会場から脱出した後、俺達はマッドギア国外へ脱出をして──はおらず、闘争が出来なかった場合に取っておいたマッドギア国内のとある廃ビルの中で隠れ潜んでいた。
何故転移魔法でさっさと国から出なかったかというと、「なんか、魔法が妨害されてた」とタマリが言い、実際俺達は脱出できなかった場合の隠れ蓑候補のうちの一つであるこの場所に強制的に移動してしまったのだ。
「おかしいよ。かいじょー出るまでは魔力はもんだいなく練れてた。じっさい通信魔法だってノイズなく使えてたのに」
「なんだか急にきな臭くなってきやがったな」
通信魔法と言えば、ミシェルとは今も連絡が取れない。
直前までは計画通り順調に事が進んでた。
だが、現状の魔力の妨害、そして会場内の俺達以外の人間のあの異様な雰囲気、偶然で済ますにはあまりにも不安要素が多過ぎる。
ならばここは事の発端である本人に聞くしかない。
俺はパイプ椅子に座らされている重要参考人に被せられていた黒い布を乱雑に脱がせ、「起きろ」と奴に言った。
「グースカピー」
「ホントに寝てる奴はそんな寝言言わねぇよ。さっさと起きろ」
「ふわあ〜おはよ、お兄ちゃん」
そう言って俺に気持ち悪い言葉を浴びせたのは俺達が誘拐した男、テミナ・アーヴァンだった。
この男、注射器で眠らされた上に誘拐された割には余裕の表情だった。
「久しぶりだなオタク野郎。つか、誰がお前のお兄ちゃんだ。その気持ち悪い呼び方やめろ」
「いや、君もオタクだろ。ああごめん呼び方が悪かったか。お兄様」
「ふざけるんじゃねぇ。俺の妹はマジガミ主人公の妹、メアちゃんだけだ!」
「アンタがふざけてどーすんの。サビターに妹はいないでしょ?」
セアノサスがジト目で俺を睨みつけながら膝裏に蹴りを入れた。
「ああ、でもお嫁さんはいたか。君の嫁はどれかな?」
そう言ってテミナはセアノサスとアリーシアを交互に見た。
アリーシアは顔を青冷めさせ、右の平手をブンブン振り、完全否定していた。
その一方でセアノサスは自身ありげにそこまでない胸を張り、フンスカと鼻息を荒くして私だ私だと強く主張した。
「馬鹿かお前は。そんなの敷島さんに決まってんだろ」
「お前が馬鹿だろ!アンタの嫁は私だろ!?」
激昂したセアノサスが俺の股間に拳で二撃必殺を加え、俺は「イデア!」と言いながら股間を押さえてうずくまった。
「オイ今は非常事態なんだ、ふざけるのはその辺にしておけ」
アルカンカスがそう言って俺とセアノサスを諌めた。
そうだ、今俺達は停戦中とはいえ、この事が露見したらただじゃ済まない。
この一件は誰にもバレずに静かにこなさなければならない。
まぁ今頃会場は大騒ぎだろうが。
「それで?君達は僕に聞きたい事があるから誘拐したんだろう?なんでも答えてあげよう!何が聞きたい?」
テミナは「さあさあ!」と目を輝かせながらどうぞご質問くださいとでも言いたげな表情で待ち構える。
「それじゃあ時間もないから単刀直入に聞くぞ」
俺は自分用の椅子を用意し、テミナと向かい合うように座った。
「このゲームをお前が作り、ゲーム中毒になるようデバイスに細工したのはお前か?」
「YES」
「ならこのオタクハザード止める方法も知っているな?」
俺の二つ目の質問に、テミナは「うーん」となんだか不満な表情を浮かべて声に出す。
「どっちかというとオタクハザードじゃなくて、洗脳と言った方が正しい」
「やっぱり!」
「いやオタクハザードってなんですか」
「お前ならこのオタクハザードにレクイエムを奏でる事もできるんだな?」
「もしかしてゲームやりました?」
俺の言葉のどこにツッコミを入れる所があったのかは分からなかったが
洗脳……確かに俺や他のオタク達、そして声優達もあれはゲームに依存するようになるというより、そのゲーム自体を好きになるようにさせられていたような感覚や印象を受けた。
