(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第16話 性癖と脱法スイーツ

 

 外では若さだけは一人前の青年二人がしょうもない事で言い争いになり、暴力沙汰にまで発展しようとしていた。というかもうなってる。お互いを殴り合っている二人は身体のあちこちに痣と少量の血が流れていた。

 

 ああいうバカは一度キレると一発ブン殴るか、もしくはブン殴るかしか手段がない。

 

 だが諌めようとしただけなのに街の奴らは俺を悪い奴だと決めつけて牢屋にぶち込ませるだろう。それは避けたい。ならばどうするべきか。

 

「そうじゃ!奴等をこの店に引き入れよう!」

 

 ライラが妙案を思いついた、とばかりに声を明るくして言う。何がそうじゃ!だ。コイツ普段から何考えてるか分からんが今回はより謎が増したな、と俺は思いながらライラに詰め寄る。

 

「お前何言っちゃってんの?俺は別にこのまま客なんか来なくて良いと思ってんだけど?」

「お前何言っちゃってんの?せっかく作ったスイーツを腐らせるわけにはいかないんだが?」

 

 俺の言葉を真似てしたり顔で煽ってくるライラ眉間に人差し指でグリグリ押す。ライラは「グギギ…」と言いながら耐えている。俺もコイツも一体何をしているんだ。

 

「なぁにも考えなしに言っているわけではない。ワシの作ったパウンドケーキにはハーブの効能で人を落ち着かせる効果を持っておる。喧嘩をしているあの二人組に食わせてそれを実証し、そして見ていた野次馬もろとも客として引き込んでやるのじゃ」

「はぁ…なるほど」

「良いんじゃないですか?このままこの作品を腐らせるのは惜しいと思います」

「作品ておま」

「ガハハ!ワシの勝ちじゃな!」

 

 アリーシアはうんうんと頷きながらライラの意見に迎合した。タマリまでも「さんせいだね」と言っている。3対1ということもあり、俺は実質敗北する。そもそも勝負などした覚えはないが。

 

「そーいうわけでサビター!お前が奴等を店に誘って連れてこい!多少強引でもいいぞ!」

「えぇ!?俺かよォ!?俺寝ててェんだけど。さっき見た夢の続きが気になってンだよ」

「囀るな!負けた奴がグチグチ言うな見苦しい!さっさと行ってさっさと客をゲットしてこい!」

 

ライラの耳に俺の意見は届かなくなり、俺は命令を聞くほかなくなった。仕方がないので声だけかけていく。別に来ても来なくてもどうでも良いが。

 

 いや、ライラの事だ、連れて来れなかったらまたあの減らず口を聞かされることになるかもしれない。アイツは顔も言葉も何から何まで癪に触るのだ。何故か分からんが手を出さずに入らなくなるくらいに。

 

「じゃあちょっくら行ってくるわ」

「行ってらー。ちゃんと捕まえてくるんじゃぞー」

 

 俺は店の外に出る。人様の迷惑も考えずにどの性癖が一番だなどと解決しようもないしょうもない事で殴り合いにまでなるとは、治安は最悪だがこの国らしくて良い。

 

「おーい、ボク達ー」

 

 俺は二人組に声をかけた。だが二人は喧嘩に夢中なのか俺の声に耳を傾けない。というより聞こえていない。

 

「露出のある服の方がエロくて最高だろうが!」

「露出の少ない服の見えないエロスを感じることもできねぇのかこのポンコツが!」

 

 さっきは眼鏡がどーたらと言っていた気がするが、今度は服の露出度で喧嘩になっていた。本当にどうでもいい。

 

「聞けやコラ」

 

 俺は若干イライラしながらもう一度紳士らしく声を穏やかにして声をかけるが、

 

「おっぱいはでかい方がいい!」

「小さい方が可愛いだろ!いい加減にしろ!」

 

 またしてもシカトされた俺は殴って黙らせた方が早いのではないかと思ったが、豚箱にコイツ等と一緒に放り込まれるのを想像すると寒気がした。どうすればコイツ等は俺の話を聞くのか、少し考えてみる。するといい案が浮かんだ。早速俺は実行に移すことにした。

