(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第18話 マッズッ!!!

 ようやく俺の計画が始動する。俺は喜びを噛み締めながら三人を地下室へと案内した。

 

「まさかこのお店に地下室があるなんて……」

「作業風景が丸見えな状態のキッチンで麻薬作るなんて不可能だろ。隠れてコソコソやるのが定石ってもんだ」

 

 地下室はあまり使われていないからか、若干埃が舞っていた。それもそうだ、元々長い期間手付かずだった上に使う使うと言って表のシノギが忙しすぎて使う事ができなかったんだからな。

 

「ここでライラとタマリにポーションを作ってもらう。俺とアリーシアは二人の補助だ。何か質問はあるか?」

 

 質問の有無を確認すると、早速タマリが手を挙げる。

 

「はい、タマリ君。何か文句でもあるのかな?」

「ぼく錬金術最近始めたばかりだよ」

「そんなもの気合いでやりなさい気合いで」

「気合いでどうにか出来るなら私もサビターさんも出来ると思うのですが……」

 

 俺の冗談にマジで突っかかってきたアリーシアに、俺は彼女の乳にビンタをした。

 

「いったぁ!?何するんですか!?」

「ボスに舐めた口を聞くんじゃない!冗談を本気で受け取るつまらない人間になるな!」

 

 俺は戒めのために彼女の乳を引っ叩いたが、乳はブルンブルン揺れた後こちらに向き直った。まるで俺を睨み返すかのようなその堂々とした乳揺れを見た俺はその豊満な乳房に敬意を表した。アリーシアとは違い、彼女の乳は反骨精神が剥き出しらしい。

 

「タマリは筋が良い。教えたらスポンジみたく吸収してくれるはずじゃ。ここはワシが手本を見せてやる。よく見ておくのじゃぞ」

 

 錬金術が出来ないというタマリを見て、ライラは釜の前に立つ。ライラの隣の机には錬金術に使うと思われる材料があった。植物や液体の入った瓶などが並べてある。

 

「今から作るのは普通のポーションじゃ。錬金術士を目指す者ならば必ず通る道。魔法使いだって必ず作る物じゃ。しかしのう、魔法使いというのはインテリ気取りのヌケサクばかり。小難しい器具をこれでもかというくらい集めて気の長い実験をしたりするちょ〜めんどくさいモンなのじゃよ」

「す、凄まじく酷い言い草ですね……」

「偏見があり過ぎだね」

 

 あまりのヘイト丸出しの暴言を聞いてドン引きしているアリーシアとタマリを尻目に、ライラは「近うよれ」と手招きした。俺達は言われたままライラと釜の近くに寄る。

 

「それじゃあまずは魔法の粉、もといアルケミーパウダーを釜の中に入れる。このアルケミーパウダーじゃが、こればっかりは錬金術の前に釜を使わないで自分で素材を砕いて混ぜて調合せねばならん」

 

 ライラはそう言ってボウルの中に色とりどりのカラフルな素材を入れる。

 

 その中には鳥の足みたいな物や花、何かの骨を砕いた物など、俺には及びのつかない素材を入れて棒で砕いて混ぜて粉状の物にする。すると俺が以前見たような虹色の粉が出来上がった。

 

「どうやったらさっきの素材共がこんな綺麗な色になるんだよ」

「驚くのはこれからじゃぞ」

 

 ライラはそれをちょうど煮立ってグツグツと音を立てる釜の中にサラサラサラと音を鳴らして入れた。すると釜の色は透明な水の色から幻想的な虹のオーロラを錯覚させるような色が生まれた。

 

「綺麗ですね……」

「うん……前にアリーシアと見た空と似てるね」

 

 アリーシアはうんうんと頷いてタマリとニコニコしながら夢中で釜を見る。こう見ると姉弟に見えるが、アリーシアは黒髪でタマリは銀髪だ。髪の色も違うし、旅の途中で出会ったと言っていたから血は繋がっていないのだろう。だがそれにしても仲がいいな。

 

「お前ら本当に姉弟じゃないのか?」

「残念ですけど、はい。私達は家族ではありません。旅の途中で出会ったんです」

「それは聞いたぜ」

「私はとある事情でお金を稼がなくちゃいけなくて、傭兵紛いの事をしていたんです。そんなある日、少し手強い盗賊の人達に追い詰められちゃって。そしたら小さい男の子の同業者が一緒に戦ってくれたんです」

「それがタマリか」

 

 俺の問いにアリーシアは首を縦に振ってコクリと頷く。

 

「そしたら段々仲良くなっちゃって。しかもタマリも借金があるからお金を稼がなくちゃいけないらしいんですよ。同じ境遇なせいもあってかもう私達は二人で一人の一心同体なんです!」

「えっ?借金?お前ら借金こさえてんの?」

 

