(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第64話 デリバリーサービス始めました

 

 王国内は血と暴力と悲鳴が入り乱れる混沌の中心地になっていた。

 

 放火で建物が焼け落ち、棍棒や刃物で攻撃し合う一般人、魔法や剣の訓練を積んだ王国の騎士達は自身の自慢の武器と力を寝食を共にしている仲間や本来は守るべきであるはずの民に対して使われていた。

 

 しかし、その中でもグラス産業の本社は鉄壁の布陣を敷いていた。

 

 マッドギア製の自動タレット、高電圧を発する金網、そしてマッドギア製の最新鋭の重火器と防具を着込んだ兵士達が王国が派手に荒れている様子を柵の中から呑気に眺めていた。

 

「全く、ボスも随分残酷な計画を思いついたモンだぜ」

「本当だな。食料品に薬仕込んで民間人を暴走させて殺し合わせるとか普通の人間じゃ考えもしないぞ」

 

 兵士達は鼻で笑いながら話し合う。

 

 彼等の仕事は会社に暴徒化した市民が入って来た時の対処だった。雑草の持つ全ての兵士達の半分は王国を陥落するため国王のいる王城へと向かっていた。

 

 彼等の中には銃を扱う兵士だけでなく、ゲンジの中でも過激派に位置するヴァンガード派の剣士達も混ざっているため、国王が殺されるのも時間の問題だろうと予測していた。

 

「くぅ~、俺も国王殺害の現場に行きたかったぜ。歴史的光景をこの目に刻めなかったのが残念でならねぇ」

「お前もお前でイカれてるぜ。倫理やモラルはどこに行った?まさか母親の子宮の中にでも置いてきたのか?」

「鼻紙と一緒に捨てたよ」

 

 兵士達はそう言ってジョークを交えながら笑い合う。

 

 街は悲惨な状態なのに、兵士達は穏やかに会話していた。中には酒を飲んだり食事を採っている者までいた。

 

「国王が死んだら次の王様はやっぱりボスかな?もしそうなったら給料上げて欲しーワ。俺今度買いたい銃があんだよ」

「え?なんだよ」

「ハセベ・コープのコクリューマーク34」

「バカがよ。あんな高級品お前の給料で買えるわけないだろ」

「だから上げて欲しいつってんだろーがよ」

 

 彼等が会話しているその瞬間、彼等の携帯型通信機からザザ…と無線のノイズが鳴った。

 

「おっ、任務報告かな?」

 

 兵士達は嬉々とした声で通信機をズボンのポケットから取り出し、顔に近づける。

 

「おうご苦労さん!任務完了か?遂にやったんだな?」

『おーやったやった。全員ぶち殺してやったぜ。もう終わったから今そっちに向かってる』

 

 無線からは男の笑う声が聞こえた。

 

「よっしゃ。今日はパーティーだな。とりあえず酒と喰いモンはどっかそこら辺から奪って立食パーティーとでも洒落こもうぜ。美味い肉喰いてぇなぁ」

『いいねぇ。でも肉だけじゃあよォ飽きるだろ。甘い物もいるだろ?イイお菓子屋があるんだ。そこから何か持ってきてやるよ』

「気が利くじゃねぇか!俺甘いモン大好きなんだよ!何て店名だ?」

『スウィート・ディーラー』

 

 そう言うと無線は向こう側から切れた。

 

「あれ?通信が途絶えたぞ?故障か?」

「アホかお前。この通信機どんだけ高級な物だと思ってんだ?ボスはそこら辺ちゃんと金かけてんだよ」

「いやでも突然切れたんだよ……ん?なんだあれ?」

 

 兵士の一人が何かに気づき、見つめる。

 

 彼が見ていたのは、グラス産業の本社の真正面に位置する道。

 

 そこには四人の人間が本社へと向かっていた。

 

「なんだアイツ等。暴徒にしちゃ妙にゆっくりとした足取りだな……」

 

