(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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サビター達がやっと出ます。前回までちょっとシリアスな雰囲気でしたが今回はそんなことはありません。何故ならアイツ等はアホなので。


第57話 え?俺が悪いの?

 

「……!?」

 

 俺は飛び上がるようにベッドから起きた。なんだか悪い夢を見ていたようで、俺はじっとりとした嫌な汗をかいていた。

 

 気が付けば朝で、外では窓から太陽の光が差し込み、小鳥の声がかすかに聞こえる。

 

「ライラ?」

 

 俺はアイツの名前を呼んだが、返答はない。家の中で俺の声が響くだけだ。

 

「……ライラはもう起きたのか」

 

 俺は辺りを確認したが、ベッドの上には俺一人しかいなかった。シーツの多少の乱れからライラが居た形跡はあった。おそらく先に起き、既に店に行って仕込みでもしているのだろう。

 

 俺はベッドから起き上がると、シャワーを浴び、いつもの一張羅である赤いシャツと黒の革ジャン、そして黒のズボン、黒のブーツを履く。

 

 そして適当なパンに蜂蜜を塗って食べた後歯を磨いて出発の準備を済ませた。

 

 家を出てみると、朝なのにもかかわらず町の人々は騒然としていた。穏やかな様子ではなく、忙しなく何か話している。

 

 俺は何事かと聞いてみたかったが、今はそれよりも昨日の事について考えたかった。ライラのあの突然の夜這い、そして…セアノサスの事についてだ。

 

 俺は今まで彼女の事を忘れていた。まるで今までそんな女など存在しなかったと思っていたほどだ。

 

 だが最初は朧気だったが、突然俺の頭の中で、俺とセアノサスの出会った経緯、過ごしてきた思い出、彼女との別れを俺は思い出したのだ。

 

 何故唐突に記憶が蘇ったのか、彼女を思い出した原因、全てのきっかけはライラ、おそらく彼女に起因する。アイツと出会ってから俺は大切なことを思い出すようになっていた。

 

だから俺は確かめなければならない。聞かなければならない。そうでなければ俺は、アイツとまたバカをやることができない。

 

 そんなことを考えている内に、俺はスウィートディーラーに着いた。俺は扉の前に立ち、ドアノブを捻って扉を開ける。部屋は暗く、電気は付いていない。だが日の光が店に幾ばくか差し込み、店内が全く見えないわけではない。

 

 店の中にはアリーシア、タマリ、アルカンカスがいた。

 

「おっす、おはようさん。おい電気くらいつけろよ。陰気な店だと思われんだろ?」

 

 俺はそう言って挨拶がてら文句を言うが、俺の言葉に彼等は答えなかった。何かほの暗い雰囲気を感じる。

 

「サ、サビターさん……」

 

 アリーシアが声を震わせて俺に振り向く。その表情は不安げで悲壮感のある顔をしていた。タマリも同じような顔をしている。アルカンカスは…まぁいつもと同じ仏頂面だ。

 

「なんだ、お前らそんな暗い顔してよ、太陽に当たらないからそんな元気ねぇんだよ。外出て日の光浴びてこいよ。あと水も飲めよ」

「いや、私達植物じゃないんでそんなので元気になるわけないでしょ……?」

「ていうかライラはどこだ?アイツと話があんだよ」

 

 俺がライラの名前を出すと、アリーシアが気まずそうに俺に一枚の紙を渡してきた。それは封筒の中に元々あったようで、アリーシア達が既に封を切っていた。

 

「なんだよ?」

「とりあえず、読んでください」

 

 アリーシアは俺にそれだけ言って俺に手紙を押し付ける。俺は何事かと思い、ふざけた態度は一度やめて手紙を見る。

 

 全くどいつもこいつも辛気臭い顔しやがって、と俺は鼻で笑いながら手紙の上の文字に目を通す。

 

 "今までお世話になりました。誠に勝手ながらやめさせていただきます”

 

 手紙にはここを止めるといった内容がインクで記されてきた。下には手紙を書いた主ライラック・フォルストフの名前が載っていた。

 

「は?なんだこりゃ?」

「ラ、ライラさん…その手紙だけを残していなくなってしまったんです……」

「はぁっ!?」

 

 俺はアリーシアの言葉に大声を上げて驚いた。手紙の続きにはレシピと今までの給金は全て返上すると言った旨が書かれていたが、そんな事は今はどうでもいい。

 

