ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
私はあまり気乗りしなかったが、パプニカを訪れた。
不死鳥ラーミアから告げられた件を、マトリフ殿に話すことに躊躇いがあったからだ。
到着するとすぐにエイミ殿がやってきて、貴賓室へ通された。
エイミ殿の話ではマトリフ殿は、カールから戻った直後らしい。
逆にアポロ殿とマリン殿が他の国へ回っている最中だという。
久々に緊張するなと思いながら茶を飲んでいたところ、マトリフ殿が貴賓室へやってきた。
そんな私を意外そうな顔をして見た彼に、ギュータでの話をする。
その反応を見ると、マトリフ殿は大笑いした。
「いや、神様も大変なもんだな。
別の世界へ来ちまったもんだから、縁のある人物がいないってか!」
「巫女にワシら老人を選ぶというのもなかなか……冗談かと思いましたぞ」
良かった。苦笑しつつも怒ってはいない。
まぁ、マトリフ殿の性格から考えて、面白がりはしても、
激怒するような事にはならないだろうと思っていたが……。
「いい機会だから見てもらいてぇモンがある。
あんたの知恵を借りたいと思ってた所だ」
「ほう、なんですかな?」
そう言いながらマトリフ殿が、懐に入れていた布の包みを机の上に置いた。
包みを取ると、鳥のくちばしが宝玉を咥えた杖が出てくる。
立派な彫刻で精緻な杖ではあるが、宝玉も欠けたり、
ヒビが入っていたり破損箇所が見受けられた。
「破損したキラーマシンを直すために予備の
他にも使えるモノはねぇかとパプニカの宝物庫を漁ってたらでてきたんだ」
「何か曰くや伝承などは残っていないのですかな?」
「それが、宝物庫の床にある、隠し階段の先の小部屋に入ってたらしくてな。
杖についての古文書も当たったけど、わからねぇんだよ」
そして、私に知らないか確認を取られたが、
流石に杖について知識を求められても返答のしようが無いな。
いや、宝玉を加えた鳥のくちばしの杖は……神鳥の杖か……?
その時、私の懐のレッドオーブが光を放つ。
赤い光を受けて、宝玉のヒビが修復され、杖自体が直り始める。
光が収まると、精緻な金の装飾がされ、全体的に高貴なイメージの杖になった。
と、同時に私の脳内に情報が送られてくる。
もう、喋るほどの余力が無いのだろうが、
一気に情報の洪水を叩きつけるのは止めてほしい……。
軽い頭痛から額を抑えた私に、マトリフ殿が心配げに声をかけてくる。
「おい、大丈夫か、ザボエラ……?」
「分かりましたぞマトリフ殿。
これは神鳥の杖というもので、かつて精霊ルビスを背に乗せた不死鳥ラーミアが、
この世界で戦った折に地上に落ちた羽根から作られた杖だそうです」
「おいおい、そんな大層なものなのかよ……!」
どうやらそういう力があるわけではないようだ。
杖自体に
さらに、持って魔法力を込めると光の翼が開き、防御に使えるということだ。
「しかし、パプニカになんでこんなもんがあるんだ?」
「精霊ルビスと不死鳥ラーミア、それから当時の
狂った魔族の神と戦う前に、残された武具の一つのようです。
最悪自分たちが敗れた後、地上の者たちが戦えるようにと……」
「ありがたいっちゃありがたいが……。光の翼の魔力制御難しいなこりゃ」
そうはいいつつ、光の翼を自由に変形させているマトリフ殿。
先ほど頭の中に叩き込まれた情報によると、
熟練した魔法使いが使うことを想定されているらしい。
マトリフ殿は喜びながら、巫女の件を了承してくれた。
祭壇の場所はテランの竜の神殿になる旨を伝えて、
私はパプニカを離れた。
ヨミカイン魔導図書館に戻ると、デルムリン島から手紙が届いていた。
現在、竜水晶が竜の神殿を地上へ浮上させるため、
テランへ赴いているので留守にしている。
グランナードが張り切って色々と取り仕切っており、
私に手紙を手渡してくれた。
「バランの旦那からの手紙ですぜ。どうも急ぎみたいで」
「ほう、バラン殿から……」
私は手紙を一読して驚いた。
