(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第43話 本当は私お酒大好きなんです

 

 クレインとヴァンガードという二人の男がいた。

 

 その二人は弱き者を守るという使命を持つ戦闘集団、ゲンジの中でも屈指の実力を誇り、二人のどちらかが次代の頭領になると言われていた。

 

 クレインは理想を、ヴァンガードは力を求めて相反する思想を持ち合わせてはいたが、二人は堅き絆で結ばれた親友同士であり、それと同時に二人は部下から多くの支持を集めていた。

 

 しかしヴァンガードはある日、彼を支持するゲンジの戦士達を引き連れて脱走した。

 

 弱き者を守るのではなくそれらを支配し飼い慣らそうという思想を抱き、力に溺れたのだ。

 

 ゲンジの先代は悪に染まったヴァンガードの始末をつけるべくクレインを頭領にし、追跡と闘争は長きに渡った。

 

 そして遂にクレインはヴァンガードの拠点に辿り着き、ヴァンガードは決着をつけるべく、全戦力を投入した。

 

 クレインとヴァンガード以外のゲンジの戦士達はほぼ死滅し、残った二人は溶岩と雷が鳴り響く絶界にて壮絶な殺し合いを続けた。

 

 二人はお互いを刺し違え、崩壊する地盤に巻き込まれ、溶岩の中へと溶けていった。

 

 そして頭領を失ったゲンジは自然消滅し、かつて古くから存在し、どの国や権力にも所属しない自由の剣を振るう騎士達はおとぎ話や歴史の一部として語られることになった。

 

 今もクレインとヴァンガードの遺体、そして彼等が愛用していたライトブレードは未だに見つかっていない。

 

 彼等のライトブレードはゲンジの武器職人の特殊な技術によって製造され、破壊することは出来ない。今も彼等の剣は溶岩の中で眠っているのだろう。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

「ま、これが俺達の事の顛末ってわけだよ」

 

 アルカンカスは樽の器に入ったオレンジ色の液体と白い泡が乗ったビアを口と喉に流し込みながら俺達にゲンジの末路を語った。

 

 俺達は酒場に来ていた。名前はアスホーの酒場と言って、色んなギルド連中がクエスト依頼の終わりに立ち寄る場所だ。

 

 この酒場はギルドハウス内で営業しており、傭兵共が受付の姉ちゃんから金を貰って即酒と食事に使うのが日常だ。アスホーは常に活気に満ちており、笑い声と怒号、酒と料理の匂いで満たされている。

 

「つまり内輪揉めだろ。マヌケにも程があるな」

 

 俺はピージャの骨付き肉に齧りつきながら言う。

 

「歴史ある騎士達の組織も瓦解する時は一瞬じゃな。ワシ等もそうならないようにせねばのう」

「俺達はそんな心配する必要ねぇだろ。仲良しなんだからよ」

「自己中なリーダーだとすぐに崩壊するらしいですよ」

「ハッ、そりゃ仲間の意見を汲まない奴が悪い。その点俺は全く心配ご無用だな」

 

 俺がそう言うと皆俺の顔を真顔で何も言わず見つめる。

 

「……?なんだ?肉が食いたいなら店員に言えよ。コイツはやんねーぞ」

「自覚ナシか。こりゃこう手遅れじゃなぁ……」

「そうですね……」

「じゅうしょうだー」

 

 どういう意味か理解できていない俺をよそに、ライラとアリーシアとタマリがひそひそと耳打ちし合って俺をチラチラ見ながら会話に興じていた。

 

「そういえば、お前のその剣黄色に光ってたよな」

 

 俺はライラ達のヒソヒソ話を気にせず、アルカンカスに質問をする。

 

 アルカンカスは懐にしまっていたライトブレードをテーブルに置く。

 

 改めて見ると、そのライトブレードの柄はかなり使い込まれているような劣化の仕方だった。しかし丁寧に補修されていた後もあった。

 

「…あぁ、そうだな」

 

 アルカンカスは一瞬沈黙した後、答えた。まるで痛い所を突かれて答えるのをためらっていたような回答の仕方だった。

 

「俺は昔、お前らのボスと会ったことがある。他の下っ端の奴等の剣は青い剣を使っていた。だが奴らのボスの剣は黄色に光っていた。お前の持ってるソレと同じ色にな」

「……」

 

