(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第137話 テレビやゲームで聴くよりも、生で聴く声優の声は比にならないほど格別なものだ

 

 サビター達が劇場ホール内にいる間、ミシェルはスタッフとして潜り込み、テミナの居場所を探っていた。

 

 テミナはウィルヒル王国に異変を起こした張本人である可能性が非常に高い人物だった。

 

 冒険者として王国の外で活動する人間、王国を守る騎士がある日突然家や宿に引きこもり、ゲームに没頭してしまうという病気と呼ぶべきか分からない現象が発生している。

 

 その現象を起こした原因であり、それと同時に事態を収める事が出来る可能性があるテミナを追いかけ続け、ようやく彼を捕捉する事ができた。

 

 ニーニルハインツギルドの『陰』の戦士の弟子として、王国に生きる一人の人間として、必ず解決せねばならない、そういった使命感がミシェルの気持ちを逸らせた。

 

 彼女はイベントのスタッフに変装し、舞台裏に上がり、テミナを拉致する作戦を成功させるため、電源管理室へと向かっていた。

 

 ミシェルとサビター達の作戦はこうだ。

 まずサビター達が一般のイベント参加者として参列し、劇場ホール内に入りテミナが現れるまで待機をする。

 テミナがホールに現れたことを確認したら、閉幕する瞬間にサビター達が通信を傍受されないよう改造した無線機を使い、ミシェルに会場内を停電させるよう言う。

 

 電源管理室に潜入していたミシェルが建物内の電源を落としホール内は暗転、その隙を突いてサビター達がテミナを気絶させ無力化し、拉致をして会場内を後にする。

 

 一見荒削りでシンプルな作戦だが、ミシェルの変幻自在の忍術とタマリの認識阻害による魔法、アリーシアの暗殺者としての猫のような素早さと静かな動き、そして有事の際にはアルカンカスの剣腕があらゆる障害を打ち壊す。

 サビターは……まぁ、そこはかとなくとんでもない働きをしてくれるはずだろう。

 

 ミシェルはそんなことを考えながら電源管理室を発見し、隙を見て入ろうとしたその時、彼女達の目標であるテミナ・アーヴァンが目の前を通り過ぎた。

 

「!」

 

 ミシェルは一瞬判断に迷った。

 護衛の男達が2人居て、彼女の見立てでは2人の護衛の男の実力はそこまででは無く、やろうと思えば速やかに排除出来る。

 

 ミシェルは彼らの後を距離を置いて着いていく。

 電源管理室から少し離れた所に、ゲスト用の部屋があり、そこへテミナ達は入った。

 

 今が絶好のチャンスだ、とミシェルは感じた。

 護衛の男達はミシェルよりも弱い。

 奴等を直ぐに倒してテミナを脅し、こっそりと会場の外まで連れ出せば今回の目的の第一段階は達成できる。

 

 だが作戦外で勝手な行動をすれば混乱を招いてしまう。

 当初立てた作戦通りに動かなければいけない、ミシェルは己を律しながらテミナを黙って見送ろうとしたが、直ぐにテミナは護衛の男達と共に部屋から出ていった。

 

 ミシェルはこのまま電源管理室まで戻ろうとしたが、少し躊躇ってしまった。

 何故ならテミナは部屋に入る前、ノートパソコンを持っていたのに、部屋から出ていく時には手に持っていなかった。

 おそらく持っていたノートパソコンは部屋の中に置いてあるのだろう。

 そして彼女が迷うにはまだ理由があった。

 目の前テミナの部屋は不自然なほどに不用心だった。

 重要なゲストのはずなのに監視カメラも、セキュリティガードマンもいない。

 これでは入ってくださいと言っているようなものだ。

 

 ミシェルは二度三度辺りを警戒したが、己を脅かす罠は何もなかった。

 ミシェルは意を決してこっそりとテミナのゲストルームに入った。

 

 部屋の中はゲストルームと呼ぶに相応しい部屋だった。

 化粧や髪を整える横一面の大きな鏡、そしてその下には机と椅子があり、周りにはソファーやクッションがあり、テーブルに果物やお菓子が置かれていた。

 至って普通の部屋だ。

 室内も監視カメラや盗聴器があるか確認をしたが、外同様何もない。

 

 ミシェルは早速パソコンを開き、中身をのぞいた。

 パソコンは当然ロックが掛かっていたが、彼女はそんなことは当然予測しており、懐から一本のUSBメモリを取り出した。

 

 それはパソコンをハッキングし、ロックを解除するアイテムだった。

 すでに実践済みで100回試して100回成功している優れ物だ。

 

 ミシェルはメモリを差し込み口に挿入した。

 パソコンは一瞬画面が歪んだが、直ぐにロックを解除し、中身を見れるようになった。

 

 キーボードとマウスを操作して必要な情報を取捨選択しながら機密ファイルやメールの履歴を次々と確認していく。

 

 その途中で、ミシェルは一瞬指を止めた。

 ファイルのタイトルに気になる名前があったのだ。

 ファイル名は『プロジェクトOの進行状況について』という名称だった。

 

 ミシェルは画面をスクロールし、どんな内容なのか確認していくうちに、少しずつ顔を青ざめさせた。

 

「ちょっと…嘘でしょ……!?」

 

 ミシェルは冷や汗を流し、パソコンを閉じて部屋を後にした。

 

