ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

107 / 117

次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。



第八十八話閑話 天魔

 

魔界の大魔王城(バーンキャスル)は非常に慌ただしく、殺気立っていると言っても過言ではない。

大魔王から大魔王城(バーンキャスル)防衛司令に任じられているアクバーは、

各軍団に対しての兵站も担当しており、妖魔士団長のメネロと浮遊樹を使った通信網で、

連絡を取り合って勤勉に仕事をしている。

 

デュランとグラコスが、ヴェルザー十二魔将の襲撃で、命を落とした。

結果、半壊した四諸侯の残り二人は、彼アクバーと、

いま一人はジャミラスとなっている。

 

大魔王城(バーンキャスル)を大魔王直轄領とするのなら、

四諸侯は大魔王領の四方を守護する有力者であった。

 

だが、二名が戦死し、ヴェルザー軍残党や魔界の列強の攻撃により、

大魔王領は荒れてしまったため、残ったアクバーたちは別の任務が与えられている。

 

アクバー自身は防衛司令の任を、留守居程度の役割だと気楽に考えていた。

だが、呑気な認識は、多忙な日々で変えざるを得なくなってしまう。

残ったジャミラスと二人で、大魔王から失望されぬように日々、

仕事に励んでいるのだった。

 

そして、彼の重要な役割の一つは星見である。

大魔王バーンの命により、一千年ほど前から、

かつては大魔王自身が行っていた、来るべき皆既日食を割り出す仕事をしている。

若干、ずれることもあるので、数年ごとに計測し直していたが、

ある日、部下が慌ててアクバーに急報を携えやってきた。

 

最初は多忙故、面会を断ろうかと思っていたが、

皆既日食の計測については大魔王から直接任じられた大任だ。

何か問題があれば、確実に首が飛ぶ。

逡巡の末、アクバーは部下からの報告に目を通した。

 

内容を一読した後、すぐにもう一度読み直し、再確認。

間違いがないと分かると、天を仰いだ後、

控えている部下に声をかけた。

 

 

「すぐにミストバーンを呼べ。大魔王様に言上せねばならぬことがある!」

 

 

疲れた表情のアクバーだが、"この忙しいときになんで面倒ごとを……"

とこぼさない分別はあった。

 

 

 

現在、魔王軍六大軍団が魔界から地上の鬼岩城へ移動し、

そこから攻めるべき担当地区へ秘密裏に向かっている。

 

移動には元ギュータにあった逢魔窟を魔界との通路として使い、

人間達に知られること無く魔界から地上への移動を可能としていた。

 

念のためというか大魔王の宣戦布告の意味も込めた邪気の、

世界的な伝播によって各地でモンスター達が凶暴化している。

それは全て、魔王軍六大軍団の準備が整うまでの陽動に過ぎない。

 

地上の各国は凶暴化したモンスター達に対処するべく、

騎士団や戦士団が国の各所で戦っている。

ギルドメイン山脈が多少喧噪に包まれていても、気づく者は誰もいなかった。

 

忙しくも騒がしい大魔王城(バーンキャスル)内の廊下を、ハドラーはゆっくり歩いていた。

額の角が黒く鋭利な姿になっており、死を乗り越えてパワーアップした彼は、

いままでのような燃えさかる野心より、落ち着いていて内に炎を秘めた戦士の風格がある。

 

ハドラーの変化の原因はヴェルザーの怒りだった。

先日、ヴェルザーが激怒して大魔王城(バーンキャスル)内で暴れてしまう。

それを落ち着かせるためにハドラーが全力で放った暗黒闘気の技で、

傷を負わされたヴェルザーが逆上し、一度殺されてしまったのだ。

ヴェルザーは現在謹慎中で、超竜軍団の進軍はベリアル以下三人の将軍が行っている。

 

蘇生したハドラーは額の角が更に伸び、顔の黒い模様が禍々しくなっていた。

その姿を見たミストバーンが、大魔王へ報告したようで、本日呼び出されている。

ヴェルザーに一度殺された憤りはあったが、それよりは己の力のなさを恥じる気持ちがあった。

だが、精神的には非常に安定しており、

角が伸びたことに起因しているのかとハドラーは考えていた。

 

謁見の間に跪いているハドラーの前に、

音も立てずに現れたミストバーンが声をかける。

 

 

「……面を上げよハドラー」

 

 

御簾の向こう側に大魔王の気配を感じ、

身が引き締まる思いだが、以前より恐怖感は薄かった。

その事を不思議に思うより前に、大魔王から声がかかる。

 

 

