冒険者なんて危険な稼業やってると、死が身近にありすぎてたまに感覚がマヒする時がある。
そもそも俺は死なないから余計死生観がおかしくなっている気がするが、死について考えがおかしくなっているのは俺だけではない。
ニーニルハインツギルドの仲間達もそうだった。
アイツ等は親から捨てられたり、犯罪者だったり、何らかの理由で迫害された奴等が吸い寄せられるようにギルドに集まり、命をファストフードみたいに消費していく。
死因は多種多様で、魔物や敵国の傭兵、魔人なんかに殺されるのが冒険者の常だ。
ニーニルハインツギルドは国一番の最強ギルドだが、それでも冒険者の出入りは激しかった。
何故なら一番強ぇから頼られるし、強ぇからもっと強ぇ敵と戦う。
だから新人だろうが下っ端だろうが幹部だろうが、死人は常に出る。
俺の目の前で死んだ奴、話だけで聞いた奴、書面だけで見た奴を何十人、何百人もこの目と耳で見て聞いてきた。
だが奇妙な事に、俺の目の前で死んだ仲間の顔は満たされたようなツラした奴等ばかりだった。
俺は死んだ事が無ぇから分からないが、どいつもこいつも何故やり遂げたような顔で死んでいくのが分からなかった。
俺も不死身じゃなくなって、一つしかない命となった時に戦いの中で命を落としたのなら、アイツ等の考えていたことが分かるのだろうか。
そんなことを俺はこんな時に考えていた。
「ヒッ!ヒッヒッヒッヒッヒッヒ!」
「アハハハハハハハハハハハハハ!」
「プクク…プヒャヒャヒャヒャヒャ!」
このロクデナシ共に散々貶されている最中に。
今俺は顔の至る所にコメカミがビキビキと浮かび上がる程ムカついていた。
このカス共は人をバカにすることしか頭にないのだろうか。
頭に血が上り過ぎて頭部が爆発四散しそうになるほどマジでキレていた。
だが俺は目の前の金髪スカシクソ野郎の化け物を目の前にしてステゴロで勝てるとは思っていなかったため己の殺意を隅に無理やり追いやって蓋をするしかなかった。
「どうしたサビター?ピージャのような不細工な顔をして。まさか、怒っているのか?」
ジョニーは首を傾げて疑問を抱いたような顔で俺の顔を覗いて来た。
コイツ、俺が今何考えているのか全て分かった上でとぼけた顔してやがる。
今すぐコイツのタマキンを蹴り上げ、顔を踏んづけて小便を引っかけてやりたい。
だが股間を蹴り上げようものなら、この野郎はさっきの原子回斬とかいうクッソ恐ろしい技で俺の玉と竿を消し去り、去勢してカマホモ野郎にしてしまうだろう。
「おこ、おこってないよ」
俺は怒りが90%、そして10%の笑顔で答えて見せた。
「そうか、どうやらドッキリを仕掛けられて喜んでいるようだ。よかったよかった」
よくねぇよボケ!今すぐテメェの子孫繁栄装置破壊してこの国の未来も破壊してやろうか!?
と言いたかったが俺は我慢した。
何故なら破壊されるのは俺の子孫繁栄装置なのだから。
「あ、あへぇ……」
ミサイルを撃った傭兵は撃った事自体に満足したのか恍惚とした表情で余韻に浸っていた。
「よのなかにはいろんなへんたいがいるもんだ」
タマリは感心しながらそう言った。
こんな変態何人もいてたまるかよ。
「くそ……!どいつもこいつも役に立たん奴等だ!」
ムノーネが地団駄を踏んで苛立ちながら叫んだ。
「お前、男だろ。テメェの始末くらいテメェでつけたらどうだ?」
俺が呆れながらもそう言うと、ムノーネは「黙れ!」と言って俺の言葉を聞こうとしなかった。
「もう一度!もう一度一斉掃射しろ!今度は奴等の仲間もろとも全員巻き込むんだ!」
ムノーネの言葉に、傭兵達は「はっ」と言って従い、銃を俺達に向け始めた。
しかし、銃声は鳴らない。
「……?なんだ?なにをしている!?早く撃て!」
ムノーネが振り向き傭兵達を見ると、傭兵達は澄んだ少年のような綺麗な瞳をしながら逆にムノーネを見つめていた。
「ムノーネさん、銃が、銃がありません」
「何を言っている……?銃なら今までお前達が持っていただろ……う!?」
ムノーネがそう言って傭兵達の手や胸を見ると、彼等が抱えていた重火器がすべて消えていた。
