ビリオネは純白の丈の長いドレスを着て、緑色の髪を下ろした姿で俺達を迎えた。態度がキズだが、見た目はいいとこのお嬢様そのものだった。
「おお、ビリオネ嬢だ……!」
「あのヴァリエールの美少女オーナー兼店長……!」
「ちっちゃくてかわいいよね」
「美しい……!」
「ロリコンホイホイ」
ビリオネが現れた途端取り巻き達が彼女を見るなり一斉に褒め称えた。確かに着飾った姿は美術彫刻のような美しさである事は否定はできない。
「あらあら、もしかして私に見惚れましたの?残念ですが貴方みたいな下品な人とはお付き合いしないのが私の信条ですの。ですから申し訳ありません、貴方のお気持ちには応えられませんわ」
このクソガキがァ……!黙って聞いてりゃ勝手に俺が惚れて断られたみたいに言いやがって……!コイツは調子に乗らせておくと良いことが無い。ここは一丁ガツンと言ってやるか。
「えぇっ?なんで俺がお前みたいな未成熟なおたまじゃくしなんかに欲情しないといけないんですカァ〜〜?」
俺は白目を剥きながら顎を限界まで伸ばし、鼻の穴を大きくさせて変顔をしながら言った。俺の顔を見たライラ達はギョッとした表情で俺を見た。
「なんですって?わ、私が未成熟……!?てか顔キモ!」
俺の言葉にビリオネはたじろいだ。良い顔だ、もっと見せてもらおうか。
俺はアリーシアをチラリと見ると、彼女の腰に手を回し、ぐいっと彼女を俺の元に引き寄せた。
「紹介するよ。コイツは俺の女、アリーシアだ」
「違いますけど?」
「コイツは面と胸とケツが育ちに育った超良い女だ」
「それは合ってます」
「コイツは俺にメロメロでな、コイツから俺の女になりたいって言って来たんだ。いや〜モテる男は大変だぜ」
「違いますけど?」
アリーシアは俺の言葉の都合の良い部分を肯定し、そうじゃない部分は即座に真顔で俺の言葉を否定しながらするりと俺から離れていく。
「た、確かにアイツの女も中々上玉だな……」
「まるで女神だ……!」
「おっぱいデカすぎだろ!」
「ケツもな」
「鎖骨、綺麗だよね」
もはや顰蹙あるパーティーからただのセクハラパーティーへと変化していたが、果たしてビリオネの反応はというと、
「あ、ああ……」
客達が自分への興味からアリーシアに移り、ビリオネは顔面蒼白になりながら自分の胸と尻を触り、さらに絶望的な表情となる。効果はテキメンだったようだな。ザマーミロ!そして泣け!俺を馬鹿にしたことを後悔しろ!ギャハハ!
「わ、私も時間さえ経てば立派な立派な……立派リッパリッパリッパリッパパッパッパッパパパパパパパ……!」
「お?」
ビリオネは白目を剥きながら痙攣していた。やばい、やり過ぎた。このままでは俺が原因であの女を壊してしまう。
このままではダメだ、どうにか方向修正しなければいけない。
パーティーにいきなりやって来て主催者の娘の身体的コンプレックスを揶揄して帰っちまったら俺はもはや人間性が欠如した獣だろ。
「あ、あー、だかしかァしッ!俺はデカければ良いという考えこそが至高とは思わない!」
俺はホール中に響くように腹から声を出す。「なんなんだアイツうるせぇな」といった声が聞こえる。
「胸が小さくても良いじゃねぇか。ケツが小さくても良いじゃねぇか。小さいものを愛でるのこともまた、人間の許された性癖の一つ、俺はそう思うんだ」
「お主さっきから何を言っておるんじゃ?」
ライラが俺を音の出るゴミを見るような目で見ながら俺に向けて言って来た。
ライラ、お前は黙ってろ。今俺は大事な話をしているんだ。
「貧乳もイカッ腹も良いだろう!ちっちゃくて可愛い巨乳やデカケツにはない儚さを持っている。お前らもそう思うよなァッ!?」
俺は周りの客に呼びかけた。最初は困惑していたのがほとんどだったが、一人の男が
「ああ。小さい女の子は最高だ……」
小さい声で呟くと、今度はもっと大きい声で、
「小さい女の子は最高だ!」
「そうだ!ビリオネ嬢は可愛い!」
「成長期なんだから小さくて当然だ!」
俺の声に賛同した男が一人、そしてまた一人声を上げた。
「えっ、いや、あの別にそこまで声高に言わなくても良いのですけれど……」
「ロリコンで良いじゃねぇか!胸張って生きろよ!」
俺がロリコンに向けて言うと、会場内にいるロリコン達が「おおっ!!」と声を上げた。
「あ、あの恥ずかしいからやめ……」
「貧乳!可愛い!貧乳!可愛い!」
無事にフロアは熱く盛り上がり、誰もビリオネをバカにする者はいなくなった。これで万事解決だ。
「ふう、とりあえずこれでなんとかなったな」
「余計混乱しとるわ」
俺は一人の少女を救った。身体的コンプレックスは誰にでもある。ライラにも、アリーシアにも、タマリにも、アルカンカスにも。もちろん俺だってそうだ。
だからこそ、俺は声高に叫び続けなければならない。俺は性癖に優劣がないという、一つの答えを得た。俺はもう間違えない。新たなる決意を胸に、俺は更に給仕からシャンパンを貰おうとした。
「相変わらず変な事ばかり考えてるのね、サビター」
俺はシャンパンを口に含みながら後ろを振り向く。声の主は漆黒のドレスに身を包んだ青髪のベリーショートの女だった。アリーシアにも勝るとも劣らない美貌だ。さて、この女は一体……?