「私には協力者が居てね。資金やら施設やら機材やら、色々用意してもらってここまですることが出来たんだよ」
「その協力者はだれなのかしら」
「マッドギア政府関係者、とだけ言っておこうかな」
「その政府の関係者は?名前は?」
「ねぇ、それ本当に重要なのかな?どーせ富とか名声とか力とか海賊王が持ってそうなものを欲しがってるただの俗物だよ。そんな事より聞きたいことあるでしょ普通」
そう言っててテミナは呆れたように「ハァ―ア」とため息と声を同時に出しながら言った。
何なんだコイツは、と俺は内心首を傾げた。
コイツ敵勢力に捕まってどれだけ叫んでも誰も助けに来てくれない場所に監禁されて尋問受けてるはずなんだが……
「ならばなんでこんなことをした?」
アルカンカスが俺達の前に出てテミナに問いかけた。
シンプルだが核心を突いた質問にテミナは「そうそれ!」と言ってよくぞ言ってくれたとでも言うかのようにウィンクをした。
「結論から言うと、世界平和のため」
テミナは真面目な顔でそう言った。
「ギャルゲーで世界平和目指す気か?馬鹿じゃねーの?」
がしかし、俺には奴がふざけて言っているようにしか聞こえなかった。
俺の他にも眉を顰めたり、首を傾げたり、「もう一度いってくれる?」と聞き返したりする奴もいて、それくらい突拍子も無い事をコイツはほざいていた。
「まぁ最初は皆そんな反応するよね。お偉いさん方も最初は君達と同じ反応をしてたよ。でも最後には納得してくれた」
「何を奴等に吹き込んだんだ?」
「まぁ彼等の耳障りの良い言葉で説得したよ。この国の奴等って、野蛮で下品だろ?銃をアクセサリーみたいに身に着けて、人体改造も整形感覚で施して、金さえあれば何でもする。そんなお猿さんを洗脳して政府のために懸命に働いてくれる奴隷に調教するびっくりするほどユートピアな計画だってね」
「それでまずは最初に自分の国を支配して、その次は他国に手を伸ばすつもりだったってわけか」
「そーなんじゃない?僕はあんまキョーミないけどね」
「じゃあお前がキョーミ持ってる野望はなんだよ」
「ただ僕が作ったゲームを広めたいだけだよ。誰だって自分が作った作品は皆に見てもらいたいものだろ?」
テミナは当然だろ?と言ったような顔で目を大きくして俺に瞳で問いかける。
なるほど、マッドギアの上の連中もそうだが、コイツもコイツで別の意味でイカレてやがる。
さっさとコイツの頭の中身覗いてこの混乱を鎮める方法を見つけた方が良さそうだ。
イアリスならそれができるだろうが、まずはこの国から脱出しなければならない。
外の状況はどうなっているだろうか、俺は携帯型の映像端末(読者のお前等に分かりやすく言うとスマホみたいな物)を起動し、ニュース番組を見た。
『今日も皆に心踊る音楽をお届け!Blade&LycorisのLone Wolfだ!今流行りのアニメ、ご注文はケンドリックジャベリンズですか?でお馴染みのOPです!』
『夢のマギアネットデスダ〜♪今回はなんと、プリズム・ロジスティクス "オーバーロード" 重突撃銃にさらにおまけして7.62mm "フラグ・メッシュ" 反転破砕弾30発入りを追加だァ〜!えぇ〜安ゥいありがとうプレジデント〜』
『電子サムライと空薬莢の前回のあらすじは〜』
『今回紹介するお店の看板商品はこちら!シンセティック・ラーメンネオンイエロー仕立て!身体に悪そうなネオンの色合いの麺が食欲を唆るぅ〜!』
『今日のゲストはこの方ァ!ハセベコープ兵器開発部門部長、ニマ・シデン氏!』
携帯端末に映る映像はどれも今回の拉致事件に全く関係がない内容ばかりだった。
俺たちが拉致したのは世界レベルで今をときめく大人気ゲームの謎の開発者、普通ならばこのような時間は大々的に取り上げられてもおかしくない。
しかし、どの番組を開いても、全く俺達についての報道はなかった。