まるで最初から無かったかのように。
「消えました……」
「消えた……」
「消えちゃった……」
「ふぇぇ……ぼくのじゅーはどこぉ……?」
傭兵達は呆然としたり、現実を受け入れられなかったり、幼児退行したり、じゅぽじゅぽと親指を吸っている傭兵達で溢れかえっていた。
確かに奴等の言う通り、彼等が手に持っていた銃は消えていた。
全員分姿形もない。
まさか……
「原子回斬を貴様等の武器だけに飛ばして武器を破壊した。これで俺達を撃とうとは思うまい」
ジョニーは「ふぅ」と息を吐き、剣を軽く下に振るった。
「あの存在ごと消すような技を任意の場所に飛ばすとかお前なんでもありかよ。いよいよ人間辞めてるだろ。アルカンカス、お前アレできるか?」
「できるわけないだろう。俺をあんなのと比べるな」
「サビター、お前にだけは人間を辞めているとは言われたくない。今はそんなことより……」
ジョニーは首をゆっくりとムノーネ達に向ける。
ギラリと奴の目が光り、ムノーネと傭兵達を萎縮させた。
「俺は基本的に最強だから、いついかなる時でも戦いを受け付けてやる。だが……」
ジョニーの目が細く鋭くなり、凄まじい剣気を放ちながら剣チャキ…と音を立てて刃を見せる。
「
剣を正眼の位置まで向け、剣気を乗せてジョニーは凄むように言った。
「ひ、ひぃ……!」
ムノーネは歯をガチガチと鳴らしながら激しく痙攣し、眼球を収縮させながら不規則に呼吸が荒くなり、そして過呼吸で気絶した。
傭兵達もまた似たようなものだった。
悲鳴を上げたり発狂したり静かに気絶したり、様々だがそれぞれジョニーの剣気に圧倒されて耐え切れず意識を失ってしまった。
「少し怒っただけだが、そんなに俺の顔は怖いのか……」
ジョニーは少し悲しそうな顔で呟いた。
「お前の顔なんざ怖くないわ。怖いのはお前のその化け物みたいな魔力と剣気だよ。そもそも剣気ってなんだよ」
「剣気は剣気だ。まぁ、気合……みたいなものか」
「お前も大して知らねぇのかよ」
コイツも俺ほどじゃないが随分とその場しのぎな生き方をしているな、と俺は内心呟いた。
「これだけ逮捕者が居ると牢屋がいっぱいになってしまうな。どうしたものか……」
「何人かぶっ殺すか?」
「いや、やめろ。コイツ等はちゃんと裁判にかけて裁く。でないと不公平だ」
「あの今凄い物騒な事言っていた人がいるんですけど」
アリーシアが何か言っていたが俺は気にしない。
ジョニーも気にしない。
「サビター、あまりそういった過激な事を言うのはやめろ」
「気にしてんのかよ!?なんなんだコイツ……!」
アリーシアが指摘したせいかしらんが冗談で言っただけなのになんで俺がここまで言われなければいけないんだ。
理不尽だろこんなの。
「彼等を連れて行く前に、私を先にしてくれないか」
アルバアムが間に入るように言って来た。
両手を差し出し、縄に付くポーズを取っていた。
「抵抗せずに拘束させてもらって助かる。大体が気絶しているか殺して死体袋に詰めるかしかないんでな。自分で歩いて牢屋に入ってもらえるとこちらとしても楽だ」
「どっちにしろぶっそうだね。ニーニルハインツっていっつもこうなの?」
「当たり前だろ。力しか取り柄のない野蛮人の巣窟だぞ。ソイツ等束ねる団長なんぞ一番頭おかしいに決まってるだろうが」
「サビター、あまり調子に乗ると先にお前を牢屋に入れるぞ」
ニーニルハインツギルド最高!ニーニルハインツギルド最高!オラッ、テメェ等もニーニルハインツギルド最高!と叫びなさい!」
「このくずやろう」
俺が涎を垂らして焦点の合っていない目で半狂乱で自分の所属していたギルドを称賛していると、アルバアムの隣にビリオネが並んできた。
「まだ、手錠はあります?」
ビリオネが、儚げな表情でジョニーに微笑みかけて聞いて来た。
「…あいにく子供にかける手錠は持っていなくてな。連行するのは難しそうだ」
ジョニーはわざとそう言ってビリオネを突き放すような言葉を並べる。
ガキを逮捕する気分じゃないだろうが、ビリオネは「そうですか」と言うが、アルバアムの隣を離れなかった。
