(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第20話 商売敵がやってきた

 

「ウィード?何者なんじゃそ奴は?」

 

 ライラは眉を上に動かしながら言う。

 

「この20年間で一度も捕まった事がない。男か女かも、年齢も人種も、その何もかも一切の情報が無い。だが裏社会でソイツはトップクラスの商人と認められてる。なんでもあの野郎は用心深く、最高品質のブツしか取り扱わないらしい」

「そんな人物とどうやって接触するんですか?誰なのかも分からないのに」

 

 アリーシアが人差し指を顎につけながら言う。コイツの言うことも正しい。ウィードはこの街で犯罪行為を20年も行っているのに、ジョニー率いるニーニルハインツにも実態を掴めていない。だが裏社会の経済の発展の一端に絡んでいるのは事実だった。

 

「ところがどっこい実は俺、ウィードの連絡先を知ってるんだなこれが」

 

 俺は自慢気に人差し指で鼻を擦りながら言う。尊敬しろ、こんな凄い情報を持っている俺を尊敬し崇め奉れ、俺はそう念じたが、

 

「もったいぶらずに話してよ。めんどくさいから」

「えっ、ごめん……」

 

 タマリが錬金術に使う素材を手に取りながらそっけなく呟いた。いや、コイツは普段からこういう喋り方だから特段気にしない。

 

「俺の知り合いの知り合いの知り合いが繋がってるらしいからソイツら頼って連絡取れるよう手配する。だからお前ら二人はポーションのストックを作ってくれ」

「知り合いの知り合いの知り合い?それ実質他人じゃろうが」

「黙れ。俺の人脈が無かったらお前はただの性格の悪いクソガキだ。良かったな俺がプロフェッショナルで」

 

 俺とタマリがお互いの脛を蹴り合っているとアリーシアは「あの」と俺の肩をツンツンと指で突いてきた。

 

「ん?どうした」

「いえ、この液晶画面に何か映ってるんですが……」

 

 そう言って彼女が地下室のある場所を指す。この地下室には工事業者に追加で表の様子が見れるように監視カメラ映像が見れるパネルを取り付けてもらったのだ。見れる箇所は店内と外周辺だが、今は外に誰かが来ていた。

 

「なんだぁ?今日は閉店してるってのに」

 

 俺はパネルを見ると、店の玄関に二人の人物が立っていた。一人は黒いスーツを着た銀髪の初老の男、そして隣にいるのは真っ赤で派手なドレスを着た緑色の髪のフリフリした服を着た少女だった。

 

「しょうがねぇ。アリーシア、お前あの二人に今日は閉まってると伝えてきてくれ」

「あっ、はい分かりました」

 

 アリーシアは素直に俺の言うことを聞いてくれた。もしライラに言ったら「お前が行けこのすっとこどっこい」などと吐き捨てるように言ってたかもしれない。

 

「…?なんじゃ?じっと見て」

 

 ライラはくりくりとした目で俺を見る。思ってた事をを言ったら必ず飛びかかってくるだろうからなにも言わないでおこう。

 

「いや、なんでもない。それよりタマリの錬金術の腕が上がって作れるようになったら一日にどれくらいの金額分作れる?」

「そうじゃのう。タマリは魔法薬学のエキスパート、筋はいいじゃろうし、一日中作り続けた場合だとおそらく……1億グラッド」

「い、1億……!?本当かそれは!?」

「うむ。ワシの作るポーションは特別での、以前別の国で少し売ったら沢山稼げたもんじゃ。タマリも加わるとなればそれ以上になるであろう」

 

 マジかマジかマジか!