 俺の言葉に、ひそひそ話をして盛り上がっていたアホ共がこちらの話を真剣に興味を持ち始めた。

 

「それじゃあお主まさか……クレインとやらか?」

「クレインって、さっきお話に出てた人ですよね?」

「でも、しんだって言ってなかった?」

 

 話を理解し始めたライラ達の言葉に、アルカンカスは作り笑いで微笑む。

 

「俺達をとんでもねぇアホだと思ってんならソイツはちょっと間違いだぜ。そこまで察しが悪いわけじゃねぇ」

「……」

 

 アルカンカスは沈黙を貫いていたが、「ふう」と息を漏らすと、俺達に顔を向き直した。

 

「俺はクレインじゃない。それは本当だ」

「じゃあお前は誰なんだよ」

「俺は…アイツの友達だった。ヴァンガードと戦っていると聞いて、俺は助けに向かったんだ。でも残っていたのは……アイツのライトブレードだけだった。そこで俺は理解した。二人共相打ちで死んだんだってな」

「それでは、ジンジャーラテを作ってくれた親友というのは……」

「ああ」

「そんな……」

 

 アリーシアは口に手を当てて衝撃を受ける。

 

「つまりその剣は親友の形見ってワケか」

「そんなところだ。未だ上手く使いこなせてないがな」

 

 アルカンカスはそう言ってライトブレードを手に取る。奴の目は何を考えているか分からない目をしていた。諦め、後悔、悲しみ、怒り、そんな負の感情がごちゃ混ぜになったようなそんな目だった。

 

「オイ、アリーシア。お前それ酒か?」

 

 俺は空気が悪くなってきたと感じ、話題転換のためアリーシアのジョッキを見ながら言った。タマリと同じ黄色の飲み物を飲んでいる。

 

「いえ、アッポージュースです」

「いやお前、せっかく酒場に来たんだから酒盛りしろよ」

「いえ、結構ですよ」

「いいからいいから」

「いやだから結構で──」

「いいからいいから」

「しつこッ!?しつこいんですがこの男!?」

 

 俺は追加でビアを頼み、アリーシアに半ば無理やり飲ませようとする。

 

「テメェ!せっかく来たんだから飲んでけよ!飲んではっちゃけてエロいイベント起こせ!」

「やめて!やめてください!」

「今すぐやめるんじゃこのアルハラセクハラクソ野郎が!」

 

 ライラはそうがなるなり俺の頭にビアが中程度まで残ったジョッキを俺の頭に叩きつけた。

 

「ギャアッ!」

 

 俺は頭からビアと血を垂れ流し、床に倒れた。

 

 一瞬酒場にいる客達が注目するが、

 

「なんだなんだ」

「おい大丈夫かァ~?」

「あっコイツサビターだぞ」

「なんだサビターか」

「サビターならいいか」

「コイツまだジョニーに殺されてなかったのか」

「頼むから早く死んでくれ」

 

 各々が俺に注目するが、直ぐに元の席に戻り、仲間と談笑しながら酒と飯に食らいついた。

 

 酒場にいるのは傭兵達ばかりで当然血の気が多く、喧嘩は日常茶飯事だ。死人もよく出る。だから特に騒がれない。そして俺の評判は最悪だ。俺が死に瀕しても誰も気にしない。まぁ死なないんだがな。

 

「アリーシア、お主は酒が嫌いなのか?」

 

 ライラは俺を殺しかけたというのに微塵も気にした素振りを見せなかった。コイツは段々俺に対して辺りが酷くなっている気がする。いくら死なないとはいえ流石に残虐が過ぎるのではないか?ま、アリーシアにもそれは言えるが。

 

「いえお酒は飲めますよ」

「む?ああ、ジュースの方が好きとかかのう?」

「いえ、お酒の方が全然好きですが。本当は飲みたいですよ」

「ほう……」

 

 アリーシアはケロッとした表情でライラに語る。

 

 俺は頭から酒と血を垂れ流しながら立ち上がる。俺はライラと目が合い、意志疎通を図る。

 

 俺の意思が通じたのか、ライラはコクリと首を縦に動かしながら同意する。

 

 俺はアリーシアの両腕を拘束し、身動きを取れないようにする。

 

