(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第142話 目覚め、そして因縁の男との再会。あとあららあらぁ。

 

『本当に可愛い子だ。君に似たのかな』

『そう?でも目元とか貴方に似てないかしら』

 

 誰か、男女、恋人、夫婦の二人が仲睦まじげに肩を抱き寄せ合っていた。

 

 場所は……分からない。

 

 まるで朧げな記憶の中の風景に映るようにぼんやりとした様子しか確認できず、今目の前にいる人間達でさえ顔が曖昧なものとして写っている。

 

 夫は茶髪を刈り上げて髭を生やし、メガネをかけた風貌で、彼の妻は黒髪のショートボブで、顔はシュッと細く、モデル顔負けのような細身の顔である一方で腹は大きくなり、膨れていた。

 

 その中にはおそらく赤子がおり、妻と思われる女は子供がいる腹を優しく撫でていた。

 その顔はまさしくこれから母親になろうとする女の優しい目だった。

 

 俺はそいつらのことなど全く知らないが、なんとなく親近感のようなものを感じていた。

 

『君みたいな小さい子に対してここまで図々しくお腹のペースを占領するとはね。なんてわがままなあかごなんだ』

『私達の子供なのよ?まるで動物園にいる動物に向ける感想じゃないの…』

 

 女、妻は呆れながら笑って言い、赤子を抱いて夫に背を向けた。

 

『そんな事言わないでよ〜』

『これ以上言われたくないなら一緒にこの子の名前を考えてくださいね〜』

 

 妻は自分の腹を撫でる。

 彼女の腹の中には新たな命が宿っており、これから生まれるのであろう、夫婦は心を踊らせながら子供の名前を考えていたが、未だ名前は浮かんでいないようだった。

 

「ならサビターってのはどうだ?英雄っぽい名前だろ?なんかこう、そこはかとなくカッコいいだろ」

 

 俺は夫婦に試しに俺の名前にするよう言ってみた。

 この状況、おそらく俺は夢を見ているのだと理解した。

 明晰夢という奴だ。

 さっきまで俺は仲間に殺されかけていたのに突然知らん奴らが現れ、場所も変わって周りの家具や壁、床が曖昧な形をしていて現実的じゃない。

 

 それにこういう時、俺がどれだけ話しかけようが俺の言葉は奴らには届かない。

 どうせ待っていれば時間経過で冷める夢、ならば好き勝手言ってやろう思っていたわけだが……

 

『サビター……』

「え」

 

 あろうことか俺の声と存在を知覚し、認識していた。

 

『サビター…か、いいな。カッコいい名前じゃないか!』

『調べてみたらどこかの神様の名前みたい。ありきたりすぎないし、個性的でオリジナリティ溢れる名前ね。いいと思う』

 

 夫婦共に俺の名前に好意的な反応を示し始めた。

 

「おいおい待てよ。自分の子供の名前だぜ。もう少しちゃんと考え直した方が……」

『なんでだい?君の名前はいい名前じゃないか』

『きっと良い親御さんに考えてもらったんだろう』

「それは……」

 

 何気なく言われた言葉だったが、その一言は俺のあまり触れては欲しくない部分に触れられてしまったような気がした。

 

『決まりだ!この子の名前はサビターだ!』

『サビター!』

『『サビター!サビター!サビター!』』

 

 二人は俺の名前をひたすら言い続けた。

 そんなに俺の名前が気に入ったのかと俺は悪い気分にはならなかった。

 

『サビター!サビター!』

「ちょ、よせやい照れるだろ。そんな何度も呼ぶなって」

『サビター!サビタあらぁ!』

「ん?」

 

 一瞬何かノイズが走ったような違和感があった。

 だが偶然だと思い、聞き流した。

 

『『サビター!サビター!ら!サビタあららあららららあ!』』

「えっ、なに」

 

 が、今度は先ほどよりも言葉が煩雑になり、バグが発生したゲームのように不協和音が鳴る。

 

『『あらららららあらぁあららぁ!さび!さびたあらぁ!!』』

「なになになにいやマジでなに!?怖ぇよ!」

 

 突然二人は壊れたおもちゃみたいに言葉にもならない言語で叫び始めた。

 夫婦だったモノは口を半開きにさせながらあらあらあらと謎の言語を発し続ける。

 俺はさっさとこんな悪夢は覚めてくれと祈り続けていた、その時だった。

 

