もう一度言おう。重厚な鎧を身に纏った大柄の男が居た。だがその……色が変なんだ、鎧の色が。普通騎士と言えば銀色の金属の塊を着込んでいる。しかし、コイツはいちごと同じ派手な赤い色の甲冑だった。
「貴様等にくれてやるいちごなどない。怪我をする前にとっととここから去るがいい」
左手にはいちごの断面を彷彿とさせる色合いの明るい白と赤色の盾を、右手には柄がピンクで刀身が赤く派手で目立つ剣をチラつかせながら、ストロベリーナイトは低く唸るように言った。
「……」
俺はこの違和感を口に出そうかどうか迷っていた。だがこんなシリアスな場面で空気をぶち壊すような事を言うのも憚られる。俺は大人だからな。空気を読むのもお手のものだ。しかし、コイツのこの見た目は一体……
「オウオウオウ!また会ったなストロベリーナイトよ!なんなんじゃそのふざけた装飾は!全身いちごまみれではないか!お主の頭はおかしいのか!?」
ライラは前に出て啖呵を切るように言い放った。
「オイコラ!俺も気になってたけど、面と向かって言う事じゃねぇだろ!世界は広いんだ、ピンク色の変態の一人や二人くらいどうって事ないだろ!」
「お主が今一番失礼なこと言ってるじゃないか!?ピンク色の変態なぞワシでも言わなかったぞ!」
俺とライラはお互いの心の醜さを押し付け合って喧嘩に発展しそうになる。
「俺の鎧は生涯この土地を守る事を誓った証として姫から賜った誇りだ。それを悪く言う貴様等には、死をもって贖わせてやる」
だが俺とライラの口撃は余計刺激しただけであり、奴は攻撃態勢へと移行した。ゆっくりと足を動かし、ガシャ、ガシャと鎧の金属音が揺れる音が鳴る。
「ライラ、アリーシア、タマリ。来るぞ」
俺は気持ちを切り替え、ホルスターからBBを抜き、照準を向ける。ライラもまた杖を奴に向け、アリーシアは拳を固く握り右手を下に、左手を上にして構える。タマリもライラと同じように杖を持つ。
俺達を追い払いたいだけか、はたまた本気で殺す気か知らないが、向こうがやる気ならこっちもそうしてやろう。
「ライラ、タマリ。お前等は錬金術の道具と魔法で後方支援を。俺とアリーシアが奴に攻撃を仕掛け──」
「そうら!」
俺が作戦を全て言い終える前に、ライラはカバンから球体の物を投げつけた。
「えっちょお前人の話を……」
「お前なんぞの作戦なんか無くてもワシが奴を始末してやるわ!」
ライラは意気揚々に走り出した。一度敗走して仲間を連れてカチコミに来た負け犬の癖に何故突っ走るんだ!と俺は彼女の奇行を目の当たりにして頭を抱えた。
ライラの投げた液体の入った球状の物体はそのまま真っ直ぐにいちご騎士に向かって行った。だが奴は盾でそれを防ぐ。盾に丸い物体がぶつかった瞬間ヒビが入り、そこから中身が割れ出た。その瞬間、赤い炎が渦巻き、けたたましい爆発音が鳴り響いた。
「……」
ストロベリーナイトは声も出さずに爆発を盾で受け止め凌ぎ切る。
その隙を突き、アリーシアが奴の懐まで近づき、拳を奴の腹に叩き込んだ。ストロベリーナイトは兜の中で多少のうめき声を上げたが、直ぐに痛みに喘ぐのをやめ、アリーシアに剣を振り下ろした。アリーシアは華麗なバックステップで剣を躱す。
「…浅いか」
アリーシアは装甲越しの攻撃は効果が薄い事を理解し、様子見をする。そもそも鎧を着た相手に素手の拳で挑んでうめき声を上げさせたのだ、腕力、膂力共に化け物じみている。
「……なぁ、俺の話聞いてた?俺は皆で連携して奴を倒そうって言ったよな。前も同じことしてたよな。記憶してる?」
「ワシはどうでもいいことは忘れる。なぜなら過去に足を引っ張られるわけにはいかないからじゃ」
「ひょっとして俺の言う事を聞きたくないから?だからこんなことしてるの?そうだよね?」
「さぁ覚悟しろストロベリーナイト!今度こそ貴様を倒し!いちごを回収してやるわ!」
ライラはまたもや俺の話を聞かずに突っ込む。アイツ錬金術士だろ。接近戦とかできるのかよ、俺は訝しみなから見た。
ライラは彼女自身の身長よりも長い杖を器用に振り回しながらストロベリーナイトに攻撃を仕掛ける。彼女の杖はトリッキーで不規則な動きだった。ストロベリーナイトは盾で受けて反撃の機会を窺う。だがライラの攻撃は杖だけでなく脚技も使っていた。
ライラは身体的にはまだ子供だ。成熟した身体ではない。しかし、盾で凌ぐのが遅れ、まともに頭に蹴りを喰らったストロベリーナイトは大地に片膝を突いた。手を兜に当ててフラフラとしたまま動かない。脳震盪を喰らったのだろうか。平衡感覚が保てていないようだった。