なんと、ヒュンケルが魔王軍から離脱して、デルムリン島まで逃げてきたという。
私はすぐさまデルムリン島行きを決める。
ロカ殿に留守を頼んで、グランナードがついてくることになった。
「ザボエラさん。
ぼくのような屈強な護衛が必要なのではありませんか!」
「おめぇのどこが屈強なんだよチウ~」
「そ、それは言わないでくださいよーグランさん!」
グランナードに弄られているチウだが、ここへ来た時よりかなり強くなっている。
自力で窮鼠包包拳まで辿り着いているし、加減したロカ殿の拳を両腕を使ってだが、
受け止められるまでになっている。
クロコダインの修行に付き合って、闘気を使うこともできるようになった。
それでもグランナードにはまったく敵わないのは、
リーチの差なのか性格的な部分なのか……。
尤も、グランナードも彼の頑張りを認めていて、
文句も言わずによく修行に付き合ってくれている。
デルムリン島に危険はないだろうが、二人がついてきてくれるのは心強い。
留守を引き受けたロカ殿が腕を組んで言う。
「入れ替わりになっちまったが、レイラもロンさんに武具を作って貰えることになったからな。
マァムと一緒にギュータへ行ったところだ」
「ロカ殿の鎧はいつ頃ですかな?」
「こないだ採寸してもらったばかりだからな……。
流石にまだ時間がかかるんじゃないか?」
ロン・ベルク殿がロカ殿とレイラ殿に鎧の魔剣に連なる、
変形して鎧と武器になる武具を仕立ててくれているらしい。
娘のマァムに鎧の聖剣を作った縁もあるし、優れた戦士と盗賊である二人に、
せっかくだからと武具を作ってくれる気になったと言うことだ。
留守はザムザとグレゴリーアもいるので、ロカ殿一人ということはない。
もっとも、現在は、少なくとも大魔王その人が来ない限りは、
ヨミカイン魔導図書館に攻め込むのは難しくはなっているが……。
そういうレベルの仕掛けをしてはいるのだ。
そう考えながら、私はグランナードとチウを連れて、
私はデルムリン島に到着して、驚くべき光景を見た。
なんと、浜辺でヒュンケルがバラン殿にアバン流の手ほどきを受けていたのだ。
しかも、ダイと一緒に。
既にバラン殿は空裂斬を身につけ、アバン流をマスターしている。
ダイは……10歳には空裂斬の概念が難しいのか習得できずにいるし、
ラーハルトも性格的に向かないのか、虚空閃で躓いてしまっている。
ヒュンケルはこちらを見て驚いた顔をしたが、
バラン殿が木刀で喝を入れた。
「気を散らしてはいかん。曇りなき眼で己と向き合うことが必要だ」
「分かっている」
「貴様! 分かっております、だろう!」
「落ち着けラーハルト」
どうもぶっきらぼうなヒュンケルを、ラーハルトが気に入らないようだ。
私は軽く会釈してバラン殿に挨拶をする。
バラン殿は休憩にしようと言って、私たちを連れて部屋へ招いた。
手ずからお茶を淹れてくれて、ここでの生活も大分馴染んだようだ。
魔界に繋がる穴の側でヒュンケルが倒れていたのを助けて、
彼を介抱したのだがその後がなかなか大変だったらしい。
とにかく、礼だけ言ってどこかへ行こうとするのだ。
それでラーハルトと深刻なにらみ合いになったので、
バラン殿が間に入って止めたらしい。
回復呪文で治しはしたが、身体の疲労などもあるだろう。
もう少し逗留していけと言うバラン殿と、ヒュンケルは一歩も譲らない状況になった。
そこで、ここを出て何をしたいのかと尋ねると、
勇者アバンを探していると言ったらしい。
「ならばと私はアバン殿が、この島によく来ることもあると話しました。
私自身も彼からアバン流を習い修めたというと、取りあえず話を聞く体勢になりました」
「ほう……ヒュンケルはアバン殿を恨んでいるはずですな?」
「その話は聞いておりますので、押しとどめようと話をしましたが……。
しかし、やはりザボエラ殿のようには上手くはいきません」
ため息をつくバラン殿。
いや、私もこの時代のヒュンケルを、押しとどめることはできないと思うが……。
バラン殿はどうやって一旦、ヒュンケルの矛を収めさせたのか……?
