(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第138話 仕組まれた罠①

 

 イベントはそれはもう楽しさと感動と興奮の怒涛の感情の大洪水と嵐が巻き起こっていた。

 

 マジガミの声優オーディションに望んだ当時の状況、一番難しかった演技シーン、個人的に好きなシーンなどを存分に語った。

 

「実はオーディションを受ける前、少し変だったんですよ」

 

 そう言って声優の一人であるナリ・ピーターソンは笑いながら語った。

 

「少し前の話なんですけど私、夢だった声優にはなれたけど、声のお仕事がなくて困ってたんです。お金に困った時は傭兵の隙間バイトしてて……でもある日送り主不明の手紙とあのゲームデバイスが届いたんです」

 

 そういった彼女の手には例のメガネ型のゲームデバイスが掲げられていた。

 

「手紙には『大物になりたいならそれをつけてオーディションを受けろ』とだけ書かれてて。普通の人ならそんな怪しいのつけるわけないんですけど、なんというか、そのデバイスに抗いがたい魅力とチャンスを感じて、思い切ってつけてみたんです。そしたら……」

 

 ナリの言葉にミコン・ヒロノが「私も私も!」同調した。

 

「そうなんです!私もナリちゃんと同じような状況で、メガネをかけたらVR空間が生成されて、オーディション会場になったんですよ!そして言われた通りオーディションを受けたら一発合格をもらって、キャラクターに声を吹き込んで、ゲームが発売されたら私達の想像以上にマジガミのファンがこんなにもいっぱい出来たんです!」

「この作品と、皆さんがいたからこんな大きな会場も借りることができました。マジガミには本当に感謝してもしきれません」

「そして私達にこのような大役を与えてくれたマジガミの開発者には頭が上がらないです」

 

 皆口々にマジガミと俺達ファンへ感謝の言葉を伝える。

 彼女達の言葉に俺達オタクはうんうんと頷きながら肯定する。

 

"ねぇ、あの人たちの言ってたこと、なんか引っかからない?"

 

 不意に、俺の頭の中でタマリの声が聞こえた。

 俺はタマリの方を見やるが、アイツは俺に顔を向けず、視線も向けずに無視をした。

 アリーシア、セアノサス、アルカンカスも不思議に思ったのか、奴に対して顔を向けたが何か意図があるのかと理解し、直ぐに前を向いた。

 

"いや、むしじゃないよ。通信魔法をつかってバレないようにしてるだけ"

 

 タマリはなおも前を向きながら俺に通信魔法で話しかけた。

 

"なんだよ、引っかかることって。素晴らしいスピーチだろ"

"サビターはあの人たちの話にかんどーしすぎ。結構じゅーだいなところを見落としてる"

"重大な所?"

 

"あの人たちさ、住所なんて教えてないのにとつぜんデバイスを家に送られて来た。普通ならそんなのあやしー物ほーちするか捨てるはずなのに、抵抗しつつも不思議な魅力にひきつけられて結局つけたって言ってたでしょ?"

"ああ"

"あれって装着したらせんのーされるっておもってたけど、実はそうじゃなくて、装着する前からせんのーは始まってたかのーせいがある"

"……まさか"

 

 まさか、と俺は頭の中で鼻で笑いながら言うイメージをしたが、その実俺は不穏な空気を感じた。

 

 つまり、何の技術を使ったかは知らんが、奴の開発したデバイスには特殊な音波か何かを使って装着するように促されてたかもしれないという事で、テミナは俺の想定よりも用意周到な男なようだ。

 

 しかもあのデバイスは近くにあるだけで催眠や常識改変をやってのける相当悪質なデバイスだ。

 

 そして、今も俺の懐にはデバイスがある。

 本当なら破壊しておくべきだったが、出来なかった。

 あの中には俺の大切な嫁とこれまで交わした思い出が詰まっているからだ。

 しかし洗脳されたのは俺だけで仲間達にはかかっていない。

 

 そして俺も洗脳されている事は理解している。

 だが今は正気を保っている。

 この騒動、早めに片付けないと更に厄介な事になりそうだ。

 

"お前ら、テミナが現れたことを確認したらミシェルから電源停止の合図が来る。その後は素早く奴を捕まえて逃走ルートを辿って脱出するぞ。いいな?"

 

 俺は真面目な低い声のトーンで通信魔法で確認すると、まともな声を聞けて安心したのか全員悪ふざけせずに了解と言って通信魔法を終了した。

 

 その後はそれぞれキャラクターを演じた声優達がヒロインのキャラクターソングを歌い、アップテンポな曲で場内は盛り上がったり、しんみりとしたバラードは観客達(勿論俺も含めて)を泣かせにきて、涙をほろりと流さずにはいられなかった。

 

 そうして歌を全て聴き終えた俺は非常に満足感と多幸感を覚えながら次の催し物を待った。

 

『次は特別なゲストによるマジガミ開発秘話のトークショーです』

 

 スペシャルゲストの登壇の時間が来た。

 恐らく、いや絶対にテミナが現れる。

 開発秘話を語れるのはその言葉の通り開発に携わった人間の口からしか語られない。

 

『マジガミと言えば、開発者と脚本家が全く明かされないことで様々な憶測や噂が飛び交いましたが、本日より全ての真実が語られます。それではどうぞ!マジガミ開発者兼脚本担当、テミナ・アーヴァン氏です!』

 

 司会の言葉と共に、会場内のほとんどの人間が拍手を送りゲストの登場を祝福する。

 

「お前は拍手しなくていいんだよ」

「あ、やべつい…」

 