 

 俺の心はフラダンスをするように踊った。俺が命を張って稼いだ金の半分を1日で作れるなんて、最初は驚きこそしたものの俺の今までの苦労はなんだったのかと思い返しながらガッカリしてきた。

 

「僕も錬金術上手くなりたい。ライラ、早く教えて」

「ククク腕がなるのうタマリよ。お前にはワシのとっておきを教えて──ん?今お主ワシを呼び捨てにした?」

 

 ライラはタマリを隣に立たせて掻き混ぜ棒を渡し、早速作成方法を教える準備に取り掛かった。

 

 ククク……1億、1億か……

 

 俺はこれから稼げるであろう金の山を想像し、ニヒニヒと笑みを抑えられなくなる。ジョニーの野郎には良い仕返しになるし、俺は金を稼げる。使いきれない程の金を手に入れたらどうしようか、と俺は未来に思い馳せる。

 

 ここから離れた土地を買って城を立て、そこに絶世の美女達を呼んで夜通しパーティーをするのも良い。もしくはマッドギアの古代の武器から最新の武器まで全て集めてコレクションを作るのも一興だ。

 

「グヒヒ……ああ早く売り捌きてぇ……!」

『何度も申し上げておりますが、今日はお店は営業していないんですよ!』

 

 俺が妄想を掻き立てていたその時、地下室のパネルからアリーシアの大きい声が聞こえた。

 

「んん?なんじゃあ?」

 

 アリーシアの声が気になったライラはタマリとの作業を一時止め、パネルを見る。タマリも気になったのか、掻き混ぜ棒を壁に立てかけてパネルの方を見やった。

 

『一流のスイーツ職人が休むなど言語道断。貴方達プロ意識が甘いのではなくて?せっかくこの私が視察に参ったのに店を開かないなんて失礼極まりますわ』

 

 緑色の髪を手で後ろにかき上げて少女が偉そうに言っていた。

 

 どうやら見たところアリーシアが相手をしている二人の客は一向に帰ろうとせず居座り続けていた。なんなんだアイツらは。

 

「どうするサビター?」

 

 ライラが俺に今後の行動を委ねる。どうするも何も、ライラとタマリにはすぐにでもポーション作りに取り掛かってもらわないと困る。ここは俺が場を収めた方が良いだろう。

 

「俺が行く。お前らは気にせず作業を続けろ」

 

 俺は彼女らにそう言い残して地下室から地上に上がった。

 

「そもそも!貴方達のオーナーだかなんだか知りませんけど金髪の無精髭を生やした品のない男はなんなんですの!?あんなのが飲食店に居ていいわけがないでしょう!」

「まぁそれは概ね同意しますけど……」

 

 俺が地上に上がると明らかに俺を中傷している声があった。

 

「しかも、見た感じ元傭兵のナリをしていましたわ。不潔で汚くて意地汚い顔をしていましたわ。おそらくあの手の蛮族は平気でセクハラもするでしょうね」

「はい!そうなんです!事あるごとにお尻や胸を触ってきたり……従業員なんだからこれくらいは普通だとかなんだとか言って……私だから良いですが他の女の子にしているところを見たら流石にころ──」

「どうも、不潔で汚い元傭兵上がりのゴロツキオーナーです」

 

 俺はこれ以上悪評を聞くのは流石に心が砕けそうになっていたので強制的に切り上げさせた。

 

「あら、居ましたのね」

「はい、クソガ……お客様。残念ながら本日は閉店です。また明日お越しください」

「敬語、使えたんですね……」

「バカにしてる?」

 

 アリーシアが心底驚いた、と言いたげな表情で俺を見る。俺は極力怒りを表情に出さないように表情筋に力を込める。逆に返ってそれが悪そうに見えたのか、俺の顔を見た少女は「な、なんですの」とビクッと身を強張らせてたじたじになりながら怖がった。

 

「ビリオネ様、私の背後に隠れてください」

 

 執事風の男がビリオネと呼ばれた少女を自身の背中に誘導し、俺から守るように眼光をギラつかせた。

 

「いや別に何もしねーよ」

 

 俺は心外だな、と思いつつ身の潔白を証明するべく言った。だが信じてもらえないのか、ビリオネは執事の後ろに隠れながら俺を見ていた。

 

「悪かったって。怖がらせたのは謝るよ。俺んとこのケーキが美味いのは分かる。けど今日は営業してないんだ。出直して来てくれ」

「あら、別に私は貴方達のスイーツを買いに来たわけじゃありませんわ」

「はぁ?じゃあ、一体何しに来たんだ?」

「宣戦布告ですわ。様子見も兼ねて来たまでですの」

「宣戦布告ゥ?お前さっきから何言って──」

 