「い、いやいやいやいや!なんでだよ!?全然そんな予兆なかっただろ!?お前適当こいてんじゃねぇぞコラ!?」

「私だって分かりませんよ!私に当たらないでください!」

 

 アリーシアは俺に向かってキレて詰め寄って来た。コイツも混乱しているからこそ取り乱してしまっているのだろう。俺は「悪い悪い」と言って彼女に宥めるように言って聞かせる。

 

「ししょー、ぜんぜんそんなそぶり見せなかったのにとつぜんこんなおきてがみのこして……ふしぎ」

「確かに、最後に会った昨日のパーティーではいつも通りだった。原因が分からん」

 

 タマリとアルカンカスも似たような事を言ってお互い見合って頷き合う。いずれにせよ彼女が辞める理由は分からなかった。だがその時アリーシアがハッとした表情になって俺を見た。

 

「まさか……」

「なんだ、お前何か当てがあるのか」

「遂にサビターさんの悪態に愛想を尽かせて出て行ったんじゃ……」

「んなわけねぇだろバカ言ってんじゃねぇよ牛チチ眼鏡」

「いや絶対アンタのせいだよ金髪クソ野郎」

 

 俺とアリーシアが喧嘩寸前までガンをつけて睨み合うとタマリとアルカンカスが俺達を引き剥がす。しかしこんなことをしても意味はない。俺は心頭滅却して心を落ち着かせる。

 

「そういえばサビター、昨日はライラと一緒に帰っていなかったか?」

 

 アルカンカスが思い出すように俺に確認するように聞いてきた。

 

「ああ見てたのか?アイツ、突然俺と一緒に帰りたいって言い出してよ。しかも俺の家まで入ってきたんだよ」

 

 俺がそう言うと、俺以外の一同は硬直した状態で俺を見た。

 

「えっ、あ、あの…それは一晩明かしたってこと……ですか?」

「まぁ、そーいうことになるな」

 

 俺の言葉にアリーシアは鼻息を荒くしながら俺にグイグイ近づいて目をカッと見開いて俺を見る。

 

「つ、遂にやったんですね!?遂にやり遂げたんですね!?」

「は?いや俺は……」

「もー!そんな照れなくても良いんですよ!私は分かってましたから。サビターさんを見る時のあの熱を帯びた瞳!赤く染まる頬!こちらまで聞こえてきそうな心臓の鼓動!聞かせてくださいよ!」

「聞かせろって何をだよ」

「初夜!」

「慎めよ少しはよ」

 

 アリーシアの頭がおかしくなってしまい俺は途方に暮れてタマリに顔を向けて救援のサインを送る。

 

 するとタマリは俺と目が合い、何を思ったか無表情のまま左手で輪っかを作り、そこに右の人差し指で入れたり抜いたりしてニヤッと俺を小馬鹿にした笑い方で、

 

「さびたー、ついにじょじに手を出したせいはんざいしゃだね」

 

 そう言ってクックックと笑って俺に言った。

 

「テメェこのクソガキがァ!大人をナメてんじゃねーぞ!?」

 

 俺はタマリに制裁を加えてやろうとしたが、アリーシアが俺を羽交締めにして俺からピロートークの内容を聞き出そうとして離さない。

 

「く、クソなんだコイツ!なんでこんなに力強いんだよ!?」

「良いじゃないですか〜私ずっと聞きたかったんですよ〜ライラさんって行為に及んでる時もあーいう変な言葉遣いのままなんですか?それとも標準語で甘えたりするんですか?聞かせてくださいよ!?」

「うるせぇぞこのスケベ女!仮にホントにやったとしてもお前なんかに言うわけねぇだろうが!」

 

 俺はキレながらアリーシアにそう言うと、アリーシアは俺の言葉を聞いて冷静さを取り戻し、俺を離す。

 

「え?致さなかったんですか?」

「ああ当然だろ。俺は……」

 

 俺はそこまで言いかけて話を止めた。俺はピタリと銅像みたいに動きを止めて口を開いたまま何か重大な過ちを犯したような錯覚に陥る。

 

「?サビターさん?どうしました?」

「ふふ、サビターまものとそっくり。アホみたいなかおしてる」

「それは同意する。あそこまで人はマヌケな顔になれるのだな」

 

 3人は思い思いの言葉を口にしていたが、俺の耳には全く入ってこなかった。何故なら俺は頭の中で思考を巡らせていたからだ。

 

