ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。



第八十五話閑話 後編 ヒュンケルの選択

 

魔王軍六大軍団が集結し、大魔王バーンの閲兵を受けていたのと同時刻。

華やかな式典の最中、不死騎団副団長ヒュンケルは第四宮廷の牢に閉じ込められていた。

 

周囲の檻には研究に使われた魔物が囚われており、ぐったりした者や苦しんでいる者もいた。

中には微動だにせず、すでに息絶えた者。

腐敗した死体や、返事もできぬただの屍になった者も放置されている。

 

その悪臭の中、ヒュンケルは放心した顔で座り込んでいた。

いつもの憎悪を結んだ口で押し込めたような表情をしている彼には、

まったく似つかわしくない表情だ。

一体、何があったのか……?

 

話は一週間ほど前に遡る。

反英霊の呪法によって、ガンガディア、キギロ、そしてヒュンケルの父であるバルトスが蘇った。

デスカールは大魔王から布令(ふれ)が出てなお刃向かう勢力の駆逐に、

この三者を投入してその実力を測った。

 

結論から言えば、反英霊として蘇った彼ら三人は大幅に強くなっていた。

"過去における敵対行為を一切許す故、余の軍門に降り傘下に加われ"

という大魔王からの慈悲深い布令。

それすら無視して、大魔王領へ進軍する列強の魔物達を、

まるで草でも刈るかのように容易く撃退してのけたからである。

 

振り返りもせずに地下茎を張り巡らせ、槍の如く地上を突き刺すことで、

百名を瞬時に倒してのけたキギロ。

そして、ガンガディアが放った、敵を消滅させる呪文は凄まじい威力であり、

まさしくその後に何も残らぬ有様は、間近で見たヒュンケルの心胆を寒からしめた。

 

ガンガディアとキギロの戦いぶりを見て、その強さに驚愕したヒュンケル。

かつては子供の頃であったので、真の実力を間近で見ていたわけではない。

だが、現在の彼らの存在感と魔力、邪気や闘気。

戦士として一人前になった今なら分かる。

ガンガディア達はかつての強さを、遙かに上回る力を持っているのだ。

 

しかし、そんな感慨もすぐに吹っ飛んでしまう。

バルトスの残虐な行いである。

逃げる者や降伏する者ですら、斬り殺してしまうその有様は、

かつてヒュンケルが尊敬した誇り高き父、バルトスの姿では無い。

 

ヒュンケルは心の底から湧き上がる怒りに震えた。

 

"デスカール! 我が父の魂をよくも汚してくれたな!!"

 

何か良からぬ邪法で洗脳したのだろう。

そう推測したヒュンケルは、己の忍耐の限界が来たことを悟る間もなく飛び出す。

デスカールは日頃からテムジン達に無法を許しており、

ヒュンケル自身が事後処理に奔走した鬱憤も溜まっていたのだ。

 

 

「我が父の魂を貶めることは許さん! デスカール!!!」

 

 

己の心から吹き出る怒りのまま、デスカールに斬りかかるヒュンケル。

そのヒュンケルの一刀をバルトスは事も無く止め、返す刀で切り裂く。

斬られたという熱さにも似た痛みと共に、ヒュンケルは心の底で唸った。

 

今の一太刀。

まさしく父の剣技であるが、かわしていなければ確実に命を奪われていた。

いや、かわしたと思っていたが、踏み込みの鋭さがそれを上回り、

ヒュンケルの胸板はざっくりと斬られていたのである。

 

無言で対峙する親子。

ヒュンケルから動き、彼の剣技の最初の師であり、

彼の復讐の理由であった優しき父へ斬りかかった。

 

ヒュンケルの思い出の中の父は強く、高潔な武人である。

戦士として強く、騎士として正しく、模範たる練達の剣士。

ヒュンケルの剣技の土台には父の技が存在し、

その上にアバン流刀殺法という勇者アバンの剣術が建っていた。

 

幼き頃に見た父の剣技だという感慨すら、眼前にいるバルトスが操る剣技の迫力と、

あまりの鋭い剣閃に消し飛ばされてしまう。

 

まず、凄まじい剛力。一撃一撃が重い。

そして、斬撃の速度は飛燕の如し。

いまの自分でも対応するのが精一杯だ。

 