 

「乳なんか小さかろうが大きかろうがひん剥いちまえば同じだろ」

 

 俺は軽く釣り餌を放ってみる。すると奴等は会話をピシャリと止めて俺の方へほぼ二人とも同じタイミングでギョロリと目をむき出しにして血走らせて俺を睨んだ。

 

「「てめぇ……今なんつった?」」

「うわ、喋るタイミングまで一緒かよ……気持ち悪っ」

 

 釣り針がデカすぎたのか、それとも奴等がチョロいのかしらんが、とにかく会話を始めることに成功した。

 

「はぁ、やっとまともな会話が出来そうだ。お前等、俺の店の前でバカデカい声出して喧嘩なんかしてんじゃねぇよ」

「えっ…?あっ、確かにそうだ、すまん」

「俺もついカッとなってキレちまった。ごめん」

 

 先程までの勢いはどこへやら、落ち着きを取り戻し、お互いがお互いに、そして俺に向けて謝罪をした。急に落ち着かれると気持ち悪いな、と俺は思った。

 

「お前等、甘い物食いたいだろ?」

「は?いや別に今そんな気分じゃないっすけど……」

「なぁに遠慮するな。金さえ払えばすっげぇ美味いスイーツがお前等を待ってるから、な?」

「いや、だから俺は──」

 

 俺はこのバカ野郎が最後まで言う前にBBブライトブラスターを周りの奴らに見えないように腰にゴリッと押し付ける。

 

「……あ、あの、なんか固い物が当たってんすけど……」

「当ててんだよ」

「いや、俺が聞きたいのはそう言うことじゃねぇんですが!?」

「お前さっきからうるせぇよ。それにそんなに動かれたらトリガー間違って引いちゃうかもよ?スイーツ食べるよな?な?」

「わ、分かったから銃を押し付けるのはやめてくれェ!」

 

 俺はゴリゴリゴリとBBを擦り付ける。全く、なんで俺が野郎相手にこんなホモみたいなことしなきゃいけないんだ。

 

「さぁ皆の衆!今回我々スウィートディーラーは新作スイーツを開発した!その名もガッデスハーブのパウンドケーキ!ハーブの落ち着いた香りが心を沈めてくれること間違いなし!さぁさぁいざ実食願おう!」

 

 ライラがいそいそとパウンドケーキの乗った台車を外に出し、ニコニコしながら言う。

 

「あっ、プリンが美味いって事で有名な新しく出店したケーキ屋だ。潰れたって噂は嘘だったのか」

「潰れとらんわ!準備が必要だっただけ!」

 

 ライラが怒りながら言う。だがすぐに彼女はパウンドケーキを一口サイズにスライスし、小皿にフォークと共に乗せる。

 

「なんじゃ、食べんのか?あくまで試食という体で食わせてやる。案ずるでない」

「いやぁ、俺達別に腹減ってるわけでも糖分が必要なわけでもないんだよなぁ」

 

 二人組はいつの間にか落ち着きを取り戻し、困惑しながらライラを見る。これではこのパウンドケーキの効果を実証することはできない。

 

 そこで俺は妙案を思いついた。

 

「ライラ、アリーシア、俺が『今だ』って言ったら奴等の口の中にケーキを入れてやれ」

「ん?なんじゃ?何をする気じゃ?」

「そうですよ。魂胆が分かりません」

「いいからいいから。やってくれ。いいな?」

 

 俺はそう言って二人組の前に立ち、腕を組んでスゥ、と空気を吸い込む。そして、

 

「俺は乳がでかい女はただの脂肪がついたデブだと思うし乳がない女なんて女として魅力無いし眼鏡は外した方がいい。それと女と女が絡んでる時に男を混ぜた方がエロいに決まってるだろ」

 

 俺はヘラヘラ笑いながら小馬鹿にするように二人組に言う。

 

 俺の攻撃、ならぬ口撃に二人組は一瞬ポカンとしたものの、次第に拳を握り、こめかみに血を激らせ、歯茎を剥き出しにして呼吸を荒くし始めて俺を親の仇のように睨んだ。

 

