(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第37話 ちょっとツラ貸してもらおうか

 

「……」

 

 ただひたすら口にショートケーキ、チョコケーキ、モンブラン、プディングを囲んで咀嚼する大男がいた。

 

 テーブルにはこぼれ落ちそうなほどのスイーツが乗っており、一つのテーブルでは置ききれないので他のテーブルを合体させて使っていた。

 

「すげぇなアイツ。まだ食うのかよ…?」

 

 俺とアリーシアとタマリは一つの客用のテーブルを一緒に使いながら驚き半分、呆れ半分で男の食いっぷりを見ていた。

 

 男の喰う様はそれは凄かった。皿の上にあるスイーツをフォークとナイフを使って食べる時もあれば、何を思ったのかわざわざ素手で掴んで皿を綺麗に空に、汚く空にして食べる時もあった。食事のマナーなんて知ったことじゃねぇ、俺は俺の喰い方で喰うぜ!とでも言うような食べ方だった。

 

「凄いね、あのお客さんの食べ方。僕だったら三個目でうぷ…ってなっちゃうよ。顔は世紀末覇者って感じなのに」

 

 珍しくタマリがキッチンから表に出てきて物珍しそうに見ていた。

 

「だよな。普通甘いモノなんて二、三個目で何も食べたくなくなるだろ」

「もしかして大食い選手なんじゃないんですか?ほら、身体大きいですし、もしかしたら巷で有名なス・モー選手かもしれないですよ」

「いやアイツ傭兵だぞ」

 

 俺がそう言うとアリーシアとタマリが「えっ?」と不思議そうな顔で俺を見た。

 

「サビターさん、流石に人を見た目で判断するのは……」

「サビターって差別主義者?」

「お前らさっきの自分の発言顧みたらどうだ?」

 

 タマリとアリーシアは俺を侮蔑するような目俺を見た。この脳味噌すっからかんの唐変木共が、俺をどんな人間だと思ってるんだ?俺が何も考えないで言葉足らずな言動をしていると思っていやがる。

 

「違ェよ。アイツの外套の中に一瞬だが剣の柄が見えた。それに雰囲気がそれなりに修羅場を潜って生き残ってきた奴のツラのそれだ。お前ら分かんねぇのか?」

「分からんざます」

「えっ?あっ、そう言われるとそんな気がしますね」

「タマリはともかくよ、アリーシアさん?貴方殺し屋でしたよね?平和ボケし過ぎて脳味噌賞味期限きちゃったのかな?しっかりしろよ?」

 

 俺は完全に飼いならされた大型犬みたいなアホヅラをしているアリーシアが余りにもポンコツになっている惨状に右手で両の目頭を押さえる。

 

 そして、男は恐るべき速度でもう注文したスイーツの山を食べ尽くした。まじでこの男の腹の容量はどうなってんだ。

 

 ライラがキッチンから何か乗せたトレーを右手に持ちながらやって来た。

 

「今日は多分誰も来ないからお主にちょっとしたサービス、ワシ特製ジッチャン・ラテじゃ!」

 

 ライラは高らかに、歌うようにジッチャンラテとかいう今まで聞いたこともない飲み物を男の前に置いた。

 

 明らかにその飲み物であろう、スパイス特有の鼻孔を弄ぶような、思わず鼻で追いたくなるような香りがした。

 

「…頼んでいないぞ」

「いいんじゃいいんじゃ。スイーツをいっぱい美味そうに食べてくれてるワシからのささやかな贈り物じゃ」

 

 ライラが笑顔で言って半ば無理やり男のテーブルに置いた。

 

「俺も飲みてェんだけど」

 

 俺がそう言うと匂いに完全に中てられた業突張りのアホタレ共が「私も!」「僕も!」と元気な声で右手を上げながら叫んだ。

 

 ライラは俺達がそうすることを見越してか、それとも元々全員に飲ませるつもりだったのか、キッチンの奥に戻って人数分のジッチャンラテを持ってきた。

 

 ジッチャン・ラテとかいう謎の飲み物は表面が白い泡で覆われ、泡の表面には赤が混じったような茶色い粉が一緒に乗っている。中の液体は容器であるカップが透明ではなく白いカップだったため見えなかった。だが一瞬カップが揺れた時伽羅色の液体が見えた気がした。

 

「ジッチャン・ラテってなんだ?そんな飲み物今まで見たことも聞いたこともないぞ?」

「はっ!無学な馬鹿モンにはそりゃ分からんじゃろうな!そのレシピはワシが師匠の元で修行中だった時、禁書庫を漁っていた時に見つけたレシピじゃ。ちなみに起源や名前の由来は知らん」

「無学晒してんのお前だろ」

 

 ライラが俺に飛び掛かって髪の毛を抜こうとしていると、男は静かに左手でカップの取っ手を親指と人差し指を使って掴み、カップを唇へと近づけた。

 

 ズズ…と少しばかり音を立てて男は飲む。出来立てで熱いだろうに、男は少しも苦しいそうな表情は見せなかった。口内は大丈夫なのだろうか。明らかに湯気が立っていたが。

 

