(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第71話 魔導越者①

 

「アイツ、ガキのくせにカッコつけやがって。追いついて来たら制裁加えてやらねぇとな」

 

 俺はエレベーターの中でイライラしながら呟いた。

 

「あら、タマリの事が心配なんですか?案外優しい所もあるんですね」

 

 アリーシアがサビターの脇腹をツンツン指で突っつきながら揶揄う。

 

「あのローブの男、確か魔法使い殺しだろう?相性は最悪だろうからな、俺も心配だ」

 

 アルカンカスも顎に指を添えながら心配そうに頷く。

 

「全く二人共マイナス思考ですね。タマリがやられるわけないでしょう?」

 

 アリーシアが元気に俺達を励ます。

 てっきり俺達より一番アイツの心配をしてそうとばかり思っていたが、真逆の反応で俺とアルカンカスはお互い見つめ合って首を傾げる。

 

「アリーシア、君はタマリの事が心配ではないのか?」

「えっ?」

「いや、別に咎めているわけじゃねぇ。一番不安に思っているのは俺達の中でも特にお前だろうと思ってもんでな」

 

 俺がそう言うと、アルカンカスも頷き、同意する。

 

「私がタマリを心配……」

 

 一言呟くと、アリーシアは「ぷっ!」と噴き出して笑った。

 

「あっコイツ今笑ったぞ!アイツとの付き合い長いクセにあのガキの事なんぞ微塵も心配してねぇんだなこの冷血女!」

「な!ち、違いますよ!そーいう意味で笑ったわけじゃなくて──」

「流石に俺もそれはどうかと思うぞ、アリーシアよ。些か緊張感が足りないと見えるな」

「もう!そういう意味で笑ったんじゃありませんって!」

 

「じゃあどういう意味だよ」と俺はアリーシアに聞く。

 

「いや、要するにですね、タマリにそんな心配はありません。だってあの子、()()()()()ですから」

「まどーえつしゃ?」

 

 俺は聞いたことも無いワードにオウム返しする。

 

「魔導越者……!?あのタマリがか!?」

「魔導越者ってなんなんだよ」

 

 アルカンカスは何か知っているようで、驚きの声を上げる。

 

「ええ。私はタマリと一年とちょっとだけ旅をしていましたが、それは凄いものでしたよ。まさに敵無し、魔法で大地を削り取って地形を変えて迫り来る敵を粉微塵!頼もしい男の子ですから」

「いやだから魔導越者ってなんなんだよ」

「あの年齢で到達するとは、よほど魔法の才能があるわけだ」

「なぁ俺は幽霊か?だから誰も話聞いてくれないのか?」

 

 俺は額に青筋を何個も浮かべながら二人に手が出そうになったが、ようやく二人は振り返り、俺を見るなり、

 

「つまりですね」

「あの子は大丈夫だと言う事だ」

「……いやだからその理由を言えよ。魔導越者ってなに?」

 

 そう言ってアルカンカスとアリーシアはニコリと微笑むと、エレベーターが止まった。

 

「…?最上階の100階で止まるはずが70階で止まった。どういうことだ?」

 

 アルカンカスがそう言ってライトブレードを右手で掴む。

 俺の話をまるで聞いていない。

 

「恐らく遠隔停止されましたね。罠だとは思いますが、一度出ましょう」

 

 そう言ってアリーシアはエレベーターの向こう側にいるであろう敵を睨む。

 俺はお前らに殺意剥き出しで睨んでるけどな。

 

「なぁ……魔導越者ってなんなんだよ?なぁ?」

 

 俺は二人に聞いたが、結局二人は俺をシカトしてエレベーターの扉を抜けた。

 

 結局魔導越者とはなんなのか最後まで教えてもらえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、激しい戦闘の痕があった。

 

 大企業の顔を代表するとも言うべきエントランスホールは、床は抉れ、天井は落ち、柱は折れ、鉄骨は剥き出しだった。

 

 更には魔法による損傷も激しかった。

 

 残り火がいくつか燻っており、氷の欠片がそこかしこにあり、大領の水が床に溜まっていて、床が鋭い円錐状の塊で盛り上がっているなど、異常な空間が出来上がっていた。

 

 魔法を使った戦いの証として、折れた魔法の杖や砕けた指輪の破片が散らばっており、更には魔力を持つ者なら認知出来る魔法を使った跡である魔力の残滓が床、壁、空気などの箇所でふわふわと漂っていた。

 

「……」

 

 そのエントランスホールの壁に追い詰められた人物が居た。

 

 煤だらけで身体の至る所に血が流れており、ぐったりとしている。

 意識が無いのか、死んでいるのか、ピクリとも動かず、臀部を床に押し付けて背中を壁に預けた形で俯いていた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 息を荒げて疲労を隠せない人物が、壁に打ち付けられて力無く倒れている人物を見下ろしている。

 

「スゥー、ハァ……ハァ……フゥ……ホント……強かったよ…お前は……」

 

 額からも汗を流し、あと少しで恐らくこの男も倒れるのではないかと見える程、ギリギリの戦いだった。

 

「でもまぁ……」

 

 男は息を整え、なんとか正常な呼吸のリズムを取り戻し、落ち着いた口調になる。

 

「中々楽しかったぜ。魔法使い、()()()()()()()()()

 

 男、ヤーナン・ジェランガムはそう言って意識を失っているタマリに鼻で笑って背を向けた。

 

 

 

 

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