前回のあらすじ。サビターは新しい奴隷をゲットした。
さて、何故こんなことをモノローグで語るかと言うと、口に出してしまえばそれを聞きつけた眼鏡をかけた恐ろしい女の殺し屋が俺の息の根を止めに来るからだ。
俺の奴隷こと元『ゲンジ』、アルカンカスは今日も今日とて奴隷らしく一日を無為に過ごしていた。
「……ここ、まだ埃が残っておるのう。もっと拭くのじゃ」
ライラが床を細い人差し指でなぞり、見つめるとふう、と拭いて埃を飛ばす。
アルカンカスはおやつを取り上げられた子犬のような顔をする。
「十分拭いたと思うがね」
「はーっ!これだから素人は困るんじゃ!良いか?お主は力持ちで瓦礫をすぐさま片付けた事は評価に値するがの、繊細な拭き掃除はてんでダメじゃ。そもそも掃除の極意というのは一朝一夕で身につく物では……」
ベラベラベラベラと掃除のコツは何たるかをウザったらしく語るライラ。
俺達は営業再開するため全員で店店内に散らばった瓦礫やごみを撤去、清掃などの後片付けをしていた。
店内は未だ元通りには戻っていなかった。床が抜けたままだったり、テーブルは足が折れていたり、窓ガラスが割れてその破片が辺りに散らばっていたりなど、酷い有様だった。
俺達はそれを丁寧に集めてごみ箱に入れ、箒で埃を掃いて濡れた雑巾で床を拭いたりなどしていた。
「普通こういうのは壊した張本人である俺に全部やらせるのが様式美というものではないか?何故全員でやる必要がある?」
「お前はアホか?一人で出来る事なんて程度が知れてるだろ。全員でやった方が早く終わるんだよ。オイ!タマリ!本読んでサボってねぇでお前も手伝えやコラ」
タマリは壊れていない無事だった方の椅子に座りながら魔術関連の参考書を読みながら「ん~」と適当に返事をしていた。俺はそれにイラッとし、奴に近づいて本を取り上げると、その本を俺のズボンの中に突っ込んだ。
「あーッ!?」
「本ばっか読んでたら馬鹿になるぞ。それが分かったらさっさと掃除を手伝え」
「本は読んだ方が頭がよくなるんだよ?サビターはやっぱりばかだね」
「良いのかそんなナメた口きいて?お前のオキニの本が俺のパンツ越しから直に移動することになるぞ?」
「ごめんなさいぼくがわるかったです。だからそれだけはやめてください」
俺は世間知らずな無知なクソガキに大人の恐ろしさの片鱗を見せつけてやると、それを見ていた殺人鬼のような冷徹動物のような目で俺を見るアリーシアがいた。俺は腰を低くしながら彼女にタマリから奪った本を返した。
「とりあえず掃除が一段落落ち着いたら返しますね。それまではお掃除を頑張りましょう?」
「うん、わかった。アリーシア大好き」
タマリにそう言われたアリーシアは「私もー!」と言いながらタマリに抱き着く。クソデカい乳がアイツの顔に埋まる。
まるで流動体のように様々な形に動いて揺れる乳を弄ぶタマリ。一瞬奴と目が合った。その瞬間、
「ぷふ」
奴は心底楽しそうに俺を馬鹿にするような目と口を俺に向け、嗤った。
「このクソガキがァ!その乳は俺ンだ!お前のじゃねぇ!お仕置きしてやるよケツだせやオラァ!」
「いや貴方の物ではないのは確かですが」
タマリを抱えながら片手で俺の侵攻を押さえるアリーシア。
俺は全力でタマリに手を伸ばすが、アリーシアもアリーシアで踏ん張って俺を押さえている。
何故成人男性が乳と尻がデカい事以外は華奢な女とタメを張っているのか、全く理解出来ないが、その隙間から覗くタマリが
「…サビターよわっ」
と更に煽ってきた。
「テメェマジで覚悟しろよ!ハァン!?」
俺はジタバタ暴れてタマリに制裁を加えるべく手を更に伸ばした。
「君達はいつもこの調子なのか?」
「いかにも」
ライラは箒の持ち手に頬杖しながらつまらなそうに喋る。アイツは俺が誰かにキレて喧嘩を吹っかけ、そして俺がボコられる。そんなことを俺達は常にしていて、それはよくある光景だったのでライラは何も表情を変えない。
