「死ねや鉄クズ野郎が!」
弾丸、ビーム、ミサイル、グレネード、ありとあらゆる近代兵器をバカスカと撃ちまくり、辺りは阿鼻叫喚と化す。
轟音と火花の光と火薬の匂いが立ち込め、壁には穴が空き、土煙が立つ。
壁や柱にはヒビが入り、モニター、窓ガラスは粉々に砕け散った。
「ゾンビ野郎にそんなこと言われたくないよォ!」
生きる武器庫とでも言うべき量の銃火器で雑草に狙いを付けて撃ち続けていたが、雑草は中指を立てながら人間の身体では到底出来ないような速さと動きで逃げ回っていた。
まるで猿や鳥のように壁や天井を伝って縦横無尽に駆けて俺の銃撃を避け、なかなか奴を仕留めることが出来ない。
逃げるだけでなく、奴も手持ちの銃で俺を撃ってきていた。
金の大型拳銃というなんとも趣味の悪い成金野郎が好みそうな武器で俺を狙っている。
俺はそれを避けながら奴に向けて銃弾を打ち込もうとしているため、当てづらい。
しかし、時たま弾丸が奴に当たってはいた。
いたのだが、弾丸は雑草の身体を貫くことは叶わなかった。
奴の肌は人間の血が流れる生きた肉ではなく、血が通わない冷たく硬い鋼の如き肌がそれを弾いていた。
このままじゃこっちの方が先に弾丸が尽きる。
奴の動きをどうにか止めて奴に効く弾をぶち込んでやらないと。
俺はそう決めると、バイザーを使って奴の使っているマシンを解析し始めた。
赤いバイザーが一際強く光り、奴の身体をスキャンし始める。
「そんなちんたらやってて大丈夫!?そのうち殺しちゃうよ~!?」
「言ってろよ!俺を殺せると本気で思ってんならなァ!」
雑草は愉快そうに笑いながらバク転して俺の銃撃を躱し続ける。
せいぜい笑ってろ、その余裕そうなツラを絶望一色に塗り替えてやる。
『解析完了。アルバアム・セスペドの使用パーツはソブレリフレクシオン、ギャンベディアキレです』
雑草のあの超人的な動きを可能としているのは動体視力、主に反射神経を大幅に強化出来る神経系のパーツ、ソブレリフレクシオン、そして空まで高く飛べる出力とそれに耐えうる頑丈な作りの脚部パーツ、ギャンベディアキレの組み合わせによるモノであると解析結果が表示される。
『推奨。貴方が使用すべき装備は電磁パルスグレネード、そして超強化マグナム、スカルクラッシャーです』
奴への対抗策をAIコンピューターが提示した。
雑草の身体は外面は人間だが中身は全部機械のロボット野郎だ。
電磁パルス、EMPグレネードで奴を無力化し、そこでゼロ距離で奴の頭に俺のお気に入りアイテムの一つ、スカルクラッシャーで奴の頭を吹き飛ばす。
これで奴のおしゃべりなうるさい口も永遠に黙らせる事が出来る。
俺はEMPグレネードを雑草に向けて投げた。
強化スーツのおかげもあって勢い良く飛び、奴の眼前まで到達した。
雑草はそれを避け、俺に銃を向けた。
「とりあえずその邪魔なコスチューム引っ剥がして恥ずかしがり屋さんの顔を拝んでやろう!」
雑草はそう言って笑顔で俺に引き金を引こうとした。
だが俺は回避をせずにその場に留まった。
俺が逃げないのを見て、雑草はすぐに後ろを振り向く。
だがもう遅い。
EMPグレネードは既に起動し、青白い電撃を放ちながら雑草を巻き込んだ。
「ギャアッ!?」
雑草は間抜けな声を上げながら地面に受け身を取らずに無様に転がる。
身体が機能不全を起こしながら痙攣させ、芋虫みたいに身を捩るだけで満足に体を動かせていなかった。
「お!幼虫さん発見!今のうちに殺しちゃお〜っと!」
俺は意気揚々と勇んで奴にスキップしながら近づき、銃口を奴の頭に向けて容赦なく6発全弾撃ち放つ。
スカルクラッシャーの爆発音とも似た銃声を発しながら奴の頭が銃の名前通りに頭蓋と脳漿が吹き飛んだ。
どうやら脳味噌だけはちゃんと人間だったのかピンク色のプルプルしたお肉が地面に散らばる。
「WOW!やっぱり銃はチマチマ撃つよりド派手に吹き飛ばす方が気持ちがいいぜ!なぁ雑草クンよぉ!」
俺はそう言って雑草にアンサーを投げかけたが、脳みそを失って痙攣するだけの鉄クズはもはや俺に言葉を返さなかった。
「…マジで死んだの?」
俺は雑草の遺体に近づき、膝を折ってしゃがみながら観察した。
頭を失った身体は最初はビクビクと魚みたいに動いていたものの、時間経過により既に身体は動いておらず、何度見ても確実に死んでいる。
