(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第89話 壊れるまでやらいでか

 

 場所は変わり、図書室で二人の男が倒れていた。

 アルカンカスとレネゲイド、二人の内レネゲイドは絶命しているが、アルカンカスは辛うじて浅く呼吸をし、まだ死んではいなかった。

 

 背から血を流して死の淵に立っていた彼は、朧げな視界の中で一人の男の足元が見えた。黒いブーツが床をカツカツと鳴らす。

 

 アルカンカスが見えているのはその男の靴だけで、何者かを把握するには状況判断が足りないところだが、彼にはこの男が誰なのかを知っていた。

 

「クレイン……」

 

 アルカンカスは顔を上げると、かつての友の顔が見えた。

 クレインの顔は口角を上げ微笑んではいたが、彼の目はどこか哀れみを含んでおり、アルカンカスもさの目に気づき、同じように笑った。

 

「そうか、お前が迎えに来たのか。てっきり俺は骸骨の男かと思っていたぞ」

 

 アルカンカスが「早く連れていくなら連れて行け」と言って手を上に伸ばすと、クレインは「バカだな」と彼の言葉を一蹴した。

 

「お前にはまだやるべき事があるだろう?俺はそれを伝えに来ただけだ」

 

 クレインはその場に佇んだまま表情を変えず言った。

 アルカンカスは一拍置いて「何を」と声に出す。

 

「何を言っているんだ?やるべき事なんてもう無い。彼等に力を貸し、サビターは雑草の元に行かせてやった。これ以上何をする事がある?」

「約束したんだろう?ミートパイを食べてジンジャーラテを飲むと」

 

 クレインの言葉にアルカンカスは言葉を詰まらせる。

 

「後悔に生きるのはもうやめておけ。残りの時間を無駄にするだけだ」

 

 クレインの助言めいた言葉にアルカンカスはピクリと耳を動かし、鼻から息を大きく吐き出すと「お前にはお見通しか」とため息混じりに呟いた。

 

「俺の人生は失敗だらけだった。大言壮語な夢を語り、その為なら死傷者を数えきれないくらい出した。結局夢は夢で終わり挙句親友を殺した。こんな人生、これ以上生きて何の意味がある?」

「だがお前は取り返せるはずだ。あの四人と共に」

「……」

「死人が言うのもなんだが、人生はお前が考えているよりももっと長い。浮き沈みもあれば幸せな日々を享受する時も訪れる」

「俺のような人間が幸福を感じて良い訳がないだろう」

 

 身体を床に落として戻しながら、アルカンカスは自嘲気味にそう言った。

 しかしクレインは「まったく…」と呆れたように声を落とすと、アルカンカスの顔の近くにしゃがみ込み、膝の上に手を掛けて彼の顔を覗き込む。

 

「どんな悪人だろうが幸せに生きてほしい、そう思うのは親友として当然の事だろ?」

「…!」

「さて、俺はもう伝えたい事は伝えたしもう行く。いい加減辛気臭い顔はやめて、人生を進めろ。お前の人生はまだ終わっていないんだからな」

 

 そう言ってクレインはアルカンカスの元から踵を返し、歩いて行った。

 

「待て。行くな。行くんじゃない……!俺を一人にしないでくれ……俺はお前がいないと……!」

 

 声を大きくして叫ぼうとしたが、もはや彼にそこまでの力は残されておらず、かすれた声が小さく響いた。

 

「甘えた事を言うな、らしくない。お前にはもう新しい親友達がいるだろ。次に会う時はちゃんと生きた後だ。それまでは、さよならだ」

「待て!俺は、まだ……」

 

 そう言うと、クレインは霧散するように消え、アルカンカスの意識も途中で途絶えた。

 

……

 

 意識が消えてどのくらいの時間が経ったのか、数秒、数分、或いは数時間、アルカンカスの耳元には何者かの声が聞こえた。

 クレインとは違う、やかましい男女の声。

 

「アルカンカスさん!?大丈夫ですか!?今ポーションかけますからまだ死なないでくださいね!」

 

 一人は女の声だ。

 透き通るような聞きやすい声と、アルカンカスと同じ長さだが艶やかな黒髪の女だが、切羽詰まった様子で「早くポーションを!」ともう一人の人物を急かしていた。

 

「んー、これも違う。これも、これもこれもこれも……どこだろ……」

 

 マイペースにカバンの中からポーションを探しているのは銀髪の女の子のような姿をした少年だ。

 

