(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第6話 カス共、家を買う

「ひ……♡あっ…あっ……♡」

「もう二度とやるなよ」

 

 俺はクソガキに制裁を与えた後、ポーションを手にとって確かめていた。俺はスラっとした乳とケツがデカい女が好みだったのに奴のポーションは俺の性癖を捻じ曲げる直前まで作用していた。こうまでされれば彼女の錬金術の腕は確かだろう、と俺は認めざるを得なくなる。

 

「お前、師範は誰だ?ここまで腕が良いんだ、センセイならもっと凄いんだろう?」

「ハァ…ハァ……ワシの師匠の名は、サイラルクという、伝説の錬金術師じゃ」

 

 俺は顎に手を添えながらサイラルクという人物を頭の中で手繰り寄せようとしたが生憎その名は該当しなかった。

 

「サイラルク……悪いが聞いたことねぇな」

「まぁお主は錬金術そのものに関わりが無さそうじゃから仕方無いが、サイラルクは錬金術士の中でも錬金術"師"を名乗ることが許される程の実力者じゃった。今はもう引退して森の中の湖畔に家を建てて隠居しておるよ」

「へぇ」

 

 俺は手に持っていたポーションをテーブルに置き、右手をライラの眼前に差し出した。俺の行動にライラは疑問の表情を浮かべる。

 

「なんじゃ?」

「死ぬほどムカつくが、お前の腕は確かだ。そういうわけでこれからよろしく頼む。ほら、握手だ」

 

 俺がそう言うと、何故かライラは鼻をふんふん鳴らして自慢げに

 

「こちらこそ、よろしく頼むぞ」

 

 と互いに契約の証として握手をした。

 

 正式にパートナーとなった俺達は今日のところは解散し、各々の家に戻った。

 

 

 翌日。

 

 

 俺は重大な事を忘れていた。集合時刻と場所を指定するのを忘れていた。どうしよう。酒飲んでたしアイツのポーションのせいか知らんが変な所で記憶があやふやだ。アイツの家が何処に建ててあったか思い出せない。なんかこう、陰気な奴が住んだそうな雰囲気だったんだが……

 

「根暗が住んでそうな家から探すか……」

 

 俺は軽く身支度をし、ドアに手をかけ開ける。

 

「誰の家が陰気で根暗が住んでそうな家だって……?」

「ギャア!?」

 

 どういうわけか俺の家の玄関の前にライラが立っていた。

 

「おま、何でいるんだよ?」

「お主、昨日ワシにいつどこに集まるか言ってなかったじゃろ?仕方ないからワシ自ら赴いてやったわ」

 

 致し方なし、とでも言いたげな不満を帯びた表情で話すライラ。探す手間が省けたと俺はホッとする。俺はライラを家に招き、テーブルの前にある椅子に座らせた。背が小さいからか、椅子の高さと彼女の背の高さがアンマッチで、足が床につかなかった。

 

「それじゃあ、どこから始めようか」

「先ずは店となる建築物からじゃな。それがないと話が進まん」

 

 俺は「確かにそうだな」と言って納得する。そもそも菓子屋を隠れ蓑にしてドラッグを作るのだ。それを行う店舗がなければ何も始まらない。

 

「お前良さそうな物件知ってる?」

「いや分からん。いつもワシは素材採取のために常日頃から外に出てそれ以外は錬金術の研究ばかりしとるからこの街の事情には疎いんじゃ」

「あっそ……じゃあとりあえず不動産屋に行こうぜ。何か良い物件があるかもしれん」

「そうじゃの」

 

 俺とライラは不動産を探して回った。俺が住んでる家はウィルヒルの中でもトップクラスの痰壺のカスみたいな不動産屋だったため、立地も建造物も何から何まで安いが劣悪だった。

 

 だからどうせ店をやる家を買うならそれなりに良い物を買いたかった。まぁあまり高過ぎるのが良いというわけではないがな。

 

 と、いうわけで俺達はこの街一番の不動産屋に来た。金ならある。別にそこまで良い土地を求めていないのですぐに決まるだろうと俺は考えていた。

 

「いらっしゃいませ。どんな物件をお探しで?」

 

 店の名前はスタンリー不動産という会社だった。大々的に名前の文字が店の前に浮かび、中に入ると綺麗で清潔な店だった。広くて空気も快適、俺とライラは案内され、丸いテーブルに着いて椅子に座り、一人の店員が俺達の目の前に座った。眼鏡の男だった。顔に無数の皺があり、一目で40代以上のおっさんということがわかる。だが野郎の顔は特段興味がないのでこの男のことは眼鏡と呼ぶ事にする。