「ハドラーよ。此度は災難だったな。

だが、面白いことが起きていると聞いたぞ?」

 

 

ハドラーは恐縮して、大魔王に蘇生の礼をした上で、不手際を詫びた。

 

 

「ほぅ……間近で見ると分かるな。どう思うか、ミストバーン?」

 

「……ハッ……大魔王様の御心の通りかと」

 

「ふむ。そう思うか、そなたも」

 

 

二人は自分の変化に何か心当たりがあるのだろうか、

と考えハドラーが大魔王を見た瞬間、御簾を超えて圧縮された暗黒闘気が放たれた。

ハドラーは間髪入れず地獄の爪(ヘルズクロー)を展開し、

己の暗黒闘気で大魔王の暗黒闘気の弾丸を防いだ。

 

 

「お戯れを」

 

「よくやった、ハドラー。

以前のそなたであれば、心臓を貫かれていたであろう一撃だ」

 

「大魔王様はオレのこの変化について、何かご存じなのでしょうか?」

 

「うむ、その通りだ。それはな、天魔への道だ。ハドラーよ」

 

「天魔……!?」

 

 

初めて聞く言葉だった。

いや、確か地上の大魔宮(バーンパレス)で、大魔王が座する塔が天魔の塔と言ったか……。

ハドラーの表情に驚愕、そして理解の色がありありと見えたので、

大魔王は満足そうに言葉を続けた。

 

 

「思い出したか? 地上の大魔宮(バーンパレス)にある建物は天魔に因んでおる。

そうだな。一つ魔界の昔話を、聞かせてやろう……」

 

 

比較的若いハドラーは知らぬ話どころか、数千年前の話であった。

大魔王バーンは若き日は一人の天魔であったという。

天魔というのは頭に一つ以上の角を保有しており、魔族の神に仕える存在だ。

魔族が一定以上の魔法力と闘気を有した際、角が生えてきてその魔族は、

一段階上の存在となることができた。

彼らは魔族の神が身罷った際、新たなる神となるべき候補者でもある。

 

かつて、魔族の神の側近くには六名の天魔がいた。

 

 

「ハドラー。余はその当時、六名の天魔で何位の力であったか分かるか?」

 

「……恐れながら最弱であらせられたのでは?」

 

 

ミストバーンがハドラーの率直すぎる物言いに、動揺していた。

だが、大魔王はそのハドラーの言葉を楽しそうに聞いている。

 

 

「その通りだハドラー。

物怖じせず応える胆力はよいぞ」

 

 

酒を傾けて喉を潤し、言葉を続ける大魔王。

 

 

「かつて……神々は愚かなる裁定を下した。

魔族とドラゴンを魔界へ追いやり、人間に地上を与えた。

人間が我らより弱い、ただそれだけの理由で」

 

 

静かな怒りだ。

ただ、その怒りは氷のように冷たく、鉄のように強固だった。

 

当時のバーンは末席ながら魔族の神に意見を言ったが、

決まったことだと相手にされなかった。

 

その直後である。

大いなる闇の根源が世界に襲来し、世界が滅ぶほどの危機が訪れたのだ。

人間の神は己に仕える精霊達を引き連れる。

魔族の神は最強の天魔三名。

そして竜の神は知恵ある竜たちと共に、

大いなる闇の根源との戦いに挑み……力尽きた。

 

残った三名の天魔で話し合うが……。

誰が神の座を継ぐかで揉め、戦いに発展し、

当時のバーンは何度かの敗北を喫した。

その後、修行と勝利。

さらなる敗北、そして勝利を繰り返し、

いつの間にか残った天魔はバーン一人となる。

その頃には"魔王"を名乗る魔界の猛者を何人も下しており、

大魔王と自ら称するようになった。

 

 

「そなたの前に何人か見込みのある魔族に声をかけた。

だが、天魔に辿り着いたのはそなた一人だ」

 

「オレだけ……ですか」

 

 

大魔王バーンが威圧感を抑えずにハドラーに言った。

 

 

「そなたには期待しておるぞ、ハドラー。

余のいる高みまで、上がってくることを待っておる」

 

「ハッ……必ずや……」

 

「とはいうものの、な……。ハドラーよ。

とれると思うのならいつでも余の首を狙って見るが良い。

それもまた、一興よ……」

 

 

ハドラーはただただ平伏するだけだった。

やはり、大魔王たる器をお持ちだと考えたが、

以前は遙か高み故にまるで距離が掴めなかった。

しかし、今は大魔王バーンと己の力の差が、

あまり遠くないことを感覚的に感じていた。

 

