(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第38話 ゲンジ

 

 ──それでは何を見たのか、改めてお聞かせ願いますか?

 

「あ、ああ。あれは本当にびっくりしたよ。何せ急だったものだから……」

 

 我々取材陣の為に取材を受けてくれたのは、パイソン(仮)さんだ。彼は最近できた人気沸騰中のお菓子屋、スウィート・ディーラーの常連だそうで、その日は台風だったが気にせず店に入ろうとしていたらしい。

 

 そこで彼、パイソンさんはある衝撃的な光景を見たという。 一体何を見たのだろうか。

 

「俺はその時仕事の昼休憩だったから腹は減ってたし脳味噌使った後だったから甘いモンがたべたかったんだ。俺はこう言いながら入ったんだ。『ただいま!超絶エリート労働者は脳味噌使い過ぎて脳の皺が無くなっちゃった!ので何か甘いモノをご馳走願うぞ!人生の落後者共!』ってね。そしたら……」

 

 そしたら?

 

「アイツ等客に銃とか槍とか魔法の杖とか向けててさ、素人の俺でも殺気とか理解しちゃった。これはヤバイってね。でもまぁ俺それなり修羅場は見てきたからおしっこだけで済んだよ。うんこは漏らさなかった。これはマジだ」

 

 それはつまり、彼等スウィート・ディーラーの店員達が客を囲って脅していた、そういうことですね?

 

「んー、まぁそうなるね。アイツ等何の理由も無しに客を詰めたりはしないから多分その客が何かしたんだろうね。俺も他の客と殴り合いの喧嘩したら自分をこの店の神だとか抜かす野郎にヘッドバッド喰らわされたし他の奴は美人のチャンネーに指先一つでダウンされてた」

 

 恐ろしい。完全に無法地帯ではないですか。それでは店員全員に詰められてたその客の命はもはや風前の灯火だったのではありませんか?

 

「……」

 

 我々取材陣の言葉に対し、突然黙り込むパイソンさん。何故か彼は「うーん」「ははは」と困ったように、答えるのが難しいな、と言いたげに誤魔化すように笑った。

 

「アンタ達は何もわかっちゃいない。ソイツがただの人間ならリンチ不可避って感じなんだろうけど、相手があの『ゲンジ』の戦士だと、全く話が変わってくるんだよねそれが」

 

 パイソンさんはそう言って可笑しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

「テメェ~~~食い逃げはウチの店じゃ死刑だって知らねぇのかアアン?」

「そんなルールうちの店にはありませんが、無銭飲食は褒められた行為ではありませんね」

 

 アリーシアが珍しく部分的にだが俺の言葉に賛成し、俺、ライラ、アリーシア、タマリの全員でアルカンカスを囲んでいた。アルカンカスは無表情のまま顔色を変えず、椅子に座っている。

 

「君達のお菓子はとても美味しかった。ジンジャーラテも。金を払う価値がある。でも生憎俺には持ち合わせがない。このまま帰りたいんだがいいかな?」

 

「良いわけないじゃろが!払うモン払わんかい!」

「はらえはらえ」

 

 ライラとタマリが怒りながらアルカンカスに文句を言った。

 

「君達、腕は立つかな?」

「あ?いきなりなんだ?」

 

 アルカンカスは突然脈絡もなくそんなことを聞いてきた。この男の意図が読めず、俺は眉を顰めて睨んだ。

 

「無銭飲食じゃ大した刑にはならないだろうし、仕方ない」

 

 そう言うとアルカンカスは立ち上がり、俺の方に向くと突然俺の顔をぶん殴った。俺はキッチンの奥まで吹っ飛ばされ、頭を打って意識が曖昧になる。

 

「サビターッ!」

 

 ライラが叫ぶなり、ライラはスカートのポケットに入れていた錬金術で作った小型の球体の爆弾をアルカンカスに投げた。

 

 アルカンカスはそれを左手で掴み、爆弾の爆破を手の中で抑えた。

 

「は、はぁ!?ワシ特製の爆弾じゃぞ!?ワシら周辺を丸焦げに出来るほどの威力じゃぞ!?それを素手で!?」

「師匠、そんな爆弾投げちゃダメでしょ」

 

 タマリがツッコミを入れると、すぐにタマリは呪文の詠唱をした。ブツブツと呪文を唱えると、地面の下から真っ黒な闇が出現し、黒い蔦のような物がアルカンカスを拘束した。

 

「アリー」

「分かってる」

 

 タマリの意図にすばやく気づいたアリーシアは、拘束されて無防備な姿を晒しているアルカンカスの身体に神速とでも呼ぶべき速さで拳を数発奴に打ち込んだ。

 

 撃ち込まれた瞬間、アルカンカスは一瞬白目を向いて意識を失った。

 

 かのように見えたが、直ぐに意識を取り戻し、ニヤリと笑うとタマリの拘束魔法の蔦をブチブチと破り捨て、アリーシアの腕を掴む。

 

「…!?意識を奪う孔を突いたはず……!」

「魔法拳法か。過去に戦った事がある。故に対処法も把握している。ツボをズラせば魔法拳法はただの拳打となる」

 

 淡々と説明してアルカンカスはアリーシアの腕を振り回して壁に叩きつけた。

 

「カハッ……!」

「アリー!」

 

 タマリはアリーシアを悲痛な声で叫ぶ。そしてアルカンカスに殺意を込めた目で睨みつける。

 

「お前……アリーを傷つけたな……!」

 

 タマリは杖を捨てると、右手をアルカンカスに向けて翳す。

 

「タ…マリ……()()()はやめなさ……い」

 