 この二人はアルカンカスの仲間、アリーシアとタマリだ。

 

 アリーシアがタマリに早く早くとポーションをせがむと、ようやくタマリは「これだ」と言ってカバンから緑色の液体が入った瓶を取り出し、それをアルカンカスの背中に振り掛けた。

 

 びちゃびちゃと液体特有の音を発しながらアルカンカスの出血している背中にポーションは染み込み、緑色の淡い光を発しながら彼の背中の傷をみるみるうちに癒していく。

 

「……や、やっぱりライラさんの作ったポーションは凄いです!傷があっという間に消えました!」

 

 アリーシアは飛んで跳ねて喜び、タマリは「当然だね」と自分の手柄でもないのに自慢げに鼻を伸ばした。

 

「身体が…なんの痛みもなく動く。傷もすぐに消えた……」

 

 アルカンカスはむくりと起き上がり、首や肩や腕をぐるぐると回しながら確かめる。

 

「アルカンカスさん、無事でよかったです……!血を流した状態の貴方を発見した時は私もう気が気じゃなくて……」

「アリーシアは焦り過ぎだよ。アルカンカスみたいな筋肉戦士がかんたんに死ぬわけないじゃん」

「タマリ、貴方も貴方で慌ててポーションを探すあまり全く関係無いものをポイポイ出してたじゃないですか」

 

 アリーシアがタマリに反論すると、タマリは「やべ」と言ってそっぽを向いた。

 

「……」

 

 アルカンカスは無言で彼女等を見つめる。

 その妙な視線にアリーシアは「どうかしたんですか?」と彼の様子を伺いながら聞いた。

 

「いや、仲間というのは良いものだと、改めて思い出した。それだけだよ」

「…まだポーションの酩酊効果が抜けていないようですね」

 

 アリーシアは微笑むとすくりと立ち上がり、アルカンカスに手を差し伸ばす。

 

「さぁ、あと二人の聞かん坊の仲間を助けましょう。あの人達、一人になると本当に手がつけられないから」

 

 アリーシアがそう言って困ったように「ふふ」とはにかむと、アルカンカスも釣られて笑い、「そうだな」と言って彼女の手を掴み、一気に立ち上がる。

 

「それじゃあ、休憩時間はこれくらいにして、先に進みましょうか。サビターさんが全部美味しいところ持っていく前にね」

「おおー」

「ああ」

 

 アリーシアの言葉にアルカンカスとタマリはそれぞれ肯定の声を挙げエレベーターへと自然と体を向ける。

 

「お待ちください」

 

 何者かの声に、三人はバッと後ろを振り向き、臨戦体勢に入る。

 

「え、どゆこと?」

「何故貴方が……?」

「……」

 

 が、声の主の正体に三人全員が目を見開いて驚きの顔を見せた。

 

 

 

 

 場所は戻り、サビターとアルバアムが睨み合う。

 

「サビター……君のその力は何のデメリットもなく使える物じゃないだろう。だが君が限界を越えるなら、私もリスペクトして君と同じ土台に立ってやる。どっちが先に倒れるか……勝負といこうじゃないか」

 

 アルバアムはそう言って全身から赤い稲妻を放ち、痙攣させながらそれを押さえ込むように歯を食いしばりながら笑って言った。

 

 アルバアムの身体はサビターの特殊な弾丸を喰らいボロボロだった。

 しかし秘策があるのか、彼の闘志はまだ尽きてはいない。

 それどころかむしろ赤い稲妻の光と共に、目に狂気的な光が宿っており増幅していた。

 

「お前、身体にそんなバカみたいな負担かけてインプラント強化したら死ぬぞ?」

「そんな事考える余裕が君にはあるのかな!?今はどちらが敵をぶちのめすか、眼中にないんだよ!」

 

 アルバアムが「ハハ!」と目を見開きながら正気を失った顔で笑う。

 彼はもはや正気ではなく、サビターにギラギラとした敵意と殺意を向けていた。

 

「憎しみと愛はほぼ同じ成分で出来ているとジョニーから聞いたことあるが、まさか本当だとは思いもしなかったぜ。しつこいようだが俺からももう一度言っておこう。俺はな、セアノサスを返してくれればお前を多少痛めつけるだけで良いんだ、だからアイツ返せよ。どうだ?考えは変わらないか?」

 

 サビターは猫撫で声で両手をニギニギと揉みながら作り笑顔で言うと、アルバアムも不自然な作り笑顔で

 

