(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第42話 酒を飲むぞ!

 

『もう諦めろ、ヴァンガード。お前の野望もここで終わりだ』

 

 灼熱の溶岩が流れる崖の上で、男が言い放つ。その男は金色に光る剣を握っていた。

 

『まだだクレイン。まだ負けちゃいない。俺はまだやれる…!』

 

 崖に追い詰められた男、ヴァンガードは反対側にいる男、クレインを恨めしそうに睨んだ。ヴァンガードは蒼紫色に光る剣を持っていた。

 

 どちらも顔全体を覆う鎧兜、またはヘルメットのような物を被っており、素顔を見ることは叶わない。ヘルメット意外の下は身軽に動けるよう運動性を重視したシンプルな灰色のスーツを着ていた。

 

 唯一彼等を判別できるのは、それぞれ光る色が違う剣を持っている事だろう。

 

『俺とお前が争って何になる!俺達は師の教えに従って世界を守るんじゃなかったのか!?』

 

 クレインは激昂し、ヴァンガードに問いを投げかける。

 

『師は間違っている。俺達がこの世界を支配し、新たな秩序となればいい。無知で愚かな人間達を、究極の力を持つ俺達ゲンジが管理すれば、真の平和は訪れる!』

 

『この大馬鹿野郎がッ!』

 

 ヴァンガードの言葉にさらにクレインは怒り、剣を握り締め駆ける。

 

 ヴァンガードも負けじと獣のように腹の底から吠えながら立ち向かう。

 

 金属同士が激しい勢いで当たる轟音が大地と空気を揺らし、剣と剣が火花を散らす。

 

 振るわれた剣は尋常ではない速さで空気を斬る。二人の動きは凡そ常人には目で追えないスピードで、剣の刃を躱し、弾き、凌ぎ、空気を斬る音、鋼同士が当たる音、そしてマグマが岩を溶かす音だけがあたりを包んでいた。

 

 その剣戟は敵を殺すにはあまりに華麗で、あまりに豪快だった。向かい合う二人は共に一流の剣士であり、決着が着かないのではないかと思うほどお互いの攻撃を紙一重で凌いでいた。

 

『……ッ!』

 

 しかし誰も永遠には戦えない。ヴァンガードが先に息を切らし始め、その隙を逃さなかったクレインはヴァンガードの攻撃を敢えて待った。それに勝機を見出したヴァンガードは剣を空に掲げ、一気に振り下ろす。

 

『死ね!クレイン!』

 

 それこそがクレインの作戦だった。

 

 クレインは剣を逆手に持ち、下からヴァンガードの剣目掛けて全身全霊の力を込めて打ち上げた。

 

『なッ!?』

 

 それが功を奏し、ヴァンガードの剣は吹き飛び、素手のみの状態になる。

 

『クソ……!だがまだだ……!』

 

 剣を奪われ、武器を持たないヴァンガードは反撃を諦めず、拳のみで立ち向かう。

 

『まだやるか!』

 

 クレインは剣を使わず、左手でヴァンガードの顔面を殴る。殴り飛ばされた衝撃で再び崖に追い詰められたヴァンガード。しかし、それでも彼は立ち上がり、クレインを殺さんと闘志を燃やし続ける。

 

 クレインは剣を納め、ヴァンガードに近づくと素手でヴァンガードを殴った。剣から拳への戦いと変わったが、既に息も絶え絶えのヴァンガードは一方的に殴られ続け、遂には膝を着いた。

 

『何故、そうまでして立ち上がる。何故その心を善き方向へ向けられないんだ?我々には力を持つ者の責任、正義、規範がある。忘れたのか?』

 

 クレインが説得するように力強く言う。しかしクレインの言葉に対してヴァンガードは鼻で笑い、小馬鹿にするような態度を取る。

 

『そんなものはクソくらえだ。力があるなら好きに使うのが俺の責任、正義、規範だ。殺すなら早くしろ。お前が俺を殺せば、俺の理想は実現される』

 

 ヴァンガードは両膝を着き、自分の命をクレインに任せ、天を仰ぎ見る。しかし、空の模様は暗黒そのものだった。

 

『お前の望み通りになどさせてやるものか。お前など、殺す値打ちもない』

『なんだと……!?』

 

 ヴァンガードは『戻ってこい!この腰抜けが!』とクレインに罵声を浴びせる。しかしクレインは止まらない。二人の戦士は完全に袂を分けた。そしてもう二度と会うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに、注文した分が納品されておりますね」

 

 眼鏡の男がニコニコしながら言った。

 

