(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第83話 敵の言葉を信じるな

 

 今度は8人の2倍、16人だ。

 

 16人分も作り出したからか、先ほどとは違い少し造形に粗雑さが見られたが、それぞれレネゲイドの姿形をした16人の魔力分身がアルカンカスを狙う。

 

「数を増やせばいいというものではないぞ」

 

 アルカンカスは鼻でため息を吐きながら呆れるような視線でレネゲイドを見る。

 

「来るんじゃない…!お前はここで死ね……!」

「若造が……偉そうに指図するな」

 

 アルカンカスはそう言ってニヤリと嗜虐的な雰囲気で笑うと、今度は今まで受け身の体勢だった時とは反対に、一気に駆け出した。

 

 黒いライトブレードが分身の一人を頭から足元まで綺麗に一刀両断し、近くにいた二人目の分身の腹部に鋒を向け突き刺し、分身を串刺しにしたまま剣を周囲の魔力分身達にぶつけまくった。

 

 分身達が体制を整え、立ち上がる前にアルカンカスは足で頭を踏み潰し、何度もライトブレードで念入りに刺した。

 

 今までのサビター達が見てきた流麗な剣技のアルカンカスはそこには無く、今いるのは暴力が剥き出しになったような邪悪な戦い方をする1匹の獣そのそのだった。

 

 近づいてきた敵には足を剣で貫き、ヘッドバッドを喰らわせて首を切り落とし、上半身をグネリと回転させながら周囲の分身達をまとめて薙ぎ払う。

 

「俺の、魔力分身達を、こんな一瞬で……?」

 

 16人を相手に時間をかける事はなく、瞬く間に屠ったアルカンカスは剣の切先をレネゲイドに向け、「次はお前だ」と言って斬殺宣言をした。

 

「お前は偽物だ、俺がお前を殺して、しょ、証明してやる……!」

「やってみろ」

 

 遂にレネゲイド本人がアルカンカスに立ちはだかる。

 動揺して精神が不安定ではあったが、剣の構えは一ミリも揺れることなく、目つきはきつく、鋭くなった。

 

 先に攻撃したのはアルカンカスだった。

 猛烈な速さでレネゲイドまで駆け寄り、右手刺突を繰り出した。

 

「…ッ!」

 

 真黒の剣先がレネゲイドの眼前まで近づき、レネゲイドは間一髪でそれを左に避ける。

 だがアルカンカスは刺突の痕直ぐに左の横薙ぎに転換し、彼の首に食らいつこうとした。

 

 レネゲイドは目を見開き、冷や汗をかきながらもそれを自身のライトブレードで受け止める。

 

「どうした?俺に憧れてたんだろ?」

 

 嘲笑めいた笑いを交えながら、アルカンカスは挑発する。

 三文芝居の役者の演技よりも見え透いた安い挑発にレネゲイドは身体の熱を沸騰させる程憤慨し、跳躍してアルカンカスに刃を振り下ろした。

 

 アルカンカスも後ろに飛翔し、回避した。

 レネゲイドはアルカンカスの着地を狙い、即座に距離を詰め、剣を右に振った。

 

 アルカンカスはレネゲイドの右の大振りの一撃を剣で弾き、そこからは高速の剣戟が始まった。

 

 刃金と刃金がぶつかり合う音、刃金が空気を短く斬り裂く音、靴底の擦れる音が響く。

 迫り来る刃を躱し、それが出来なければ剣で受け止め、二人はそれぞれお互いの間合いを図る。

 

 アルカンカスは久々の自分のスタイルの戦い方をしていたからか、剣の振り方や構え、足運びなどを確かめるように立ち振る舞っていた。

 

「俺をここまで本気にさせたその強さは褒めてやる。だが、悪い手本を真似るのはやめた方がいい」

「…?何を言って……」

「お前の剣技、立ち振る舞い、そして生き方だ。ヴァンガードとしての生き方を追った所で辿り着く先には何もない」

「貴方が……貴方がそれを言うのかよ……!」

 

 レネゲイドは歯軋りをし、アルカンカスを目玉が飛び出そうなくらい憎悪を孕んだ目で睨む。

 手に持っているライトブレードをギリリ…と音が出るくらい強い力で握り締める。

 