力と速度。

それに裏打ちされた地獄の騎士バルトスの、円熟し卓越した剣技。

戦士は力がなければ技を生かせぬ。

技がなければ多少の力など意味をなさぬ。

その両者のバランスが大事だと、ヒュンケルは幼き頃に父に教わったのだ。

まさしく、眼前にいるのはハドラー魔王軍最強の騎士。

 

成長したはずのヒュンケルは、時間が遡ったかのように感じていた。

まるで子供の頃、父にまったく歯が立たなかった頃であるかのように翻弄される。

 

ヒュンケルは決断に迫られていた。

父故に、夢にまで見た父故にこそ、己の秘技を使うことに躊躇いがあった。

だが、このまま迷っていては負ける。

父の仇を討つために修行したというのに、その父に殺されては本末転倒も甚だしい。

 

バルトスの子、ヒュンケルとしてではなく、魔剣戦士ヒュンケルとしての意志が動く。

ヒュンケルはブラッディースクライドを……父を殺した勇者アバンに叩きつけるため、

磨き上げた技を──父に向けた。

 

が、奇しくも父も同じ構えを取っており、二人の技は激突することになる。

 

 

「ブラッディースクライド!」

 

「……修羅渦旋衝(しゅらかせんしょう)

 

 

同じ構えから放たれる突き技であったが、ブラッディースクライドと修羅渦旋衝は激突し、

その余波でヒュンケルは吹き飛ばされた。

 

 

「ば、馬鹿な……!? オレのブラッディースクライドが押し負けるだと!」

 

 

驚愕の最中にあったヒュンケルはバルトスの接近を許し、

焼けつく息で身体の自由を奪われた。

殺される……と思った瞬間、ヒュンケルの目から流れ落ちたのは一筋の涙。

 

殺気立ったバルトスの瞳に光が宿ったのを、ヒュンケルは見ていなかった。

柄頭でバルトスがヒュンケルを殴打する瞬間、間近で囁く父の声を息子(ヒュンケル)は聞いた。

 

 

「強くなったな……ヒュンケル」

 

 

その言葉はまさしく父の優しさを感じさせるモノだった……。

 

 

 

牢内でそのように回想していたヒュンケルは、誰かが接近してくる音に気づく。

その人物はガンガディアだった。

物思いにふけっていた時間が長かったのか、

急にヒュンケルの前に青黒い肌の引き締まった偉丈夫が立っていた。

眼鏡を手で押さえながら、知的さを感じさせる風貌のデストロールは語りかけてくる。

 

 

「あの時の少年がこんな青年に成長しているとはね。

私を覚えているかヒュンケル?」

 

「……もちろんだ。ガンガディア……」

 

 

父への思いが渦巻く中、ぶっきらぼうに応じるヒュンケル。

そのヒュンケルにガンガディアは衝撃的な話をする。

彼はその時、ヒュンケルが欲していた答えを全て語って聞かせてくれたのだ。

 

自分たちは反英霊としてデスカールに蘇らせられたが、バルトスは高潔な武人であり、

反英霊となり現世へ立ち戻った直後、死の世界へ戻して欲しいと言った。

主たるハドラーの命令に背いた自分は合わせる顔もない。

さらに勇者アバンにヒュンケルを託し、最早、現世に一切の未練はないのだから、と。

 

あまりにも高潔。

あまりにも正直な物言い。

ガンガディアは自分なら計算してしまって口に出せぬその性根に、

やはり地獄の騎士バルトスは誠実な武人だと、心の底で感嘆した。

 

だが、デスカールはそうは思わなかった。

彼には武人の心は分からぬ。

デスカールはさらなる呪法をバルトスにかけた。

バルトスを構成する残り五本の腕の持ち主の怨念、敗北の悔しさや未練、

そういった負の感情を表出させ、主人格たるバルトスを封じた。

 

バルトスは地獄の騎士という魔物である。

戦場の骸の山から優れた剣士の屍を使い、

禁呪法によって生み出される不死身の衛兵だ。

 

その際、最も強い剣技を持つ腕の骨が複数本選ばれ、

本体に融合するという。

つまり、地獄の騎士の六本の腕は、それぞれが異なる剣士の腕であり、

異なる技を修めており、異なる無念を抱いているのだ。

 