 彼女はファイルを全て読み上げ、そして同時に悟った。

 

 この作戦は失敗だ、と──……

 

 

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「それでは皆様大変長らくお待たせいたしました。これより、マジガミスペシャルイベント、開演いたします。皆様盛大な拍手でお迎えください!」

 

 司会の言葉に、俺は立ち上がり特大の拍手を送った。

 仲間達は終始俺を変わり者を見るような目で凝視していた。

 

 舞台幕の左右から現れたのは、マジガミのヒロインのCVを担当した声優達であった。

 

「ゴーイングマイウェイの天才肌の祇園莉央を務めたレンス・サイスミス。腐れ縁の異性の親友、佐原朝美を務めたナリ・ピーターソン、書道部の性格も身体もふわふわ系幼馴染の都野和沙を務めたニュート・グダガル。腹黒系ツンデレ委員長敷島真琴を務めたハイセント・トゥマルス。陸上部のクーデレ後輩の柘植玲衣を務めたユーカリ・K・ネイマス。セレブでシャイな後輩お嬢様四条櫻子を務めたミコン・ヒロノ、そして主人公の妹役を演じたスミ・ナケイン。そして隠しヒロイン、下野美沙役のマミ・ガルドサイドまで……最高じゃねえか……」

 

 俺は涙をほろりと流しながらスタンディングオベーションで感動していた。

 

「ここまでむこきゅーでしゃべってたよ」

「よくもまあ一度も噛まずに喋れますよね」

「嫌だ……」

 

 ステージの上に、あのヒロインを演じた御方達が立っている。

 声優の方々が1人ずつ自己紹介していき、俺は姿勢を正して座り直し目と耳に意識を集中させた。

 

「皆さん、遠路はるばるありがとうございます。敷島真琴役のハイセント・トゥマルスです」

 

 これは現実なのか、夢ではないのかと俺はそう思わずにはいられなかったが、そんな俺の迷いは俺の嫁の声の挨拶で消し飛んだ。

 

 あの小鳥が囀るような、あるいは繊細なハープの音のような美しい声が俺の鼓膜をぽそぽそと優しく叩かれるような錯覚に陥った。

 

「はわわわ……」

「おっさんのはわわわはきついって」

「俺もそう思う」

「なるほどねぇ。サビターさんはああいうお清楚な女の子が好きなのかしら……」

 

 セアノサスはふむふむとハイセントさんは観察するように見ながら呟いた。

 しかし、俺は内心ほくそ笑んだ。

 彼女が演じる敷島真琴というキャラクターの真骨頂はここからだというのに。

 

「あらぁ?今日は随分とおたんこなすが多いわね」

「?おたんこなすってどういう意味よ?」

「ぼやぼやしてる間抜けの唐変木って意味だぜ」

「え?なんでそんな言葉をあんなおとなしそうな声の子が言うんですか?」

 

 アリーシアが目を丸くしながら聞いてきた。

 そうだろうそうだろう、何故あんな清楚でおとなしそうで礼儀正しそうな声からそんな言葉が……と思うだろう?

 

「質問です。貴方達は私のなに?」

 

 ハイセントさんは俺達に問いかけるように聞き、マイクを俺達観客側に向けた。

 

「おい、何やら向こう側から質問があったぞ。何か答えた方が───」

「はいっ!!!僕は敷島さんの下僕です!!!!」

 

 俺はハイセントさん及び敷島さんの問いに答えた。

 俺の隣にいたセアノサス、アリーシア、タマリ、アルカンカスは大きく目と口を開き、喫驚していた。

 

「はい!僕は敷島さんの下僕です!」

「俺も!俺も敷島さんの下僕です!」

「ぼ、僕も!僕も敷島さんの下僕でしたぁ!」

 

 俺の声に釣られ、他の観覧席にいたオタク達も下僕宣言をし始める。

 皆一様に嬉しそうな顔で微笑みを浮かべながら「僕ほ犬!」や「拙者は郷士!」とか「ぼ、ぼぼぼぼきは付き人なななななんだな」だの、数多くの下僕達が喜びの声を上げていた。

 

「よろしい。やっぱり貴方達、気持ちが悪いわねぇ。でも安心して。どれだけ気持ち悪くても、私は貴方達の事嫌いになったりしないから」

「「「「「「「「「「「「やったっ!!!!れ!!!!」」」」」」」」」」」」

 

 俺達オタクは一丸となって敷島さんの慈悲に深く感謝し、ジャンプをして喜んだ。

 

 会場内はお祭りムードに包まれ、開幕序盤から大満足していたその一方で、セアノサスはげんなりとしながら惰性で天井を見続けており、アリーシアは固まって何もリアクションが取れず、タマリは「おお」とだけ言い、アルテンカスは大仏のような無表情を貫いたまま見ていた。

 

「ねぇ、アリーシア」

「なんでしょうか」

 

 セアノサスが誕生を見続けたまま死んだ魚のような目でアリーシアに話しかける。

 アリーシアもまたぐったりとした表情でセアノサスの言葉に応える。

 

「これゲームとかそういう次元じゃないわ。これはもう一種のカルト宗教よ……」

「…そうとも言えますね」

 

 アリーシアは目が全く笑っていない口角だけ上げた半笑いをしながら俺達オタクを見て「宗教ってやっぱ碌なもんじゃないわ」と呟いた。

 

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