 ライラは何故か辞表を出していた。俺達に顔も出さずに。辞めようとしていた様子は微塵もなかった。

 

 彼女はいつも通り店に来て錬金術で菓子を作り、偉そうにし、俺達とバカをやって店を閉めて帰る。そこに不穏な前触れはなく、ライラはライラであった。

 

 そう、昨日の昼までは。夜になってビリオネの誕生日パーティーへ行き、雑草と会話をしていた辺りから様子がおかしかった。何か悲しそうな、憂を帯びた顔をしていた。

 

 そしてアイツは何故か俺の家に来た。アリーシア(スケベ女)の言う通り、普段とは違う微熱を帯びた女の雰囲気があった。

 

 いつもの尊大な言葉遣いもなく、標準語で俺に甘えてきた。ライラは俺を夜の営みに誘って来たが、様子がおかしかったのと、セアノサスの事もあって俺はやんわりと断った。

 

 だってどう考えてもおかしかっただろ!?普段俺をコケにする発言ばかりするアイツが昨日はセックス(ああ結局言っちまったよ)寸前状態になってたんだぞ!俺をハニートラップにかけて馬鹿にすると思うだろ!?なぁオイ!

 

 しかしここで俺がお前らに何をほざいても変わらない。アイツは気丈に振る舞ってたが、結果今日このザマになっている。

 

「……」

 

 俺は硬直しながら額から汗をボタボタ流し、まるで滝のように流れるその姿を見てアリーシアが心配しながら俺を見ていた。

 

「あ、あのサビターさん?本当に大丈夫ですか?」

「だいだいだい大丈夫。なにもなななにも問題ラララライ」

「いや明らかに異常だ。まるで何か都合の悪いことに気づいたような顔をしている」

 

 アルカンカスが核心を突いた言葉を放った。俺は更に額だけでなく背中からも汗が出始めるのを自身の触覚で感じた。頼む、そのお喋りな口を塞いでくれ。

 

「そういえばサビターししょーと性行為はしてないって言ってたよね」

 

 アルカンカスの次はタマリがしゃしゃり出てきた。

 

 このクソガキィ!なんで普段鼻水垂れてそうなアホガキみたいな顔してこういう時だけ鋭いんだよ。もう俺は自分の過ちに気づいてるから俺をじりじりと追い詰めるような事はしないでくれ!

 

「サビターさん、貴方確かライラさんの誘いを断ったと言いましたよね?そして欠勤とこの辞表……」

 

 アリーシアが目を細めて推理するように呟く。

 

 口を塞げやメス豚がァ!どいつもこいつも俺をいたぶりやがって!楽しいか?俺を虐めて楽しいか!?

 

「サビターさん」

「さびた~」

「サビター」

 

 三人が俺を見つめる。俺は死刑宣告を受けたような気分になり彼等の顔を見ると、皆穏やかな顔をしていた。俺は果たして許されたのだろうか、俺は三人の微笑みを見て俺もまた微笑んだ。

 

「貴方のせいですね」

「さびた~が悪いんだ」

「流石に擁護できんな」

 

 笑顔でコイツ等は俺を罵倒しやがった。それだけでは飽き足らず、三人は俺を抱えて外に放り出した。俺は道端に倒れ、捨てられて子犬のような顔で見ると、もはや彼等は笑っていなかった。無表情でゴミを見るような目で見ている。

 

「行為を断った上でしらばっくれようなんて最低です。ライラさんを探し出して謝ってください」

「ししょーがいないとお店回せないよ。連れ戻すまで戻ってこないでね」

「ちゃんと謝ったら誠意くらいは伝わるさ。後は知らんがな」

 

 三人はそう言うと、入り口扉を閉めた。俺は立ち上がり、開けようとするが鍵が掛けられていた。

 

「なんだこれ、俺が悪いの?」

 

 俺はポロッと呟くと呆然とする。俺は天を仰ぎ見る。空は不気味なくらいカラッと晴れていて、散歩日和だ。

 

 まるで神が俺に『とっととライラを探して謝って帰ってもらって来い」とでも言っているようだと俺は思った。

 

 

 

 




今回もご覧いただきありがとうございます。最近は皆さんがくれた感想に返信出来ていませんが、ちゃんと見てますよ!皆さんの感想はめちゃくちゃありがたいのでどんどんください!なんでもいいですからね!
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