 

 

ハドラーが退出後、アクバーから報告があった件を、

ミストバーンは大魔王に報告した。

 

 

「……星見の結果が狂ったそうでございます。

次回は250年後であったはずの皆既日食が、近いうちに起こりえるという話です」

 

「ほぅ……さもありなん。

世界にヒビが入るということが起きたのだ。

大陸が水没するようなことが起きず、気象が狂う程度ならむしろ良いだろう」

 

 

ありえない現象だったので、いつものように正確な時間は割り出せなかったということだ。

それを鷹揚に聞いた大魔王は、ミストバーンに皆既日食の兆候があれば、

すぐさま自分の下へ戻るよう命じた。

ミストバーンもそれを了承し、近々の皆既日食に備える。

 

退出しようとしたミストバーンに、大魔王が何気なく声をかけた。

 

 

「ミストバーンよ。余は己の若さと強さを保存する術を得て以後、

力や地位を継承するべき子孫を残すことを考えなくなった……」

 

 

唐突な言葉にミストバーンは答えようが無かったが、失礼の無いように静聴した。

 

 

「そなたは余の重要なモノを、日々、勤勉に守護してくれている……。

それで余は道が拓けたと言っても過言では無い」

 

「恐れ入ります大魔王様」

 

 

頭を下げるミストバーンに、大魔王は更に言葉を重ねた。

 

 

「余にとってそなたは忠臣である」

 

「過分なお言葉、恐れ入ります……」

 

「だがな、魔界にて同族を倒し、成長するそなたを見て……

余には、別の感慨が浮かんできたのだ」

 

「ハッ……なんでございましょうバーン様」

 

「余は持ち得なんだが……。

子が成長するというのはこのような事なのかと……な。

ふふっ……戯言よ。笑ってくれ、ミストバーン……」

 

 

ミストバーンは驚愕のあまり、存在しない心臓が止まりそうになった。

 

 

「……い、いえ。

か、過分なお言葉……い、痛み入ります……」

 

 

上手い返しができたとは思えないが、大魔王もそれを咎めない。

表現しようも無い初めての感情によって、

ミストバーンは己が涙を流せぬ事を悔しく感じるのだった。

 

 

 

大魔王城(バーンキャスル)第二宮廷の会議場。

会議室ではなく、会議場であるのはヴェルザーが会議に出席しているからである。

今回は六大軍団長に対して、侵攻地の割り当てがハドラーから説明された。

 

ハドラーを見る六代団長の内面は様々である。

 

貫禄を増したハドラーの姿を嬉しそうに見つめるフレイザード。

ハドラーと戦ってみたいけれど、そんな場合ではないので我慢しているザングレイ。

担当場所を攻め落としたら、まず誰に恩を売ろうか考えているメネロ。

まだ大魔王からの言葉を反芻しているミストバーン。

ハドラーのパワーアップが厄介だなと考えているデスカール。

殺した相手である自分と目が合っても、

怯みもしないハドラーに初めて興味を抱いたヴェルザー。

 

と、六大軍団の長達は様々な感想を抱いていた。

ちなみにヴェルザーは任地についてから一週間は謹慎なので、

すぐに戦場に出ることができない。

 

だが、ヴェルザー自身は人間の国など、

ドラゴンの兵団たる超竜軍団の敵ではないと確信している。

更に配下の三将には、"とあるモノ"を発見して預けてあった。

そこから力を引き出せるので、まず負けることはないと考えているのだ。

 

故にヴェルザーはハドラーの説明の後、発言を行った。

 

 

「魔軍司令殿。先だっての非礼は詫びさせて貰おう。

オレも大人げが無かった」

 

「もう済んだことだヴェルザー。

オレがつけた傷も癒えたようでなによりと言ったところか?」

 

 

その言葉にヴェルザーの瞼が、一瞬ピクリと怒りで痙攣した。

ハドラーの暗黒闘気の一撃は、竜闘気(ドラゴニック・オーラ)で守られたヴェルザーの闘気を貫通し、

鋼を上回る硬度の鱗を破壊し、冥竜将の肉を抉ったのだ。

 

"そうか……こやつ天魔になりつつあるわけか。

酔狂なマネをしているなバーンめ"

 

大魔王の考えを正確に洞察しながら、ヴェルザーは質問を続ける。

 

 

「人間の国なぞ、我らが超竜軍団の敵ではあるまい。

つまり、勝利した後、他の軍団を加勢しに行っても良いのかという話だ」

 

「加勢? 随分と同僚思いだな」

 