「私に勝てたのならアバン殿の行き先を教える。
その代わり、負けたら私の言うことを聞いて、この島にいるよう約束しました。
その後、表に出てヒュンケルと戦いました」
……ヒュンケルは知らないとは言え、無茶をする。
原作で竜騎将バランの強さがどの程度伝わっていたか分からないが、
紋章閃の事を知らなかったという事を考えると、
表層的な強さしか伝わっていなかったのだろう。
そして、この世界では魔王軍に入っていないバラン殿の情報は、
ほとんどヒュンケルには伝わっていなかったはずだ。
バラン殿は真魔剛竜剣を背中の鞘に仕舞い、
全開にした
まさしく、原作で言うテランでのクロコダインvsバラン戦のようだ。
斬りかかったヒュンケルの剣を
鎧の魔剣を破壊しすぎないように、素手で打ちのめしたらしい。
柄にある魔法玉を破壊しなければ、再生は可能ではあるからな。
その後、バラン殿はヒュンケルと話をしたそうだ。
自分が大魔王から招かれていた理由。息子であるダイの事。
ダイはモンスターに囲まれてこのデルムリン島で育った話をしたとき、
ヒュンケルは驚愕を顔に貼り付けていたらしい。
その後、アバン殿からアバン流を教わり、
空の技も習得していると聞き、ヒュンケルの目の色が変ったという。
倒したいやつがいると言って、空の技を教えて欲しいと頼み込んだということだ。
ヒュンケルは己が魔王軍の戦士だと言う事と、
破損したキメラの翼で逃げたせいで、酷い目に遭いながら地上へやってきた事を話した。
そして、それ以外は何の情報も喋ろうとはしないらしい。
バラン殿もそれ以外は特に反抗的ではないので、
私を呼んでヒュンケルから詳しい話を聞こうということで、
メタッピーが送られてきたのだ。
私はバラン殿に呼ばれたときに、地底魔城を探索した際に拾った、
魂の貝殻を懐に忍ばせてここへ来ている。
これをアバン殿に託してみてはと思った事もあるが、それは返って逆効果だろう。
アバン殿に対する恩義という感謝の気持ちが心の奥底にあるのに、
父の仇であるという復讐心で押し込めているのがこの時代のヒュンケルだ。
魂の貝殻をアバン殿が渡した場合、素直になりきれず信用できない可能性がある。
だからこそ、完全な第三者である私が彼に渡してやることで、
わだかまりが解けるのではないだろうか。
そう考えていたら、ダイが中に走ってきた。
「父さん! ハル兄ちゃんとヒュンケルが喧嘩しちゃって……!」
「なに?」
バラン殿が眉をひそめて、ダイに中にいるように言って、
家の外で争っている二人を
私はグランナードとチウを連れて、その光景を見ているが、
グランナードは"バランの旦那はやべぇ……桁が違うぜ"と呟き、
チウは"ボリクスって……すごく加減してくれてたんだ"と尻尾の震えを抑えながら言った。
「バ、バラン様! この男がバラン様を……」
「フン、すぐにバランに頼るのか」
「なんだと!」
「やめないかお前達!!」
バラン殿の叱咤が飛ぶ。
喧嘩両成敗。
ラーハルトは正座させられている。
私が話があるというので、目の前に正座させられているヒュンケル。
バラン殿は凄まじい威圧感で、私の横に立っているため、
ヒュンケルはバラン殿が気になって仕方ないようだ。
武道からはほど遠かった私ではあるが、様々な戦いに参加し、
歴戦の魔法使いを名乗ってもいいだろうと思っている。
その私が見る限り、バラン殿は無言ではあるが、
雄弁に"大人しく話を聞かないと許さぬ"と、全身が語っていた。
私は努めて気楽にヒュンケルに対して話しかける。
「初めましてヒュンケル殿。
私はヨミカイン魔導図書館館長で、パプニカ四賢者の一人、
大地の賢者を拝命しているザボエラと申します」
「……!? あんたが……噂には聞いている。大魔王バーン様のお気に入りだとな。
そして、我らが魔王軍の第一の敵だと。
いや、我らが魔王軍……フッ……逃げたオレにはお笑いぐさな言いようだが……」
少し言葉を交わして分かったが、どうも何かショックなことがあったようだ。
この時期のヒュンケルは、もっと自信に満ちていて、ハドラーがアバン殿を倒したと聞いて、
"……ああ、知っているとも。……ハドラーに殺されたんだそうだな……
…………ガックリきたよ……まさか一度倒した相手に殺されちまうとはな……"
とマァムに言ってのけるくらいの精神性だったが、何か傷ついているように見える。
私は慎重に言葉を選んで、ヒュンケルに対して話しかける。
「実はあなたの事は以前から知っているのです」
「オレのことを……? なぜだ? 誰から聞いた」
「まず、私はアバン殿にあなたのことを伺っております。
そして、これにも……あなたの名が出てくるのです」
私は懐から魂の貝殻を出す。
「それは魂の貝殻……!
