(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第136話 映画を見終わった後、ケチッてパンフレットを買わなかった事を後悔する時ほどの後味の悪さほど嫌なものはない

イベント当日、俺達は会場のすぐ外まで来ていた。

 入場開始まで後少しであったが、俺達はえげつない人混みに囲われていた。

 

 会場はマッドギアの中でもかなり大きな会場で、これだけ人が蛆のように居ても余裕で収まるほど巨大で広大な建物が圧倒的な存在感で鎮座していた。

 

「今日はあの神ギャルゲーマジガミの生の声優が見れますぞ!楽しみでござるな!」

「俺はこの日のために人質救出の仕事を投げ出してきた!依頼主が怒り狂って俺に5000万の賞金掛けたけど、そんなもん屁でもねぇぜ!」

「俺は握手会の為に声優の手のひらの触感を完全記憶する義手にしたんだ!高かったがプライスレスだよな!」

「うにょ〜!にょにょにゃぎにゅの〜〜〜〜!!」

 

 会場の外は熱狂的なオタク達で溢れ、和気藹々としながら心待ちにしていた。

 天然パーマ、黒縁メガネ、嫁キャラのグッズをくっつつけた法被などを着ており、彼等は見た目こそオタクそのものだが、彼等のサイボーグ手術の痕がミスマッチを引き起こしていた。

 

「なんていうか、見た目と会話の内容が一致しなさ過ぎて違和感を感じるんですが」

「そりゃあねぇ。元々荒事を飯の種にしてる傭兵達が急にギャルゲー大好きなオタクになったのよ?私だって変に思うわ」

 

 アリーシアとセアノサスはとてつもないアウェー感を感じながら周りを見渡す。

 

「それにしても、すごい人の数だ。たかがゲーム一本だけでここまで人が集まるものなのか……?」

「そりゃそうだろ。今まで謎だったゲームの制作秘話や生の声優の声を聞けるんだ。更に握手とサインまでもらえるんだぞ?来るなと言われる方が無理ってもんだ」

「いや、アニメ文化に全く縁のなかった悪人達がある日突然アニメオタクになるって変ですよね。やっぱりこれってやっぱり洗脳に近いものを施されてるんじゃないですか?」

 

 セアノサスはオタク達を見て名探偵でも気取るかのように顎に手を当てて首を傾げて言った。

 

「サビターの話を聞く限り、メガネ型ゲームデバイスから発される光線を眼球に浴びたことによって脳に何かしらの影響を与えた線が濃いけど、対象の脳を破壊せずに自我を保ちながら洗脳するのは並大抵の技術じゃないわ。おそらく私達が来る事を予期して何か仕掛けてくるかもしれない。油断せずに行かないと」

 

 ミシェルは警戒を解かぬように忠告する。

 アイツらは依然警戒を続けながら周囲を観察していた。

 

 でも俺最近俺思うんだ、何かを好きになるのって、別にきっかけもハマる時間も関係ないんじゃないかって。

 

「なんかさとったかおしててムカつくね」

「いいのよ。あの人がああいう表情してる時は大体くだらないことだから」

『皆様、お待たせいたしました、ただいま会場いたします。ゆっくり焦らずにご入場ください』

 

 ちょうどその時、拡声器から入場を促す音声が流れた。

 

「開場だあっ」

「いくぞっ」

「やっほう!」

「ふひぃ〜〜〜〜ほげげげげげ」

 

 スタッフの言葉に釣られてオタク達は続々と開場にバキュームカーに吸い込まれるかのように入って行った。

 

「俺達も行くか」

「ええ。貴方達は一般の客と紛れて潜入して。私は別行動を取って貴方達を支援するわ」

 

 そう言ってミシェルは途中で別れ、人混みと闇に紛れて会場内に溶け込んでいった。

 

「流石忍者の弟子ですね。あっという間に消えました」

「あぁ。アイツはドルソイの一番弟子だからな。将来『陰』の二つ名を継ぐのもアイツだろう」

 

 ミシェルを見送りながら俺達は会場内に潜入した。

 入るなり、スタッフの人間が入場者にリストバンドを渡して付けさせていた。

 

 俺達も腕にリストバンドを装着した。

 俺はすぐさま、そのリストバンドに何か細工されていないか確かめた。

 

 リストバンドはこの科学が発展した時代と国において、珍しく紙で作られていた。

 ただの紙なので機械的な細工、例えば相手の自由を奪う毒針であったり、相手の情報を抜き取ったりなどはできる機能はついていなかった。

 

 俺は短く首を縦に頷き、仕掛けはないことを仲間に伝える。

 

 そして会場内、その玄関ホールには物販コーナーが設置されており、マジガミのグッズが展開されていた。

 