周りの人間に釣られ、そして開発者に敬意を払う為につい無意識で拍手を送ってしまった。

 いや別に怪しまれない為に拍手はしておいた方がいいだろと俺は内心文句を言った。

 

 拍手と共にゆっくりと右の舞台袖から現れたのはアフロのような黒い天然パーマ、首から下は黒のタキシードジャケット中には白いYシャツを着用しており、ズボンもまた黒のスーツ、そして黒の革靴を身につけ、正装姿で現れた。

 

 奴がテミナ・アーヴァンだ。

 写真に写っていた物と俺が見た男と相違ない、確実にあの男だ。

 しかし、少し変なところがあった。

 

「どうも、僕がマジガミの作者、テミナ・アーヴァンでーす」

 

 テミナはつけ髭がついたメガネをかけ、『本日の主役』と書かれたタスキを肩から腰につけながら登壇した。

 口元にはパーティ用グッズの息を吹きかけるとパフーと音が鳴るピロピロ笛を鳴らし、会場内に間抜けな音が響いた。

 

「あ、アイツがマジガミ作った人なの……?」

「間違いねぇ、アイツだ。まぁふざけたカッコしてるが」

 

 そう、本当にふざけた見た目をしている。

 服だけはまともだが一部は完全にふざけている。

 一体何を意図しているのかまるでわからない。

 

 テミナは舞台の真ん中まで進み、俺達に向かって一礼した。

 それはまるで道化師が王様に余興を見せるときにするかのような、仰々しくもあり華麗でもある礼だった。

 

「今日は来てくれてありがとう。もうホントに君達お客様に感謝感激雨霰流星群。おかげでがっぽり丸儲け。多分立派な屋敷が立つほど。いやぁ消費者ってのは本当に大切な存在です。蝶よ花よと慈しんであげたいですねはい」

 

 テミナは独特な喋り方で謝辞と呼べるのかどうか分からない言葉を送る。

 

「皆様マジガミは楽しんでいただけましたか?えぇ、えぇ、皆様のそのオタクフェイスを見ればすぐにぬるっとごりっとまるっとお見通しです」

 

 明らかに小馬鹿にするような言い方で話を進めるテミナ。

 普通ならここでざわついた声や、場合によっては怒声が聞こえてもおかしくないのに、会場内は静かで、ただただ俺達以外の観客達はからの話を黙って聞いていた。

 

「マジガミは元々私のある思想を実現する為に作ったゲームです。ゲームは一日一時間と言われるように、やり過ぎるとのめり込んでお猿さんになってしまいますからね、まぁお猿さんになってもらった方がこっちとしても大変結構なことでございます」

「サビター……アイツ言ってることおかしいわよ」

「ええ、何か変ですよ」

「分かってる。さっさと終わらせた方が良さそうだ。だが……」

 

 俺達は作戦実行に移すことが出来なかった。

 まだミシェルから連絡が来ない。

 彼女からの合図がない限り、俺達は動くことが出来ない──そう、思っていた時だった。

 

 バツン!という大きな音と共に、会場内の光が一瞬にして消えた。

 建物の電気が切れた場合、なんだ?とかどうなってる?など周りの人間はあんてふためきざわつくはずなのに、テミナが現れた時から、会場は不気味なほど静かだった。

 

 時すでに遅かったが、俺はここに来てかなりやばい事態になっていることを察知しし始めた。

 

 どういうことだ、ミシェルか?何故連絡をせずに電気を──……

 

「サビターさん!やるなら今です!」

「ああ、この手を逃す理由はない」

 

 アリーシアとアルカンカスが闇に乗じて玉名を捕まえるよう言って来た。

 ミシェルから連絡が来ないのも気になるが、次に奴を捕まえるチャンスがあるかどうかわからない。

 やるなら今しかないと俺はナイトビジョンゴーグルを装着し、ホール中央に登ってテミナの背後に回って彼を羽交締めにして捕まえ、頭に銃口を突きつけた。

 

「暴れるな。声も出すな。破ればテメェの頭を吹き飛ばす」

 

 俺の脅しに従い、テミナは抵抗はせず両手を挙げて降参のポーズを取った。

 俺はそれを確認すると奴の首筋に意識を奪う液体が入った注射器を刺した。

 注射器は即効性があり、テミナは直ぐにぐったりと身体から力を無くして眠りについた。

 

「行くわよサビター」

 

 セアノサスが俺に手招きをした。

 彼女の隣にはタマリが転移魔法を使い、蜃気楼のようなもやが掛かった楕円状のゲートを作り待機していた。

 

「待てよ。ミシェルと連絡が取れねぇ。アイツ何してやなんだ?」

「彼女なら大丈夫よ。あのドルソイさんの愛弟子なんだから」

 

 そう言ってセアノサスは俺の手を握り引っ張った。

 

「あ、あれ?」

「なんだ?どうしたタマリ?」

「いや、ちょっと何か変……ううん、あとまわしでいい。はやく行こ」

 

 タマリが一瞬不穏な言葉を口にし、不安そうな顔をしていたが、彼は直ぐに意識を切り替えてゲートを潜るよう催促した。

 

 俺達はそのゲートを潜り、脱出をしようとしていた。

 唯一の心残りは、サイン会と握手会が出来なかったことだが、俺はどうにも参加したい気にはなれなかった。

 

「…なん…だ……?」

 

 何故なら、観客や声優達は暗闇で周りが見えないはずで、俺たちが何をしているかなど分かるはずもなかったのに。

 

 俺達を。

 

 特に俺を見てニタニタと笑っていたからだ。

 

 一抹の不安を抱えながら、俺達は転移魔法で会場から脱出した。

 連絡が取れないミシェルを残して。

 

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