──こうして心優しい慈愛の剣士バルトスの精神は深く沈み、

残り五本の腕の邪念と怨念が前面に出た、残忍な剣士バルトスが完成した。

 

ガンガディアとキギロは思うところはあったが、

ここで二人が自由意志を奪われては反撃もままならぬ。

そこで、示し合わせて表面上の忠誠をデスカールに誓った。

 

さきほどの戦いでは、ごく短時間であるが意識を表層に出せるバルトスが、

勝利の後にヒュンケルを助けてくれたと言うことだ。

 

ガンガディアはそれを語って聞かせ、鎧の魔剣を与えてヒュンケルを逃がしにきたという。

ヒュンケルはそれを聞いて黙ってはおれず、父さんを助けると言った。

 

 

「愚か者が!!

お前を助けるために、想像を絶する苦痛から意識を浮かび上がらせ、

あの瞬間命を救ってくれたバルトス殿の心を無駄にするつもりかッ!」

 

 

ガンガディアの叱咤に、雷鳴に打たれたかのような衝撃を受けるヒュンケル。

手渡された鎧の魔剣を身に纏い、その場を振り返らずに走り去った。

その後ろ姿を見送りながら、ガンガディアは心の中で思った。

かつて小さな少年であった青年が、無事逃げおおせてくれることを……。

 

 

 

第四宮廷の宝物庫には、行き先が地上へ設定されたキメラの翼が幾つか収められている。

だが、その事を知って待ち構えていた者達がいた。

 

 

「ヒュンケル殿ぉおお! 残念でしたなぁ」

 

 

表情がないはずのロードコープスの髑髏の顔に、

嫌らしい嘲笑を貼り付けたテムジンが立っていた。

 

 

「裏切り者ヒュンケル!

この場でわしが誅伐をくれてやるわぁ!!」

 

 

ヒュンケルを指さして言い放つテムジン。

ロードコープスのテムジンとヴァルハラーのバロン。

アンデッド化した七名の部下達が待ち構えていた。

 

だが、彼らは誤っていた。

反英霊のバルトスという超絶の剣士には後れを取ったヒュンケルだが、

テムジンたちなどは最初から敵では無いのだ。

普段は一応、同じ不死騎団のよしみで手加減をしていたが、

テムジン達はそれをヒュンケルの実力を当て込み、侮っていた。

結果、テムジン達は一蹴されたということである。

 

斬られ、砕かれ、地面に伏したテムジンは怒りの声を上げた。

 

 

「おのれ! おのれ! おのれぇ~~!!

デスカール様に必ずや言いつけて、貴様を殺してやるぞヒュンケル!」

 

「言いつける? 貴様はガキかテムジン。

またかかってくるがいい。何度でも粉砕してくれる」

 

 

アンデッドであるし、デスカール謹製なのでテムジンたちはほぼ不死である。

彼らを滅ぼすには不死の禁呪法を施し、テムジン達を支える魔力の源である、

デスカールを倒す必要があった。

 

テムジン達が罵詈雑言を吐く姿を見て、ヒュンケルは己が修行の足りなさを自覚する。

もし、ヒュンケルがアバン流刀殺法で最難関である空の技、

──心の眼で敵の弱点や本体を捉え、光の闘気を込めてこれを切り裂く──

空裂斬を習得していたのなら、この場で彼らを倒せたというのに……と。

 

ヒュンケルがキメラの翼を使った時、テムジンが大笑いした。

 

 

「バァカめ~! よく見ろ!

そのキメラの翼は羽を数枚毟った欠陥品だ!」

 

「なんだと!?」

 

 

キメラの翼に宿る力に包まれたヒュンケルはどうにもできない。

 

 

「どこへ飛んで行くか分からんぞ?