 

「ああ、実は……」

「出せ」

 

 俺が担当の店員と話そうとした時、それを遮ってライラは口を開いた。

 

「と、おっしゃいますと?」

「1番良い物件を出せと言っておるのじゃ!金ならあるぞ!」

「俺の金なんだが?」

 

 自分の金を払うでもないのにまるで自分が買いに来たとでも言いたげなふざけた態度に俺はピキつきながらも冷静さを欠かずに話を進める。

 

「実は店を開きたいんだ。菓子屋なんだが、どんなところでも良いんだ。店を開けるなら多少小さくても……」

「なぁにを言っとるんじゃ貴様は!金ならあるのだから国内の一等地でも取れば良いんじゃ!」

 

 またもや、この女はビタ一文払うつもりもないくせに口を出す。俺は適当に店になる建物を探したいだけなのに。なぜこうもコイツは事細かく、口うるさく言うのか。

 

「分かりました。お客様お二人の意見を取り入れて最適な物件をご用意いたしますので少々お待ちください」

 

 何を言うかと思えば不動産屋の店員はそれだけ言って事務室へと戻っていった。

 

「お前!金出してんのは俺なんだからつべこべ言ってんじゃねぇよ!黙ってろ!」

「なんじゃと!?ワシ達はぱぁとなぁじゃろ!?今までのように一緒に話し合って決めるべきじゃ!」

 

 俺がキレながら怒るとライラは頬をムクれさせて言う。

 

「話し合ってた要素あった?」

 

 コイツが一方的にしゃしゃり出てただけのような気がするんだが。そう考えると俺は途端に冷静になった。

 

「お客様、お待たせしました」

 

 俺達が互いを睨み合っていると、意外と早く店員の男は戻ってきた。左脇には紙の束を挟んだファイルを携えていた。

 

「お客様はお菓子屋さんを開店したいのですね」

「おいサビター、お菓子屋さんだって。眼鏡をかけたおじさんの口からお菓子屋さんだって!ぷふふ!」

「わかったわかった。お前の口にたくさんお菓子を詰めて黙らせてやるから待ってろよ」

「ごめんなさい」

 

 全く、笑う要素がどこにあったのか。眼鏡をかけた成人男性がお菓子屋さんだなんてファンシーな単語を言ったって良いではないか。俺は口元を手で押さえながら次に進むよう催促する。

 

「私共が保有している物件ですと現在5件ほどあります」

 

 俺とライラが小馬鹿にしたのに男は全く動揺していない……コイツプロだな。もしくはただの無表情のつまらないおっさんか。ちなみに俺はまだ35歳だからまだおじさんじゃない。俺はおじさんじゃない。

 

「こちらになります」

 

 眼鏡は俺とライラに複数枚の資料を渡してきた。資料の中には物件の写真と詳細な情報が入っている。俺とライラはそれぞれ紙を手に取って見る。

 

 どれも国内のど真ん中に拠点を構える物件ばかりだ。しかも立派な建物で2人でやるには大き過ぎる程だ。何かしら商売を始める者なら喉から手が出る程欲しいはずなのに5件も空いてるのは不思議なもんだ、と俺は思いながら見ていた。

 

「別に俺はどこでも良いんだけどなぁ」

 

 パラパラページを捲りながら言う俺に対して、ライラは真剣に見ていた。何故ここまでこの女は物件探しに真摯に向き合っているのか。しかも人の金なのに。

 

「やっぱりどこでもいんじゃねーの?」

「バカ者、場所は慎重に選ばんとならんじゃろうが!ワシらがこれからするのは商売じゃぞ!」

 

 俺たちがこれからするのは見つかるとヤバい商売なのだが、一応表の商売としてそう言われるとごもっともなので俺は「そのとーり」と適当に言う。ここは俺も真面目になるとしよう。

 

「なぁ、この物件の中で地下室はあるか?それも広い所」

 

 俺は地下室という条件を提示した。俺達が作るのは菓子ではなく違法ドラッグ。表立った所でそんな物を作っては怪しさ満点、お縄に着くのは刹那の瞬間だ。

 

「地下室ですか……そして広め……となるとこの3件は引いて2件のみでしょうか」

 

 眼鏡は俺達が持っていた物件の資料を回収した。そして差し出されたのは2つの物件。1つ目は人がたくさん入って来れるような大きい建物だった。しかも中も広く、集団で作業をするには充分な広さだった。パーティー会場に出来るほどには大きく広い空間だった。