「しかし…お主のコレは一体どういう絡繰りなんじゃ?刀身が無い剣なんて初めて見たわい」
ライラはアルカンカスから没収した刀身が無い柄のみの剣、超光剣、またの名をライトブレードを手に取りながら興味深そうに見る。その剣は刀身が無く、柄は黒い革のようなもので巻かれているだけのシンプルな見た目だ。
見た目だけならただの筒にも見えるかもしれない。
「そういえば私も不思議に思ってました。魔力を具現化した武器なら何度か見たことはありますが、その剣からは魔力の反応がありません。魔力以外の未知の物質でしょうか」
アリーシアも気になっていたのかライラとアルカンカスの会話に混ざる。それでも俺を拒む力は全く変わっていなかった。
「錬金術でもこんな物は作れぬ。見た感じはハイテクだしマッドギア製かと思ったが、突然現れた刀身には見たこともない文字が刻まれていた。マッドギアはそんなオシャレな小細工は入れぬ」
ライラも腕を組みながらうーんうーんと唸り、奴の剣を睨む。
「んむ……ぼくもそう思う。アリーの言った通り、ふがふが……その剣魔力ぜんぜんない。んふー……でもかっこいい」
アリーシアの乳に顔を預けている状態でふがふがもごもご言いながらほかの二人の意見と迎合する。
タマリ、お前はそろそろその女から離れろ。俺が制裁を与えられないだろうが。
「その剣の中には凄いパワーがギュギュっと詰まった不思議な石ころが入ってる。その石ころと精神を同調させて力を抽出し、刀身を出現させることによってライトブレードは使えるようになるのさ」
アルカンカスはライラからライトブレードをゆっくりとした動作で取り上げると、片手でライトブレードの柄を持ち、目を閉じて俯いた。
剣の柄から黄色い光が少しずつ発光し、粒子にも似た光が何もない所に集まり始め剣の形を形成し始める。朧気に集まる光は徐々に剣の形になり、最終的に光り輝く金属とも似た刀身が前と同じように姿を現す。
やはり刀身には解読不能の文字が刀身に刻まれており、魔法を付与された剣、魔力で象られた剣、最新技術で作られた剣とも、それら全てと比べると異質な剣であった。
「……前にも言ったと思うが、俺は君達に再び危害を加えることはない。だから武器をこちらに向けないではくれないか」
アルカンカスは怪訝な表情でそう言う。俺達全員、奴の肌に触れるか触れないかの距離でそれぞれの武器を奴に突き付けていた。
「まぁ念の為だ。俺もせっかく拾った奴隷(新人店員)を早速ぶち殺すのは忍びないからな。頼むからここから逃げたり、反撃しようなんて考えてくれるなよ」
「分かっている、分かっている。ゲンジの戦士として、この剣に誓ってもいい。君達を絶対に襲わない」
「け、何がゲンジに誓ってだ。元だろ元。話半分だけ信じてやるよ」
「フフフ、その程度で信じてもらって構わない」
俺が鼻で笑いながらそう言うと、アルカンカスも鼻で笑った。
「俺は死にぞこないの大悪党さ。見えない守護者だなんて大層な名前は似合わない」
アルカンカスは自分を蔑むような、自己憐憫を含んだような表情で笑う。コイツも何か事情を抱えているようだ。なんで俺の店にはキャラがとんでもなく濃い奴しか来ないんだよ。
「さて、休憩は終わったじゃろ?掃除の続きじゃ」
ライラは箒を掲げ、俺達にそれぞれの掃除道具を強引に押し付けて強引に再開させた。
店の中は多少片付いたくらいだが、営業再開するにはまだまだ全然だ。別に金はたんまり稼いでるし、ポーションの発注も追加で来たからしばらく休業して遊んで暮らしても良いんだが、せめて仕事してますよ感を出さないとジョニーのヤツに睨まれそうだ。
「さっさと元通りにしないとな……」
ハァ、と俺はため息を吐いて箒を握る。隣に居たアルカンカスが「すまないね」と形だけの謝罪をしてきたが、俺は気にも留めず「もういーよ」と言った。
まだまだ掃除完了には程遠そうだ。