「サビター!」

「はぁん!?」

 

 ミシェルの迫真めいた声に驚き、俺は目をバチクリと開くと、俺の視界にはミシェルの顔面が大きく写っていた。

 

 紫色の髪が俺の顔をカーテンみたいに覆い、突然顔の良い女がkiss…できる距離にいた状態だったため、俺は何事かと勢いよく顔を上げた。

 

「「痛であっ!」」

 

 俺とミシェルのデコがゴチンと音が鳴り、俺達二人は悶絶しながら額を手で抑えて刺さった。

 

「っきなりなによっ!?痛いじゃない!」

「いや、お前…もうちょっとでチューできる距離感にいたのが悪いだろ」

「何言ってるの……」

 

 俺は彼女の呼びかける声で現実に戻ることができた。

 

「やっと起きたわね。あなたずっとうなされてたのよ」

 

 ミシェルは「あららあらあって言ってたわ」と俺の真似をしながら腰掛けていたベッドから立ち上がる。

 

 俺は今まで病人が寝るような簡素なベッドの上で寝ていたようで、起き上がり周りを見ると、窓がない病院の個室のような殺風景な部屋だった。

 

 更には俺の服は替えられており、病人が着るような水色のパジャマみたいな格好にさせられていた。

 

「まさか、お前が俺の服を……?」

「まぁ人手が足りないから私がパパッと着替えさせたわ。別に恥ずかしがる必要はないわよ?」

「見たのか?」

 

 俺の問いかけにミシェルは「え?」と聞き返した。

 

「俺のあられもない姿見たのかって聞いてんだよ。チ●ポ見たのかって聞いてんだ」

「いや別に下着は変える必要ないから見てないけど、気になるトコはそこなの?」

「俺の立派なイチモツを見た女は全員股を濡らしちまって発情するからな。お前もその被害者の一人になっちまったんじゃないかと心配だったんだ」

「いや、貴方のその普通のゾウさんなんか見て興奮したりしなかったわよ。自意識過剰なんじゃないの?」

 

 俺は「ああそうか」とだけ言ってこの話を終わりにしようとしたが、いや待てと俺は頭の中でアラートが鳴り響いた。

 

「お前俺のチ●ポ見た?」

「…まあその話は置いておいて、これからの話をしましょう」

 

 俺はミシェルの微妙な間のあった言葉に終始気になってしかたなかったが、今はそれどころではないのかもしれない、そう思い俺は思考を切り替えて話を進めた。

 

「そういやアイツらは?セアノサス、アリーシア、タマリ、アルカンカスはどこだ?」

「彼女達はここにはいないわ。洗脳されている人物達をこの()()に連れてくることはできなかったの」

「拠点ってなんだよ?じゃあアイツらは何か?洗脳されたままオタク野郎の命令に従ったままだってのか?」

「サビター、落ち着いて」

「落ち着け?俺の仲間がいいように使われてんだぞ?このまま黙って見てろってか?ふざんな、俺はこっから出てアイツらの目を覚まさせてやる」

「サビター、焦る気持ちは分かる。でも今は状況を説明させて欲しいの。だからお願い──」

「30過ぎてもテメェまだガキのまんまだな。少しは落ち着きを持てよ」

 

 ミシェルが俺を宥めるように話していたその時、病室の自動ドアが開き、ムカつく男の声が聞こえた。

 

「テメェか……」

「ジョセフ……」

 

 俺の前に現れたのは、俺が殺されかけた時に姿を見せ、俺の仲間をボコボコにした男、ジョセフ・オムニドライブだった。

 

「お前のお友達な、奴等かなり深いレベルまで頭を弄られてたんだ。洗脳電波垂れ流してんのはこの国のど真ん中の建物で、解除するならそこを叩くしかない今、この()()()()に連れてきても洗脳を解く手段はねぇ」

「だからお前より格下のアイツらボコってトンズラこいたってワケか。さすが最強の傭兵様はやることが違うな」

「敵の罠に喜んで引っかかってダチを危険に晒した上、自分まで殺されかけたウィルヒルの英雄サマの言葉、ありがたいねェ。今日の格言に添えておこうかな」

「……」

 

