(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第70話 こんな僕を

 

 僕はすぐさま魔法の杖をローブの懐から取り出し、魔法を放つ。

 

「清廉なる水よ、蛇の化身となりて我に恵みの雨を齎せ」

 

 僕は身体の中でうねり、暴れ回る魔力の塊を杖に込めて集中した。

 

 すると僕を覆うように水が現れた。

 

 その量は貯水タンク数十個分に及ぶ量で、それぞれ流れるような滑らかな動きをしていた水の塊が次第に意志を持つかのように集まり、大蛇の形を成した。

 

「シャアアアアアアアアアッ!!」

 

 水の大蛇は声を上げてヤーナンに牙を剥き、彼に飛び掛かった。

 

「水蛇の魔法か。なら凍らせて動きを止めるまでだ」

 

 ヤーナンは右手のマギブレーザーは使わず、左手の点けた銀色と赤い宝石が特徴の指輪を光らせ、無詠唱で氷結魔法を発動した。

 

 透き通り、荒れ狂う水の大蛇はヤーナンを飲み込もうとしたが、白い霜がポツポツと大蛇の中で発生し、動きを鈍らせて水の身体は氷で埋め尽くされ、やがて完全に停止した。

 

「頭の固い魔法使いは杖ばかり使って詠唱も馬鹿の一つ覚えみたいに全部言っちまうから時間がかかるんだ!魔道具を使えばそれも解消できるのによぉ!」

 

そう言ってヤーナンは僕にマギブレーザーを向ける。

 

「ファイアパンチ」

 

 僕は短く詠唱すると、僕の背後から巨大な火の拳が凍り付いた水の大蛇目掛けてぶつかった。

 

「なにを……」

 

 ヤーナンは僕の行動の意図に気づいていない。

 

 氷漬けの水の大蛇はファイアパンチの炎の熱によってあっという間に溶け、ヤーナンの足元に大量の水が溢れる。

 

「雷よ、その神の御業を彼の者に堕としたまえ」

 

 僕の詠唱の後に、頭上から黒い雲が突然モクモクと現れ、低い振動音が鳴り響き、腹部に衝撃が伝わる。

 

 その瞬間、ピカッと眩い閃光が放たれる。

 

 一瞬だった。

 

 白紫色の雷が落ち、その電撃が床に溢れた大蛇だった水を伝ってヤーナンに瞬く間に襲い掛かった。

 

「ぐあああああっ!」

 

 バチバチバチ!!と耳を劈くような音がした。

 

 ヤーナンは左膝を着き、深手を負った様子を見せる。

 

「これでトドメだね」

 

 僕はすかさず杖をヤーナンに向け、追い打ちの魔法を詠唱しようとしたが、杖の先端にヒビが入り、ボロボロと杖が形を保てず崩壊した。

 

 杖が壊れた、予備の杖に切り替えなければ。

 

 僕は懐から新しい杖を取り出そうとしたが、それがいけなかった。

 

「トドメになるのはお前だよ!」

 

 ヤーナンはマギブレーザーを僕に向け、電撃魔法を僕に向けて放った。

 

 僕の雷魔法よりも大きくで濃い魔力濃度の一撃に、反応が遅れた僕はその一撃を喰らってしまった。

 

「ッ……!」

 

 僕は電撃魔法をまともに喰らったせいで身体全体が痺れ、上手く身体が動かせない。

 

「そうだ言い忘れてた。マギブレーザーは魔法吸収機能もある。そして放出する機能もな。来ると思ってとっさに発動させといて正解だった」

 

 迂闊だった。

 

 敵が得体の知れない武器を持っているのに安易に攻撃をし、あまつさえ杖の耐久力を見誤った。

 

 これは明らかに僕のミスだ、反省しなくては。

 

「どうだ?自分の雷魔法を自分で喰らった気分は?」

 

 ヤーナンはそう言って僕を挑発する。

 