「変わらねぇよぉ!?」

 

 とこめかみに青筋を作りながら笑いながら激怒する。

 サビターは「そうか」と同じような顔で言うと、

 

「んじゃあ壊れるまでぶっ殺してやるよオラァッ!!!!」

「おう!!!やらいでか!!!!」

 

 サビターが口角が三日月に見えるほどニィと歪んだように笑い、アルバアムもそれに応えるように笑い返し、二人は叫ぶなり超人的な速さで駆け出す。

 

 アルバアムがコクリューマーク34を片手で構えて狙い、乱れ撃ちした。

 片手で撃っているせいか反動が大きく腕がバネのように震えるが、機械の腕がその反動をカバーする。

 

 サビターはB.B.を両手でトリガーを引きっぱなしにしながら一発数百万の弾丸を豪華に無駄に、もったいぶらずに撃ちまくる。

 

 お互いの弾丸があられもない方向に向かい、壁を破壊し窓ガラスを割り、かと思えば真っ直ぐ標的に向かってアルバアムの鋼の機械の肉体を損傷させ、サビターの身体を引きちぎるなど、当たったり外れたりの完全に運任せの素人が撃っているのではないかと思えるほどの稚拙な射撃だった。

 

 二人共銃で仕留める気はなかった。

 

 銃で撃とうが強靭で堅牢な機械の肉体を持つ男を銃で破壊することはできない。

 超再生の治癒能力を持つ不死身の男を殺すことは出来ない。

 

「「……!」」

 

 丁度同じタイミングで、二人の持つ銃の残弾が切れた。

 カチカチカチと空しい音がするだけで、銃としての役割を果たさないとわかった途端、弾が切れたなら用済みだと言わんばかりに二人は銃をポイとおもちゃを投げる子供のように放った。

 

 銃が使えない。

 ならばどうするか。

 二人の中で既に答えは決まっていた。

 

「ぶふぉ!」

「ぐぁ!」

 

 二人はお互いの顔面を拳でぶつけて殴った。

 

 アルバアムの顔から火花と小さな金属片が散り、サビターは顔面がポップコーンみたいに吹き飛ぶ。

 

 双方後ろに倒れ込み、数秒動きが取れなくなる。

 アルバアムは不規則な動きで顔面を痙攣させながら顔面内部で自動修復し、サビターもモコモコと頭を泡が立つように再生させる。

 

 顔と頭が治り、意識が戻るとすぐに立ち上がってまたパンチを繰り出そうとお互い向き合って走り出した。

 

 殴り合い蹴り合いの応酬が続き、血と金属が飛び散る。

 拳を躱し、受け止め、時にはまともに攻撃が入り、徒手空拳の格闘というよりはお行儀の悪いチンピラ同士の殴り合いだった。

 

 アルバアムが左の顔半分をまた吹き飛ばすと、サビターは残った右の目でアルバアムを捕捉し、右手に装着した強化アームでアルバアムの鳩尾に拳を捩じ込む。

 

「ぐふぉ!?」

 

 アルバアムは一瞬空にふわりと浮き、片膝を着く。

 

「すげぇだろこの強化外骨格アーム!お前がくれた金で買ったんだぜ!ありがとよ!これでお前の身体スクラップにしてやるからな!」

 

 サビターが嬉々として語る。

 だがその次の瞬間には脚部に力を入れて翔び、サビターの顔面に頭突きをした。

 

「べひゃ!」

 

 サビターは間抜けな声を出しながらまたもや顔面を潰され、そしてまた瞬時に再生を進める。

 

「俺の2枚目フェイスの顔面ばっか狙いやがって……それなら俺はこっち狙ってやるよ!」

 

 そう言ってサビターは股の間、つまり金的を狙い、脚を上に打ち込む。

 

「……」

 

 アルバアムは金的をされた。

 しかし苦悶の表情や激痛による気絶などは一切せず、無表情のまま見つめ合う。

 

「……」

「……」

 

 暫しの見つめ合いに、沈黙が流れる。

 そして、

 

「残念だけど、もう取っちゃった」

「え?玉を?」

「玉を。身体はほぼロボットだからね」

「……マジかよ」

 

 サビターは絶句し瞼と口元をピクピクさせながら唖然とする。

 

「だからタマキン攻撃は効きませェェェェん!!!」

 

 そう言って手でバッテン印を作りながら今度はアルバアムがサビターの股ぐらに脚で金的攻撃を繰り出した。

 