 俺は静かにキレながらベッドから降り、ジョセフの眼前まで近づき睨みつけた。

 

「おっどうした。パジャマ姿のおねむなサビターくん。寝起きで機嫌が悪いのかな?」

「くたばりぞこないのジジイが。ボケるにはまだ早いんじゃねぇか?」

「あ?」

「お?」

 

 俺とジョセフはあと少しで手が出る直前まで迫っていた。

 まずはコイツの脚を蹴り、バランスを崩して壁に頭を殴打させ脳味噌を揺らして行動不能にさせてやる。

 そして伸びている状態のコイツの写真を撮り、SNSに載せてやる。

 

「なんだ?足でも狙って俺が膝着いた瞬間壁かベッドの脚に頭ぶつけさせて脳震盪でも起こさせようってか?相変わらずお前は単調な脳味噌して分かりやすいねぇ」

「…お前のすための方法なんていくらでもあるわボケが」

「ああもう!なんで喧嘩しそうな雰囲気になるの!今はそれどころじゃないのよ!」

 

 俺とジョセフがお互いガンつけていると、ミシェルが間に割って入り、仲裁した。

 

「貴方達がこうやって中坊みたいな喧嘩してる間に、この国の人達が苦しむ事になるのよ!それだけじゃない、ウィルヒルだって無関係じゃないの!」

 

 ミシェルの真剣な物言いに、ジョセフは天井に目を向けて3秒程眺めた後、大きくため息を吐いて「あほらし」と言って戦闘態勢を解いた。

 俺も今更ながらムキになって喧嘩腰になったことが急に馬鹿らしく感じ、奴と同様に大きく息を吸って吐いて落ち着きを取り戻した。

 

「悪かったよ。こんなジジイ相手に本気になることねぇな。どういう事か、改めて教えてくれ」

「そうだな。見た目はおっさん、中身はガキの奴に突っかかってたなんて恥ずかしい。この逆コナンくんに今のマッドギアの現状と()()を紹介してやってくれ」

 

 相変わらずムカつく喋り方のジョセフを尻目に僅かに青筋を立てながら俺はミシェルを見やった。

 ミシェルは「ついてきて」と言って病室の自動ドアを開け、病室から出るよう視線で促した。

 

 俺は彼女の言う通り、病室から出た。

 病室の外は灰色を基調とした色で、長い廊下が続いていた。

 ミシェルとジョセフの痕をついて行くように俺も歩き続ける事1分程度が経過し、辿り着いたのは巨大ない円状の扉だった。

 

 ミシェルが上を向くと、彼女の視線の方には監視カメラのような壁にくっついた黒い球体があり、彼女の存在を識別すると、扉は回転し、ガコンガコンと音を立てて開き始めた。

 

 扉が完全に開き、中の様子が見えた。

 そこはまるでSF映画に出てくる軍の作戦司令部のような内装だった。

 灰色だった廊下とは打って変わって、部屋全体が真っ白な内装となっており、そこにいる人間達は皆忙しなく動いたり何かについて議論したりなどをして喋りまくっていた。

 

 天井には巨大な円環状の機会の塊が生き物のように幾重にも重なるその機械の隙間からは絶え間なく演算を繰り返すかのように回路の光が瞬き、白い電光で包まれた空間の中に一際強く青白い光を発していた。

 

 そして壁には辺り一面モニターが表示されており、その下にはキーボードが沢山備わっており、皆何かの計算、調べ物をしているようにも見えた。

 

「な、んだこりゃあ?」

 

 俺は謎の施設とその施設で働く人間達に圧倒され、それと同時に混乱していた。

 施設の人間達はエンジニアのような機械専門のような作業着や白衣を着た人間も居れば、ライダースジャケットやパンクな髪型をした荒事専門の傭兵のようなガラの悪い恰好をした人間達までいた。

 

「ようこそサビター。改めて自己紹介させてもらうわ。私はミシェル・ツウォルフ。ニーニルハインツギルド隠密部隊衆溶陰(トカゲ)そして今はマッドギア解放戦線のレジスタンス、サンズオブリバティの隊員。以後よろしくね」

 

「はぁあ?」

 

 俺はミシェルの自己紹介に息を漏らすような声で驚きの声を上げた。

 いや、ほんとにどういうことなの……

 

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