(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第87話 何故なら

 

「おいまだか!?脱出方法はまだ浮かばねぇのかよ!?」

 

 ニーニルハインツギルド幹部、『必中』のウィローが焦りを見せながら部下に怒鳴りながら聞いていた。

 

「やめなウィロー。怒鳴っても何も解決しやしないよ」

 

 ウィローの言葉に『半神』のヘリエスタが彼を諌める。

 だが冷静さを取り戻せずに焦る彼は彼女の言葉が聞こえていないようだった。

 

「くそ、一体何が起こった!?何故俺達だけ弾き飛ばされた!?」

「俺も分からねぇ。一体何か起こってんだか。一体誰がこんな芸当を……」

 

『剛腕』のナックルが同調するように悩んだように言っていると、ウィローは「あぁ!?」と切れて彼にかかる。

 

「お前にゃ聞いてねぇよ筋肉ダルマが!どうせお前に頭脳労働は向いてねぇんだから隅っこ行って筋トレでもしとけ!」

「ああ!?んだと!?人が同意してやってんのになんだその態度はよォ!?ミンチにするぞオラ!」

 

 お互いの額と額をぶつけながら睨み合う二人。

 その二人をイアリスは唖然としながら呆れ顔で見ていた。

 緊急事態で早く解決策を打ち出さないといけないのにそれをほったらかしにして喧嘩が出来るのはもはや余裕があるのではないか、とさえ彼女は思っていた。

 

 ギルドハウスは混沌を極めていた。

 

 扉を開ければそこはいつもの街の景色ではなく、真っ暗な空間で、一度そこから出ようものなら2度と帰って来れない危険な場所に転移していたのだから。

 

 拠点たる建築物とギルドメンバー全員が次元の彼方に飛ばされるなど過去に例がないため、ギルドメンバー達は焦りと動揺を抑えられなかった。

 

「ねぇギズモ、貴方でもここから抜け出す方法はない?」

 

 イアリスがギズモに聞くが、ギズモは脚で耳を掻きながら「全くダメだね」と答えた。

 

「フログウェールと話し合った結果これは科学でも魔法でもなく錬金術という技術で作られた空間だという事がわかった。僕達の中でも錬金術に精通した人間は一人もいない。だから出れるとしたら、向こう側にいる人間からの干渉でしか方法がない」

 

 ギズモは悔しそうに言った。

 打つ手がない。

 フログウェールが脱出方法を模索するのと同時に、外の様子を知るための映像魔法でウィルヒルの様子を中継してくれているが、街は暴徒による破壊行為が行われていた。

 

 暴徒と言っても薬によって自我を奪われ、暴走した罪なき市民達だ。

 彼等を操る原因を断たなければいけないのに、自分達は何もできない。

 それが腹立たしくてしょうがないとイアリス達は感じていた。

 

「でも、向こう側にはアイツがいるもんね」

 

 ギズモはそう言って上に浮かぶ映像魔法を見る。

 そこに写っていたのは、国を混乱に陥れた元凶、雑草率いる傭兵達をたった4人で制圧した元ニーニルハインツギルドNo.2幹部、『不死身』のサビターとその新しい仲間達であった。

 

 再三言うが彼等は最新兵器で身を包んだ荒くれ者の傭兵達、そしてかつては平和維持のため剣を振るった最強の剣客集団、ゲンジの亡霊達をたった4人で制圧した。

 

 そして4人は雑草の本拠地であるグラス産業本社へと乗り込み、ビル内を制圧し、サビターは雑草、アルバアム・セスペドと戦っていた。

 

 そして、その様子を涼しげな顔で見ている男がいた。

 

「団長、サビターが勝つのを確信してるって顔してるね」

 

 ギズモがハァハァ息を荒くしながらジョニーの姿を見て言い、イアリスもまた「そうね」と同調した。

 

 サビターは如何な傷、病魔、呪いも癒す古代の秘薬、【女神の血液】を宿した不死の肉体を手に入れた人間だ。

 

