ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
長いのでお暇なときにゆっくりお読みください。
北にマルノーラ大陸、中央にギルドメイン大陸、西にラインリバー大陸、
東にホルキア大陸。
北からオーザム、カール、テラン、ベンガーナ、リンガイア、パプニカ、ロモス。
これら四大陸、七王国にとって、今日という日は平凡な日だった。
面白いことにあらゆる大陸、あらゆる国において、
特に記念日でもなく、名前がつくような逸話もない。
そんな、ごくごく平凡な日であった。
今日、この時までは……。
後の歴史的に見ると、非常に重要な日であり、
歴史家たちはこの日からの出来事をまとめ上げるために、
奔走していくこととなる。
リンガイアの城塞群には叶わないものの、
カールも騎士の国として、質実剛健で実用的な城が築かれていた。
その王城が、いままさに緊迫感に包まれている。
国境付近からの急報を受け、騎士団長ホルキンスが女王に謁見を願い出た。
大臣、武官、文官が集められ、一堂は良くない知らせだろうと不安を募らせている。
フローラ女王は落ち着いており、笑顔でみなの緊張を解していた。
こういった場合、一番上の者が焦っていては、いたずらに混乱を招くだけだ。
ホルキンスの報告を聞いた女王は、動揺を示す家臣団を落ち着かせ、
再度問いただし、報告に間違えが無いことを確認した。
「では、国境付近に大挙して、さまようよろいやスモーク、
あやしいかげを中心とした魔物の軍勢が現れた、と」
「ハッ。恐らくは大地の賢者ザボエラ殿からの連絡があった、
魔影軍団かと思われます」
フローラ女王は何度か手紙のやりとりをしたザボエラの、
細心な心配りを思い、静かに頭を垂れた。
本来ならザボエラは一度くらい会っておこうと思ったのだが、
会いたくても会えないアバンの手前、手紙だけのやりとりに留めていた。
あらかじめ行っていた避難の手順通り、小さな村や町の者達は、
王都の城壁の中への誘導が始まる。
尤も
現在のカール騎士団は、恐らく史上最強の剣士達で構成されている。
全員が、豪破一刀を使いこなし、剣技も磨き抜かれている。
さらに騎士隊長クラスは、名工ロン・ベルクの手になる剣を身につけ、
武鋒・豪破一刀を習得していた。
当代で武鋒・豪破一刀を身につけ、復活させたのはロカだ。
だが、命を落とす危険性がある技で、容易く流布できなかった。
しかし、
ギリギリのラインを見極めることで、命を使い尽くさぬ奥義として武鋒・豪破一刀を完成。
騎士隊長クラスの猛者達は、全員習得するに至った。
報告を聞いたフローラ女王は、動揺する大臣、動じない騎士、
覚悟を決めた文官達を見つめてこう宣言した。
「ここからの戦いは、13年前のヴィオホルン山にある地底魔城の戦いを超える、
人類存亡の危機をもたらす極めて厳しいものになるでしょう」
その女王の重い言葉に、ホルキンスや彼の父であり一線退いたコバルト元団長。
団長の座をホルキンスに譲ったが、第二騎士隊長として存在感を放つエルドラたち、
前線で戦ってきた騎士達は身を引き締めた。
「ですが、私たちは負けません。我々の尊厳のために!
今いる幼い命達のために、これから生まれてくる新たな命の為……。
私たちは国民を、カール王国の国土と伝統を守るために……戦い抜きましょう!」
フローラ女王の力強い言葉で、みなの不安が解け、戦い抜く力が伝播する。
そこへ、伝令の兵が息を切らせてやってきた。
「女王陛下! 申し上げます!