 一人は顔と頭全体が黒いガスマスクのようなヘルメットで覆われ目と思しき所には赤く光っており、そして身体全体は黒いパワードスーツを着た人間だった。

 

 黄色と黒が目立つジャージという動きやすい服装をした黒髪の女性。

 

 明るい水色のローブ、そして頭には大きなとんがり帽子を被る小柄な子供。

 

 黒いロングコートを身に着け、頭にはフードを深くかぶる長身の筋肉質な男。その手には黄金に輝く剣が握られている。

 

 それぞれ四人がゆったりと、しかし堂々とした足取りでグラス産業の本社へと向かっていた。

 

「敵性アリ。総員銃を構えろ」

 

 グラス産業の傭兵達は忙しなく動き出し、四人の人間達に向けて銃を向け始める。

 狙撃手がスコープ越しに彼等の動きを正確に追って捉えており、自動タレットの照準も彼等に向いていた。

 

 普通ならこの四人は絶体絶命の状況下にある。侵入するなら彼等の目やセキュリティーの届かない場所に移動し、見つからないようにするのがセオリー。

 

 しかし彼等はそんな定石なぞ知らんとでも言うかのように堂々と門の前まで来た。

 

「そこのボンクラ四人共!一歩でもその先を超えてみろ、ハチの巣どころか穴開きチーズみたいにしてやるぞ!」

 

 傭兵の一人がメガホンを取って大きな声で警告した。機械音と人間の肉声が混じった声が辺りに反響する。

 

 四人はそこでぴたりと足を止め、お互いを交互に見やる。特に会話もせず数秒見つめ続けると、再び前を向き──

 

 四人共全員同じタイミングで片足を一歩前に踏み出した。

 

「ああそうかそんなに穴だらけになるのが好きか!じゃあしょうがねぇ、お望み通り叶えてやるよ!」

 

 男がメガホン越しに言い放った瞬間、爆発が起こった。

 

「えっ?」

 

 間の抜けた声を一番最初に上げたのは、傭兵達だった。

 

 グラス産業の周辺で連続した爆発が起こり、傭兵達はそれに巻き込まれていた。

 

「ギャアアアアア!」

「な、なんだぁっ!?」

 

 辺り一面阿鼻叫喚と化し、爆破音と悲鳴が入り乱れる。

 

傭兵の一人がガスマスクを着けた男を見ると、その男は人差し指を上に示していた。

 

 まるで今すぐ見ろ、と言わんばかりの雰囲気に傭兵の一人が空を見上げると、そこには。

 

「な、仲間が……浮いてる……!?」

 

 空には地上にいる傭兵達と同じ装備、格好をした仲間が宙にぷかぷかと浮き、一人ずつ地面へと落とされていた。

 

 落とされたその瞬間その傭兵は爆発し、周りに被害もたらした。

 

「浮いてる味方に爆破魔法の呪文が取り付けられてるぞ!皆回避しろ!」

 

 魔法を使える傭兵の一人がそう叫ぶが、次の瞬間にはその傭兵の元に落ち、爆発に巻き込まれ死亡した。

 

「クソッなんなんだよお前らはァッ!?」

 

 ヤケを起こし、ライフルを乱発しながら傭兵の一人が唾を飛ばしながら叫んだ。

 

 しかし、ガスマスクの男が光線銃を放ち、傭兵の眉間を貫いた。

 

「あ……ああ……?」

 

 傭兵は白目を上に向いて糸が切れた人形のようにパタリと倒れた。

 

 ガスマスクの男が頭の左横のボタンを押すと、顔の部分が上にスライドするように開き、顔を出す。

 

「スウィートディーラーでーす。熱々の光線弾を届けに来ましたー。今ならなんとォ……苦痛なる死をお届けだぜクソッタレ共ッ!!」

 

 不死身のサビターがとびきりの笑顔で空に光線弾を撃ちまくりながら叫んだ。

 

 

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