 俺達は今、昼時にまたあの建設途中の建物の中で取引をしていた。品質の確認のため、奴等のマスコットキャラクター(おっさん)のヤクチュウがポーションを舐めていた。

 

「どうだいヤクチュウ。いつも通りの味かな?」

「ふわあ!絨毯の上に浮かぶ肝臓がフラフープしてる!」

「ほうほう。品質は保たれているみたいだね!よかったよかった」

「お前やっぱ適当に聞いてるだろ」

 

 この眼鏡の男は本当にヤクチュウに言っている事を理解しているのだろうか。いや、クスリ漬けのおっさんの言う事なんか理解できる奴なんていないだろうけどな。

 

「ふむ。ところで、そちらの彼は?」

 

 眼鏡の男は俺の後ろにいる新人が気になったのか、首を傾げながら尋ねた。

 

「ああ、コイツは最近雇った用心棒だ。何かあった時のためのとっておきだ。なぁ、用心棒?」

「俺の特技は腰にぶら下げた剣を光らせることだ、よろしく」

「それは素晴らしい。私の知り合いにも陰部を光らせる事ができる人がいますよ。今度紹介しましょうか?」

「いや、結構」

 

 アルカンカスは首を横に振り、断った。

 

 自己紹介の仕方が変態みたいだったが、なぜあんな紹介の仕方をしたんだろうか。言葉通りに受け取られたら変質者に間違われてもおかしくないぞ。

 

「それでは報酬をお支払いしましょう。君、彼等の元に持ってきなさい」

 

 眼鏡は手下の荒くれ者に若干偉そうに命令する。見た目はインテリ気質のイケ好かない野郎なのに、嫌な顔一つせず真顔で重い金貨が入った袋を五つ持ってきた。

 

「…オイオイ、袋が一つ多いぞ?この新人の分か?」

「ええ勿論。我々はこの事業に関わる全ての人間に正当な報酬をお支払いすることをモットーにしておりますから」

「相変わらず太っ腹だな。まぁ貰える物は貰う主義だ。ありがたく受け取らせてもらうぜ」

「是非そうしてください」

 

 眼鏡の男はニコニコしながらそう言った。

 

「それで、ウィードにはいつ会えるんだ?」

 

 俺がそう言った瞬間、空気が一気にヒリついた。まるで俺がタブーを犯したように、眼鏡の男もその部下達も目つきが鋭くなった。

 

「……名前は出すな。と言ったはずですが」

 

 眼鏡の男の部下達がこちらを睨んでいる。不必要な事を喋ればいつでもお前らなんざぶち殺せる、とでも言っているのような目だった。

 

 余程慎重に行きたいんだろう。名前すら出すことを許さないとは、大した徹底振りだ。

 

「ああ、悪いな。でも、この世界は信用が命だろ?俺達はバレたら即お縄後打ち首コースが待ってんだ。こっちだってお前らを信用したいんだよ。それができないんだったら……」

 

 俺が含みを持たせた言い方をすると、眼鏡の男は少し慌てた様子で「落ち着いてください」と俺を宥めるように言った。

 

「成程、そちらの言い分も分かります。ではこうしましょう。私が雇用主に貴方達が会いたがっていると伝えておきます。恐らく我が雇用主は良い方に返事をするでしょう。接触は近いうちに計画を立てておきます」

 

「ふぅん、そうか。なら良いぜ。それじゃあ今日はこれでお開きにするか」

「そうですね。ニーニルハインツギルドに目を付けられるわけにもいきませんから」

「さすがにお前らでも奴等は怖いか?」

 

 俺は冗談交じりに眼鏡の男にからかうように言った。

 

「ええ。彼等を完全に皆殺しにするには、こちらも相当本腰を入れねばなりませんからね、面倒事は避けたいものです」

「…そうかい。俺も奴等とは事を構えた過去があるが、お前らが思ってるほど簡単にくたばる奴等じゃねぇぞ」

 

 俺はそれだけ言うと「じゃあな」とだけ言ってその場を去る。

 

「ケビンさん!」

 

 だがその前に眼鏡の男が俺の偽名を読んだ。俺は振り返ると、眼鏡の男はいつものようにニコニコと張り付いたような愛想笑いを浮かべながら

 

「お身体には気を付けて」

 

 と俺を労わる言葉だけをかけた。俺は奴の言っている意味が分からず、「ああどうも」とだけ事得ると今度こそ建物から離れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一億!一億!一億!」

 

 俺はテーブルの上ぬ隊ながら腰をくねくね動かしながら喜びの舞を踊っていた。

 

「おいサビター!汚いからテーブルの上で腰をヘコヘコ動かすな!」

 