魔界の辺境にでも飛ばされ、闇の狭間に居る獰猛な魔物にでも殺されてしまえ!」

 

「おのれテムジン! 次に相まみえたら必ず殺す……!!」

 

 

そう叫んだヒュンケルはキメラの翼に込められた力で、

いずこともしれぬ場所へ飛ばされていった。

 

 

 

ここはデルムリン島。

怪物島と呼ばれているが、近年は大地の精霊の神殿が建てられ、

パプニカとロモス合同で警備の兵がおり、神官も通うようになった。

 

モンスターたちは大人しく、彼らをまとめる鬼面道士のブラス老は穏やかな性格である。

彼は優れた魔法使いで、ヨミカイン魔導図書館館長にしてパプニカ四賢者の一人、

ザボエラから魔法の指導を受けたため、練達の魔法使いとなっていた。

そのため、神殿の神官達もブラス老に呪文を教わりに来ている。

 

デルムリン島に住む少年、竜の(ドラゴン)騎士バランの息子であるダイは、

友人のゴールデンメタルスライムであるゴメちゃんに導かれて後を追っていた。

 

この島で危険はないだろうが、護衛のラーハルトと一緒にあまり立ち入らない場所に来ている。

魔界へ通じる穴の近くだ。

 

ダイは身軽に飛び回りながら、ラーハルトを呼ぶ。

本来、ラーハルトの方が足が速いが、慎重な彼は周囲を警戒しながら同行している。

自然、何も考えずに走るダイの方が、ラーハルトより速くなってしまう。

 

 

「ハル兄ちゃん、こっちだよこっち! ゴメちゃんに置いてかれちゃうよ」

 

「ダイ様。この先は魔界への穴の入り口です。

封じてはおりますが、魔界への穴の近くは危のうございます」

 

「もう、やめてよハル兄ちゃん! 様とか言わないでよ!」

 

 

ダイは様づけされたことを不満に思って、ラーハルトに文句を言う。

ラーハルトはこの間、バランからも様づけは不要と言われたが、

どうも習慣となってしまっている。

だが、そんなラーハルトが、すぐに気持ちを切り替えねばならない事が起こっていた。

 

血の臭いを感じたからだ。

鎧化(アムド)の言葉で鎧の魔槍を身に纏うラーハルト。

すぐにダイの前に立ち、槍を構えて慎重に歩いて行く。

 

そこには、自分と同じロン・ベルク製であろう鎧を身につけた青年が倒れ伏していた。

一見して重傷で、激しい戦いをくぐり抜けたであろうことは疑いがない。

 

 

「ダイさ……いや、ダイ。先に戻ってバラン様にお伝えください。

重傷者を一人運びます、と」

 

 

ダイは素直に頷いてゴメちゃんと共に走って行った。

 

 

 

ラーハルトに担ぎ込まれ、ベッドで寝ている青年を見て、

バランは曖昧な既視感があり記憶を手繰っている所だった。

ブラス老が回復呪文(ベホマ)で治療をして、身体的な傷は既に癒えている。

彼の見立てでは、目を覚まさないのは、

精神的な疲労ではないだろうかと言っていた。

 

既視感の一つはその青年がまとっている鎧が、ただの武具ではなかったからだ。

一度見せて貰ったことがある、大魔王バーン所蔵の鎧の魔剣。

 

ラーハルトの鎧の魔槍と同じように、名工ロン・ベルクの手になるものだ。

それを身につけていると言うことは、彼は魔王軍の戦士。

しかし、人間というのが気になっている。

 

ここでバランは記憶を手繰り寄せることに成功した。

今から八年ほど前の事だ。

大魔王バーンから、魔王軍へ入らないかと勧誘を受けていた頃の話である。

 

確か勇者アバンに復讐を誓う少年を、大魔王が育てていたことを思い出した。

あの時、11歳だった……確かヒュンケルという少年は、

数年の後に立派な青年へと成長したようだ。

 

人間に恨みを抱くという気持ちは、かつてバランも経験したものである。

それが故に、彼の力になれるのではないかと考えた。

丁度、勇者アバンはこの島にはいない。

自分が言って聞かせることで、凍てついた師弟の関係を解きほぐすことができれば……。

 

ザボエラたちに救われたバランは、そう考えながらヒュンケルを見ていた。

 

 





独自設定

修羅渦旋衝(しゅらかせんしょう)
ブラッディースクライドの原型になった地獄の騎士バルトスの技です。
勇者アバンに放ち、壁に大穴を穿ったときより強くなっています。

破損したキメラの翼
羽を毟られると登録された転移先ではない場所に飛ばされます。
バシルーラ的な感じの効果になってしまいます。
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