「俺は貴方の生き方、思想、戦い方に憧れてゲンジになったんだぞ!?それを貴方が否定するのか!?」

「そうだ。俺やお前の在り方は間違えている。お前の全ては無駄で間違っているんだよ」

「黙れッ!!!」

 

 レネゲイドは腹の底から声を出し、部屋全体に声を響き渡らせた。

 

 彼の頭の中は混乱の渦中だった。

 憧れの人間から全てを否定された。

 苛立ちが治まらず、この行き場の無い怒りをどうするか、頭の中をグルグルと駆け回らせていると、彼は一つの結論に辿り着き、アルカンカスを据わった目で見る。

 

「もういい……貴方が貴方や俺を否定するなら……ヴァンガード、お前を殺してやる」

 

 剣を構え、吹っ切れたような、開き直ったような態度でレネゲイドはにやけながら呟き、剣を向けた。

 

「腹を括った顔つきだな、いいだろう。俺も全身全霊で相手をしてやる。下手な小細工は無しだ」

 

 そう言ってアルカンカスはライトブレードを右の逆手に持ち、刃を背後に移動して姿勢を低くして構える。

 

 彼の剣の構えにレネゲイドは目を見張り、警戒した。

 アルカンカスはおそらく、斬撃に大量の魔力を乗せて空間毎斬る必殺技、【オーバードライブ】を放とうとしている。

 

 当たればたとえ最強の防具を着ていても、どれだけ防御呪文や魔力で身体で覆っていたとしても、空間毎切断され、絶命する最強技。

 まともに当たれば即座に死に至る恐ろしい技だ、とレネゲイドは唾をゴクリと鳴らして飲み込む。

 

 だがそんな最強の技にも弱点は存在する。

 

 オーバードライブは莫大な魔力を消耗し、一度放つと数秒のインターバルが必要となる。

 その瞬間こそがレネゲイドが彼を殺せる唯一のチャンスだった。

 言い換えれば、当たらなければどうと言うことは無いということだ。

 

 絶対に躱す。

 そして奴を殺す。

 

 レネゲイドは走り出した。

 彼の考えが正しければ、アルカンカスの攻撃は右逆手の斬り上げだ。

 それさえ回避すればいい、その後は俺のフィールドだ、とレネゲイドは心の中で自分自身にそう言い聞かせる。

 

 俺は躱せる。

 俺は躱せる。

 俺は躱せ──

 

 レネゲイドが人生で一番集中していると、遂にアルカンカスが必殺技の【オーバードライブ】を放った──!

 

 来た……!とレネゲイドは

 

 黒い斬撃の一閃がレネゲイドに向かった。

 レネゲイドは自らの死を脊髄で感じ、跳躍して身体を逸らし技の直撃を回避した。

 

 黒い斬撃は轟音を奏でながら、部屋の半分を斬り、ビルを斬り、そして空に浮かんでいる大きな白い雲を真っ二つに斬り裂いた。

 

 これがヴァンガード様の必殺技……!もし当たっていたら凄惨な最後を迎えていた、とレネゲイドは冷や汗を流しゾッとするが、躱したのならば恐れる物は何もない。

 

「これで…俺の勝ちだ!!」

 

 レネゲイドはそう言って空中で身体を左に高速回転させながらライトブレードを向けてアルカンカス目掛けて落ちていく。

 

 レネゲイドは彼自身の必殺技、紫電回転斬を放った。

 高速回転しながら対象に突撃し、敵をミンチになるまで切り刻む、彼の得意技だった。

 自分を討ち損じたアルカンカスにもはや勝機はない、最後に奴はどんな顔をしているか確かめるベく、一瞬だけ彼の顔を見た。

 

「は?」

 

 しかし、レネゲイドは困惑した。

 そして恐怖した。

 

 アルカンカスは、笑っていた。

 歯茎と白い歯をむき出しにした、邪気に満ち溢れた、相手を心底馬鹿にしたような下卑た笑い方をしながら。

 まるで甘い蜜に誘われた昆虫を捕まえた子供のように、笑いながらアルカンカスは先程の逆手持ちとは違い、両手持ちでライトブレードを構え、

 

「オーバードライブ」

 

 二撃目の必殺技をレネゲイドに放った。

 

 

 

 

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