「いでぇあぁぁだぁぁぁぁァ〜!?」

 

 アルバアムの金属製の脚で膂力も人間の比にならない一撃に、サビターの睾丸は完全に粉砕され、汗と涙と鼻水を垂らしながら激しく悶絶する。

 

「やっぱり人間は弱点だらけだよねぇ。特に男。股間に弱点丸出しの玉二つぶら下げるなんて、神様はとんだ失敗作を作ったもんだ」

 

 アルバアムは「アオ!」と股間を抑えてわざとらしい声で叫ぶ。

 サビターは痛みで転げ回りながら痛みを逃して苦し気に立ち上がる。

 

「随分と人間の身体を下に見てるんだな。改造手術のし過ぎで人間性まで去勢しちまったのか?」

 

 サビターが冷や汗を流しながら無理やり余裕ぶった顔で言う。

 

「十年前から人間性は消えてしまったよ。残ったのは憎悪と復讐心だけだ。それだけが私を今も冷たい金属の心臓を動かしている」

「恨みつらみでいっぱいで娘の事は忘れちまったか?バカで哀れな野郎だ。報復なんかに人生棒に振るいやがって」

「君は…本当にウザいね。君には関係ない事だろう?何故そこまでつっかかる?」

 

 アルバアムがイラつきながら目を細めて聞くと、サビターは「なんでってそりゃあ」と明後日の方向へと目を向けて呟く。

 

「俺はアイツと関わっちまったからな。同じ食いモン食って喧嘩もして、おまけに誕生日パーティーまで行っちまったら…それなりにダチにはなったも同然だろ?」

 

 サビターはそう言って股間を手でもぞもぞと撫でながら「おーいて」と顔を歪めて言う。

 

「まぁそれもあるが、俺お前にさっきも言ったよな?お前みたいな大切なモンがまだ残ってるクセにいつまでも悲劇の主人公ヅラしてる奴みるとぶん殴りたくてたまらなくなるってよ」

 

 サビターはその言葉と共に少し破れたズボンのポケットに手を入れ、棒型のスイッチを取り出す。

 

「今から俺がお前に10年物の後ろ向きの人生を更生させる特別レクチャーをしてやるよ」

 

 サビターほそう言うとスイッチを親指でカチッと音を立てて押した。

 

「ッ!?!?」

 

 押した瞬間、アルバアムは立つ事が出来なくなる程の電撃を喰らい、身体がまともに機能しなくなる。

 

「人間はお前みたいなサイボーグ野郎と違って苦痛と困難から活路を見出す。お前俺を殴る事に集中し過ぎて俺の便利アイテムくっつけられてたのに気づかなかっただろ?」

「何を……何をした……!?」

「マグネットを付けただけだ。サイボーグ野郎が喰らうとオーバーロードしそうになる程危険なウイルスが入っただけだけどな。あ、安心しろよ。人間に害はねぇから」

 

 手に持ったスイッチを宙に投げてキャッチして弄びながら「くかかか」と独特な笑い方をした。

 

「ちょっとしたおもちゃを使ったくらいで、私が倒れるとでも?」

「倒れちゃ困るぜ。まだ俺のレッスンが残ってるんだからな。ほら、やるぞ。まだ殴り足りねぇんだ!」

 

 サビターは「カモンカモン!」と言って手をクイックイッ!と動かして手招きしながら煽る。

 アルバアムはサビターのそんな安い挑発に乗っかり「あああああ!」と気合を入れて立ち上がり、殴り掛かった。

 

 サビターはアルバアムの右の大振りのパンチを左手で受け止めながら右のフックでアルバアムの顔面を殴る。

 

「どーしたぁ?もう疲れたか?おねむの時間か?」

 

 サビターは殴った後すぐにアルバアムの胸倉を掴み、彼の腹、脇を複数回殴る。

 アルバアムは意識を失いかけるが、気力だけで持ち直し、再度頭突きをしようと頭を後ろに動かし。前へと持っていく。

 が、

 

「同じ手は喰わねぇよバカが!」

 

 サビターは迫り来る頭突きを拳で殴って相殺し、アルバアムは地面へと突っ伏す。

 

「く…そ……が……!!」

 

 アルバアムは頭から赤い血を流す。

 身体は肌の奥から内部の銀色の金属が見え、配線がちらりと見える。

 既に彼の身体はボロボロで、これ以上戦いを続けることは困難だった。

 