 でも僕は立ち上がって態勢を整えるため、体内の魔力を循環させて手足を動かすべく集中する。

 

「そうか、痺れて声も出ないか。お前はまだガキみたいだし、魔法使い同士の戦いもあまり経験がないのも頷ける。魔法使い同士の戦いは相手の魔力を如何に削らせてじり貧にするか、相手の杖をいかに早く壊して無力化するか、そして相手を如何に──」

「欺くか。魔法学校で習ったよ。お前みたいな奴がいるからって口酸っぱく先生に言われた」

「なんだ、魔法学校でもいい先生はいるもんだ」

「まぁ僕が学校を爆破した途端態度を変えて見捨てたけどね」

 

 僕がそう言うと、ヤーナンは表情を変えた。

 

 まるで同情するかのような哀れみを向けた目だった。

 

「たしかお前、禁忌とされる全ての魔法の元素を合体させた複合魔法の実験に失敗して学校を追い出されたんだろ?お前も散々だなぁ。せっかく才能あるのにたった一度の失敗で名誉も居場所も全部失うなんてよ」

 

 ヤーナンはそう言って膝を曲げて腰を下ろし、僕と同じ目線になった。

 

 そう言われると、僕は昔の暗い過去を思い出す。

 

 アールウェーンの中でもトップクラスの魔法学校に主席で入学し、在学中でもトップクラスの成績を取っていた僕だけど、皆からチヤホヤされるのも悪くはなかったし、何より知らない魔法を知ることが出来るのが何より楽しかった。

 

 だから僕はその二つの欲望を同時に叶えようとして、繊細で危険だから絶対にやっちゃいけない魔法の実験をして、その結果僕は学校を修復不可能なまでに破壊し、多数の犠牲者を出し、半ば逃げる形で学校からアールウェーンからも追放された。

 

 

「俺も魔法使い共には結構恨みがあってな。魔法使い殺しになったのもそれが理由なんだが、どうだ?俺と組んで更に金を稼ごうぜ。そして魔法使い共を狩り尽くそう!」

 

 ヤーナンはそう言って俺に手を差し伸べた。

 

 僕は基本的に自分の欲求を満たすためには手段を選ばないタイプだ。

 

 本当はもっと学校で勉強したかったし、僕を追い出した学校にも国にも多少の恨みはあるし、多分僕は人の気持ちがあまり分からない、理解できない変な人間なんだろう。

 

 このままヤーナンの手を掴んで魔法の研究がてら魔法使いを実験台にして新たな魔法開発をする、そんな生活も良いかもしれない。

 

 魔法使いは多少わがままな方が良い魔法使いになれると学校の先生は言ってたっけ。

 まぁその人は生きてるかわからないけど。

 

 流されて生きるのは楽だ。

 自分の欲求に従って生きるのは楽だ。

 

 だから僕は一人になった。

 

 だけど、だれともかかわらずに生きて行けば責任もなく、自由に楽しく生きていける。

 

 でも、スウィートディーラーの店の皆はどうなる?

 

 僕みたいな性格に欠陥のある人間を受け入れてくれたサビターは?

 

 国を追われて、他人と上手く馴染めなくて一人だった僕と一緒に旅をしてくれたアリーは?

 

 同じく訳アリで、でも僕を年の離れた弟みたいに接してくれたアルカンカスは?

 

 そして、こんな自己中の僕に、嫌な顔一つせず錬金術を教えてくれた、姉や母みたいな存在だった師匠は?