『今日のニュースです。最近イミテイションカオス精神病院にて、試験的に猫を飼育させるという制度を設け、これが意外にも囚人達に効果がある事が〜」
試しにもう一度番組を開いてもクッソどうでも良い話しか流れて来ず、俺はあっさりと拍子抜けしてしまった。
身構えて端末を操作していた自分が情けなくなってくるが、それでもやはり違和感が拭えない。
人一人が白昼堂々攫われた事件が起こったのにニュース番組は一切報道していなかった。
「情報が無いことがそんなに不安かな?」
俺の考え事を見抜いたテミナはしてやったり気味な顔でそう言った。
その時の奴の顔、雰囲気は俺のやることなすことを分かっているような顔であまり気分は良くなかった。
「ぼくたちのじょうほーが出ていないなら、このままくにの外に出られるんじゃない?」
「だとしたら突然魔法妨害波が出た説明がつかないだろ。いずれにしろ、この国から出るためには頭とケツにある門を通るか、転移魔法使うか二つに一つ」
「でも門番の人は適当に仕事してたし、通り抜けようと思えば出られるんじゃないの?」
セアノサスの言葉に俺は首を横に振って否定した。
「さっきドローンを使って門の様子を偵察していたんだが、奴等心変わりでもしたのか上司にどやされたのか知らねぇが、アイツ等突然真面目に仕事し始めやがった。今じゃ鬼の形相で入出国を管理してやがる」
「入る時は緩かったのに出る時は厳しくなったのか。何か恣意的な物を感じるな」
「ケツと同じさ」
「急に汚い事言うのやめてください」
「おしりのあなは何かを入れるためにあるものじゃないよ」
「今のマッドギアはお尻の穴を開発しちゃった人の状況そのものね」
「君達はお尻が随分好きなんだね」
しまった、ケツの穴の話に没頭し過ぎた。
今はそれどころじゃないというのに。
「妨害魔波を出している場所は見当がついている。ミシェルを見つけた後、俺と彼女で破壊工作をしに行ってくる。タマリ、魔法が使えるようになったら俺達二人を転移魔法で連れ出してくれ」
「ん」
タマリは簡素な返事をした。
俺は装備を整え、出て行く準備をした。
ここから先は俺1人で行く。
魔力の使用が制限されている状態ではさしものアリーシアやタマリも戦力は大きく下がる。
そもそもこれから行うのは破壊工作、静かに、スマートに出来る奴が適任だ。
それ故に、ミシェルが居ない事が気がかりだった。
彼女からの連絡は依然としてなく、消息不明だ。
元々ドルソイからは彼女の創作と救出を頼まれており、それを反故にすることはできない。
彼女を見つけ次第、すぐに脱出の手はずを整えなくてはならな──
『プルルルルウルル!』
そんな事を考えていた時、俺の耳元に着けていたインカムから着信音が激しく鳴った。
どうやら俺のインカムにしか連絡が来ていないのか、他の四人の仲間は全く反応を示さなかった。
そして俺のインカムに連絡を寄越してくる奴は一人しかいない。
俺は即座に通信を開始した。
「ミシェルか。お前何やってる。こっちはとっくに──」
『逃げて!!!』
インカムの向こうからは彼女の怒号にも似た叫び声がけたたましく俺の耳の中で鳴り響いた。
「待て、どういうことだ。ちゃんと説明しろ」
『説明してる暇はない!逃げて!』
「わかった。アイツ等にも知らせてから──」
『ダメ!貴方の仲間はもう既に──……!』
ミシェルが最後まで何かを言おうとした瞬間、俺は誰かに何かを刺された。
ぷすっと左の首筋に針か何かを刺され、イ誰かからンカムを取り上げられた。
それは俺がテミナにやった時と同じような、意識を奪う薬液が入った注射器を刺した時の感触と似ていたが、今は真逆の立場だった。
俺は言うことを聞かない身体を何とか動かし、後ろを振り向いた。
「なん……でお前…らが……!」
俺に注射器を刺したのは、先程まで普通に会話していたセアノサスと、無表情でその様子を見て微動だにしないアリーシア、タマリ、アルカンカスの四人だった。