「そろそろ限界みてぇだな。勝者!サビター選手!不幸ヅラばかりしている一児の父親に余裕の勝利!」

 

 サビターは頭の中でゴングの甲高い鐘の音を鳴らしながら両腕を上げながら勝利宣言をし、歓声に包まれる妄想をした。

 

 立ち上がれず仰向けで寝ているアルバアムを見下ろすと彼の懐から何か四角い箱を発見し、サビターそれを奪って手に持って見つめる。

 

「なんだこれ?ルービックキューブか?」

 

 サビターは呟きながら四角い箱を縦横左右と動かそうとする。

 しかし全く動く気配のない箱に次第にイラつきはじめる。

 

「……」

 

 なおもサビターは動かそうとするが、箱はまるで彼の意思とは正反対に動こうとはしない。

 段々と彼の眉間の皺が多くなっていく。

 

「キキ……!ウキィィィィィィィ!!!」

 

 サビターは猿のような甲高い声を出して箱を勢い良く地面に叩きつけた。

 箱は衝撃に耐えられず、がしゃりと音を立てて壊れた。

 

「クソッ!これだから頭使うおもちゃは嫌いなんだ!」

 

 サビターは鼻息を荒くさせながら血走った目で文句を言った。

 

 箱の中から青白い光が漏れ出て、そしてすぐに消えて行ったが、完全に興味を失ったサビターは「屁か?」と呟いて直ぐに見向きもしなくなった。

 

「お、俺は……まだ……!!」

 

 アルバアムが意識がぼんやりとしつつもまだ敗北を認めずに立ち上がろうと膝に力を入れた。

 

「なんだよ、やんのか?ガッツがあるのは良いことだがあまりしつこいのも良くないんだぜ?」

 

 サビターは困ったように鼻でため息を吐く。

 

「そんだけ根性あんなら、テメェとテメェの娘の人生取り戻すくらい簡単に出来ただろ。なんで復讐なんかにエネルギー向けちまったんだ?」

「お前には分からないだろっ……!自分の愛する女が無惨に殺され、未来を奪われた悲しみと怒りが……!」

 

 アルバアムが声を荒げて叫んだ。

 崩壊した最上階の部屋にアルバアムの怒声が響き渡る。

 

「犯人を殺しても、金を山のように稼いでも、何をしても満たされない。俺はこんなにも虚しくて悲しいのに、この国の人間は愛する人間と共に過ごす幸福を享受している。俺にはそれがどうしても許せなかった!何故俺だけがこんな目に合わなけれはならない!?」

 

 アルバアムの独白に、サビターはこれまでにない怒りの感情を出した表情でアルバアムの胸倉を掴んだ。

 

「俺俺俺俺ってふざけんじゃねぇぞ。テメェはもう自分一人のわがままで周り引っ掻き回せる身分じゃねぇんだよ。ガキがいるんならソイツ守るために必死にならなきゃいけねぇんだよ」

 

 サビターは真剣な表情になりながらアルバアムの目を貫くように見据える。

 

「ガキはなぁ、親に見てもらえねぇのがスゲェ不安なんだぞ!?それにガキってのは見た目や年齢程バカじゃねぇ、お前が隠し事してる事くらい気づいてんだよ!」

 

 サビターは普段のふざけた言動や行動とは違う、純粋な怒りだけで話していた。

 

「ビリオネが……そんな事、知ってるはずないだろ……!」

「テメェはちゃんと見てねぇかもしんねぇが、ガキはちゃんと親の事見てんだよ。一挙手一投足、ちゃんと見てんだよ。テメェがそんなだから、ビリオネはもう正道は歩めねえ……!」

 

 サビターは口元をキュッと締めながら苦渋を舐めたような表情になると、右の空いている拳を握り締め、アルバアムを殴ろうとする。

 

「いくら言ってもテメェは理解しねぇだろうから、頭かち割って出てきた脳みそに直接怒鳴りつけてやるよ。それなら流石に分かってくれるだろ?」

 

 そう言ってサビターは腕を後ろに動かし、勢いをつける。

 

「やめて!!」

 

 殴ろうとしたその次の瞬間、甲高い女の声がサビターの拳を止め、それがアルバアムの眼前に止まる。

 

「は……?なんでここにいるんだ……?」

 

 アルバアムは呆然とした声と表情で声のした方へ顔を向ける。

 

 そこにいたのは、アルバアムの娘、ビリオネ・セスペド、そしてアリーシア、タマリ、アルカンカス、セアノサスであった。

 

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