魔影軍団の先遣隊、およそ数400! 王都の至近まで到達いたしました!」
フローラ女王は"来ましたか……"と誰にも聞こえない程度の声で言う。
そして腕を振り、ホルキンスに命じた。
カール騎士団の武威を示し、みなの不安を払うよう、と。
ホルキンスは力強く答え、騎士達を連れて魔影軍団を迎え撃った。
二時間後。
魔影軍団400を撃破し、カール騎士団がほぼ無傷で帰還したという報が入り、
王城の軍議室は歓声に包まれたが、女王は冷静にやるべきことを指示。
「……これからが正念場よ……」
そう一人、自分に言い聞かせるように呟いた。
テランでは数日前に浮上した竜の神殿の大掃除が行われていた。
長らく湖の底にあった神殿だ。
泥に汚れ、水草がまきつき、落ち葉が堆積している。
その神殿を掃除する国民は、別に命令されたわけでもなく、
竜の神への信仰篤きがゆえに、自主的に掃除をしていた。
国民と一緒に掃除をしている竜水晶。
彼女の美しい姿を、敬意を持って崇めている者達の中、
フォルケン王が竜水晶に歩み寄り一礼した。
一時は筋肉が非常に大きくなった王であるが、
現在は引き締まり、一個の刃の如き佇まいだ。
「竜水晶様。
ギルドメイン山脈方面から、鳥系の魔物を中心とした兵団、
およそ2000が押し寄せているとのこと」
「迎え撃つのかフォルケン王よ」
「出陣の前に、お知らせに参りました」
外見的には若い娘の姿である竜水晶に、筋骨逞しい王が恭しいのは、
理由を知らないと奇妙に映る。
だが、実際は竜の神の使徒である竜水晶と、
その竜の神を奉じる国の王という間柄なので、
王の敬意からくる恭しさであった。
「ハッ……この神殿には指一本触れさせませぬ」
「汝らに竜の神のご加護があらんことを……。
そして、我も共にゆこうではないか。乗るが良い王よ」
「恐れ入ります、竜水晶様……」
白いドラゴンに変じた竜水晶の神々しさに、
集まっていた民はみな祈り、歓声をあげて手を振る者も居た。
フォルケン王は近衛のカナルに現地までの指揮を預け、
竜水晶の背中に乗って戦場へ急行した。
先発隊のギュータの民達は既に戦っている。
デッドペッカー、アカイライ、とかげどり、フーガベッサム、アサシンエミュー……etc
空は飛べないが、脚力に自信のある魔物が土煙を上げながら突進してくるからだ。
人間で言えば騎馬隊のようで、押しとどめなければ、テランの国土は蹂躙される。
ギュータの民たちは、
中には
だが、敵は地上だけではない。
キメラ、メイジキメラ、キラーグース、ウィングスネーク、キメイラ、
フライングデス、ケツァルコアトルス……。
彼らは空中を自在に飛び回りながら、ブレスや呪文で攻撃を仕掛けてくる。
そこへ、
一振りで十体、二十体の敵を屠る少女がいた。
「うぉりゃああああ! 出力上げていくでぇッ!!
ブオンッ!と低い風切り音を立てて、空に血しぶきが舞った。
ボリクスは近くで戦っているチョコマに声をかけた。
「チョコマ! なんて言うてんアイツら?」
右手から
器用な真似をしながら敵を蹴散らすチョコマが、
友人の問いかけに答えた。
「猛禽旅団って言ってたぞ。
「なんやろな。
教えたったら、喜ぶんちゃう?」
そう話し合いながらも、周囲の猛禽旅団の魔物はバッタバッタと倒されていった。
そこへ場違いなラッパの音が鳴り、
直立して腕がある鶏─チキンドラゴが整列してラッパを吹く。
怪訝な顔をしたボリクスとチョコマの前に、一見すると五人兄弟のような鳥の魔物が現れた。
中心にいるのが額に目がある、三つ目で直立したグリフォンのような魔物だ。
頭部と翼が焦げ茶色で、身体が薄い茶色の魔物である。
首の周りと尻尾が燃え上がっていた。
ボリクスは目を細める。
一度、魔界で見かけたことがある男だ。
大魔王軍の古参、四諸侯の一人として知られるジャミラスである。
「見るがいい! 我々の圧倒的な戦力を!
矮小な人間共よ! いますぐ自害しろ!
大魔王様の大望を汚すウジ虫共にはそれがお似合いだ!」
「「「「ジャミラス! ジャミラス!!」」」」
チョコマが怒りの声をあげるが、ボリクスが"おもろいから調子に乗らせトコか"というと、
冷静さを取り戻したのかジャミラスを睨みながらも、怒りを押しとどめた。
ジャミラスは気分が乗ってきたのか演説を続ける。
「聞け! 我らが猛禽旅団の同胞達よ!
このちっぽけな国を滅ぼせば、我らの名は轟き、六大軍団が七大軍団になるのも必定!
諸君らの栄達は、このジャミラスが保証する!
