かあの国に潜入任務をしたことがあるからすぐに異常事態が発生していることが分かったわ。そして黒幕の正体も」
黒幕、その言葉に俺は眉間に皺を寄せる。
俺をオタクにしやがって、一体どんなクソ野郎なんだと、俺ははやる気持ちを抑え彼女の言葉の続きを待った。
「私が調査報告をしようとした瞬間、魔法を阻害する妨害波を出されたの。おそらく勘づいたのでしょうね、さらに私の氏名と顔が手配書になって出回った。だからこの国から出られないの」
「だがお前はさっき見せた変幻の術で姿形を変えられるだろ。そもそも何故俺達を騙した?」
「騙すつもりなんてなかったわ。この個室に入ってから正体を明かすつもりだった。でもあなたが探りを入れた上に銃を向けられたからつい反撃しちゃったのよ」
ミシェルの言葉に「そりゃないっすよサビターさん」とタマリはヤジを入れ、アリーシアは「これだから野蛮人は……」とやれやれとため息を吐いて呆れる仕草を見せた。
「マッドギアクイズにゃ不正解しちまったが、変幻の術は完璧だった。それ使ってさっさとこの国から出ればいいのにどうして出なかった?」
俺はミシェルに聞いてみたが、彼女は首を横に張って否定した。
「あなた達、この国に入るために門を通ったでしょう?あの門には魔法を使っていないか、あるいは変装用のインプラントを使っていないか徹底的に検査されるの。だからここで足止めを喰らっていたのよ」
俺はミシェルの話を聞いて、目を点にして首を思い切り右横に傾げた。
俺だけでなく、アリーシア、タマリ、アルカンカス、セアノサスも俺と同じように?マークを頭上に浮かべていた。
「私達、なにもそんな検査されませんでしたよ?」
「え?そんなわけないじゃない。私が入国した時でさえしつこく検査されたのよ?」
「いいや、門番の男は何も検査をせずに俺達を通したぞ」
「まんが読んで僕たちのことみむきもしなかったよ」
「しかも美少女漫画を読んでいたわ。下品な笑みを浮かべながら……」
「そこ重要ですか?」
4人の話を聞いてミシェルは「ええ?」と言って頭を抱えていた。
「どういうことなの……?」
「まぁあんまわかんねぇけど、オタク度が進行して皆不真面目になってるってことじゃねぇのか?それより黒幕の、テミナ・アーヴァンの正体を教えてくれ」
俺は我慢が出来ず話を元に戻し、黒幕の正体を聞いた。
「え?ああ、そうね。テミナ・アーヴァン。マッドギア出身、職業はフリーのエンジニア、28歳の成人男性、そして彼の素顔がこれよ」
そう言ってミシェルは1枚の写真をテーブルに置いた。
俺達は写真に釘付けになり、全員テーブルの上を覗き込んだ。
「いや、ちょ狭いですって」
「しょうがねぇだろ。5人全員集まって覗いたらこうとなるわ」
「せまい〜」
「ねぇ、順番に見ない?」
「すまん、俺がでかいせいで…」
俺達は互いに文句を言い合いながら写真を見た。
写真に写っていたのは街の中を歩いていたところを盗撮された瞬間を見てとれる一枚であり、風貌はアフロに見えなくもない天然パーマ、そして丸い眼鏡をかけて…い……る……
「……ッ!?」
「?どしたのサビター?」
俺が身体を小刻みに震わせていることに気づいたのか、タマリが俺に声をかけた。
「こ、こいつ……」
「ん?なになに?どうしたの?サビターさん?まさか知り合い?」
コイツ……!コイツはあの時の……!?
「この男、俺と一緒に牢屋に入っていた奴だ……」
「「「「「えぇ!?」」」」」