(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第144話 親子喧嘩は大体しょうもない事から始める②

 

 俺はジョセフに言われるがまま奴の後ろについて行った。

 

 案内されたのは白く殺風景な箱を巨大化させたような部屋だった。

 奥行きが広く、100、いや200メートル程はある。

 地下にこんな広い空間を確保できるとは、流石は大統領お抱えのレジスタンスの秘密基地といったところか。

 

「この部屋は高次元3Dプリンターを使ってあらゆる屋内屋外戦のシチュエーションを再現することができる」

 

「こんな風にな」とジョセフはスマホを操作すると、茹るような暑さの熱帯雨林を再現し、その次は天井に巨大なシャンデリア、大理石の床や壁、高級な食事や飲料が並べられた豪華な城内。

 さらには高層ビルの一室など、多種多様な場所を一瞬でで作り上げた。

 

「こりゃすげぇ。魔法と大して変わんねぇな。で、俺の何を試したいんだよ」

「俺がいない間どれだけお前が成長したかどうか確かめたくてな」

 

 ジョセフのその上から目線の物言いに、俺は得体の知れない苛立ちを感じた。

 

 ジョセフ・オムニドライブ……ウィルヒルの冒険者の間では知らぬ者はいない伝説の傭兵の一人。

 

 俺よりも前の世代の、戦争全盛期の時代に魔力も持たない人の身でありながら苛烈な環境を生き抜き、数々の功績を残した。

 

 年齢は噂だと100は超えているらしいが、にも関わらずジジイの癖に若々しい雰囲気を保っているのは老強剤を使っているのだろうが、奴自身の精神も同じくらい若いのだろう。

 

 さて、何故そんな奴のプロフィールをモノローグで語っているのかというと、俺と奴は一時期一緒に暮らしていた時期がある。

 と言っても短い間だったが、それでも奴は俺の前で一端の親面をしてやがる。

 勝手に拾って勝手に俺を捨てやがって、それが俺は気に入らなかった。

 奴の顔面をぶん殴りぶちのめす、そんな考えが俺の全身を支配したがって仕方がなかった。

 

「銃はペイント弾を使えとさ。実弾使って戦力が減るのは嫌だと周りの奴から釘を刺されてる」

「殺傷力があって結構。使えばいいだろ。俺は死なないぜ」

「愛しの彼女に薬盛られて能力も十分に使えないくせに何言ってやがんだ。今のお前は普通の人間だろ」

 

 言ってろ、と俺は心の中で吐き捨てた。

 

「このコインが地面についた瞬間に勝負開始だ」

 

 ジョセフはそう言って右手に銀色のコインを差し出す。

 

 コインが甲高い音を立てて地面に落ちた瞬間、白い部屋は粒子が波を立てるように姿形を変える。

 朽ち果てる寸前のような家屋が立ち並び、ゴミは路上に捨てられ、生きながらに死んでいる人間が路上に座る、生気を失ったような街が生まれた。

 

「ここは……」

「懐かしいだろ?俺とお前が出会った場所だ」

 

 あの野郎、悪趣味な真似しやがって……

 

 ジョセフが生み出したのはかつて俺と奴が出会った場所、ウィルヒル王国の貧民街だった。

 今よりももっと酷い…暴力、強盗、殺人、強姦……ありとあらゆる人間の罪のフルコースみたいなのが毎日毎分毎秒起こっていたあの時代の国をやつは再現した。

 

「安心しろよ、俺とお前以外の人間はホログラムだ。銃弾が当たろうがなんだろうが死ぬことはない」

 

 建物と建物の間に隠れたジョセフは俺の耳につけていた無線越しにそう言った。

 

 この勝負は隠れながら奴と対峙し、勝つことが条件なのだろう、ならやることは一つだ。

 

「見つけ次第ぶっ殺すって事だな」

 

 俺は姿勢を低くし、銃をホルスターから抜いて索敵を開始した。

 

 一見どこまでも行けそうなほど広く錯覚してしまうが、この部屋は多少広いだけで、後は映像の錯覚だ。少しずつ奴が隠れていそうな場所を潰していけば直ぐに見つかる。

 

 俺は建物の中、曲がり角、背の高い建物の窓を視認し、奥は奥へと進んで行った。

 しかし探せば探す程ジョセフの存在は希薄になっていく。

 まるで煙に消えたかのように気配を感じられず、嫌な汗が俺の額から頬に垂れていく。

 

 そんな時、ザッ…と地面を靴が擦る音が聞こえた。

 俺の視認している建物の曲がり角、死角から聞こえた。

 俺は銃を前に構え、ゆっくり忍び足でにじり寄りながら角の向こう側にいるであろう奴を"バガァンッ!"

