ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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原作前(ダイの大冒険本編の10年前からスタート)
第一話 見知らぬ部屋でザボエラに


軽い浮遊感と共に、椅子から落ちて尻を打ってしまった。

痛みが走るが、怪我をしたというほどではない。

仕事のしすぎで、また机から落ちてしまったのかと周囲を見渡した。

すると、まったく知らない光景が広がっている事に動揺する。

 

目の前には訳の分からない道具、小動物の頭蓋骨や薬品が広がる机。

右には古い書物が、所狭しと押し込められている大きな本棚。

背後には少し高くなった、楕円形の石の台のようなものがあり、

そのサイズは大体、十畳くらいの広さがある。

 

 

「これはどういうことだ……」

 

 

口に出してすぐに気づいた。

自分の声ではない。

手を見る。やけに長い爪で皺が多い。

服もゆったりした緑色の僧衣のような衣装だ。

尻をついた痛みを忘れて立ち上がり、横にあるガラス棚に映る姿を見る。

血の気が引くような感覚を覚えながら、絞り出した言葉は……。

 

 

「この姿は……ダイの……ザボエラ……だ……」

 

 

ダイ……主人公の名前で、正式名称は"ドラゴンクエスト ダイの大冒険"だ。

週刊少年ジャンプで連載されていて、既に完結している漫画である。

近年、再TVアニメ化され、主人公の師匠枠アバン先生の過去編も、

"ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王"というスピンオフ漫画として刊行されている。

この世界はつまり、ダイの大冒険の世界ということなのだろうか?

 

転生したというやつなのだろうか……。

いや、赤ん坊からのやり直しではないから転移か?

違うな。私がザボエラに宿ったのだから憑依と言うのか?

ふむ……。一旦、言葉の定義は置いておくとしよう。

 

しかし、ザボエラか。

どんよりとした気持ちになってしまう。

よりにもよって……このキャラクターは厄介の一言だな。

 

妖魔司教ザボエラ。

絶大な魔法力を誇り、大魔王バーンが作り上げた魔王軍において、

六つの魔物の軍団の一つを任せられた団長である。

 

魔法使いを中心とした魔物が所属する妖魔士団を率い、

"妖魔士団長"として主人公ダイたちの前に立ちふさがる敵だ。

 

だが、強さや策謀を恐れられたのは前半だけで、

後半は保身だけの為に立ち回ってしまう。

そのため、同じ魔王軍からも嫌悪されて、最後は惨めな死を迎えるのだ。

 

まず、このザボエラがいつの時点のザボエラか確かめる必要がある。

ザボエラというキャラクターは、本編の時点で890歳という長寿キャラだ。

ただ、魔族の老化がどういった影響を外見に与えるか分からないので、

このザボエラが790歳の可能性もある。

 

100年前の魔界だったら厳しいな。

漫画でほとんど語られていないから、まったく状況が分からない。

 

それよりも、最悪なのはダイの大冒険本編後半だった場合か……。

ロロイの谷でヒュンケルとクロコダインを処刑する直前だったら、

最早ザボエラの悪名は浸透しきっていて、死を待つのみになってしまう。

 

……落ち着こう。

悪い方向へ推測だけで思考を進めるのは危険だ。

まずは分かる範囲で情報を収集するか。

机や書棚、周囲にある収納家具などから情報を得てみる事にした。

 

本やメモ書きを幾つか無造作に見て、

それを取っ掛かりとして関連する本を読んでみた。

文字の類はすべて問題なく読めている。

 

というより、私の目には全て日本語になっている。

漢字や平仮名があり、カタカナや英単語も所々にある。

思い返してみれば、アバンの書を読んでいる時のダイの反応。

あれは読めない漢字を飛ばしながら読んでる子供のそれだった。

あとは会話だが……日本語なら通じると信じたい。

 

周囲にあった本は呪文書だったり、禁呪法の本が並んでいる。

そうかと思えば、解剖学の本や毒草学の書物が、

乱雑に積んであるのだが本人にとっては使いやすい環境かもしれない。

 

それらの本を数ページめくるだけで、読んだ記憶があることに驚く。

つまり、ある程度、肉体(ザボエラ)の記憶が使えるようだ。

ただ、この場合はその本に当たることで記憶が蘇ったように、

何か外からの要素が必要であるようだが……。

 

魔法の本など読んだことがないので、

その内容が面白く、夢中になってしまったがふと我に返る。

 

危うかった。

一つ緊急の問題に気づいたのだ。

 

アバン先生のスピンオフ、勇者アバンと獄炎の魔王では、

ザボエラは息子のザムザと一緒に暮らしていたはず。

ザボエラをよく知るザムザは、父の違和感に気づいてしまうかもしれない。

やはり、ここでザムザと対面するわけにはいかない。

一計を案じて、ザムザへの伝言を一枚認めておく。

 

 

"ザムザよ。ワシはある研究の為に一旦魔界へ戻る。

お前は己の研究を続けるように。このアジトは自由に使えばよい。

留守は長引くかもしれぬが心配は無用じゃ"

 

 

原作を読むとザムザは、ザボエラに認められたい感情を強く持っていた。

獄炎の魔王の時代では、ザムザの研究をザボエラの成果のように言われ、

内心の口惜しさを押し殺すザムザの描写もあった。

 

父親としてのザボエラへの敬意と、研究者として研究を盗まれた怒り。

両方の感情がない交ぜになった複雑な内心ではなかったのだろうか?

一朝一夕で対応できる話であるとは思えない。

 

一旦離れておくことで、父親(ザボエラ)の道具として使われていたザムザとの関係性を、

リセットしておいた方がいいのかもしれない。

 

懸命に探して追ってくるのか、それともそのままザボエラ出奔を放置するのか。

追ってくる場合は、何か対策や言い訳を考えておく必要があるだろう。

そう考えながら、恐らく長く住んでいたであろうアジトを、

特に感慨もなく出て行った。

 

 

 





何か独自設定や独自解釈などありましたらこちらに書かせて頂きます。
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