「ふふん、どうじゃストロベリーナイトよ。ワシの一撃は。これぞ錬金術の成せる業、鬼人の靴。これを履けば、か弱いロリッ子でも不審者の不審ブツをイチコロじゃ!」
ライラは自分が履いてる靴を前面に押し出し、見せびらかすように突き出す。その靴は青い色の運動靴で、それと同時に妖しく黄色く発光している。あれも錬金術の産物か。
「どうじゃサビター?作戦なんぞなくともワシ等がいれば勝利は確実!お主は端で観戦でもしておれば良い!フハハハハハ!」
ライラは満足げに高らかに笑い、完全に油断していた。俺はそんなライラとは反対に、常に周囲を警戒していたおかげで、奴が音もなく俺とライラの首を刈り取ろうとしているのが見えた。
「伏せろ!」
俺はライラの頭を掴んで地面に近づけた。俺も一緒に頭を下げ、ライラを抱えて距離を取った。
「おい、油断してんじゃねぇよ。俺が気付かなかったら死んでたぞ」
俺は奴を見据えながらライラの頭をポンポンと軽く叩いた。叩いた理由は、今この頭がまだ首にくっついているのは俺のおかげだぞ、という意味も込めたものだった、
「す、すまんのう……」
ライラはしおらしく謝罪した。逆ギレして喧嘩腰になると思っていたせいか、俺は面食らう。
「おい、そこはありがとうだろ」
俺はライラにそう言って後ろに下がらせた。するとライラは一瞬間をおいてから「あぁ、分かった!」いつもの調子を取り戻した。
「来るぞ」
俺は一言だけ言って両手に持つBBのトリガーを引く。カチッという音が鳴り、銃口から火が吹いた。凄まじき轟音と火薬の爆発から発射された弾丸は、ストロベリーナイトの鎧に衝撃を与えた。貫通はしなかった。だが奴の鎧にはべっこりと鎧を歪ませる事はできた。俺のBBは改造に改造を重ねて威力と精度を向上させてある。生身の人間がまともに喰らえばソイツの土手っ腹に大きな穴が開くのは間違いなしだ。
「ぐぅ……!」
奴は俺の銃の威力を知るや否や、今度は盾を用いて弾丸を防ぐ。盾は奴の鎧より頑丈に出来ているのか、貫通はしなかった。
「そうか、コイツでも効かねぇか。だったら……!」
俺は撃つのをやめ、両手に持つ銃を交差し、叫んだ。
「ブライト・ブラスターァ!サベージモード起動!」
俺がそう叫ぶと、BBはそれぞれの相方を取り込み、機械的に拡張し始める。20センチほどの長さだった銃身が、伸びて膨れて80センチ超の極太の銃へと変貌した。その銃は両手で抱えねばならないほど分厚く大きくなり、その見た目はさながら野獣の如き暴力性を秘めていた。
ストロベリーナイトは俺がまた銃を撃つつもりだと理解したのか、距離を詰めようと前にしたまま突進してきた。
「コイツはかなり効くぜ」
俺は肩に銃床を当てて狙いを定める。なおも突進してくるストロベリーナイトに俺は照準を合わせ、トリガーを引いた。
激しい反動と衝撃が俺の身体を襲う。だが俺は気合と筋肉で耐え、一発を奴にお見舞いしてやった。弾は盾に当たり、貫通した。というよりあまりの破壊力に盾は耐え切れず、自壊するように分散して壊れた。
「よっし!あともう一発……!」
後は奴を撃てば終わりだ。盾で防ぎきれなかったのだ。その盾よりも防御力が劣る鎧では肉体を守ることなどできない。俺は引き続きストロベリーナイトに照準を向ける。だが奴の様子がおかしかった。破壊された盾の残骸を見つめ、ブルブルと痙攣するように身体を震わせると、奴は天を仰ぎ、奇声を発した。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
その叫び声は凡そ人間が発するとは思えない程の声量だった。怒りと悲しみと悔しさが混ざったような悲痛な思いが籠った声だった。
「な、なんじゃあッ!?」
「気を付けてください!何か様子が変です!」
ライラとアリーシアが皆に伝わるように声を大きくして言った。
途端、奴は俺の元に走り出した。俺は一瞬呆気に取られ、判断が鈍った。再び銃を向けた。だが遅かった。既にストロベリーナイトは俺の眼前まで迫っていたのだった。
「よくもハルの盾をォォォ!!」
怒りに駆られ、訳の分からない事を言いながらストロベリーナイトはあの鉄の塊のような大剣で、俺の胸を突き刺した。
「あっ……あぁ?」
俺は自分の胸に嵌まった冷たい金属の塊である剣に触れる。間違いない。突き刺さっている。こればっかりは、助からない。
「サビターァッ!!」
ライラの金切り声が聞こえた。だが、俺の心臓は完全に潰され、俺はすぐに視界が暗転した。