 

「ガッ」

 

 俺は思考の途中、訳も分からず建物へと引っ張られ地面に叩きつけられた。

 首根っこをひっ捕まれ、強制的に建物内に引きずり込まれた。

 木製のカウンターと椅子とテーブルがあり、中央には液体が入った瓶が並べられていたことからここは酒場だと理解した。

 

「確かに俺は硬い壁を背にして索敵しろと教えたがよ、俺にゃ通用しねぇぜ?」

「テメッ……どこから出てきやがった……」

 

 ジョセフは黒と金の色が特徴の鋼鉄の左腕に付着した埃を右手で払いながら言った。

 よく耳を澄ませると左腕からウィーン…と小さな機械音が発せられていた。

 ふと横を見ると、常人の膂力や腕力では到底破壊することのできない石造りの厚い壁で覆われた家に大穴が開いていたようで、コイツは左腕一本でそれをやったようだ。

 

「注意力が散漫過ぎだ。一方向ばかり見るな、全体を見ろ。それと後ろにも目を付けろと言ったろ」

 

 ジョセフはそう言ってあきれたようにため息を吐く。

 コイツの言う事はめちゃくちゃだ、普通の人間にそんな超人みたいな高等技能使えるわけないだろ。

 

「じゃあこれも予測できるか?」

 

 その言葉と共に俺は左手に隠していたピンを抜いた閃光手榴弾を振り向かずにノールックで奴の眼前に投げ、B.B.で撃ち抜いた。

 強烈な閃光が煌めき、ジョセフは顔を顰めながら手で覆って視界を守ろうとした。

 

 ジョセフに大きな隙ができたその瞬間を見逃さず、俺は両手に持ったB.B.で奴を穴だらけにしてやるべく撃ちまくった。

 

 しかし奴は目を開けていないのにも関わらず俺の弾丸をことごとく躱し、スモークグレネードを使って視界を遮り、猿みたいに奇怪な動きで縦横無尽に動きながら窓ガラスを打ち破って逃げてしまった。

 

 シュー……という煙が出る音だけが聞こえ、辺りは静寂に包まれた。

 

「かくれんぼの次が鬼ごっこかァ!?ジジイになって肝っ玉もチンポも縮んじまった!?」

「たまには子供の遊びに付き合ってやるのもいいだろうっていう親心がお前には分からねぇかなァ」

 

 またガキ扱いか…奴のあのナメてスカした態度が俺の平常心を崩そうとする。

 俺をまだあの頃の無力なガキのままだと耄碌するジジイに、余計に一泡吹かせてやりたくなってきた。

 

 俺はジョセフを追いかける。

 俺はインターフェイスが搭載されたコンタクトレンズを使い、奴の靴のサンプリングをして足跡を特定していたため見つけるのはそう難しい事ではなかった。

 そしてそう時間もかからず、40メートル程先、家屋の角に奴の左の義手があるのを見つけた。

 奴はあそこに隠れている、ならば反応する暇も与えず即座に畳みかけるのみ。

 

 俺は全速力で走り抜けて跳躍し、曲がり角にいるジョセフに銃口を向けて引き金を引こうとした。

 が、しかし、そこにいたのはジョセフではなく、奴の義手だけであった。

 

「ハァ!?」

「目先の事に捕らわれるな」

 

 頭上からジョセフの声が聞こえ、俺は急いで上を見上げるが時すでに遅く、俺は奴の拳骨をまともに喰らってしまった。

 さらに奴から右腕でのパンチを顔面、喉、脇、鳩尾と数発くらい、意識が一瞬飛びかけたがなんとか気合で堪え、雄叫びを上げてB.B.の引き金を引く。

 

「オイオイどこ狙ってんだ?ちゃんと的当ての練習しとけよ」

 

 頭にモロに一撃を喰らったため脳震盪が発生し、クラクラしていたが、ジョセフの声が聞こえる方に俺はただひたすら撃ちまくった。

 しかし、奴は俺と同じくほぼ生身なのに、左腕が外れて平衡感覚が通常とは違うはずなのに、俺の弾をすべて躱してしまった。

 

「頭に一撃喰らってフラフラしてる奴が撃つ銃弾なんざ俺に当たる分けねぇだろうがバカチンが」

「クソが!」

 

 途中で弾が切れてしまい、俺はなりふり構わず突進してタックルをお見舞いした。

 俺は力いっぱい全力で押し倒そうとしたが、奴からもらった攻撃が俺の身体を蝕んでいた。

 再生能力は未だ鳴りを潜め、俺の身体を癒すことは無かった。

 久しぶりの感覚だ。

 

「おおなんだなんだ?パパに抱き着きたくなったのか?しょうがないな」

 

 そう言ってジョセフはいつの間にか装着し直していた左腕と右腕で俺をがっちりと拘束し、ググッ…と俺を持ち上げた。

 ふわりと浮いたような、空中浮遊したような感覚を感じ、俺のケツがお天道様と目が合ったような気がした。

 

「オラァッ!」

 

 そして重力は引き戻され、ジョセフの気合の入った声と共に俺の頭はゴォンッ!という鈍い音と共に地面に激突し、パイルドライバーをお見舞いされた。

 

 脳天目掛けて地面に振り下ろされた俺はバタリと地面に仰向けになり、全身に力が入らずいよいよ意識を保つことが出来ず、気絶する形で意識を失ってしまう。

 そして俺の意識が完全に飛ぶ直前、ジョセフが俺の顔を覗き込んでがっかりしたような呆れ顔で俺が一番言われたくない事を言った。

 

「お前、あの時より弱くなったァ……」

 

 そして俺は、奴の言う親子喧嘩というしょうもない勝負に負けてしまった。

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