「なら、そちらのギルドに行って私のサイズに合う手錠を探さないとですわね」
ビリオネはそう言って譲らなかった。
ジョニーも彼女の態度と意図を理解し一瞬眼を瞑り、困ったような顔をしながら「そうだな」とだけ言って彼女の腕と比べて一回り大きい手錠をかけ、その後にアルバアムにもかけた。
「これで、よかったのかいビリオネ?」
「ええ、私がそうしたいから。そうしなければならないと思ったから。だからこれでいいんです」
そう言ってビリオネは笑った。
彼女の顔にもはや迷いはなく、澄み切った気持ちのいい顔をしていた。
その顔を見たアルバアムは、一度だけ悲しそうなやるせなさそうな顔をしながらも、それ以上は何も言わず否定も肯定の言葉を漏らさなかった。
「私もお縄に付いてよろしいですかな?」
ビリオネの執事、ビフがジョニーに声を掛けた。
「ええ?ビフ?貴方まで私達と一緒に行く必要は……」
「王が統治する国で国家転覆罪を侵した方達の執事ですよ。捕まえない理由がございましょうか」
「ビフ……」
アルバアムは何か言おうとしたが、ビフは手で彼の言葉を制止した。
「私の名前はビフなんてつまらない名前ではありませんよ」
そう言ってビフ鼻で笑って意味深な笑みを浮かべる。
ビフの言葉にアルバアムとビリオネはお互い見合うと、吹き出して笑い合う。
「そうだな。セバスチャン。お前は大罪を犯した主人の執事だからな。お前も来るか」
「そうですわよステッペンウルフ。ちゃっかりパパの計画を知ってる上で私に黙ってたんですから貴方も同罪ですわよ」
そう言ってアルバアムとビリオネはビフを自分達の方へと引き込み、3人は両手に手錠をかけられた。
この先アイツ等はどんな結末を迎えるかは分からないが、少なくとも奴らの顔はこれ以上ない程明るく、満たされた顔をしていた。
だから例えどのような罪を課せられても、アイツ等はちゃんと受け入れるはずだ。
そして罪を受け入れて生きる事を決めた奴等を、神はあまり悪いようにはしないはずだ。
まぁ、神なんてのがいればの話だがな。
「じゃあ次はサビターさんですね」
アリーシアが唐突に変なことを言ってきた。
「は?何が?」
「つぎにわっぱをはめられるやつのことだよ」
タマリが追撃するように口を挟む。
「は!?なんで俺なんだよ!?」
「だって、サビターさん麻薬ポーションなんて違法な物売ってたじゃないですか。知ってます?麻薬ポーションを精製、販売は禁固50年、もしくは死刑なんですよ?」
「お前等も手伝ってだだろうが。お前等も同罪だぞ」
「ぼくたちはむりやり従わされたんだ。いやだって言ったのに!」
「全くだ。俺は雑用をやらされた。何もしていないのに」
タマリとアルカンカスは共謀して被害者ヅラをかましながら涙と鼻水を啜る下手な演技で俺を陥れようとした。
「テメェは食い逃げ図ろうとした上店破壊しただろうが!与太こくんじゃねぇぞ!」
「私は…彼にセクハラをされた。しかも夜に無理やり彼に襲われそうに……」
「お前から求めてきたんだろ!?女だからってなんでも思い通りに行くと思うなよ!?」
どいつもこいつも俺をハメようと適当言いやがる。
セアノサスに至っては完全に事実を歪曲して伝えていてめちゃくちゃ悪質だ。
「そうか。手錠はもうひとつあるがどうしたものか……」
しまった、コイツまであのクソミソ共と同調して乗っかってきやがった。
もしかしたらマジでこんなふざけたノリで逮捕されるかもしれないといった恐怖感で頭がいっぱいになり、どうしたものかと俺は右往左往していると、
「やあやあサビターくん。君も一緒にどうだい?一緒に臭い飯を食おうじゃないか!」
「ざけんなぁ!誰がお前らなんぞと牢屋飯なんざ食うか!あそこのメシはマジでクソ──」
俺がこの国のムショのメシが如何に不味いか語ろうとした時、俺は自分の身体の中の違和感に気づき、言葉を途中で止めた。
「?サビター?どうしたの?」
セアノサスが俺の顔を覗きながら疑問の言葉を口にしたが、俺は彼女の言葉に返答できないほど、俺の身体の中で異変が起こっていた。
「げぼッ!」
その時、俺の口から大量の血が溢れ、地面に零した。