「どうじゃ?美味いか?美味いか?ワシ、実はそれは久しぶりに作ったんじゃ。禁書庫に無断で入ったことがバレた後のう、師匠に嫌がらせとして師匠が満足するまでそれを作らされて鬱になりかけたことがあってのう、それ以来作っていなかったんじゃが、味は絶対良い筈、どうじゃ?どうじゃ?はよう感想を寄越さんか」

「お前、客に飲ませたいのか嫌がらせしたいのかどっちかにしろよ」

 

 あんまりにも反応に困るウザ絡みをされている男を少し哀れに思った俺はライラの頭を掴んで俺の近くに居座らせた。

 

「ライラ、お前客の邪魔だから俺のそばに居ろ。離れるんじゃねぇぞ」

「え…?う、うん……」

 

 俺の言葉にライラは珍しく素直に俺の言葉に従った。おまけに俯いて耳を赤くさせていた。そしてアリーシアとタマリは微笑ましそうに俺を見つめていた。あまりにも脈絡が無さすぎて気持ち悪すぎる。なんなんだ一体。

 

「……美味いな」

 

 部下の俺を見つめる不気味な表情を気持ち悪がっていると、あまり喋らなかった男が口を開いた。

 

 男は微笑んでいた。男は長髪で、前髪が少し顔に掛かっていて表情は見づらかったが、僅かに口角が上がっていた。

 

「…そ、そうじゃろう!?ワハハ!師匠から手酷く作らせられていたからの、やはり作り方は間違っていなかったみたいじゃなぁ!ワハハハハハハハ!」

 

 いつもの調子に戻ってライラは男に向かって元気ハツラツに喋った。そうそう、これがいつものライラだよ。

 

 俺はチラリとアリーシアとタマリを見ると、またあのねっとりとした表情で微笑んでライラを見つめていた。だから気持ち悪いっつってんだろ何なんだその顔はよマジでよ。

 

「おそらく、これはジンジャーラテだろう」

 

 男はそう言ってこの飲み物の名前を呟いた。

 

「て言ってますけどどうなんスカ?ライラさん?」

「……なんかそんな名前だった気がしてきたのう」

 

 コイツ本当に凄腕の錬金術士か?なんでこの店にいる奴はどいつもこいつもアホばっかなんだよ。ギルドに居た時の奴らのほうがIQ高かったぞ。

 

「コーヒーをベースに砂糖と牛乳、名前の元となったジンジャー、他にナツメグ、シナモンを入れた物だが、これはコーヒーではなく紅茶を入れてアレンジしたものだな?」

「…凄いのお主。当たりじゃ。他にも素材はいくつか入れて折るが、今お主が言った素材は全て入れておる。何者じゃお主?」

「友達が良く俺にジンジャーラテを振る舞ってくれてたんだ。もう飽きたからいらないっていっても、しつこく飲ませようとしてくる奴だったよ」

「ライラみたいな奴だな」

「褒めておるのかそれは?」

 

 ライラの疑問形の言葉に俺は「さぁ?」と惚けて答える。

 

「…ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名はアルカンカス。ただの死にぞこないの傭兵さ。死ぬべき時に死ねなかった、どうしようもない男だよ。それと、ここの店の菓子は最高だった。そして、ジンジャーラテ、友を思い出す味だった。馳走になった。ありがとう」

「そうかい。まぁ、満足してくれたならよかったよ」

 

 アルカンカスは己を嘲るかのように嗤うと今まで頼んだ分のレシートを手に取る。もう会計を済ませるつもりなのだろう、男は椅子から立ち上がってレジの元まで歩み寄った。

 

「合計21万7500グラッドになります」

 

 アリーシアが合計金額を明かす。一人が食べた金額にしては何もかも釣り合っていない金額だ。食べた量も量だが、この金額、本当に払えるのだろうか?

 

 だがこのアルカンカスは歴戦の戦士の目をしていた。おそらく高額な報酬金額を掛けられている人間やモンスターを何匹も倒しているだろう、懐は十分に温かいはずだ。

 

「ふふ、結構な金額だな」

 

 アルカンカスは笑って言った。

 

「それは、まぁそうですよ。尋常じゃない量を食べてましたから」

「それもそうか」

 

 アリーシアと男はお互い笑い合いながら話す。俺は本格的に今日は店じまいにしようと思い、外の看板を仕舞いに行った。しかし、酷い暴風雨だったため、看板がどこかに飛んで消えていた。俺はハァ、とため息を一つ吐き、店の中に戻る。

 

「わりぃわりぃ、看板台風でどっか飛んでったわ。でも仕方ないよな。俺悪くないもんな。な!」

「あ、あの、もう一度仰ってくれますか?」

 

 店の中では、アリーシアが笑顔を絶やさないまま困り顔で俺にではなく、アルカンカスに聞いていた。

 

「ああ、だから無い」

 

 アルカンカスは微笑みながらただそう言った。

 

「え、ええと…何が無いんでしょうか?」

 

 アリーシアは冷や汗をかきながら更に困り顔になって再度アルカンカスに聞いた。

 

「この店に払う金は一銭もない」

 

 アルカンカスは張り付いたような微笑みでそう言い、俺は店のドアに掛けていたオープンの文字が入った板をクローズの文字が入った板へとひっくり返し、入り口の鍵を掛けて扉を閉めた。

 

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