 

 僕は師匠に言われた言葉を思い出す。

 

『お主、確か魔法学校に通っておったんじゃよな?』

『うん。でも実験してたら僕が学校を壊しちゃって、怪我人とか、死者とか出しちゃって、学校からも故郷からも追い出されちゃった』

『学校を爆破……しかも死者を……うぅむ、結構な経歴の持ち主じゃのう』

 

 師匠は顔を曇らせて眉間に皺を寄せた。

 

『僕、他人の幸不幸に関心がないんだ。自分の好きな事意外は基本どうでもいい。良くない事だし、怒られるのも仕方ないと思ってる。りんりやどうとくがない欠陥人間だって」

 

 こういう反応をされるのはいつもの事だった。

 仲良くなったかな、あの事話しても大丈夫かな、って思って話したら皆僕を避けていく。

 まあ当然だけどね。

 

『でもお主、才能あるじゃろ。凄かったのう、ピージャを怯ませたあの火焔魔法!ありゃワシでも出せんわい』

 

 師匠は右手の拳を握ってしゃどーぼくしんぐをしながら言った。

 

『師匠も魔法使いだったの?』

 

『…まあのう。と言っても回復術士じゃ。攻撃魔法は元々得意ではなかった。ワシもそれなりに勉強と実践を繰り返してきたんじゃが、生憎才能が無くての、当時愛を誓い合っていた大切な人を死の淵から救うことが出来なかった』

 

 師匠はそう言って遠い目でどこかを見る。

 

 師匠は見た目は僕と同じか少し上くらいの年齢に見えるのに、何故か昔の事を語っているような様子だった。

 

『ワシはもう後悔したくない。大切な人を守るため、この錬金術に全てをかけて日々学び続ける。才能は無駄にすべきではない。徹底的に磨いて、使いこなしてこそじゃ。じゃから……』

 

 師匠は青色の瞳で僕の赤い目を見据え、

 

『お主もその得意な魔法でこれからもワシ等を助けてくれ!なに、失敗したならまたやり直せばいい。欠陥品だと思うなら、改良できるよう考え続ければいい。自分を張り続ける限り、人間に欠陥もクソもないわ!』

 

 師匠はそう言って僕に笑いかけて、

 

『お主の魔法が必要なんじゃ!』

 

 ライラ師匠は僕にそんな言葉をかけてくれたんだ。

 

 こんな欠陥品を必要としてくれた。

 こんな僕を仲間と認めてくれた。

 こんな僕の力を必要としてくれた。

 

 だから、だから僕は……!

 

「悪いけど、もう間に合ってる」

 

 そう言って僕はヤーナンの手を叩き、中指を立てて舌を出して嗤ってやった。

 

「そうか。それじゃあ仕方ねぇ」

 

 そう言ってヤーナンは僕にマギブレーザーを向けて、過剰攻撃とも見えるような程の青いエネルギー魔法弾を撃ち放った。

 

 青白い光がチカチカと発光し、床が魔法弾で削られる音が鳴り響く。

 

「お前とはいい友達になれそうな気が……しなかったね。魔法使いは全員俺の敵だ」

 

 そう言ってヤーナンはマギブレーザーを下ろす。

 

「……?」

 

 ヤーナンは突然周囲を見回した。

 

 まるで何かを探すかのようにキョロキョロと辺りを見回す。

 

「この感覚……まさか……!」

 

 そう言ってヤーナンは左手にある小指にはめた緑色の宝石が特徴の指輪を発光させた。

 

 すると辺り一面の風景が霧に覆われ、やがて静かに霧散した。

 

「ありがと。馬鹿みたいに引っかかってくれたおかげで僕もうすっかり治っちゃった」

 

 ヤーナンの背後から、僕は小馬鹿にするように声の抑揚を上げたり下げたりしながら言った。

 

「幻覚魔法か。一体何時仕込んでやがった?」

「魔力を原子レベルまで小さくしてちょっとずつ外に出してただけだよ。練習すればできるよ」

「そうか……すげぇ魔法使いだお前は。俺が見た中でも一番だぜ」

「そりゃどーも」

「それじゃあラウンド2と行こうか」

「いいね、やろう」

 

 僕は両手の指の間に八本の魔法の杖を握り、ヤーナンは右腕のマギブレーザーと左指に付けた五個の魔法の指輪をカラフルに発行させ、二回戦目を開始した──!

 

 

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