 俺がビリオネの言葉の意味が理解出来ず、聞き返そうと思ったその時、アリーシアが

 

「ああーっ!!」

 

 と何か思い出したかのように大口を開けてビリオネの方を見た。

 

「もしかして、あのパティスリー・ヴァリエールの社長さんですか!?」

 

 アリーシアがあわあわと口を震わせながら言った。彼女の言葉にビリオネは口元が綻ぶ。

 

「そうよ!私はウィルヒル王国で一番のスイーツショップ、パティスリー・ヴァリエールの最年少天才女社長にして厨房の錬金術師と呼ばれている天才パティシエールですのよ〜!」

「知らね。アリーシア、なんか詳しそうだな。知ってるのか?コイツ」

「勿論です。というかケーキ屋さんを始めたのに彼女をご存知ないんですか!?彼女、ビリオネ・セスペドはウィルヒル王国で国王に認められたこの世で指折りのお菓子屋さんなんですよ!私も彼女の作るいちごタルトの虜なんです…!」

 

 アリーシアは鼻息を荒くしながら熱烈に熱心に語る。俺は心底どうでも良かったので「あそう」と相槌を適当に打ちながら聞いていた。

 

 ビリオネは鼻高々に手を顎に添えて「オ〜ッホッホッホッホッホ!」天井まで腰を逸らして高笑いをする。

 

「元気だなお前。若いとエネルギーが有り余って仕方ないのか?」

 

 俺がそう言うと、ビリオネは「そう言っていられるのも今のうちですわよ」と言って親指と中指で指パッチンをした。するとビリオネの側にいた執事の男が手に持っていた箱を客用のテーブルに置き、箱の中身を開けた。

 

 その箱の中にはケーキが入っていた。四つのいちごタルトが入っていた。

 

「ん?なんだ?くれるのか?」

「ふふ、ええそうですわ。食べてごらんなさい」

 

 ビリオネは未だ余裕の表情を崩さず、むしろ挑戦的な、煽るような燃える瞳をこちらに向けていた。これは挑発と受け取って良いのだろう、俺とアリーシアは朱色に輝く苺と天使の花のような純白のクリームが乗ったいちごタルトを箱の中に付いていたフォークを使って刺して口に運ぶ。

 

「ッ!こりゃあ美味ぇ……!」

「んんぅ〜!美味しい!美味しいです!」

 

 俺とアリーシアは同じように顔を綻ばせ、だらしない顔をしていた。頬が緩み切っていたのだ。

 

「この瑞々しい新鮮な甘酸っぱい苺に、甘すぎない絶妙な塩梅の甘さの生クリーム、そして楽しい食感のパイ生地!これら全てがものの見事に調和されてます!要するに凄い美味しい!」

「ああ。俺も同じこと言おうと思ってた。美味ぇぞ」

 

 俺とアリーシアの食レポを聞いてビリオネはますます調子付いてニマニマとしたニヤけ面に変わっていく。

 

「それもそのはず。私は食材も調理方法も一切妥協せずどれも最高級を目指して作られた物ばかり。貴方達お遊びで作る物とは違いますのよ!」

 

 ビリオネは腕を組んで自慢気に言う。俺はお遊びと言われて少しイラッと来たが、彼女の作ったいちごタルトはその発言も許されると錯覚してしまうほどの出来栄えだった。

 

「ふふん、貴方達とは意識の高さも敷居もなにもかもが桁違いですのよ。少し珍しいスイーツを作って人気が出たくらいで調子に乗らないことね。私は今日それを伝えに来たんですの」

 

 と、派手に名前を知らしめて牽制した事に満足したのか、ビリオネは帰る準備をしていた。

 

 しかし、俺は知っていた。錬金術士、もしくは錬金術師という言葉を安易に使ってはならないと。奴の近くで使ってはならないと。使った場合、必ず奴は来るからだ。

 

 ドタドタと駆け上がる音が聞こえた。ハイエナのように嗅ぎつけ、獣のように錬金術の事となると理性を捨てる奴が俺達の前に姿を現した。

 