「フン! もたもたやってるウスノロがいたら、尻を蹴飛ばしてやろうと思ってな!」

 

 

その挑発とも取れるヴェルザーの言葉に、フレイザードの炎の半身が強く揺らめいた。

フレイザードとは対照的に、ハドラーは落ち着いて聞いている。

ヴェルザーの言葉に、ハドラーはよどみなく返事をした。

 

 

「その場合は担当の国で、宝珠(オーブ)探索を行うべしということだ」

 

宝珠(オーブ)? ああ……不死鳥を探すために必要なモノか」

 

「探索を終えた後なら、他の軍団に加勢に行ってもよいが……」

 

「が? 何かあるのか魔軍司令殿?」

 

 

ヴェルザーとしては手こずっていたら不死騎団に協力しようと考えていた。

 

 

「加勢を受けたのなら、功績は半分になるという大魔王様からのお達しだ」

 

「おいおい、どういうこったハドラー様!

じゃあ、このジジイのドラゴンがきちまったらヤベーじゃねぇかよ!」

 

 

フレイザードの率直すぎる物言いに、ヴェルザーが鼻息と共に軽くブレスを吐いた。

 

 

「禁呪法生命体の小僧風情が、オレをジジイ扱いだと? 身の程を知れ!」

 

「うるせぇぞ!

テメエが加勢とか温い事言ってるから変な話になってんじゃねぇか!

こっちはケツに火をつけられる筋合いはねぇんだよ。

なんなら、こっちから助けに行ってやろうかぁ?」

 

「きっ……貴様ァッ!」

 

 

フレイザードは両手に氷と炎を宿し、ヴェルザーは竜闘気(ドラゴニック・オーラ)を全開にし、

互いに睨み合っており、一触即発の緊張感が漂っていた。

 

その刹那。

 

ハドラーのヘルズストロークと、ミストバーンのビュートデストリンガーが、

ヴェルザーとフレイザードの中間を切り裂き、会議場の壁面に穴を穿った。

 

 

「……そこまでにせよ」

 

「両名落ち着け。いまだ、仮定の話だ。争うような事では無い!」

 

 

一呼吸置いて、ハドラーは言葉を続ける。

 

 

「それに……人間をあまり侮るなよ? 彼奴らが手強いのはオレがよく知っている。

侮って手こずったらそれこそ笑いものだ」

 

 

フレイザードはハドラーに一礼して元の席に戻り、

ヴェルザーは先だって戦ったザボエラ一行の中に、

勇者アバンがいたことを思い出し、不承不承、元の位置に座った。

その後、数個の質問や説明を経て、会議は終わる。

 

 

 

会議の帰途、メネロは六大軍団の結束に不安を覚えた。

別に仲間として仲良くせよというわけではないが、

味方陣営でいがみ合いすぎては敵の思うつぼでは無いか……と。

最強の軍勢を用意したとしても、内輪もめで瓦解しては意味が無いのだ。

 

そう考えていたところ、第二宮廷から第三宮廷への入り口付近で、

一人の亜人面樹がワインを飲んで壁にもたれ掛かっていた。

 

 

「やぁ、お嬢さん。キミに話があって待っていたんだよ」

 

「私には別に話などない。それと、私は妖魔士団長だ。

あなたの上司であるデスカールと同格よ。言葉遣いに気をつけなさい」

 

 

キギロは大仰に肩をすくめて、一礼して非礼を詫びた。

 

 

「これは失礼を妖魔士団長殿。

ボクの名は……いう必要は無いよね」

 

「あなたは私たち植物系の魔物の間では有名だわ。

亜人面樹のキギロ」

 

「それは光栄だねぇ。で、ちょっとキミに力の使い方を教えたいと思ってね」

 

 

超魔手術で彼の木片を移植したことを知られている?

メネロは動揺が表に出てしまった。

 

 

「なんかねぇ、先日初めて姿をお見かけしてから、キミの事が気になってね。

デスカールに……いや、デスカール様に話を聞いたんだよ」

 

「力の使い方と言ったけど、私はあなたに教わるようなことはなにもないわ」

 

 

亜人面樹の横を通り過ぎようとするメネロ。

 

 

「地上は木々が豊かだ。

それを掌握して己のモノと出来れば、キミは最強になれる」

 

 

それはキギロの力を移植してから、出来るであろうと感覚では分かっていても、

メネロには扱い方が分からない力だった。

 

 

「ロモスにある魔の森。

あれを世界規模で掌握し、キミの手足とすることができれば、

その能力と功績は絶大じゃないかなぁ?」

 

「……教えてくれるとして、見返りはなに?」

 