「は?えっ!?何をするんですか!?」

「一緒に飲んで酔っ払おうぞ~!」

「お前も飲んで日頃の鬱憤とゲロと胃液を吐き出そうぜ~!」

「いやお酒は美味しく飲むために飲むものでは!?」

 

 ライラがジョッキの中のビアをアリーシアの口へと運ぶ。

 

「ちょちょちょ、やめてください!私酒グセ酷いから飲みたくないんですよ!」

「ここにいる奴等全員そんなんばっかだよ!ほらお前もバカになろうぜ~」

「ほらここをくすぐられると口を開けるじゃろ!」

 

 ライラはアリーシアの脇の下けとワキワキと指を気色悪い動かし方をしながらくすぐる。

 

「…!んん……!あっ……!」

 

 アリーシアはライラに脇の下を指でくすぐられると、艶のある蠱惑的な声で喘ぐ。自分からこんなエロい声を出したことを恥じたのか、必死に口を噤みながら耐える。頬と耳は紅潮し、呼吸は荒くなる。

 

「「「おお……」」」

「何をしているんだ君達は……?」

 

 俺とライラとタマリが感嘆の吐息を漏らし、鼻の下を伸ばしながら彼女の羞恥プレイを鑑賞する。アルカンカスはそんな俺達を呆れた目で見ていた。先程までのお通夜ムードはウソのようだ。

 

「ワシの知り合いはここをくすぐられると気色の悪い声を出すことで有名なんじゃ!お主はどうかのう~?」

 

 そう言ってライラはアリーシアの乳の周りをなぞる。途端アリーシアの喘ぎ声は強くなった。

 

「あぁ……!」

 

 アリーシアは口を開け、快感とぞわぞわ感から逃げる為に声が漏れた。そしてライラはその隙を逃さなかった。

 

「今じゃあッ!」

 

 そう言ってライラはアリーシアの口に酒を注ぎ込む。

 

「いやあ~~~~~~!」

 

 アリーシアは絶叫しながら美味そうに酒を飲み込んだ。恍惚とした表情だ。

 

 そしてしまいには自分からジョッキを手に持ち始め、ゴクゴク飲み干した。

 

「……」

 

 アリーシアは樽のジョッキに入ったビアを飲んだ後、突然黙り込み、俯く。

 

 そして、

 

「そこの姉ちゃんこれおかわりィ!」

 

 敬語が完全に砕けた、いつもとは違う粗雑な言葉使いでアリーシアは酒のおかわりを店員の女に催促した。

 

「よっしゃあ!アリーシア!お前もガンガン飲んでこうぜェ!」

「飲むぞオラァ!」

「よいぞアリーシア!ノッて来たな!」

「なんだかよく分からんが楽しくなりそうだ」

 

 アリーシアも完全にその気になり、俺達はようやく本当の意味で酒を飲む準備が完了した。タマリだけアリーシアの豹変振りに恐れ慄き、身体をガタガタ震わせていた。

 

 そこから俺達は酒、メシ、そして酒のネタになる話で盛り上がった。誰が一番の酒飲みか勝負をしたり、それを頭から被ったり、肩を組んで歌を歌ったりした。

 

「おいサビター!お前ちょっと面白い事やれよ!」

 

 「ギャハハ!」と下品な笑い声で酒を煽りながら俺に無茶ぶりをする奴がいた。こんな奴知らないぞ。一体どんなアホ野郎なんだ。

 

「ア、アリ~……」

 

 タマリがアリーシアを涙目になりながら可哀想な物を見る目で見つめていた。

 

 うん、アリーシアだ。酷い有様だ。酒を少し摂取しただけでもヤバかったのに、今のアイツは脳も他の身体も完全に酔いが回って性格ほぼ真逆になっている。

 

 言葉は粗雑、よく笑う、メシは蛮族みたいに喰らう、バカみたいな量の酒を飲む、肌をさらけ出す。

 

 これでもまだ短くまとめた方だ。最後の項目は是非とももっとやってほしいところだが、正直言ってここまで酷いとは思わなかった。日頃の鬱憤が溜まっていたせいでもあるのだろう。

 

「なぁ、タマリ。コイツって酔っていた記憶覚えてるタイプか?」

「わ、分かんない。アリー、僕の前でお酒飲んだことなかったから」

 