 サビターを殺したいならそれは無理な話だ。

 どんな物理攻撃も、魔法も、毒も彼にとっては降り掛かる火の粉の一部に過ぎない。

 

 どれだけ滅多刺しにしようが、殴打しようが、火炙りにしようが溺死を試みようが、感電死をさせようが、酸で身体を溶かそうが、誰も彼を死に追いやる事は出来ない。

 

 そう、幹部の皆は信じて疑わずにいた。

 

「えぇっ!?」

 

 最初に声を上げたのは、『聖女』のキルラだった。

 彼女は雑草に銃で撃たれた瞬間、冷や汗を流した。

 

 彼女には一瞬の映像でサビターを致命傷に追いやることのできる成分の入った弾丸で撃たれたことを理解していた。

 

 彼女の顔に、焦りが見え始める。

 

「まずいわ……!サビターが殺されちゃうッ!」

 

 彼女の一言が、ギルド内の全員の動きを止めた。

 

「ハァ?何言ってんだキルラ。あのゴキブリ野郎が銃弾一発で死ぬわけないだろ?モーロクするにはまだ早いんじゃないか?」

 

 彼女の焦燥混じりの言葉にウィローが鼻で笑いながら言う。

 

「あれ、あれはサビターの【女神の血液】を打ち消す毒の入った弾丸だったのよ!一瞬だけど見えたわ!」

「それはホントかキルラ…?」

 

 ナックルが目に不安を宿しながらキルラに聞き返す。

 

 その次の瞬間、ドギャアン!という野太く大きな発砲音が鳴る。

 音と共に、サビターの頭が吹き飛ばされ、潰れたトマトみたいに脳髄をまき散らし、後ろに倒れた。

 

 ここまでは誰も驚かなかった。

 頭を打たれても心臓を撃たれても、サビターは必ず立ち上がって敵を倒してきた。

 それは幹部だけでなく、ニーニルハインツの一兵卒でさえ知っている。

 

 だが、彼は立ち上がらなかった。

 彼の身体はピクリとも動かず、立ち上がる事はなかった。

 

「サビター……?」

 

 ウィローが口を開けて唖然とした顔で上を見つめていた。

 他の幹部メンバー達も同様の反応をしていた。

 

「おい冗談だろ?立てよ…サビター!お前こんなところで死ぬような奴じゃないだろ!?」

「そんな……ウソでしょ?」

 

 ナックルとイアリスが目を疑いながら呟く。

 

「あ、ああ……サビター……!」

 

 キルラが涙を浮かべながら口に手を当てて目を背けた。

 ギズモとフログウェールは黙ったまま、事の成り行きを見守っていた。

 

 皆、失意に打ちのめされた。

 幹部連中、その手下達は彼の事を踏み潰しても決して死なないゴキブリ野郎だと馬鹿にしていた。

 だがそれは、彼の強さを知っているからこそだった。

 彼のしつこい生命力に鬱陶しさを感じてはいたが、彼の敵を倒すまで絶対に倒れないその姿勢がギルドの中で

 

「あり得ない……」

「殺しても死なないアイツが、まさか死ぬなんて……」

 

 ドルソイが目の前の現実を受け入れられず、顔を下に向けて俯き、ヘリエスタが無念そうに呟く。

 彼女はふとジョニーの事が気になり、彼を見た。

 彼の背中だけでは彼が何を考えているか分からず、幹部達は皆気まずそうに互いを見合った。

 

 ジョニーは一番サビターと付き合いが長く、親しかったはずだ。

 彼には悲しむ権利がある、

 だが、団長として周囲の仲間や部下の士気が下がるような真似をさせるわけにはいかない。

 

 彼女はジョニーのいる中央の円卓に近づき、彼の肩に手を置く。

 

「団長……貴方の悲しむ気持ちは理解出来る。でもそれは後だ。今は──」

 

