テミナ・アーヴァンは俺がテレビ野郎共の陰謀によって仕組まれた冤罪のせいでぶち込まれた留置所にいた牢屋仲間だった。
俺は開いた口が塞がらず何度も写真を見直したが、やはり間違いない、確かにこの男だ。
「この男がお前をゲーム中毒にさせたのか」
「眼鏡、ろくに整えていない髪、これは紛うことなきオタクだわ……」
「こんなあやしー人からあやしーデバイスもらって遊んでたの?」
「いくら寂しいからってこんな変な人からもらったおもちゃで遊ばないでしょ普通!何考えてるの!?」
「な、なんだよその言い草!?」
皆何故か俺を責め立てるように言ってきた。
心外だ、そんなことを言われる覚えはない、俺は被害者なんだぞ。
「あん時はお前ら来なくて暇だったし、手持ち無沙汰だったから仕方なく話に乗っただけで、普段ならあんな事はしねぇよ!」
いや、そもそもなんで面会に来なかった?俺は皆の愛され系店長兼オーナーだぞ?その俺の元に誰も来なかった。
「サビター様がいなくてアリーシアは寂しくて死んでしまいます」とか「ぼくサビターおにいちゃんとまた遊びたいよ」とか「ああ!貴方がいなくて胸の奥と下腹部、そう!主に下腹部がせつなくて辛いの!ああ早く帰ってきて!」とか、普通は俺に対してそう思うだろ!?
「何考えてるか知りませんがそんな事言いませんよ私達」
「うるせぇよ!人のモノローグ勝手に読み取るんじゃねぇ!」
「いやちょっと待って。テミナと会ってたの?その後彼がどこに向かったかは知ってる?」
ミシェルが割と深刻そうな顔で俺に問いかける。
しかし、それについて俺は全く答えることができない。
「いや、それが分からねぇんだ。俺は奴からデバイスを渡された後、気がつくとオタクになってて奴の行方は記憶が抜け落ちちまってる」
「気がつくとオタクになるっていうのがちょっとよく分からないんですが」
アリーシアが何やら変なところに突っかかっていたが、これはもう仕方がない。
実際、本当にその通りとしか言いようがない。
俺はゲームを遊んでると、気がつけばゲームにハマり、気がつけばグッズを買い漁り、そして気がつけば顔がオタクになっていたのだから。
「まあま今更言ってもそれは後の祭りね。あなた達、明日のとある会場でテミナ・アーヴァンが現れるかもしれないという情報は知ってる?」
ミシェルの言葉に彼女と俺以外の全員がしかめ面で俺を睨んできた。
「ええ、知ってるわミシェル。あなたを置いて声優との握手会に参加しようとしていたクズから有益な情報を得ているからねぇ」
「私も知ってますよ。恋人がいる身分のくせにギャルゲーにうつつを抜かし、更には声優にエヘエヘしているキモい男からの言質は取っています」
「そ、そうなのね。ちなみにそれってサビ──」
「ヨシッ!!!お前ら、明日に向けてテミナ・アーヴァンの拉致に向けて作戦会議をすっか!!!なっ!!!!」
「こえでか」
「あからさますぎるな……」
俺はバカでかい声量でこの場を収め、明日マジガミのイベントに現れるであろうテミナ・アーヴァン拉致作戦会議に無理やり移行した。
「いいか、ここからはマジで行くぞ。まず会場名はジェンセン・ドーム。敷地面積は155,320㎡、収容人数は11,000人、かなり挑戦的な規模だ。まぁあの人気具合から見ればこれでも足りないくらいだと思うが」
「めっちゃひろいじゃんね」
「ええ。そしてイベントは第一部、第二部と分けられているわ」
ミシェルが補足を入れるかのように間に言い、俺は頷きながらさらに進めた。
「第一部はOP担当の女性歌手、レイニアスによる名曲、『Listen to my heat beat』のお披露目、その後6人のヒロインを演じた声優、そして開発陣のトークショー。声優達がどのような部分に力を入れて演技をしたか、キャラの魅力、そして朗読劇というファンなら垂涎物のスケジュールとなっている」
「ねぇ、もしかしてイベントに参加するの楽しみにしてるのかしら?」
セアノサスが何か意味のわからないことを言っているが俺は作戦の説明を妨げないようにするためそのまま話を進める。
「しかしこの中にテミナの名前はない。おそらく第二部の各ヒロインのキャラクターソング披露、そしてスペシャルゲストによるトークショー、おそらく奴はここで出てくるはずだ。だからここで施設内の電源を落とし、闇に乗じて奴を捕らえ、この国を脱出する。そしてそれを行う前に声優達の握手会とサイン会に参加し、サイン色紙を手に入れる。完璧な作戦だ」