 タマリはアポージュースをちびちび飲み、フライドポテイトーを食べながら言う。

 

 なるほどな、アリーシアは飲むとこうなることが分かってるから今まで酒を我慢していたんだ。本当は大好きなのに外聞や外面を気にして……なら俺がやることは一つだ。

 

「分かったぜアリーシア。面白い事、やってやるよ」

 

 俺はそう言って肩口の衣を掴む。そして、俺はそれを思いきり脱ぎ捨てた。

 

「えっ?」

 

 アリーシアは俺の行動に目を丸くする。突然俺が服を脱いだからだ。脱いだのは上だけじゃない、下もだ。パンツすら脱ぎ捨てた。今の俺は生まれたままの姿を露出していた。

 

 しかし、少し違うところがあるとすれば、俺の息子、ジュニア、陰部をBBで隠している所だな。

 

「今からァ!俺のこのBBで俺のチ●コを隠して踊るぜ!お前ら見てろよォ!」

 

 俺は覚悟を決めて声を張る。俺のあられもない姿にアリーシアだけでなく、ライラ、タマリ、アルカンカスも口を開けて俺を見、他の冒険者ギルドの傭兵連中もこぞって俺を見た。

 

「またサビターかよ!誰かアイツ止めろ!俺はアイツのドラゴンなんざ見たくねぇぜ!」

「ドラゴンンン?蛇の間違いだろ」

「ここには女子供も来てるんだぞ!?今すぐその親指ぶら下げんのやめろや!」

「怖いモンなしかよあの野郎」

 

 外野連中が何か言っているのが聞こえるが今の俺にはそんな事どうでもいい。今は俺の芸に集中するんだ。

 

「行くぜェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

 

 俺は雄叫びを上げ、身体を反って捻って踊り出す。BBを巧みに使いこなし、正面から俺の息子が見られないようにした。特訓の成果のお陰か、俺の息子はBBの枠からはみ出ない。ギリギリ隠せている。

 

「ヒ……」

 

 アリーシアは言葉を詰まらせ、押し黙る。そして

 

「ヒーッヒッヒッヒッヒッハッハッハッハッ!」

 

 大爆笑した。笑い過ぎて涙を流してさえいた。

 

「ギャヒギャヒギャヒ!」

 

 腹を抱えて俺に人差し指を向けてアホ面で笑う。それに釣られてライラとタマリも笑い出した。

 

「ギャハハハハハ!アリーシア!な、なんじゃその笑い声は!?マヌケ過ぎるぞ!」

「さ、さすがにわらいをこらえられない」

 

 アリーシアが俺を笑い、そのアリーシアの笑っている姿を見てライラとタマリが大笑いしている。そしてその他大勢の傭兵共はヤジと罵声を浴びせていた。

 

「ち●ち●、ち●ち●ブラブラ!ハハハハハハハハハハ!」

 

「笑い過ぎだろ……」

 

 自分でやってなんだがここまで爆笑されると逆に引くな。周りは罵声と嘲笑しか向けてこないのに。

 

「つまんねーんだよ!お前の芸!さっさとやめろ!」

「いい加減パンツ履けっつってんだろ!」

 

 冒険者ギルドの天誅の一人が俺にジョッキを投げつけた。またしてもそれは俺の頭に当たり、俺は血を流す。

 

「今俺にジョッキぶつけた奴誰だ!?そんなに面白いの見てぇなら見せてやるよオラァ!」

 

 俺は完全に頭に血が上り、他の客席の中へと突進して股間を見せつけた。「これこそが俺の銃だ!キスをしろ!」と言って俺のブツを近づけた。

 

「テメェイカれてんのか!?近づくんじゃねぇよ!」

「イカれてねぇと傭兵なんかやんねぇだろうがボケが!」

 

 最初はヤジと罵倒だった。だが俺がハゲの傭兵野郎を殴り、その返しとして殴ろうとした拳が他の客に当たり、それがドミノ倒しのように連鎖し始める。

 

 そのせいでアスホーの酒場は最終的には客同士の乱闘騒ぎになり、酒場はより賑やかになった。

 

 罵詈雑言と血、そしてアルコールの匂いと油の匂いが酒場を包み始めた。

 

 

 

 

 

 

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