(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第60話 なんでそんな顔するんだよ

 

「お前なんで……」

「なんでここにいるか、ですか」

 

 セアノサスは俺の言葉に被せるように先に言う。俺は一瞬他人の空似かと思ったが、この声、成長しつつも面影のある見た目、間違いなく彼女だ。セアノサス・ブルーハートだ。

 

「答えは単純ですよ。私は彼、アルバアムの計画に協力しているからです」

「わけわかんねぇよどうなってんださっきから……!?」

 

 俺は混乱が混乱を呼び、思考と思考が絡み合って頭が痛くなってきた。俺はライラを探しに来た。だが街ではジョニー達が行方不明、しかもライラが居ると思った施設には深い中だった昔の仲間がいた。予想外の事態に俺は考えが纏まらない。

 

「せっかくの久しぶりの再会なのにそっけない反応ですね。少し傷つきました」

「サビターさん。久々に会った麗しい女性に対してその態度はないでしょう?もっと気の利いた言葉をかけてあげては?」

「ああもう、うるせぇな!俺はライラを探しに来たんだ!そしたらお前が突然現れて俺は今頭ン中こんがらがってんだよ!」

 

 俺がそう言うとセアノサスは「ああ」と納得したように呟く。

 

「ライラとは、このような姿をした少女のことですか?」

 

 セアノサスがそう言って掌の中にある何かのスイッチを押すと、白い煙が彼女を包んだ。煙はすぐに消え、現れたのは俺の知っているあの少女、桃色の短めの髪に低身長の幼女体型の変な言葉遣いで話すあのお馴染みの姿だった。

 

「えっ?はっ?ライラ……!?お前今どこから現れて……」

「やはり鈍感なままですね。私はライラではありませんよ」

 

 ライラはいつもの尊大な老人言葉ではなく、丁寧な言葉遣いで喋る。そしてその喋り方、表情、雰囲気はライラが出せるものではない。立ち振る舞いはさっき話していた女、セアノサスのものであった。

 

「錬金術はやはり素晴らしいですね。世界の常識から外れた発明を釜の中で生み出すことが出来る、まさに世界を手に入れるのに丁度良い力です」

 

 セアノサスはそう言って鼻で笑う。姿はライラのままだが、俺は腹の中で何か熱いものを感じた。この感情は……怒りだ。

 

「…どういうことかちゃんと説明しろよ」

 

 俺は、怒っていた。一度に色んな事が起こり過ぎてごちゃごちゃしているが、ライラ扮するセアノサスのあの態度が気に入らなかった。今のアイツは昔と何かが違う。

 

「お前、最後に会った時はそんな腐った目してなかっただろ。答えろ、何があった?」

「10年、あの時から10年経ったんですよ、サビターさん。人が変わるには十分な時間です」

「ああ、人が腐るには十分な時間だな。そして答えろって言ったのが聞こえなかったのか?」

 

 俺はB.B.をホルスターから抜き、ライラの姿をしているセアノサスに向ける。

 

「せっかちですね。短気な男性は持てないですよ」

「ライラ、セアノサス、どっちでもいいけどよ……答えろ。俺達を騙してたのか?」

 

 セアノサスは一拍置くと、「ふふ」と笑って見下すように俺を見る。

 

「最初から騙してましたよ。私はこの国を盗るために貴方の血がどうしても必要だったんです」

「血だと?」

「ええ。気づいていなかったのですか?今まで私が何回か貴方を痛めつけ、血を採取していたことを」

 

 俺はセアノサスにそう言われた。俺は今までの出来事を思い返してみると思い当たる節がいくつかあった。アイツは俺を何回か出血させていた。その時俺から血を盗み取っていたのか。しかし何のために?

 

「今見ている映像に貴方の血を基に作った【女神の毒牙】、よくできてるでしょう?どんなに無気力な人間でも、心穏やかな人間でも、憎悪や恐怖を増幅させ目の前の人間を殺すまで止まらない」

 

 セアノサスの説明にアルバアムは「素晴らしい!素晴らしい!」と称賛の声を掛ける。

 

「やっとあの窮屈で退屈な場所から戻って来れて清々していますよ。本当に、苦痛でしかなかった」

「スウィートディーラーの事を言ってんのか」

「当たり前でしょう?国を支配出来る力をあんな無駄な使い方をして、内心反吐が出そうで抑えるのが大変でしたよ」

「…そうかよ。俺も最初はお前と同じ事考えてたぜ。でも最近はあの騒がしくて忙しい、甘ったるい匂いで包まれた店で働くのも、悪くねぇと思ってたんだがな」

 

