(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第80話 悪人

 

 レネゲイドは歪んだ笑顔で叫びながらアルカンカスに斬りかかる。

 ガギィン!とライトブレードの刃金同士が激突する音が鳴った。

 

「……!」

 

 アルカンカスは眉を顰めながら気合を入れて彼の一撃を受け止めた。

 一撃は重く、アルカンカスの膝が一瞬地面とズレて態勢を崩しそうになった。

 

「人違いだと言ったはずだ。俺はクレインなどではない」

 

 アルカンカスはレネゲイドの剣を筋力を用いて跳ね返すと、縦、横、斜めと角度を変えながら様々な方向に剣を振るう。

 

 だが剣はブンッ、という空気を斬り裂く音だけ、肝心のレネゲイドは紙一重で避けながらアルカンカスに向け剣を振って反撃する。

 

「なら何故その剣を持っている?その剣はゲンジの頭領のみが携帯する事を許された特別な剣だ!他の雑魚ゲンジが使っていい代物じゃないッ!!」

 

 レネゲイドは声を荒げて更に激昂し、ライトブレードを上から叩き下ろす。

 

 アルカンカスはそれをライトブレードで受け止めるが、感情が昂った事により威力が倍に跳ね上がり、先程とは違いより強靭な一撃により地面にヒビが入る。

 

「うっ……!」

 

 アルカンカスは予想外のレネゲイドの膂力に圧倒され、顔を苦痛に歪めながら剣の向きを変えて重心を崩し、威力を削ぎ落とす。

 

 剣は地面に振り下ろされ、地面は木屑と粉塵で辺りを覆う。

 アルカンカスはその状況を利用し、埃と粉塵の中からレネゲイドに剣を向けて刺突をしようとした。

だが、

 

「小賢しい!」

 

 レネゲイドはアルカンカスの動きを予期したような動きで右に避け、回転しながら踵蹴りでアルカンカスを吹き飛ばした。

 

 アルカンカスは本棚にぶつかり、ガラガラと大量の本が崩れて落ちる。

 レネゲイドに蹴られた彼の頭は脳震盪を起こし、立つ事が困難になり、両膝に手を付いて苦し気に立ち上がる。

 

「オイ何やってんだよアルカンカス!さっさとやっちまえ!」

 

 サビターはヤジを飛ばして言うが、アルカンカスはサビターの言葉が聞こえておらず、荒い息で呼吸をしながらレネゲイドを見据える。

 だが視界はグラグラしたままで、レネゲイドが二人にも三人にも見える錯覚を抱いていた。

 

「お前がヴァンガード様を殺した後、ゲンジは崩壊した。頭領候補二人が消え、残ったのは有象無象のカスばかり、俺は骨のある奴等を拾い上げ、そうでない者は殺して回った。だがまぁ、結局はそいつ等もお前に殺されてしまったがな」

 

 剣を振り回し、近くにあった本棚、机を乱暴に叩き斬りながら憂さ晴らしをするかのようにレネゲイドは言う。

 

「オイ……なんなんだその弱さは……?まるでボケかけのジジイみたいな動きだな。キレもなく、剣の振り方に重みがない。本当にやる気があるのかお前は?」

 

 レネゲイドは剣を床に突き刺し杖代わりにしてようやく立っているアルカンカスを見下ろしながら、「フンッ」と鼻で笑いながら侮蔑を込めて見下す。

 

「ハァ…ハァ……」

 

 アルカンカスはもはや気合だけで脳震盪による五感の麻痺を克服しながら二本の脚の力だけで完全に立ち上がる。

 しかし、彼の目にはまともにレネゲイドを捉えていなかった。

 

「俺はお前の信念を否定し叩き潰す事を楽しみにしながらお前を待っていたというのに、お前は風化し研鑽を止めた。鏡で見てみろ、お前の姿を。老い、反射神経は鈍り、筋力は衰え、まともに剣を当てることもできない。今のお前は惨めな男だ、クレインかつての英雄の姿は陰も形もない」

「……俺は、お前が思っているような男じゃない」

 