「……あ〜、そっかぁ殺しちまったか」
俺はため息を吐き出して立ち上がる。
コイツにはまだ聞きたい事があった。
だが死んでしまってはもうその願いが叶うこともない。
人を殺すのは慣れたものだが、いくら極悪非道の悪人と言えどそいつの娘に会い会話をし、懐かれていたのにその父親を殺したという事実はいくら殺し慣れていたとしても後味が悪いものだ。
俺はもう一度雑草の死体を確認する。
「……なんだ?何か様子が……」
俺は雑草の死体に違和感を感じた。
奴の身体にノイズが走っているのが見えた気がした。
生身の肉体にノイズが発生するという異常事態を今気づいた時点で、俺は自分が馬鹿をやった事を理解した。
ドンッ!と俺の頭に衝撃が伝わり、俺は片膝を着く。
頭だけではなく、背中、脚にも何かで殴られたような衝撃を受ける。
撃たれた。
しかもただの銃じゃない、俺のアトラクナキアの装甲を剥す程の威力だ。
黒い装甲が、バギャン!ズギィン!と形容しがたい金属が破壊される音を立てながら破壊されていく。
「なん……!?」
俺は振り返ると、そこには両手で大型の銃を持つ雑草の姿があった。
奴はニヤニヤとムカつく顔で笑って俺を見ていた。
「ハセベ・コープのコクリューマーク34だ。これ一つでドラゴンの鱗を剥せるほどの威力を持つ恐ろしい銃だよ。今日の技術革新は凄いよね。魔法と剣でなんとか倒せてた魔物や悪魔、魔人なんかも、今や銃と機械の力で楽に擂り潰せる!ン~この美しいフォルム、私だぁい好き!笑」
奴がうっとりしている間に俺は立ち上がりスカルクラッシャーを向けようとしたが、雑草は間髪入れずに全弾を俺に撃ち続けた。
「ぐっ!がっ!?」
「サビター、気を抜いちゃあだめだよ。こんななよっとした私でも結構強いんだよ?それにしても映像型デコイで簡単に騙されちゃって。君ホントにあのニーニルハインツのギルドメンバー?」
「あっ、元か」と雑草は要らねぇ補足情報を付けたしながら思い出すようにハッとした顔で言う。
俺は両手と両膝を着き、痛みと衝撃で「うぅ~」と唸って蹲りながら奴を睨む。
「形勢逆転だね。さっきは私が這いつくばってたけど今は君の番だ。やっぱり順番は変わんないといけないよ。片方ばかり負担してたら不公平だ」
雑草はそう言ってまた俺に銃を向けて撃った。
コクリューマーク34、分かりやすく言えばバカでかい超強化型のショットガンで撃たれた俺はほとんどスーツの鎧が剥がれ落ち、もはや機能を維持できないほど壊滅的な状態だった。
俺は壊れて使えなくなったマスクを乱雑に雑草に向けて投げると、奴は片手でそれを受け止め、「くれるの!?」と嬉しそうに言った。
「ありがと。これは僕が大切な勝利のトロフィーとして保存しておくよ。それにしても……君も見ただろ?この国の人々の狂乱の姿を。皆まるで同じ顔をしていたよ。なんで私が?僕が?俺が?って。全く、滑稽だったね!ハハハハハ!」
「……昔のお前みたいにか?」
俺が膝に力を入れて立ち上がると、雑草の野郎は張り付いたような笑顔を崩さずに「知ってるんだ?」と言った。
顔は笑っているのに声は笑っていない。
分かりやすい野郎だ。
「……ずっと、ずっと妻の顔が忘れられないんだ。あの無念、苦痛、怒り、恐怖、そんなのがごちゃまぜになったようなあの顔がずっと僕の脳と魂に刻み込まれたままなんだ。その妻が僕の耳元で囁くんだよ…!復讐しろ、正義を為せ……この痛みを何も知らない国民共に思い知らせろってさ…!」
雑草は穏やかな顔をしているのに言葉に熱が籠り、取り憑かれたように捲し立てる。
「ふぅ〜ん、なるほどな」
「僕の動機に納得してくれたかい?」
俺は腕を組み、上を見上げたり下を見下げたり考えるフリをしたが、結局俺の中の回答は変わらず勝手に頷くと雑草の目を真っ直ぐ見てこう言った。
「くだらねぇ」
「…なんだと?」
俺が一言、つまらなさそうに呟くと、雑草は真顔に変わり、少し怒気の孕んだ声で聞き返した。
「くだらねぇつってんだよ。ナニが復讐しろ正義を為せだ。テメェのストレス発散でこっちゃ良い迷惑だぜ」
俺は懐から煙草を取り出し、口に咥えてライダーで火をつける。
煙を吸い込み、吐き出して煙草を指に持ち替えると、俺はそれを指代わりにして前に突き出す。
「てめぇの女がどういう風にぶっ殺されたか、お前がその後どんな人生を送ったか、そんなことは知ったこっちゃねぇし知りたくもねぇ。だがな……テメェ、いつまで被害者ヅラしてんだ?」