 ヒロインの新規イラストが確認できるタオル、ヒロインの代表カラーで光るペンライト、アクリルスタンド、トートバッグ、Tシャツなど、他にも様々なグッズが売っていた。

 

「随分とまぁあるわね」

「見ろ、Tシャツで1万グラッドだ。足元を見過ぎではないか。ドンキで買ったほうがまだ買い得だぞ」

 

 アルカンカスはTシャツを自分の身体のサイズと同じ物を体につけ、サイズを比較しながら言った。

 

「ペンライトだけで6000グラッドもするわよ?こんなの近所の100均で買ったら安上がりでしょうに……」

「あの、すみません。さっきから世界観壊すこと言わないでもらえますか?この世界って一応ファンタジーってことで通ってるんですよ」

「うめざわとみおとかおかだじゅんいちの名前出してる時点でアウトなんじゃないかな」

「いやひらがなにすればいいって話じゃないんですけど」

 

 セアノサスとアルカンカスはグッズに文句ばかり言い、アリーシアは疲れた顔でツッコミをしていた。

 

「お前ら気ィ抜くなよ。ここに何しに来たか忘れるな」

 

 コイツらは自重という物を知らないのだろうか。

 俺達はこれでも潜入任務を遂行中なんだ、敵にバレれば命に関わるのに、全く危機感が足りないと来た。

 

 ここは俺がしっかりしなければと、俺はそう思い物販コーナーにある一通りのグッズを必要な限り全て集め、会計に進んでいた。

 

「……え?私達今あんなのに注意されてたんですか?」

「いちばん楽しんでんじゃん」

「ウソだろ……あの男グッズ全部買ったぞ。あんなの買う金どこにあるんだ……?」

「そんな量のゴ…グッズどこに置くのよ……」

「今ゴミって言いかけたか?」

 

 四人は何故か俺に怪訝な表情を向けながらぶつぶつと文句を言っていた。

 俺はセアノサスになんでも入る魔法の鞄にグッズを入れてもらうよう頼む。

 セアノサスは苦虫を噛むような顔をしながら渋々入れるのを許してくれた。

 

「いいか、お前らもいつか分かる日が来る。映画を見終わった時やライブイベントで見終わった時、パンフレットやグッズを買わないとえも言われない後悔に苛まれるんだ。そんな最悪な気分になるくらいだったら散財しても買った方がいい。そうだろ?」

「「「思わねぇよ」」」

「ふん、どうやらお前らには何言っても無駄なようだな」

「「「こっちのセリフだボケ」」」

 

 連続で三人に同じセリフをぶつけられるとは思わなかったが、俺は何も後悔はしていない。

 

「さて、グッズも買ったし後は予約した座席に座るぞ」

「なんか無理やり親の好きなアイドルのライブに連れてかれた子供みたいな気分なんですけど」

「それ分かる〜!」

「うんうん」

「アリーシア、お前もお前で世界観を壊すようなことは言わない方がいいんじゃないか」

 

 俺達はグダグダ言い合いながらメインホールへと移動し、予約済みの座席へと移動した。

 一番最初に早く座ったのはタマリだった。

 今日はずっと立ちっぱなしで移動していたからか、ようやく触れてホッとしたのだろう。

 

 メインホールは三日月のように俺たち客用の座席があり、大勢の人間が収容可能だった。

 

 ざわめきがどれほど大きくとも、会場自体がとても大きく広い為、こだましたり反響したりすることはあまりなかった。

 

 俺達は開演時間まで待った。

 

 俺はそわそわわくわくさせながら心待ちにしていたその一方で、セアノサスは自分の爪を見ながらどれだけ盛れているか確認し、アリーシアは天井を見上げながら何か考え事をしていた。

 

 タマリは疲れていたのかもうすでに寝ており、アルカンカスは俯いてただ時間が過ぎるのを待っていた。

 

 全く、なんなんだコイツらは。

 少しくらいは楽しそうなフリをしろよ、まるで俺が無理やり連れてきてたみたいじゃないか。

 

 ……よくよく考えたらそんな気がしてきた。

 

 別に全員でライブに入らなくても俺、もしくは俺以外の誰かがライブに参加して、イベントが終わった後テミナ・アーヴァンを追跡して捕まえればいいし、もしくは警備員やスタッフになりすまして奴を攫えば良かった。

 そもそもイベントに参加せずとも捕まえる方法はそれなりにあったはずだ。

 

 俺は何故イベントに全員参加する様にしたんだ?

 そもそも何故、最初の段階で異議を唱える奴がいなかったんだ?

 

 何か、何かがおかしい。

 

 考えれば考えるほど何か違和感を感じていたが、そんな小さな不安な種は、次の瞬間に吹き飛んだ。

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