(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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連続投稿です。次回100話となります。もうそんな数になるんですね。書いてる本人がめちゃくちゃ驚きです。100話にもなるのにいつまで戦ってんだコイツら……と思う方もいるとは思いますがどうかお付き合いください。雑草編(おそらく)次回、最終回です。


第99話 死神すらもドン引きだ②

 

「だがいざ蓋を開けてみればお前のギルドも俺の店も、入ってくる奴は皆クソを煮詰めたような強烈な奴ばかりで俺にちょっかいだすわウザがらみするわあったかくなるどころか暑苦しいのなんのって。でもまぁ、おかげで寒い思いはずっとしてこなかったけどな。お前らと一緒に過ごす日々は、最高に騒がしくて楽しかったぜ」

 

 俺は息を大きく吸って吐く。

 シラフや平常時じゃ絶対言えないが、今俺は死に向かっているんだ、これくらいは言ってもいいだろう。

 

 それに死ぬ瞬間には場所やタイミングも重要だ。

 これ以上無駄に喋っていると、死神が退屈そうに鎌を肩に背負ってうんこ座りして「早く死なねーかなコイツ」なんて呟いてる錯覚が見える。

 

 そしてあろうことか左腕に右の人差し指をトントンと何回も突きながら時間の催促をしていた。

 おそらく「こっちの時間がないからさっさと死んでくれ」とでも言いたげな迫真の動きなせいか、嫌に鮮明に見えるな。

 

 というか腕時計なんて付けてないくせにあんな大げさなジェスチャーをしている姿を見ていたらなんだかムカついてきたな。

 なんで俺があんなひょろがりドクロなんかの都合に合わせて死ななきゃいけないんだ?

 

 俺はそう心の中で毒づくと今いる仲間達の顔を目に焼き付けるようにじっくりと見た。

 

「面と面とで直接言うのはすげぇ恥ずかしかったが、今なら言える。金髪の剣の化け物とその個性溢れる手下達、そんでスイーツ屋にバイトとして来た女拳法家とチビの魔法使い、筋肉ゴリラの剣士に泣き虫の錬金術士、言う事為す事てんでバラバラで協調性の欠片も無い」

「なんで貴方は最後まで私達をバカにするんですか…?最後くらい良い事言ってくださいよ……!」

「サビターのバカ!いじわる!」

「本ッ当にそう……!なんであなたっていつもそう捻くれたことを……」

「まぁサビターらしくていいんじゃないか」

 

 女拳法家とチビ魔法使いと筋肉ゴリラの剣士と泣き虫錬金術士が何か言っていたが、まだ俺の言いたいことは終わっていない。

 このままだと印象最悪なまま死ぬことになるからそれは避けなきゃな。

 

「そんな破綻した奴等でも、集まって同じ時間を過ごせば仲間…いや家族になれるって事が分かった。そんで、そんな家族に看取られて死ねる…こんな贅沢でイイ死に方できるのは俺のろくでもない人生の中でも一番最高な瞬間だ。それを作ってくれて、ありがとうよ……」

 

 俺はそう言って右腕を上に上げる。

 俺の意図は伝わったのかセアノサス、アリーシア、タマリ、アルカンカスの四人が俺の手を掴み、固く握手を交わした。

 

「あー、今度こそ死ぬわ。なんか身体が一気に寒くなって来た。嫌な感覚だぜ」

 

 俺の言葉に四人は更に両手で俺の手を握り締めた。

 本当に死期が近い。

 死神もようやくかとうんこ座りから腰を持ち上げ、鎌を持ち直した。

 

「良い人生だった。そんで良い死に方だった。本当に、本当に……」

 

 俺はそう言うと、全身の力を脱力させた。

 自発的にではなく、強制的に、身体を制御する力が消え去った。

 俺は腕に乗せていた力の全てを無くし、俺の腕が糸の切れた人形みたいに腕の強弱がなくなった事に気づいた四人はそれぞれ涙を流したり、嗚咽を零したり、眼を瞑って祈りを捧げたりなど、皆それぞれの別の方法で、俺の死を悼んだ。

 

「サビター、サビター……!」

 

 セアノサスは俺の手を握りながらそっと俺の顔に自身の顔を近づけ、俺の口に彼女の唇をそっと添えるように口づけをした。

 

「また、起きて私をバカにしてください……」

 

 セアノサスの祈りにも似た言葉は、俺に届くことはなく、長い沈黙が続いた。

 皆が俺の死を確認し、感じ取り、アリーシアは俺の頭を床に乗せ、タマリはとんがり帽子を目深く被り直し、アルカンカス背を向けた。

 ジョニーは真顔で俺の顔を見たまま、何か考え事をしているようで、アルバアム、ビリオネ、ビフの3人は黙祷を捧げていた。

 