 

態度を軟化させたメネロから、キギロへ質問が飛んだ。

キギロはにやけていた顔を真面目な表情にして、メネロにこう言った。

 

 

「亜人面樹ってのはね、数百年に一体しか生まれなくてね。

率直に言うとキミに親近感を抱いているんだ。同じ樹木系の魔物として。

だから、協力したくてね」

 

「礼は言うけど、私からあなたに出せるモノはないわよ」

 

「なぁに。次の世代への希望を残すって……馬鹿な事を言った(ロカ)の、

真似事をしたくなってね」

 

 

この後、出陣までの間、キギロからの手ほどきでメネロの能力は格段に上がった。

 

 

 

みなが忙しない時というのは、注意力が散漫となり、

自ずと策を弄する者達を利することになる。

 

第四宮廷の主、不死騎団長デスカールは己の部下であるガンガディアが、

巧妙にアクバーの星見の結果を狂わせたことに満足していた。

 

本来、魔王軍の星見の精度は高い物で、日付と時間まではっきりと分かる。

だが、六大軍団出撃間近で、忙しいということで曖昧な観測結果が許容されてしまった。

 

退出したガンガディアに対して、諫言を弄する者がいた。

 

 

「デスカール様。彼は心の底から忠誠を誓っているとは言いがたい……。

言葉の端々からそう感じるのは(ボク)の思い過ごしでしょうか?」

 

 

デスカールに話しかけているのは、蛇のように鎌首をもたげた鎖だ。

先端が尖っており、ガゼルの角のような鋭利な武器となっている。

持ち手には顔に見える意匠が刻まれており、そこから声が聞こえてきた。

 

彼はかつてベルクスと呼ばれた、はぐれ武器集団の一人、魔鎖のタークス。

仲間に粛正されたのだが、デスカールに拾われ、修復・蘇生されている。

 

デスカールはベルク工房の職人ではないので、彼の得意な死霊魔術を用いた。

武器のアンデッド化というのは妙な雰囲気ではあるが、タークスはそのようになっている。

さらに"しびれだんびら"などの魔物化した自律する武器を参考に、

その要素を超魔手術で移植することで、タークスは自律可動が可能だ。

 

 

「それは理解してはいるが、ガンガディアは呪文使いだ。

意識を暴走させては、ただの力馬鹿のトロルを反英霊化したことになる。

キギロも同様ではあるが、面従腹背でも従っているのならば、それでよいのだ」

 

「流石はデスカール様。その寛大さ、度量の深さに(ボク)も感服致しました」

 

 

タークスは主人への追従混じりの賞賛を送っているのだが、

デスカールとしてはそんなものはまったく心に響かない。

 

とはいえ、力を見せることで従う類いの人物……いや、はぐれ武器ではあるので、

デスカール自身の護衛として持ち歩いている。

 

デスカールのヴェルザーへの援護射撃はここまでだ。

六大軍団の侵攻も目前。

となれば、あまり派手な肩入れはできない。

大魔王が皆既日食の正確な日時を知らないというアドバンテージ。

ヴェルザーがどう生かすかはお手並み拝見だ。

 

デスカールは見えるはずもない大魔宮(バーンパレス)にいる大魔王に、

一礼をして部屋を後にする。

 

彼の裏切りを知る者には滑稽に映る行為だが、

デスカールの中では整合性がとれているのだ。

狂信者というのは得てしてそういうものである。

 

かくして、魔王軍は混沌としつつも、勤勉に地上侵攻の準備を整えていた。

様々な思惑を乗せつつ、時計の針は侵攻のタイミングまで、

刻一刻と時間を刻んでいくこととなる……。

 

 




独自設定

天魔
オフィシャルガイドブックに大魔王バーンの種族が、
「不明」となっていることに対しての、私なりの回答です。
ダイの大冒険はネーミングがシンプルで、
分かりやすく伏線が張られているので、もしも魔界編があれば、
何か明らかになった話かなとは思っています。

魔族の神の最期
大魔王バーンが語った魔族の神の末路と、ルビスのそれが食い違っています。
これは大魔王バーンが大いなる闇の根源によって、魔族の神が狂わされ、
それをルビスとラーミアが倒したという歴史の真実を知らないためです。

魔鎖のタークス
かなり粉々でしたが、本文で書きましたように修復というよりは、
アンデッドとして復活という手法で直しました(?)。
デスカールとしてはあまり信用してはいないのですが、
自分の方が上であると見せ続けることで、
タークスはきっちりと従うので、そういう手駒として重宝しています。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。