 アリーシアは衝撃がまだ体に残ったままだったのか、掠れた声でタマリに向けて言った。だがタマリの耳には入っていなかった。

 

 タマリの周りには白い稲妻がパリパリと鳴り、戦闘で損傷したテーブルや椅子などの木屑がふわふわと浮き始めた。タマリの髪の毛は逆立ち、右手から可視化されるほどの蜃気楼のような魔力が溢れている。

 

「白龍…!」

 

 タマリがそう呟くと、アイツの右手から稲妻を纏う白い龍が現れ、アルカンカスに襲いかかった。アルカンカスは左手でそれを防ぐ。

 

 奴の左手はライラの爆弾を防いだせいで黒焦げになり、使い物にならないようだった。その使えない腕を盾代わりにし、噛みつかれる。

 

 噛みつかれた瞬間龍の形は崩れて雷の塊へと変化し、雷が落ちたような轟音を奏で、アルカンカスを感電させた。

 

「ッ……!コイツはとんだ優秀な魔法使いだ。流石に手こず……!?」

 

 アルカンカスはガクリと片膝を突いた。胸を押さえて呼吸が少し荒くなっていた。

 

 タマリの電撃魔法が功を奏したのだろうが、どうやらそれだけではなさそうだった。アルカンカスはアリーシアに打ち込まれた部位を右手で押さえていた。

 

「魔法拳法は生きとし生ける全ての生物を壊す必殺の流派、おいそれと無効化できるとは思わないことですね……!」

 

 アリーシアが意趣返しとばかりに悪戯にニヤリと口角を上げて笑った。完全に威力を殺すことはできなかったのか、それとも時間差で効果が発動したのか、アルカンカスは口から血を吐き出した。

 

「それと、俺も忘れんなよ」

 

 俺はキッチンの奥からB.B.で数発奴に向けて撃った。しかしアルカンカスは紙一重で避ける。避ける事は出来たが、あまり余裕はなさそうだった。

 

 呼吸は荒く、左手はライラの爆弾を打ち消した反動で黒焦げになっている。ライラもライラで奴に深手を負わす事に貢献していたようだ。

 

「4対1だ。しかも全員お前を手こずらすタフな奴ばっかだぜ。降参するか、もしくは俺達にズタズタの穴だらけにされて消化途中の菓子とジンジャーラテを腹から垂れ流すか、好きな方を選ばせてやる。俺は前者をオススメするけどな」

 

 俺達は互いにアルカンカスを囲む。俺達全員が奴を殺すことも視野に入れていた。

 

 生け取りにして衛兵に突き出して豚箱にぶち込ませるなんて考えは消えていた。それほど奴は強かった。

 

 そんな俺達の本気の殺意を観察して感じ取ったアルカンカスが出した答えは──…

 

「君達が強いことはよく分かった。なら……俺も本気を出すとしようか」

 

 アルカンカスは外套の下から何かを取り出そうとした。

 

「させない」

 

 タマリがもう一度『白龍』を繰り出そうと右手を翳す。今度は4匹に増やし、大きさもさっきよりも二倍の稲妻を放った。

 

 このまま当たればさしもの奴もただじゃ済まない。だが、俺はこの刹那の瞬間、嫌な予感がしていた。

 

 何か、俺は忘れている。あの男の剣の柄、あの柄、俺はどこかで見たことがある。あれは……

 

 アルカンカスは外套の中から剣の柄を握り、取り出す。

 

 しかしその剣は刀身が、無かった。

 

 不恰好な剣、剣の形を成していない剣。神様が人間を作るときに、頭に脳味噌を入れるのを忘れてしまったかのような、不完全さを表していた。

 

 刀身が無い剣を持つ者。まさか……!

 

 俺は奴の剣を見て、忘れていた記憶を思い出した。刀身のない剣を持つ戦士達を、その恐るべき強さを。

 

「お前ら逃げろ!コイツ『ゲンジ』のナイ──!」

 

 俺が言い終わる前に、アルカンカスの握った剣とタマリの電撃魔法がぶつかり、店の中は爆発を起こした。

 

 技と技がぶつかった衝撃波で、強制的に俺達全員が外に吹き飛ばされる。

 

 前を見てみると、店の中はめちゃくちゃだった。テーブルも椅子も照明も壁も床も、なにもかもしっちゃかめっちゃか掻き回されていた。

 

 店の中は埃や木屑、灰が舞っていたが、店内がどうなっているかなど、もはや見なくても分かる。

 

「俺に超光剣(ライトブレード)を使わせるなんて、本当に強いな。君達は」

 

 煙の中から奴の声が聞こえた。照明が切れ、煙と暗い闇の中から眩い一筋の黄色い光が見える。

 

 目を逸らしたくなるほどの光を放ち、現れた刀身には判読不能の古代文字が刻まれた金色に輝く剣。

 

「マジかよ、クソ……悪い予感が当たっちまったか……」

 

 俺は二度も吹き飛ばされ、脳震盪を起こしていたが、脳味噌に意識を集中させ、治癒を促す。ライラ達は呻き声を上げており、まだ意識が完全に戻っていない。

 

「なんでこんな国のこんな店にあの伝説の戦闘集団の1人が来ちまったんだ……?なぁ、『見えない守護者(ゲンジ)』の戦士さんよ」

 

 俺はアルカンカス、かつては栄華を誇った戦士の生き残りに向けて言う。

 

 アルカンカスは「フッ」と笑う。諦めの入った濁った目で俺を見た。奴のその目が、言葉を使わずとも肯定を示していたのは明白だった。

 

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