(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第141話 勝手に現れ勝手に消え、そしてまた現れた

 

 俺には家族はいない。

 いない理由は親父もお袋が強盗に殺された、もしくは親父が蒸発してお袋が俺を煩わしく感じ孤児院に捨てたか、どんな経緯があったかは知らんがどうせ今更考えたところで意味はない。

 

 だが、一時期俺の面倒を見てくれる奴がいた。

 この世界の戦い方を教えてくれたが、一通り仕込まれた後勝手に姿をくらませた。

 

 勝手に現れて勝手に消えたそんな男が今、どんな因果か俺の目の前にまた現れて、俺の危機を退けようとしていた。

 

 あまり整えられてないボサボサの長い白髪が目にかかっていたが、その奥に光る青い瞳が俺を見下ろした。

 灰色のロングコートを纏い、右手には赤いハンドグリップに銀の塊のような大型な銃身の自動拳銃が握られているが、ホルスターに戻した。

 

「貴方、誰ですか?」

 

 アリーシアが眉と目を細くして睨みながら問い掛ける。

 

「ああ、そこの這いつくばってるアホタレの保護者ってとこかな」

「ああ……!?誰が…誰の保護者だっ……て……!?」

「サビター、お前何寝てんだよ。さっさと起きろ。その冷たいコンクリはお前のベッドじゃねぇぞ」

 

 ジョセフは俺を横目に揶揄うように言ってきた。

 俺はもう35のおっさんだ、なのにガキにするような質問すんじゃねぇと言いたかったが、ここでまた身体の異常が始まり迂闊に喋ることができなかった。

 

「ったく俺が散々に鍛えてやったってのになんてザマだ。お前、現役の時より弱くなったな」

 

 うるせぇ、御託はいいからさっさとコイツらを止めろ!と俺は睨みつけながら口をパクパクさせて目で訴えた。

 

「だが相変わらずその目つきだけは変わらねぇ」

 

 それだけ言うと、ジョセフは視線彼らの方に戻した。

 

 杖術使いの錬金術士、暗殺に特化した魔法拳法使い、限界を超えた魔法使いに元ゲンジの頭領候補、そんな奴ら相手に分が悪いのではと思うだろうが、その点については問題なかった。

 

 コイツは生殺与奪において、他の追随を一切許さないからだ。

 

「サビターの保護者だか浮浪者だかなんだか知らないけど、テミナ様の為にも死んで頂戴!」

 

 まずセアノサスが杖を振り回してジョセフに叩きつけようとした。

 セアノサスは錬金術士だが杖術も達人の域に到達している。

 並の相手なら負け無し、プロの奴にも五分の戦いをするだろう。

 絡みつくような上下左右の波状攻撃がジョセフを襲うが、奴は左足に巻き付けてあった鉄製の二本の棒を取り出し、左右の手にそれぞれ手に取った。

 いなして躱し、叩いて弾いた。

 

 右手に持っていた一本をセアノサスに投擲した。

 彼女は杖でそれを弾き落とすが、それとほぼ同時の速さでもう2本目の棒が肉薄し、冷や汗をかきぬがらそれも弾き飛ばす。

 

 が、弾き落とした一本目の棒が跳弾してジョセフの手に戻っており、ジョセフはせあのさすの腹に一撃を入れた。

 

 セアノサスは両膝を突き、苦しそうに呻いて倒れた。

 

「テメェ……!まさ、か……」

「安心しろよォ〜峰打ちだ」

 

 そう言われて俺は急いでセアノサスを見ると、彼女は浅いながらも呼吸をして生きていた。

 どうやら本当に気絶しただけのようだ。

 

「ソイツお前のコレだろ?ちゃんと手加減してやってるって」

 

 そう言ってジョセフは小指を立てながらニヤニヤ笑って言った。

 

「コイツは俺が殺る」

 

 だがそう余裕をこいてもいられない。

 次にアルカンカスがジョセフに向かった。

 

 奴の超光剣がジョセフの脳天に向かったが、ジョセフは半身ズラして回避をした。

 ブォンと風を切る音が鳴り、縦から横凪に変えたが、ジョセフは左足後ろに持っていって紙一重で躱した。

 アルカンカスは焦ることなく今度は突きを繰り出し、ジョセフの胸を貫こうとした。

 だがジョセフは今度は躱す動作をせず左の前腕で防御の姿勢を取った。

 

 ガギィン!と金属同士が勢いよく当たる音が鳴り響いた。

 普通ならジョセフの左腕は貫かれ心臓にまで達し絶命するはずだった。

 

「なっ……!」

 

 だが、奴の左腕は黒と銀の色が入った鋼の義手で、それもあの超光剣の一撃に余裕で耐えられる程の物質を使用されている。

 

「超合金の義手か……!」

「カッコいいだろ?」

 

 ジョセフは余裕な笑みを浮かべながらそう言い、ホルスターから拳銃を凄まじい速さで抜き、引き金を引いて撃った。

 だが撃たれたのはアルカンカスではなく、奴が持っていた剣の刀身だ。

 

 弾丸の威力が余程強力だったのか、アルカンカスの手から剣が離れ、壁から床に弾き飛ばされた。

 