「久しぶり、サビター」
「ぶふぉ!?」
俺の後ろに居たのは、かつて俺が所属していたギルドの女幹部、『透視』のイアリスだった。俺は想定外の人物の登場にシャンパンを吹き出してしまった。
「えっ!?はっ!?なんで!?なんでお前がここにいんだよ!?」
なんでこんなところにコイツがいるんだよ!?まずい!コイツの二つ名は『透視』、名前の通りすべてを見透かす、心を読み取る能力の持ち主だ、今俺が考えていること、バレたらヤバイことが全部見られる!
「ん?バレたら困ることって何かしら?」
あっやべ。
「何がヤバイのかしら?貴方まだ何か悪い事企んでるの?」
……
「…?」
「……」
「サビター?」
「……」
……
「サビター!私に会う度にその涎と鼻水垂れ流したアホ面しながら思考停止する真似はやめなさい!」
「確かにそうだな。結構これ疲れるんだよ」
俺はイアリスの思考盗聴対策その一である脱力作戦は取りやめた。これを行うと俺は顔全体の筋力が一切なくなった腑抜けになってしまうのだ。だからこうしよう。
「それで教えなさいよ、貴方どんな悪い事考えてたの?」
「はんぺん」
「えっ?」
「かにみそ」
「はっ?」
魔法を使うと鼻の頭が痒くなり、鼻をかくと魔法の質が落ちる。だから魔法使いは常に鼻をムズムズさせている。
「何?何を言っているの?」
オスのピージャは交尾をする時絶叫しながらピストン運動をする。その時メスは絶頂する時オスよりも大きい声で絶叫をしてオスのピージャの耳を潰す。
「ちょ、やめなさい!やめて!私の耳と脳味噌にどうでもいいカスみたいな情報を垂れ流さないで!」
「じゃあ俺の頭の中を覗くな。能力はオフにしろ」
「分かった、分かったわよ……」
ふっ、俺の頭の中を覗こうとするからこうなるんだ。どれ、試しにコイツを馬鹿にしてみよう。盗み聞き性悪女!
「次そんな口聞いたら私の能力で貴方の精神を壊すわよ」
イアリスが苛ついた顔で俺に言う。コイツは精神攻撃を得意としている。外部ではなく内部を壊すことが出来るせいで肉体は不死身の俺にとってもジョニーの次にコイツは天敵なのだ。てかコイツまだ能力切ってなかったのかよ!
「ほら、もう貴方の心の声は聞こえないわ。良かったわね」
「そうか、じゃあもう一度試してみようかな」
「さっきの言葉もう忘れたの?あまり私を怒らせないほうが良いわよ?」
「よしわかった、もうこの話は無しにしよう。んで話を戻そう。お前なんでここにいるんだ?」
俺は本題に戻り、何故彼女がここにいるのかを問う。
「貴方と同じく招待状を貰っただけよ」
「そんなことは知ってるわ。お前ずるいぞ。俺の頭の中覗いて自分ははぐらかすなんてよ」
「…団長から口止めされてるのよ」
「は?そりゃまた一体どうして──」
何故唐突にジョニーの名前が出てきたのか気になった俺は理由を聞こうとした、その時だった。
「おいサビター!いい加減ワシ等を放置して会話するのはやめろ!退屈で死にそうじゃ!」
ライラがうんざりした様子で俺の脚に蹴りを入れた。
「うぎゃあ!?」
「サビター、たいへん。アリーがさけ飲みまくって他のきゃくにダルがらみしてる」
「は?」
タマリが俺のスーツの服を引っ張りながらそう言った。タマリの言われた方へ顔を向けると言われた通りアリーシアは右手にグラスを持ちながらほかの客の方に手を回しながら「お前も飲めよオラ!」と騒いでいた。
「アイツもう酔ってんの!?」
普段は俺のストッパーをしているアリーシアが今度は逆の立場になっていた。
「飲めっつってんだろ!殴るぞ!?」
「ヒィィ!この女顔はいいのにすぐ殴ろうとして来るとか怖すぎだろ!」
「あーあーあー最悪だよアイツダル絡みどころか暴力振るうぞ!さっさと止めねぇと!」
俺はイアリスとの会話を途中で中断し、アリーシアを止めに行った。