死にゆく者の
ヒュンケルは驚きを隠さない。
よかった、魂の貝殻についての知識を持っていてくれたか。
「ワシは何度か地底魔城を訪れておりましてな。そこで見つけたものです。
失礼ですが内容を一度聞いております。
地獄の騎士バルトス殿から、ヒュンケル殿へのメッセージを」
「と、父さんの……!!」
私は魂の貝殻を渡すと、彼はひったくるように取ろうとして、
バラン殿の眼光が鋭くなったのを察知して、丁寧に両手で受け取った。
『……我が最愛の息子ヒュンケルよ……』
地獄の騎士バルトス殿の言葉が響く。
バルトス殿が勇者アバンに敗北した時の話だ。
このまま魔王の間に進み、勇者アバンが勝利したのなら、
ハドラーが死にバルトス殿も死んでしまうだろう。
それが故に、アバン殿に息子のヒュンケルを託し、人間の世界へ返してほしいと頼んだこと。
アバン殿が魔王ハドラーを倒した後、大魔王バーンによって死の淵から救われ、
黄泉がえったハドラーが地獄の騎士バルトスを粛正したこと……。
最早伝える術がなかったバルトス殿は、隠してあった魂の貝殻に、
最後の
「……ガンガディアが言っていたことは本当だったのか……」
「ガンガディア……?」
どういうことだ? まさか、蘇生したのかガンガディアが?
私の疑問をよそに、ヒュンケルの独白は続く。
「それでは……父の生命を奪ったのはハドラーだったのか!?
そしてアバンはオレが父の仇と恨んでいる事を知りつつ……。
オレを……オレを見守ってくれていたというのか!!」
握る拳に血がにじむほどの力を込めたヒュンケルは、
振り絞るような言葉が自然と漏れ出す。
「う、うそだぁああああ!」
感情が爆発してしまったヒュンケルは、魂の貝殻を投げてしまう。
私はケインを伸ばして貝殻を拾って、再度ヒュンケルに手渡す。
「落ち着かれよヒュンケル殿。
これは、あなたの父上の最後の言葉。
魂の貝殻に封じ込められた
「し、知っている。
だから、いや、オレは……オレのしてきたことは……」
混乱しているヒュンケルはいままでのアバン殿への復讐心や、
恐らくミストバーンに師事して暗黒闘気を身につけたことを悔いているのだろう。
バラン殿が
優しい声音でヒュンケルに語りかけた。
「ヒュンケル。私にはあの子が……ダイがいる。
私はダイの為なら誰であろうと戦うし、如何なる苦難からも守ろうと思っている。
バルトス殿に生前会う機会が無かったが、
その
「バラン……」
バラン殿はヒュンケルの肩に手を置いて言った。
「アバン殿への復讐心が過ちであったなら正せばよい。
私も大魔王バーンに騙されて、危うく魔王軍に入るところだったが、
彼は地上を破壊しようとしているのだぞ」
「ば、ばかな!? 魔王軍六大軍団の閲兵式をこないだ行ったのだぞ!
あれは地上侵攻のための、征服のための軍勢ではないというのか!!」
「もちろん、地上の国々を滅ぼすのも目的じゃよ」
私は付け加えて言った。
その後、我々が知り得ている情報を全て話す。
地上を
それは死神キルバーンから直接聞いた話だ。
さらに天界に攻め込んだ後、他の世界へ侵攻しようとしていること。
このまま放置していれば、大魔王バーン率いる魔王軍は、
数多の異世界へ侵攻する侵略軍となり、この世界はその為の基地と成り果てるだろう……と。
ヒュンケルは少し考えさせて欲しいといい、浜辺へ向かった。
我々は彼を見送る。
グランナードが護衛として、浜辺の岩と同化して見守ってくれるという。
私がバラン殿と話し、茶を飲んでいるところにグランナードがやってきた。
「た、大変ですぜザボの旦那ぁ!!」
「どうしたのじゃグラン?」
「そうですよグランさん。
そんな慌てているのは、ハシタナイんじゃないですか?」
グランナードがチウにデコピンして痛がっているチウを横に、
慌てて話を続けた。
「急にアバンさんが
ヒュンケルと鉢合わせしちゃったんすよ!」
「どうなっておった?」
「お互いに無言で向かい合ってますぜ!
オレはやべぇって思って、すぐにこっちへ戻ってきましたよ!」
私とバラン殿は顔を見合わせて表に出て、すぐにバラン殿の
浜辺へ向かった。
デルムリン島に限っていえば、ほとんどの場所へバラン殿は私より高い精度で飛べるからだ。
到着した我々は、お互いに剣を抜いて向かい合っている、
アバン殿とヒュンケルの姿を見ることになる。
独自設定
魂の貝殻
嘘をつけないというのは原作に特にありませんが、
死にゆく存在の最後の言葉なので、
虚偽を記録することはできないとしました。