 さて、やるなら今か。

 

「ふわああああああああああああああん!!!!!!」

 

 俺は渾身の叫び声を上げた。

 俺の奇声に周囲は困惑し、耳を塞ぐ奴もいた。

 

「え!?なに!?なに!?」

「え、え、どゆこと?」

「なんだ、何か起こって……」

「!?!?」

 

 セアノサスやタマリ、アルカンカスやアリーシアが驚愕の表情で俺を見た。

 

「ハーッハッハッハッハッ!お前らやっぱ最高だわ!」

「「「「!?」」」」

 

 俺は大笑いしてアイツらを馬鹿にした。

 目を丸くして点にして、口をほげーと開けてアホ面かましていやがる。

 さらに死神の野郎は頭を抱えて蹲る始末だ。

 まるで「ようやく死んだと思ったのになんなんだよコイツは!」とでも言いたげな仕草だ。

 流石俺、不死身と呼ばれるだけあって死神すらもドン引きさせるとは、自分の可能性が恐ろしい。

 

「お前、お前ら!騙されてやんの!」

「えっ!?は!?え!?」

 

 セアノサスが言葉を口にすることすら出来ず大きく口をあんぐりと開いたまま俺を見つめていた。

 

「え……?サビターさん死ぬんじゃ……」

「俺がこれくらいで死ぬと本気で思っちゃった?残念死にましぇ〜ん!僕は死にましぇ〜んバーカ!ははは!」

 

 俺の言葉を聞いて最初は面食らって言葉すら口にできなかったセアノサスやタマリ、アリーシアは怒りを顔に出したものの、安堵したような顔つきに変わり、笑顔へと表情を変えつつあった。

 

「やっぱり死なないじゃんサビター!」

「当たり前だろ〜?俺がなんで呼ばれてるのか知ってるだろ?」

「ああもうてっきり私はもう本当に死んでしまったのかと……」

「笑えない冗談はやめてよ……!」

 

 3人はそれぞれ思い思いの言葉を口にする。

 喋らなかったのはアルカンカスとジョニーだった。

 アイツら2人は俺を無言のまま神妙な顔で俺を見続けていた。

 

「ハァ〜これで仕返しは出来たし、思い残すこともねぇな。満足だ…満足。それじゃ、また会おうぜ」

「何わけわかんないこと言ってんですか。貴方死なないんですから早く起きてください。帰りますよ」

 

 アリーシアがサビターにそう言って手を差し伸ばす。

 しかしさびたーは彼女の手を取らない。

 満足そうな笑顔のままだが、表情は固まったままだ。

 

「…?サビターさん?早く手を取ってください?それとも自分で起き上がりますか?」

 

 アリーシアの言葉にサビターの返答はない。

 目は開いたままだが視線を彼女に合わせない。

 

「……あの男め。趣味の悪い事を……」

 

 ジョニーは一言そう呟いて顔を顰める。

 セアノサス達とアルバアム達はまだ状況を理解していないようだったが、彼の顔を見続けていた全員が一つの結論に至った。

 

 この男、死んでいる。

 

「…こんな、こんな事して死ぬなんて……貴方本当に悪趣味ですよ……」

「こんな笑顔でしんだ人、僕みたことない……」

 

 腹立たしさを感じつつも安堵したような顔でため息を吐き、タマリは衝撃的な物を見るような目でサビターを見つめる。

 

 アルカンカスは「最初から最後までふざけた男だ」と呟き、ジョニーは「同感だ」と頷き合った。

 

 そしてセアノサスはというと、サビターの亡骸を見下ろしながら呆然としていた。

 激痛が彼の身体を蝕んでいたと言うのに、死んだ後の表情は口角を上げ、目をキラキラとさせたまるで人生で一番楽しい事をしたような少年のような顔だった。

 愛しい人間の遺体を前に泣くにしてもこのように満足げな顔で死なれてしまうと、残された側の気持ちをどう整理して片付ければいいかも分からない。

 セアノサス達がサビターの死人に似つかわしくない遺体を見て、彼らしい死に方なのかもしれないと思い始めていたその一方で、死神が長い長いため息を吐きながら重い腰を上げてサビターに近づく。

 

 今日、不死身の男は死んだ。

 

 だが不死とは肉体的な事に限定して定義出来るほど単純ではない。

 誰かが記憶し、語り継ぐ事で彼の名は広まり、受け継がれる。

 それは肉体的な意味よりもずっと長く強く残る。

 

 今日、不死身の男は死んだ。

 

 しかし、不死身の男は伝説となり、未来永劫語り継がれるだろう。

 国を救った皮肉屋の英雄として。

 

 本人はそんな気はさらさらないだろうが。

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