 俺の言葉に、セアノサスは俺の言葉を聞いて顰め面をして、気色悪い物を見るような、気分が悪そうな顔をして俺の話を聞いていた。

 

「不快です。もう話は終わりです。帰ってください」

「ま、お前がどう思おうがどうだっていいさ。お前が居ないと俺は店の中に入れないんだ。多少強引にでも連れ帰らせてもらうぜ」

 

 俺はB.B.を下ろし、一歩前に踏み出してセアノサスに近づこうとする。だが、俺の目の前に灰色のフード付きの外套を身に着けた謎の男が立ちはだかる。

 

「なんだ。邪魔すんのか?死ぬ前に生命保険は掛けたか?確認してもおせぇけどなッ!」

 

 俺はB.B.を外套の男に向け光線弾を数発撃ち放った。発行する弾丸に対して男はそれを避けることもなく、呆然と立ち尽くす。このままでは奴の頭と腹に黒焦げの穴が開いて不格好な穴開きチーズの完成、になるはずだった。

 

 だが光線弾は切り落とされた。男の手に持っている濃い紫色に発光する刀身によって。そしてその刀身は柄から突然生えたかのように出現した。

 

「まさか……」

「この前君のお友達と似たお友達が私にもいると言ってたでしょう?紹介しよう、元ゲンジの筆頭レネゲイド!」

 

 雑草は剣士、レネゲイドを元気ハツラツな声で紹介する。見た目は灰色の外套を纏い、顔は金属製の目元が光る仮面を装着している。

 

「ゲンジは滅んだと一般的には語られているが、実際は違う。一度首領を失って空中分解した彼等だったが私が探し出し、呼びかけ、金を払って再び再結成してもらったんだ。伝説の復活!男の子なら誰でも好きなパターンだ」

 

 雑草の言葉は無視して、俺はレネゲイドに向けてもう一度撃つ。だが悲しいことに、また弾丸を剣で弾かれた。

 

 その時、上を見上げると俺の真上には魔法陣が浮かび、黒い槍の雨が俺目掛けて襲ってきた。

 

 俺はすかさず右横に回避し、串刺しになるのを避ける。どうやらあの鉄仮面のゲンジだけではなく、もう一人魔法使いの用心棒がいるらしい。

 

「続いては魔法使い専門の殺し屋!ヤーナン!魔法使いが跋扈するアールグレーンにて知らぬ者はいない伝説級の存在。でも安心してくれたまえ、魔法使い以外のターゲットも承っているからね」

 

 雑草は相変わらずのテンションの高さで他己紹介をする。ゲンジに魔法使い殺し、随分と金をかけている。

 

 とりあえずまずは魔法使いの方を先に倒したほうがいい。後方からちまちま魔法を使われたらあのゲンジを相手するのが面倒になる。

 

 俺は先に殺す人間を決定し、動こうとした時、背後から敵意を感じ、急ぎB.B.を背後に向けて撃ち放つ。

 

「ハイヤァッ!!」

 

 けたたましい声と共に棍棒で光線弾を弾いたのは、坊主で鉢巻を巻いた半裸の男だった。

 

「おっと彼も忘れちゃいけないね。彼はチェン・カウロン。魔法拳法の達人でありとあらゆる流派を修めた超人!殺した数は1万人!本人が言うにはね」

「おい!もういいだろ!これ以上増えるとめちゃくちゃ困るぜ!?」

 

 俺は3対1で劣勢を強いられ内心焦る。というかそもそも、敵地の中心部に入った時点で俺は既に絶体絶命だ。今も3人以外にも大勢の雑草の部下が俺に銃を向けている。

 

「サビターさん。私はあなたのことが嫌いじゃないんです。セアノサスさんのお仲間で、しかも娘と仲良くしてくれた貴方を殺したくはない。それに貴方も王国の腐敗具合には辟易してるでしょう?どうです?もう一度考え直しませんか?」

 

 雑草…アルバアムは困り眉で俺に向けて言う。奴の言う事には一理あるどころか百理ある。この国王様は貧民街の奴等の生活の為の支援を出さないし、犯罪率は下がらない。薬や暴力が絶えないクソみたいな治安だ。

 