 アルカンカスは口角を上げm笑みを作りながら、レネゲイドを見据える。

 魔力操作により、脳震盪の症状は緩和され、五感をまともに取り戻しつつあった。

 完全に態勢を整えたとは言えないが、これで戦う事は出来る。

 

「俺は悪人だ、レネゲイド。お前も分かっているはずだ」

「ああ、そうだな、お前は悪人だクレイン。自分の信念を押し通すために俺の師を殺したお前は、真の悪人だよ」

 

 レネゲイドがそう言うと、アルカンカスは「フッ」と口から笑いを漏らす。

 

「どうした?自分の無様な死が頭に過ったか!?」

 

 レネゲイドはそう言いながらアルカンカスに向かって駆け出す。

 

 ジ…とアルカンカスはレネゲイドを見据え、待ち構える。

 

 アルカンカスはタダで攻撃を喰らったわけではない。

 

 彼はレネゲイドからの攻撃を貰いつつ、彼の動きを観察していた。

 

 レネゲイドはゲンジの構成員ではあるが、時間が経過し、アルカンカスに向けた憎悪と復讐心を抱きながら激しい鍛錬を積んだ事で、もはやゲンジの戦士とは呼べない荒々しい戦い方をしていた。

 

 だがアルカンカスは長年の戦闘の経験から、敵の動きを短時間で学習し、理解する事が出来る。

 それによりレネゲイドの弱点も分かった。

 

 レネゲイドは一見規則性のない激しい動きで戦っているように見えるが、実は違う。

 彼は最初縦の大振り、左斜め下からの逆袈裟斬り、そして一回転しながらの横斬り、そして右片手の刺突という一連の動作を行っている。

 

 刺突の瞬間、一瞬隙が生まれ、攻撃のチャンスだと思ったアルカンカスはそこを狙い、カウンター攻撃を行うべく甘んじて先に彼に攻撃をさせた。

 

「死ねッ……!」

 

 まず初めに縦の大振りが来て、左斜め下からの逆袈裟斬りが来る。

 それをアルカンカスは避け、レネゲイドは続いて時計回りに右回転をしながら横薙ぎをする。

 後ろに数歩下がり、横薙ぎを躱したアルカンカスは次の一手を待った。

 

 来た。

 

 右片手の刺突!

 

 アルカンカスはこの瞬間を待っていた。

 突きは当たれば敵に致命的な一撃を与えられるが、それと同時に外せば僅かな隙が生まれる。

 

 アルカンカスは左に身体をズラして躱した。

 

 ここだ、とアルカンカスはライトブレードを上に掲げ、勢い良く振り下ろす。

 アルカンカスのライトブレードが黄金色にキラリと輝き、レネゲイドの首を落とさんとした。

 

「グぅ……!?」

 

 小さく悲鳴を上げたのは、レネゲイド──ではなく、アルカンカスだった。

 彼はよろめきながら前に五歩歩き、地面に倒れた。

 

「アルカンカスッ!?」

 

 サビターは驚きが混じった声で彼の名を叫んだ。

 あのアルカンカスがやられた、と驚愕の表情をマスクの下で隠しながら見ていた。

 

「俺の動きを一度見ただけで即座に対策を編み出したのは見事だ。だが……調べが足りなかったようだな」

 

 アルカンカスが斬られたのは彼の背中だった。

 どくどくと血が流れている。

 未だ彼は地面に倒れて突っ伏しているままだ。

 

 あり得ない、とサビターは頭の中で既に起こった事象を頭の中で否定していた。

 アルカンカスは既にレネゲイドの背後を取っていた。

 

 にも拘わらず、背後から彼は攻撃を喰らった。

 一体どうやって……?とサビターはマスクのバイザーモニターを用いて辺りを見回す。

 明らかに人間技ではなかった、魔法を使ったのだと彼は推測し、魔力を探知できる暗視機能を使用した。

 

「なんだありゃあ……?」

 

 そしてサビターは何故アルカンカスが斬られたのか、疑問の言葉を吐きつつも理解する。

 彼のバイザー越しには、アルカンカスとレネゲイドの他に、もう一人のゲンジの剣士が居た。

 

 

 

 

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