「ワシの前で錬金術師と名乗ったのはどこのどいつじゃあ!」

 

 拳を固く握り、天に掲げながら現れたのは皆さんご存知あの狂犬、ライラック・フォルストフであった。

 

「あら?なんですのこの小動物は?」

「それはお主も同じじゃろうが子猫ちゃん!」

「なっ!?私が子猫ですって!?なら貴方は野良の子犬ですわ!」

「お主!仮にもワシの前で錬金術師と名乗ったのじゃ。黙って見過ごすことはできぬのう!」

「いや、名乗ってませんけど」

 

 実際はアリーシアがこのガキに対して言ったのだが、ライラは歌舞くように身体を構え、ビリオネを見据える。その瞳にあてられたのか、ビリオネもまた珍妙なポーズを取りながら双方火花を散らしながら睨み合っていた。

 

 ライラはチラリと残っていたいちごタルトを横目に、フォークで刺して試食した。ライラは一瞬硬直し、咀嚼し、味わう。あくまで表情筋は崩さず、ただ吟味していた。噛んで飲み込んだ後、ライラはキッと眼光を鋭くし、ビリオネに顔を向ける。

 

「1週間後、ワシの店に来ると良い。お主が見たことも食べたこともないような新しいスイーツをお見舞いしてその出鼻を挫いてやるわ!」

 

 ライラはビリオネに向かってそんな事を宣言した。

 

「いやいやいや。待てよ待て。ライラ、待てよ。お前にはやる事があるだろ?忘れちゃったのか?犬より脳みそがないのかな?」

「ビリオネ・セスペド!お主に宣戦布告じゃあ!身体を洗って待っていろ!」

「へっ!?な、なんで私が貴方のために身体を洗わなくてはならないんですの!?」

「いえ、おそらく首を洗って待っていろ、と言いたかったのだと思いますお嬢様」

 

 何故か顔を赤く染めるビリオネに執事が耳打ちし、勘違いを正した彼女は、再び表情をキリッと整える。

 

「そこまで大口を叩いたからには代償を支払ってもらいますわよ!もし私が勝ったら、貴方達、店を畳みなさい!」

 

 ビリオネの予想外の言葉に俺は笑ってやり過ごそうとした。

 

「えっ?おいおいお嬢ちゃん。そんな事するわけないだろ。アレだ、ウチのコックは虚言癖があってな、少々言い過ぎただけなんだ。だから──」

「良いじゃろう!ワシ等が負けたらその場で店を終いにしてやるわ!」

「ライラ!やめろ!やめてくれ!それ以上何も言うな!」

「じゃがもしワシ等が勝ったらお主の口からお主のお客さんにこの店を宣伝してもらうぞ!」

「ライラ!頼む!止まれ!止まってくれ!オイ!」

「ふふん、良いですわよ。そんな事が出来たら、の話ですけれど」

「ライラァッ!!」

 

 俺の言葉はもはやライラにもビリオネにも届かず、一方的に話が進んで行った。

 

「その鼻っ柱、へし折ってやる。覚悟しておくんだのう」

「出来るものならやってみなさい。出来るものなら、ねぇ」

 

 そう言い残してビリオネと執事の男は去って行った。俺はただ両膝を突いて天を仰いでいた。だが空は見えず、木製の天井が見えるだけだった。

 

「燃えてきたァ!1週間後、あの高飛車お嬢様に目に物見せてやる!やってやるぞ!のう!サビター!」

 

 俺の気持ちを微塵も理解していないライラは明るく言って俺に手を伸ばす。俺は彼女のそのどうしようもないアホさ加減に、思わず涙が流れてくる。

 

「んん?どうしたサビター?泣いているのか?」

「はは…ははは……」

 

 俺は突いていた両膝を崩し、床に仰向けに倒れながら天を仰いだ。どれだけ救いを求めても、俺の目に映るのは天井だけだった。

 

 どうしてこうも上手くいかない?

 

 俺はただただ疑問を投げつけた。だが誰もそれに応えてはくれなかった。




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