 アルカンカスは右手が痺れて左腕と両足でしか戦う手段が残されていなかったが、反撃する暇も与えずにジョセフの左腕がアルカンカスの右頬をぶん殴り、吹き飛ばした。

 

「ぐっ……!?」

 

 コンクリを壁を貫通し、瓦礫と一緒に埋もれたアルカンカスは意識を失い項垂れるように伸びてしまった。

 

「お…い……!」

 

 俺は掠れた声でジョセフに声をかける。

 とんでもないパンチの威力だった。まさか殺したのかと問いかけようとしたが、ジョセフは鼻で笑いながら「アホか」と言った。

 

「安心しろ。死んじゃいねぇ。俺はプロだ、相手のタフさと、どの程度の威力で生き死にが決まるかは俺には全て分かる」

 

 ジョセフはそう言いながら「そして」と言葉を紡ぎながら残っている3人を見つめる。

 

「さらに安心してほしい。俺は女子供には優しいんだ。紳士的に適度にボコしてやるさ」

 

 本当に優しい奴は女子供にボコすとか言わねぇんだよ!と俺は内心思いながら奴に任せる他なかった。

 

 アリーシアが超高速の速さで接近し、ジョセフに肉弾戦を仕掛けてきた。

 

 魔法拳法特有の魔力を込めた拳打、突きのラッシュが襲いかかる上、タマリの足場を泥沼化させる魔法や魔法陣から放たれる触手などの、魔法での攻撃や妨害によるサポートがあり、これがまた手強かった。

 

 ジョセフはそれらを紙一重で躱し、いなし、防御をして凌いでいる。

 

 俺の昔の記憶のままなら、奴は左腕耳をサイボーグ化し、後は未改造のまま戦っていることになる。

 

 いずれ体力の限界が来るはずだ、そう思っていたが、全く衰える気配がなく、むしろあの二人の連携に適応しているように見えた。

 

 ジョセフはタマリのいる場所の上、つまり天井に銃を向けて撃ち、天井から瓦礫などを崩落させた。

 

「わあ!?」

「タマリ!」

 

 タマリの危機にアリーシアは一瞬ペースを乱され、攻撃が遅れた。

 

 その隙をジョセフが見逃すはずもなく、左腕で彼女の首を掴み、少し力を入れて締めた。

 

「か、はっ……!?」

 

 セアノサスは気道を圧迫され、酸素を供給できず意識が朦朧とし、遂には意識を手放した。

 

「アリーをよくも!」

 

 タマリは激昂し、周りの崩壊したコンクリートを魔法で鋭い円錐状の形に変形させ、回転は加えて殺傷力を高め始めた。

 そしてそれら全てをジョセフの元に飛ばした。

 

 ジョセフはマガジンをリリースし、別のマガジンを装填するとタマリのコンクリ円錐弾丸を撃ち壊しながら距離を詰め始めた。

 

 先程同様、地面を泥沼化させて足場を悪くした上、蛸のような触手での範囲攻撃や雷玉の追尾自動爆弾を向けているのに、まるで意にも介さないかのように当たらず、あっという間に距離を詰められた。

 

「魔法使いって距離詰められたら弱いんだよな」

 

 ジョセフはそう言って銃床でタマリの頭を殴り、気絶させた。

 

 あの実力派の四人をこんな一瞬で黙らせた。

 しかも殺傷させることなく無力化して。

 俺は相変わらずの出鱈目な強さに呆れつつもどこか安堵した。

 

 そのせいか、さらに意識が混濁してきたような気がした。

 

「サビター!?大丈夫!?しっかりして!」

 

 最近聞き馴染んできた声が聞こえた。

 ミシェルだ、彼女がいた。

 

「無事だったか……すまねぇ、置いてっちまって……」

「そんなこと気にしないで。私はプロで、この手の事は慣れてるから。良かった、オムニグレイブさんに連絡して正解だったわ……」

 

 ミシェルは信頼を寄せた目でジョセフを見、ジョセフもまたミシェルに対し、笑みを浮かべて返した。

 コイツらは一体どんな関係が……と俺は一瞬気が逸れたがすぐに思考を元に戻した。

 

「アイツらが、洗脳されちまった……」

 

 俺は首を動かしながらセアノサス、アリーシア、タマリ、アルカンカスの四人を目で示した。

 

「やっぱり遅かったわね。全部あの男の、テミナの手の上で踊らされてたのよ。私達は……」

「そりゃどういう……」

「オイ、こんなところで話すこたねぇだろ。これ以上ノロノロしてっと敵さん達がやってくるかもしれねぇぜ?」

 

 ジョセフはそう言ってミシェルにここから脱出するよう促し、彼女もまた奴の言葉に素直に従い、俺を担いでこの廃ビルから脱出をし始めた。

 

 散々な結果になった。

 まずは自分が間抜けにも洗脳され、仲間がもまた洗脳され不可抗力だが仲間の手で殺されかけた。

 

雑草の時とは明らかに違う惨めな負け方に、俺は怒りを感じながら、無力にも意識を手放し、目の前が暗くなった。

 

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