 

 そして地下室もあったが、俺の求めていた広さとは少し違った。あまり広くない。単なる物置部屋として作られたのだろうか、もしくは地上の部屋に金をかけ過ぎて地下まで回せなかったのか、ともかく俺の求めている広さではなかった。

 

「そして2つ目です」

 

 最後の物件だ。写真を見てみると外の見た目はさっき見た物件とは違い、中はあまり広くない。10人程入ろうと思えば入れるが、それ以上入ろうとするとギチギチに詰められて狭くなりそうな空間だった。

 

「こちらは先程紹介した物件と比べると少々差異はございますが、地下室は広々とした場所となっております」

 

 眼鏡は地下室の写真を見せてきた。中はやはりさっきのとは違って広かった。地下への入り口の扉も錬金術士が使う釜も運べる程大きい。

 

「この物件はマッドギア製の監視カメラ、地下室へのアクセスも鋼鉄製の扉にキーカードを使用することにより開くことができます」

「ほお、マッドギアの技術が使われているのか」

「はい。さらに監視カメラには顔を識別するシステムが使われておりまして、怪しい人物が現れた場合には特定して通報することも可能です」

 

 俺は感心するように言う。マッドギアとは、俺たちの住むウィルヒル王国の隣にある国で、機械が専門の技術大国だ。ある日空から未知の技術と装備を回収しきれない程積んだ船が突如降ってきた事により、技術革新が起こり魔法を凌ぐ力を手に入れた国だ。

 

 手術により機械を身体に入れて改造する事で人知を超えた力を手に入れる事が出来るボーグメンと呼ばれる奴らもいるらしい。この物件もどういうわけかマッドギアの技術が使われている、というわけだ。

 

「現在この物件のみがマッドギアの技術の恩恵を受けています。お値段は多少張りますが、お客様はご予算がある方だと聞いて、特別に手配致しました。これから下見に行かれますか?」

「ああ、ぜひ頼む」

「えっ?ワシの意志は?」

 

 無い、と俺は口に出さずに言葉で出して椅子から立ち上がった。俺は最初は乗り気じゃなかったが、マッドギアという言葉を聞いて気が変わった。奴らとは20年前に戦争で戦った記憶がある。あの時も恐るべき機械文明の力で圧倒されていた。

 

 だがギルドの傭兵である俺達や、そして魔術士達や錬金術士達が一丸となって戦った事によって何世代も上の能力を持っていた国を停戦協定に持ち込む事ができた。アイツ等の武器を鹵獲して使った事もある。それ故に奴らの技術力の有用性や脅威を知っていた。だから俺もこの物件に興味を持った。

 

「いやぁそれにしてもお客様はお目が高い。この物件を選ぶとは、さぞかし見識のある方なのでしょうね」

「おっ?やっぱりそう思っちゃう?まぁこれでも俺元有名ギルドに所属してたからなぁ〜」

「なんと、傭兵様ですか!いやぁこの国に貢献していただき誠にありがとうございます。戦争は最近終結しましたが、この国の人々は敵国という見ているからか、機械嫌いが大半です。ですがお客様は先見の明があります!」

 

 俺達は下見のための建物に向かうまで世間話をしていた。おべっかを使っているのは明らかだったが煽てられて悪い気分ではなかった。

 

「調子の良い奴じゃな……」

「それはお前もだろうが。自分は違うとでも?」

「ワシは一流の錬金術士じゃからな。多少褒められた程度では動じないわ」

「流石偉大な錬金術師様。謙虚でございますね」

「そうじゃろう!?そうじゃろう!?」

「お前脳みそちゃんと入ってんの?」

 

 褒められて天狗になっていたライラの姿を俺は思い出す。俺がそれを咎めるかのようにいうとライラは

 

「さぁの」

 

 と人を煽るような変顔で知らんふりをした。コイツが乳もまともに育ってない貧相な見た目のガキで、さらに人をイラつかせる天才だからかだろうか、一緒にいる時は常に怒っている気がする。

 

「さぁ、着きました。ここが我が社が保有している物件になります」

 

 眼鏡は高らかに宣言するかのように言った。俺は例の物件を見やる。見た目は周りの家や店を比べると少々こじんまりとした土地だ。だが汚いわけでも古いわけでもない。ちょうどいい年月が経った建物と言った感じだ。外観も周辺の地域に馴染んでいる。

 