 俺が踊っていると怒ったライラが金貨を投げつけた。俺はその金貨を歯で受け止めると

 

「チップありがとぉ~ん♡」

 

 と更にくねくね身体を湯動かして言った。

 

「きもォ!?」

 

 ライラは全身の血の気が引いたような真っ青な顔で俺から離れて行った。アイツのマジで引いている顔を見たのは初めてだな、良いモノが見れた、と俺は思った。

 

「おいお前ら、今日暇だろ?大金が入ったんだ、飲みに行くぞ飲み!」

 

 俺がハイテンションでくねくねしながら言う。するとアリーシアが微妙な顔を見せた。

 

「私は…うぅん……」

「は?なんだよ?まさかお前酒飲めないのか?」

「いえ、そういうわけじゃないんですが……」

「なら遠慮すんな!あ、もしかして金の心配か!?そんなことは俺に任せろ!全員俺の奢りだ奢り!」

 

 俺が奢りと言う言葉を口にすると、ライラやタマリがぴくりと反応を示す。

 

「サビターがおかね出してくれるの?」

 

 タマリが目を輝かせ、俺に聞いてきた。

 

「だからそう言ってんだろ?俺がどんな喰いモンも飲みモンも全部払ってやる。でもお前まだガキだからジュースな」

「もうぼくはおとなだよ。むずかしい魔導書も読めるし、おとなかおまけの魔法の研究だってやってるんだよ?」

「お前何歳だ?」

「10歳」

「ガキじゃん」

「ガキじゃない、おとな」

「うちにはもう見た目クソガキ、中身成人の詐欺ガキがいる。二人目はいらねぇのさ」

「それは誰の事を言っておるのだ?」

 

 俺がチラリとライラを見て言うと、眉が吊り上がったマジギレライラが俺の目と鼻の先まで肉薄していた。

 

「自覚がないのが更に残念な奴だ」

 

 俺はやれやれとため息を吐きながらテーブルから降りた。だがライラはまだ俺のすぐ傍にいる。コイツ、一度噛みついたら中々離れない毒蛇みたいな奴だな、鬱陶しい。

 

「俺も参加してもいいか?」

 

 いい加減俺に引っ付いてしつこい蛇女ことライラを引き剥がそうとしていると、アルカンカスが間に入ってきた。

 

「全員で行くんだ、当然だろ。なんだお前まだ遠慮してんのか?」

「まぁそれもある」

「アリーシアと同じような言い方しやがって、さっさと答えろってんだ」

「…最後に誰かと飲み食いをしたのは数十年も前でな、その、なんというか、久しぶりなんだ」

 

 ……なんともまぁ、切ない理由だった。コイツは何か理由があってずっと一人で過ごしてきたのだろう。だからこういう時は敢えてそれ以上は何も聞かない。

 

 だって、これから俺達は飲みに行くんだ。そんな時に気まずい雰囲気になったら行く気が失せるだろう?

 

「そんじゃ全員参加決定だ!これは決定事項だ!誰にも文句は言わせねぇ!」

「ふぉう!その意気じゃ!今日は飲んで食って食って食うぞ!」

「食う方に偏ってるじゃねぇか」

 

 俺がライラにそう指摘すると「よく食べる女は美しいんじゃ」と訳の分からん事を言った。

 

「ふんだ、こうなったらサビターが破産するまでジュース飲み尽くしちゃおうかな」

 

 今度はタマリが頬を膨らませて拗ねた様子で俺に言った。酒を飲めない事がそんなに許せないようなことだったのか、腕を組んでぷんすかぷんすか怒っていた。

 

「オイオイ、この俺を誰だと思ってるんだ?破産するまで酒と女とギャンブルに溺れて借金を何度も踏み倒したサビター様だぞ?お前みたいなちんちくりんが俺をどうにかできると思ってるとしたらそりゃ大きな間違いだぜ!」

 

「堂々と言うべき事じゃないですよねそれ」

「じんせいのらくごしゃ」

「人間の恥晒し」

 

 アリーシアは困り眉になりながら俺の言葉に突っ込む。そしてタマリやライラまでもが俺を罵倒する。しかし、そんな事で卑屈になる俺ではない。

 

 さらに、アリーシアもこんな冷たく突き放すように言っているが、ここまできて飲みに行かないとは一言も言っていない。コイツもコイツでこの関係を気に入っているのだ。

 

「そうと決まればいざ行かん!酒が飲める安息の地へ!」

 

「酒場ですね」

 

 アリーシアがまたしても俺の言葉を訂正する。だが俺はもう止まらない。何故なら飲みに行くのだから。がははははははははは!

 

 

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