 しかも奴等ギルドに対するルールの締め付けは厳しいし仕事の成功報酬も掠め取っちまう。王国直属となるとそれよりもっと制限もかかる。ハッキリ言ってクソだ。だがそれでも。

 

「だから、入んねぇって言ってんだろ。俺はその性根が腐ったガキ連れ帰って説教したいだけだ」

「そうですか。残念です。では……」

 

 アルバアムは三人に目配せをする。その意図はすぐに分かった。俺を殺せという意味だろう。だが俺は死なない。ゲンジの剣士が俺を何度切り刻もうと、魔法使い殺しが俺を何度斬新な魔法を使って俺を苦しめようと、魔法拳法使いが俺を爆死させる秘孔を突こうと、俺は絶対に死なない。何故なら俺は──

 

「不死身、ですか?」

 

 セアノサスの声が俺の耳元で囁く。

 

 いつの間にか彼女は俺の近くに来ていて、俺の目の前にいた。真近に見た彼女の顔は昔と比べて成長していたことがより如実に分かった。綺麗な女の顔になったな、という簡素な感想が俺の頭の中で浮かぶ。

 

 だがそんな思いは一気に現実に引き戻される。ドッ、と何か鈍い音がした。俺の胸に何か突き刺さる。

 

「……なん、だこれは」

 

 俺は胸に深く刺さったナイフの柄に触れる。引き抜こうと思ったが、手にうまく力が入らない。と言うより、身体が痺れて動かない。俺の自動回復能力が発動しない。

 

「どうです?中々効くでしょう?私が貴方の血を調べて作った貴方の力を阻害する効能を付与した特製のナイフです。貴重な素材故大量生産はできませんが」

 

 俺は咳込んで倒れ込む。口から血を吐き出し、喉には血が溜まって窒息してしまいそうだ。

 

「セアノサス、お前、どうして」

「あら、まだ死なないんですね」

 

 セアノサスはため息を吐いてくどそうな表情を見せる。そこにかつての尊敬と恋慕を浮かべた瞳は無く、人間ではなく、ごみや塵芥を見るような冷徹な目だった。

 

「私、本当にウンザリしてたんですよ。貴方達とのお店ごっこに友達ごっこ。ようやくこの苦痛が終わると思うと苦労が報われた気分になります」

 

 セアノサスは俺の首を掴み、右腕だけの単純な膂力と筋力で俺を持ち上げると、窓の近くまで近づく。

 

「いい加減死なないのも飽きてきたでしょう。良かったですね。これでこのくだらない人生ゲームを終わらせることが出来ますよ」

「セア、ノサス……!」

 

 俺はセアノサスの腕を掴み、睨みつける。

 

「後で……迎えに行くから待ってろよ」

 

 喉に詰まった血が勢い良く俺の口から流れ出し、セアノサスにいくつか血が降りかかる。

 

「いいえ、それは無理ですよ。さようなら」

 

 そう言って、彼女は俺を投げ飛ばした。細い腕から繰り出されるとは思えない力で、窓ガラスは耐え切れず、砕け散り、俺は外へ投げ飛ばされる。一瞬ふわりと浮遊感を感じたが、直ぐに重力に引っ張られ、下へ下へと落ちていく。

 

 ドパァン!と肉が高い所から落とされた不快な音なる。俺はゴミ箱にダンクシュートを決められたように綺麗にスポリと入る。

 

 身体はボロボロ、骨は飛び出て内臓は破裂。ナイフのせいか、回復能力は発動しない。激しい痛みが俺を蝕み、身動き一つ取れない。久しぶりに死を体感した。最後に感じたのはいつだっただろうか。

 

 あぁー動けねぇ。しかもなんだか意識が遠くなってきた。誰かが俺の名前を呼んでいる。

 

 男の声もするし女の叫ぶ声もしたが、もう意識が保てない。後の事は寝た後で考えよう。今俺は眠いんだ。

 

 セアノサスは俺を突き落とす前、不快な顔をしていた。しかし一瞬、一瞬だが彼女の表情が歪んで悲しそうな顔をしていた。

 

 なんで散々嫌味を言っていた奴がそんな顔するんだよと思ったが、いずれ聞いてやる。

 

 だがその前に俺はおねむの時間だ。もうこれ以上起きていることは難しいので俺は辛うじて保っていた意識を手放し、ゴミ箱の中で俺は死んだ。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!不定期更新ですが週一投稿を心がけて投稿したいと思いますのでもし面白いと感じたらしおり、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします!
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