「「テメェ!!テメェはここでぶっ殺す!!」」

 

 二人組がシンクロし、俺に向かって口を大きく開いて吠えた所を見て、今が完璧なタイミングだと確信してライラとアリーシアを見やる。

 

「今だ!」

 

 俺はそう言った瞬間、二人組の拳を顔面にモロに喰らい、吹っ飛ばされる。

 

「グゲラバ!!」

「そりゃ!」

「はい!どうぞ!」

 

 ライラとアリーシアは俺が殴られた後に二人組の奴等にパウンドケーキを一口食わせる。怒り心頭のまま半ば無理やり口に運ばれたが、アイツ等は口に放り込まれても一応口をモニュモニュとさせて咀嚼し、そしてゴクンと飲み込んだ。

 

「「……」」

 

 二人組は食べた瞬間、身体が淡い緑色に一瞬包まれて光り、身体から流れていた血や痣が水の中に入ったインクのように直ぐ消えていった。

 

「俺、何してたんだろう……」

 

 二人組の片割れはすっきりとした澄んだ目で自身の行いを悔いていた。

 

「女の好みや性癖は人それぞれ十人十色だってのにな……」

 

 もう一人のケーキを食った男も自身を嘲るような乾いた笑いで呟いた。その表情には深い悔恨と反省が混ざったやるせない思いが滲んでいた。

 

 なんで性癖バトルした後でそんな俳優顔負けの表情出せんだよ。

 

「これは効果アリ、じゃな!」

 

 ライラは「よっしゃ!」と言ってガッツポーズをして自分の作ったスイーツが上手く機能した事に喜んだ。スイーツが上手く機能するとはどういう事だ。

 

「えっ?今の見たか?あんなに怒ってたアイツ等が一瞬で落ち着いたぞ」

「俺も見た。ていうかあのケーキかな、さっきから凄い爽やかな香りがするんだよ」

 

 取り巻き達は性癖バトルにより喧嘩に発展していた彼等二人のことなど忘れてパウンドケーキの存在に釘付けになっていた。

 

「さあさあ買うなら今だぞ!パウンドケーキの他にもプディングも絶品!早い者勝ちだぞい!」

「お、俺も食いたい!いくらだ!?」

「私も買うわ。一つ、いえ、二つ!」

「それを粉状にして鼻から吸い込んでキメたいんで一つください」

 

 ライラが取り巻き達を煽り、そして彼等はお財布ちゃんお客様に成り下がった。

 

 ガラガラだったスウィートディーラーの中には客でパンパンになり、店内で食べる客、持ち帰りの客、それだけでなく外には行列ができ始める。プディングの悪魔再来だ。

 

「あ、あわわ……!あわわわわわわわ!!」

 

 あまりの客の入り用にアリーシアは口に手を当てて焦り始め、右往左往してしまう。

 

「落ち着け、チチ!」

「だ、誰がチチですか!」

「頭を仕事モードにして切り替えろ!あの時盗人共を倒した時みたいにな!」

「し、仕事モード…仕事モード……」

 

 俺がアリーシアにアドバイスするとアリーシアはボソボソと呟きながら人差し指を額にトントンと当てながら自己暗示するかのように繰り返し呟いて自分の世界に入っていく。そして、

 

「…私は仕事人、コードネーム、スティンガー。これより任務を開始する」

 

 謎の設定を持ち出してアリーシアはさっきとは違うテキパキと作業しながらハキハキと声を出して接客と会計を兼ねた。スピードが凄まじく俺よりも数倍の客をいなし始めた。俺はとんでもない逸材を探し当てたのかもしれない。

 

「ククク…!これで俺が楽出来る……!最高だぜ!グフハハハハハハハ!」

「仕事してください」

 

 アリーシアの感情の困ってない冷徹な言葉を受けたが、俺は構わず高笑いしながら注文を受けてレジで会計をしていた。気のせいか俺からアリーシアに客が流れ、アリーシアが舌打ちをした気がするが、俺は気にしない。全ては順調だ。

 

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