「こいつぜったいたのしみにしてるよ」
俺は一連の流れを説明した。
タマリも何か変なことを言っているが、これで明日のイベントのスケジュールは説明し終えた。
しかしどういうわけか、周りの奴らは俺に呆れた視線を向けているばかりで、拍手も返事もしやがらない。
「今の説明には明らかにサビターさんの私情が混じってたんですが、これから重要人物を攫うのにイベントエンジョイする気ですか?凄く期待して楽しみにしてるようにしか聞こえないんですけど」
アリーシアが真顔で淡々と俺を詰めるかのように言ってきた。
俺は作り笑いを浮かべながら無言を貫く。
「サビター、私はドルソイさんからあなたがどういう人間か聞いてはいるけど、ここまで常識はずれな人だとは思わなかったわ」
ミシェルは大きくため息をついて右手を額に当てて呆れ果てる。
俺は作り笑いを浮かべながら無言を貫く。
「いい加減にしなさいよサビター。この任務はジョニー団長に頼まれたようなものなのよ?それなのに任務ほっぽりだして握手会だの歌を聞くだの、危機感が足りないわ!」
セアノサスの言葉にアルカンカスは何も言わずに無言で頷く。
彼女達の詰るような言葉に俺は作り笑いを浮かべながら無言を貫く。
俺は、作り笑いを浮かべながら、無言を……
「…てたよ……」
「え?なに?」
「なんかいってるね」
「してたさ……」
「…?あの、すみません、もう一度──」
「楽しみにしてたよッ!!!!何日も前から楽しみにし過ぎて眠れなかったさ!!!!悪い!?!?!?」
俺は俯きながら地面に向かって怒声混じりの真実の言葉を吐き出した。
俯いていたのは今の俺の顔はおそらくコイツらにも読者のお前らにも見せるにはあまりにも汚い35歳のおっさんが顔をくっしゃくしゃにして涙と鼻水を垂らしまくったあられもない姿をしていたからだ。
「あ……」
アリーシアは触れてはいけないものに触れてしまったかのような顔で気まずそうにしながらおろおろとしていた。
タマリやアルカンカスまでもが頬をひくつかせながら半笑いでヤバいものと遭遇したかのような物を見るまで俺を見ていた。
「あ、あのね?サビターさん?私ちょっと言い過ぎたなって思ってるの。人の趣味ってそれぞれあると思うし、おっさんが美少女ゲームにハマってても全く問題ないかなって私も今…最近!そう最近思い始めてたの!だからおっさんで美少女ゲーム好きということに誇りを持ってもいいのよ!」
「申し訳ないけどあなたのその励ましは彼にとってはただの罵倒よ」
セアノサスは俺がここまで言うと思わなかったからか、下手な励ましをして俺の肩にただそっと触れた。
「そ、そうだ!私達も一緒にサイン会と握手会に参加しましょ!このままあにめ?とかゲーム?を毛嫌いするのも良くないわよね。時代はじぇんだーれすなのよ!不当な差別や偏見は争いを生むだけよ!」
「セアノサス、ジェンダーレスはおそらく違う意味だと思うぞ」
アルカンカスが冷静にツッコミを入れるが、タマリが彼と足を軽く蹴って「いまはいわないほうがいい」と言って首を横に振った。
「そ、そうですね!実は私もゲーム興味あったんですよ!美少女ゲーじゃなくてイケメンの男性が出てくるゲームとか!これを機に知識を深めるのもいいかもしれません!ええそうですとも!」
セアノサスに続いてアリーシアも俺を見てあまりにも哀れだと感じたのか彼女同様下手な励ましで俺の肩をバンバンと叩きながら言ってきた。
「皆さん!サビターさんと一緒にイベントを楽しみましょう!テミナはその後誘拐すれば良いのです!」
「賛成!私も大賛成!」
「さんせー」
「…じゃあ俺もか」
アリーシアは右手をハイハイ!と挙げて半ば強引にイベントに参加することを促した。
それに釣られてセアノサス、タマリ、アルカンカスも同意を示し、俺を囲んで「元気出して」だの「大丈夫」だの「オタクでもいーんだよ」だの全くフォローになってない言葉をかけ続けながら「らんらららん」と歌いながら回り続けていた。
「…この人達で本当に作戦成功するのかしら……」
その中でただ一人、ミシェルだけが憂鬱そうに溜息を吐きながら壁にもたれかかり今後の作戦の行く末を憂えていた。