 俺が驚いて聞くと、アリーシアとタマリは「あっ」と言って両手で口を押さえて目を点にしていた。

 

「どのくらいあんだ?」

「……く……ラッドです」

「えっ?なんだ?もう一回言ってくれ」

 

 俺は小さくてか細い声を聞き取れず思わず聞き返した。

 

「5億グラッドです」

「ふぇあう?」

 

 俺は驚きのあまりマヌケな声を出した。というかどうやったらこんな声がでるんだと自分でも疑問に思いながら俺はアリーシアの言葉を反復した。5億、5億グラッド。いや、二人合わせて5億だ。そうに違いない。いや、それにしても大金過ぎる。俺が稼いだ2億グラッドよりも多いとは……一体何をしでかしたんだ、俺がそう疑問に感じていた時、タマリがおずおずと前に出てきた。

 

「僕も大体同じ5億グラッドなんだ」

「ふぁぽぺ?」

 

 俺は膝から崩れ落ちた。借金の額が大き過ぎる。あまりの数の暴力に俺はいっそ変な趣味にでも目覚めた方がいいのではないかと思えてきた。

 

『お前、稼いだ最高金額は?』

『に、二億グラッドです……』

『キャハハ!私の借金の半分以下の金額じゃない!アンタって大したことないのね!』

『はいィ!俺は稼ぎの少ない豚野郎です!』

『ほら愛の鞭だよ!たっぷり味わいな!』

『最高です!最高であはぁん!』

「あ、あの、サビターさん…?大丈夫ですか?」

 

 俺がそんな事を考えているとアリーシアが俺を心配そうに見つめる。危ない。もう少しで負け犬になるところだった。

 

「ああ、なんでもなんあぅ!」

「えっいきなり変な声出してなんなんですか!?」

「思ったより重症。病院に連れてったほうが良い。頭の」

 

 いよいよ頭の病気を疑われて二人にゴミのように見つめられた俺は完全に何か大事なものを失った。ガラスが割れたような衝撃だった。

 

「あの、ワシの錬金術を見せたいんじゃがもういいか?」

 

 ライラが困惑気味な表情で俺達を見つめる。そうだった。今はタマリに錬金術を教えてもらうんだった。目的をまたもや忘れてしまっていた。

 

「なぁにを借金如きでびくびくしているんじゃサビター。お主はそれよりももっと凄い戦いを経験してきたんじゃろ。これしきの事くらいで怯えてどうする?大金を稼ぐんじゃろう?こいつらの10億グラッドくらい、ワシとタマリが作るスイーツとポーションですぐに完済してやるわい!」

 

 ライラはそう言って俺の肩をポンポンと軽く叩いて励ました。なぜ俺は俺より年下の女のガキに励まされているんだ。プライドと言う言葉は知っているか?

 

「そうと分かったらはようワシのポーション作りを見学せい!」

 

 俺達は本題から逸れていた事もあって、改めてライラと釜に向き直る。準備は当に出来ており、あとは作るだけだった。

 

「まずはポーションの元となるハーブを投入。このハーブはワシが元々持っていたどこにでも売っている普通のハーブじゃ」

 

 そう言ってライラは彼女の身長よりも長い棒を使って釜の中を混ぜる。小柄な彼女が自分よりも大きい棒を使って自分より大きい釜の中を混ぜるのには相当の体力が要るはず。しかしライラは涼しい顔で掻き混ぜていた。

 

「ハーブの青臭ァ~い匂いが来たら次はこのウォルバの木片を入れる。そして火力を少し上げる。そしたらゆっくりと混ぜるんじゃ」

 

 ライラの言う通り、地下室の中は植物特有の鼻を突くような不快な匂いが充満していた。おかしい、と俺は思った。前に彼女が作ったポーションはこんなひどい匂いはしなかった。だが俺はまだ文句を言うのは早い、と思い口には出さなかった。

 

「匂いが少し治まったな、と感じてきたら水を入れる。そして火力を少し下げてこのまま搔き混ぜ続ける。しばらくすると……完成じゃ!」

 

 ライラは「出来た!」と言って釜の中からスプーンのような器具を使って液体を取り出し、瓶の中に淹れる。

 

「さぁ!刮目せよ!」

 

 俺達はそれぞれ受け取ったポーションをまじまじと見つめる。匂いがキツイ。中身がドロッとしている。これがライラが作った物とは到底思えない。彼女は何を考えているのだろうか?

 

「僕が魔法学校で習ったのと同じ見た目だ」

 

 タマリはそう言ってポーションを飲んだ。アリーシアもそれに従い、口を付ける。肝心の俺は子供に毒見をさせるなど言語道断だと思い、つられて飲んだ。

 

 そして俺達三人の感想は同じ気持ち、同じ言葉だった。それは。

 

「「「マッズッ!!!」」」

 

 クッソ苦いゲテモノだった。

 

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