 幹部達の中からヘリエスタが一番先にジョニーに慰めと叱責の言葉をかけようとした時、彼女は「え」と顔を引き攣らせ、足を後ろに後退させた。

 

「だ、団長……?貴方…なんで、笑ってるの……?」

 

 ヘリエスタは絶句した。

 

 何故なら、ジョニーは友の死を悲しむでもなく怒るでもなく絶望するでもなく、笑っていたのだ。

 子供がおもちゃで遊ぶ時のように、テレビの中のヒーローを羨望の眼差しで見つめるように、目を輝かせて笑っていた。

 

「団長、アンタ何笑ってんだよ!?サビターが死んだんだぞ!?」

「ふふふ……」

 

 ナックルがジョニーに近づき、怒りを隠さずに彼の目の前で叫ぶ。

 それでもジョニーは笑いを止めず、否、それどころかもっと愉快そうに笑い声を上げ始めた。

 

「ふ、ふふ……ははは……!ハハハハハ!ハーッハッハッハハッハッ!ハハ!」

 

 ジョニーは目に笑い涙を浮かべながら高らかに笑った。

 腹を抱えてくの字になるまで面白可笑しそうに笑った。

 

「お前ら…本当にアイツの事分かってないな!」

 

 涙を人差し指で拭うと、笑ってスッキリしたのか「ふう」と一呼吸置き、落ち着きを取り戻すと、「いいか」と机に腰を落として椅子替わりにして話し始めた。

 

「サビターが不死身と呼ばれ恐れられていたのは、【女神の血液】を手に入れた時からじゃない。奴が12のガキの時からだ」

「は?12の頃からって……マジかよ」

 

 ウィローが狼狽えながら言葉を返す。

 

「死なない肉体を持っているから不死身なんじゃない。どれだけ打ちのめされても自分を倒そうとする敵に血を流させ、血に這いつくばせるため、何度でも立ち上がる魂があるからこそ、アイツは不死身なんだ」

「でも、キルラの話じゃ雑草の野郎にアイツは【女神の血液】の能力を打ち消す毒の入った弾丸で撃たれて頭を吹き飛ばされたのよ?もう復活するのは……」

 

 イアリスの言葉にジョニーは「やれやれ」と大げさに両手と肩を上げ下げし、首を横に振りながら身振り手振りをすると、

 

「能力を阻害する弾で撃たれたから?頭を吹き飛ばされたから?だから奴が死ぬ?馬鹿を言え。治癒能力なんてのはおまけに過ぎん。奴の底の深さはそんなもんじゃない」

 

 そう言って椅子に座り腕を組んで顎を乗せてジョニーは映像魔法の続きを見据える。

 そこに映っているのは未だ死体のまま動かぬサビター。

 状況は絶望的なはずなのに、ジョニーはまるで微塵も彼が死んだとは感じていない、堂々とした振る舞いだった。

 

「アイツの強さは、ずっと隣に居た俺が一番知っている。アイツは憎たらしい俺のゴキブリ野郎だからな」

 

 ジョニーは足を机に音を立てて乱暴に置き、行儀の悪い恰好で言う。

 いつもの厳かで堅物のような近づきがたい雰囲気ではない。

 悪ガキのような彼の雰囲気に幹部達は皆、圧倒されながらもジョニーの言葉を信じ、お互い頷き合う。

 

 ジョニーがサビターを心の底から信じているように、自分の命を預けられる崇拝すべきギルドの長を絶対の信頼を置いている幹部やその部下達は、翳りのある顔はもはやどこにもなかった。

 

 信頼し尊敬し、敬愛する男がこれだけ言うのだ。

 ならば我々がこれ以上言う事はない。

 

 今思えば簡単な事だ、と幹部達は思い出すかのように確信した。

 

 何故なら『奴は』『彼は』『アイツは』『あの人は』『あの男は』と各々違う主語でしかし全く同じ言葉を心の中で紡ぐ。

 

 不死身のサビターだからだ、と。

 

 

 

 

 

 

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