俺の言葉に雑草は黙ったまま睨む。
さっきまでのヘラヘラした態度は完全に消え失せ、静かに怒りを露わにしていた。
ようやくあの本心を隠すためのヘラヘラ薄ら笑いが消えた事に俺は気を良くする。
「お前、ビリオネはどうしたんだよ」
「あの子なら…屋敷で中にいるよう言っておいた。ガードマンも配置して厳重に警備してもらっている。彼女は良い子だからちゃんと私の言う事は守っているよ」
「そういうこと聞いてんじゃねぇよ。娘放っぽってテメェは今何してるのかって聞いてんだ」
「質問の意味が分からないな」
「そうか?分からないふりでもしてるのか?なら俺がはっきり言ってやるよ。テメェはいつまで目の前の大切なモンから逃げてるんだ?いつまで残った大切なモンに目ェ向けないで死んだ女のケツ追っかけてんだ?あ?」
「うるさいな……」
真顔だった雑草から苛立ちが見え始めた。
語気が強くなり、頬をピクピクと動かして鼻息が荒くなる。
やっと奴のあのクソムカつくポーカーフェイスを引き剥がす事が出来た。
俺は笑いが止まらずクツクツと葉を見せて笑みをこぼす。
「今のお前見たらテメェの奥さんも泣いて喜ぶだろうぜ?とっくに死んだ自分のムネとケツばっか追いかけてるせいで娘に向き合ってねぇってよ!」
「黙れ」
黙んねぇよ。
俺はお前にこれだけは言わないと気分が良くならねェんだからな。
「俺はな、お前みたいな半端な野郎が一番ムカつくんだよ!大切なモンがまだ残ってるくせに全部失って不幸ヅラしやがって!大事な事から逃げやがって!お前にはアイツの寂しがる顔が見えねぇのか!?そりゃそうかテメェにはとっくにおっ死んだ女しか瞼の裏にしか映ってねェもんなァ!?」
「うるせェェェェェェェェ!!!!!」
雑草は大口を開けて腹から声を出して叫び散らしながら拳銃で俺の横腹を撃ち抜いた。
コクリューマーク34ではなく、先程奴が使っていた金の自動拳銃だった。
「なんだ?そんなモンで俺は死なねぇぞ?俺の二つ名は知ってるだろ?」
俺は鼻で笑いながら言ったが、身体に違和感を抱いた。
この感覚、前にも一度味わった事があるような気がする。
一体どこで……
「おっ?」
俺は右の片膝を着いた。
足を支えることが出来なかったからだ。
身体を上手く支えられない。
力が入らない。
まるで、あの時アイツにナイフで刺された時のような──
「……セアノサスがお前に刺したのは、試作段階のナイフだった。効果は短時間しか続かないし、お前を死に至らしめるには心もとない失敗作だった」
「なる…ほどな。俺の能力を封じる薬が入った弾丸か。腰抜けにしては随分味な真似してくれるじゃねぇか……!」
雑草は拳銃を懐に仕舞いながらコクリューマーク34を両手に抱え始める。
それと同時に、俺はこの感覚の正体を思い出す。
これは、俺の能力が阻害された時と同じ不快感だ。
再生能力が機能せず、傷が塞がらず血を失い、力が零れ出て行くような、恐ろしい感覚だ。
「さしものお前も再生能力を失った状態で脳か心臓を潰されれば、確実に死ぬだろう」
「そりゃどうかな?試してみるか?本当に俺が死ぬかどうか」
俺はそう言ったが、内心めちゃくちゃ焦っていた。
え、俺この状態で頭潰されたらどうなるの?
サビター人生史上初の絶体絶命の危機なんだが!?
いや、初体験は爆弾で頭吹っ飛ばされた時か。
「お前は本当に面白くて、個性的で、胸糞悪い存在だ。ここまで的確に俺を苛立たせるとは、全く本当に、大した男だよ」
『俺』や『お前』など言葉遣いが先ほどとは違い粗雑に変わり、段々と本性をあらわにする雑草。
どうやら少しずつ本当の奴の姿が見えてきたようだ。
「そりゃどうも。減らず口が俺のチャームポイントでな……!美女にも好評なんだよ」
「俺が逃げている、腰抜け、半端者だと?何も、俺の事を知らないくせに」
「知るわけねェだろ。でもま、お前の事は少しは理解したぜ。お前は女々しいクソやろ──」
俺がすべてを言い終える前に、奴のコクリューマーク34が火を噴き、弾丸が俺の顔目掛けて襲い掛かった。
当然避けることなど出来ず、俺の顔は頭は車に轢かれるピーナッツみたいに頭を吹き飛ばされた。
俺は糸が切れた人形みたいに仰向けに倒れ、そして動かなくなった。
煙草が床に落ち、中で光っていた火が消えた。