「まぁ、まぁ……悪くないのお」

「中にご案内いたします」

 

 最初は渋っていたくせに、いざ現場に来てみると気に入ったのか、ニマニマと気持ち悪いニヤけた面で中へと入って行った。こういう奴が1番ムカつくんだよな、と思いながら俺も入って行く。

 

 中は定期的に清掃されているのか、割と綺麗だった。元々店として建てられた物の名残なのだろう、奥にはキッチンがあった。錬金術じゃない方の物を焼き上げる釜やマッドギア製のオーブンもあった。

 

「ほぉ〜!いいのう!いいのう!よりどりみどりじゃ!」

 

 ライラの年相応のガキの喜びように俺は鼻で笑う。

 

「お前、料理なんて作れんのかよ」

「勿論じゃ!師匠の家に住み込みで働いていた時は常に作らされていた。特にスイーツが好きじゃったからな、名前も聞きたくないくらい作らされたもんじゃ」

「かわいそ」

 

 ライラのどうでもいい不幸話に俺は適当に相槌を打つと、眼鏡に地下室に案内された。地下室はキッチンの奥にある部屋にあった。物置部屋だったが、入ってすぐ横のキーボードパネルに眼鏡はパスワードを入力する。すると床がゴウンゴウンと機械的な動作のする音を鳴らしながら床が開いた。

 

 ライラはどう思ってるか知らんが、俺達の本命はこれだ。この地下室の構造次第で買うかどうか決める。

 

「こちらが地下室です」

 

 眼鏡が先行して案内する。俺達はそれに従って進むと、少し埃っぽく暗かったが、タッチパネル式の電気を点けると目の前には空間が広がっていた。表の一般的な家には似つかわしくないほど異様に広い地下室。ここを改造して麻薬精製室に作り替えれば、様々なニーズに合わせたポーションを作れる。これは決まりだ。

 

「完璧だ。ここを買う」

「左様でございますか!ではこちら契約のサインを……」

 

 眼鏡は買うと聞いた途端ニッコニコになりながらカバンの中をガサゴソと掻き分ける。

 

 俺は眼鏡から渡された契約書にサインをし、ここを正式に買い取った。金は後から払った。値段はなんと驚きの8000万グラッド。営業許可証やら何やら入って、8000万だ。

 

「はぁ……俺の金が……」

 

 俺はガックリと肩を落としながらため息を吐いた。俺達はとりあえず俺の家に帰っていた。ライラに帰るよう促したが当の本人は、

 

「せっかくの店を買っためでたい日に何もしないわけないといくまいよ」

 

 と酒とツマミを俺の家に持ち込んで馬鹿騒ぎしていた。

 

「お前、どう見てもガキだろ。酒なんか早いうちに飲むと脳味噌が小さくなってバカになるぞ」

 

 俺がそう言うとライラは一瞬黙り、そしてまた大口を開けて笑った。

 

「ワシはとっくに成人しておる。ちんまいのは見た目だけじゃ。それにちょっとやそっと飲んだくらいではお主みたいに頭がパーになどならんわ」

「お前ガキじゃねぇのかよ……あっ?今お前俺のことバカにした?」

「お、そこに気がつくとは。お主も人の話は少しは聞けるんじゃのう」

「俺は自分の悪口を言っている奴の声だけはよく聞こえるからな。ついでにソイツの悲鳴を聞くのが好きだ。実践してみるか?」

「すいませんでした」

 

 この物件は普通の家と違ってマッドギアのテクノロジーが詰め込まれているからこんなにバカ高い費用を支払うこととなった。まぁ現金で一括で払ったからローンとかは考えなくてもいい。

 

「完璧じゃ……これで思う存分人目を気にすることなく錬金術で発明出来る……!たまに錬金術をやってあると近隣の住民から苦情をもらって迷惑してたんじゃ!」

 

 ライラは拳を握りしめながら噛み締めるように言う。

 

「お前にはこれからじゃんじゃんポーションを作ってもらうからな。錬金術の研究じゃないことは理解しておけよ」

「ああ分かっておる。ちゃんと仕事はさせてもらうぞ」

 

 ライラからの言質を取って、俺はようやく安堵する。せっかく手に入れた俺の城だ。これから俺達は裏で王国を牛耳り、影の王となってやるのだ。ウワハ、ウワハハハハハハハハハハ!

 

「何を笑っておるのじゃ。気持ち悪い」

 

 ライラの罵倒の言葉が聞こえた気がしたが、俺は気にしない。気にしないぞ。

 

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