我を信じろ! そして、我らが主、偉大なる大魔王バーン様を崇めよ!」
「「「「 おおおー! ジャミラス! ジャミラス! ジャミラス!! 」」」」
魔物たちのボルテージが上がった所、
レーザーブレスが空を舞うキメラたち空のモンスターを蹴散らす。
そして、上空の竜水晶から飛び降りたフォルケン王は、身軽に着地した。
地上に降りた瞬間、殺到する魔物達を容易く倒す。
それと同時に近衛のカナル率いるテラン戦士団、並びに拳士団が、
楔の一撃を猛禽旅団の地上部隊に打ち込んだ。
まず、フォルケン王が強い。
一撃一撃が重く、そして鋭く、早い。
周囲の戦士や拳士たちはついていくのがやっとだ。
目を離すと、鳳凰流星脚でデッドペッカーたちを30匹以上、叩き潰している。
その戦いぶりに唖然としたジャミラスは、呻くように言った。
「……馬鹿な……。
多少、人口が増えたが取るに足らぬ小国と聞いたぞ!?」
「情報が古いんじゃないか?」
言葉と共に、地上にいたフーガベッサム、アサシンエミューたちがまとめて切り裂かれる。
「な、なにものだ貴様ぁ!」
「オレか? オレはロン・ベルクという。別に覚えて貰わなくていいぞ」
地上に降りたジャミラスは激しい炎を叩きつけるが、ロン・ベルクは既にそこにはいない。
怒ったジャミラスは煉獄火炎を叩きつけるが、ロン・ベルクを捉えられていない。
その姿を見て、ジャミラスそっくりな魔物達が助けに入ろうとする。
それを、
「一騎打ちの邪魔をするのは野暮やないか?」
「ふざけるな小娘が! 死ねえ
緑茶がかかった色合いのエビルホークが
ボリクスの
「な、なに!? 何者だ貴様ぁ!!」
「ふふん……
「
馬鹿な! バランという男のはず!」
「ボリクス! 右!」
心得たものでボリクスがひょいと退くと、
極大呪文の炎のアーチを掲げたチョコマがおり、
凄まじい速さで
その練度、速度、威力共に熟練の技であり、直撃したエビルホークは、
黒焦げになり絶命して、驚愕の表情を張り付けたまま地面へ落下してゆく。
「エ、エビルホークがやられたっ!?」
頭が赤いサイレスがそう叫んで動揺した。
「フッ……彼奴は猛禽旅団四天王では最弱……」
ベージュ色の頭で、首の周りの毛が緑色のクレセンスが、
なにかキザな感じで言う。
「あのような攻撃で死ぬようなやつは、我らが四天王の面汚しよ!」
周囲の連中より、一回り大きい、紫色の頭部と黒い下半身を持ったゲルバトロスが、
エビルホークの死を吐き捨てる。
「じゃあ、お前ら全員、面汚しになるんやな!」
「ほざけぇ、小娘が!
「
「あの世で後悔するがいい!
残った三人の猛禽旅団四天王が攻撃を繰り出してくるが、
ボリクスは3mほどに伸びた
回避もできず、両断された猛禽旅団四天王の三名は、地上へ落ちていった。
一撃で三人を倒す姿を見たチョコマは、呆れたようにこう言う。
「その剣で全力出すと、ボリクスはこんなに強いんだなぁ」
「いままで威力を抑えとったからな。これでも、7割ってとこや」
その後、キメラ、ウィングスネークなど、空飛ぶ魔物を二人で倒して回り、
夥しいまでの戦果を上げたのは言うまでも無い。
ジャミラスは眼前の男に歯が立たないことを知り、愕然としてしまった。
凍って
無論、その場で死ぬのだが、大魔王への忠誠篤き彼はそれでも良いと考えていた。
だが、一年前、大魔王から急に別命が下った。
大魔王直下、猛禽旅団として、テランを攻撃せよ、と。
情報では無視するには大きな勢力を得たという話だった。
しかし、彼が聞いたところでは、以前の人口は50人ほどという、
大国の村より小さな国だった。
ジャミラスは軍勢を作り、練兵したがあまり気乗りでは無かった。
ミストバーンからの追加報告に目を通さなかったのは、そのためである。
眼前の男……ロン・ベルクの剣技は凄まじい。
幾多の猛者達の攻撃を防いできた、自慢の鋼の翼が役に立たぬ。
何度も攻撃をすり抜けて、ジャミラス自身が血を流していた。
「な、なんだその技は……!?」
「ロン・ベルク流剣術……月光剣。平たく言えば、相手の防御をすり抜けて切り裂く技だ。
月光てのは窓を透過して、月明かりで家を照らすだろう? そういう技だな」
分かるような分からないような説明をするロン・ベルク。
頭にきたジャミラスは暗黒闘気をみなぎらせた爪で攻撃をするが、
容易く受け止められて、いなされ、既に爪はボロボロになっている。
「こいつは星雲剣。相手の攻撃を受け止めて
お前さん、随分とタフだな。何度も斬ったのにまだピンピンしている」
「ぐぬううううう!!」
それはそうだ。ジャミラスは
しかし、この男の実力なら、自分をすぐ倒せるのでは……まさか!
ジャミラスはハッと気づいて周囲を見渡すと、既に立っているのは自分だけだった。
「ようやく気づいたか。オレはお前さんを引きつけておくのが役目だ。
その間に、フォルケン王やボリクス、
チョコマにテランの戦士達が猛禽旅団の兵を片付けるって寸法だ」
「おのれ……そのような策にオレをまんまとはめたなぁ!」
「策でもなんでもないさ。
要するにこちらを舐めて物見遊山で来て、勝ったつもりになり、
演説をぶちかましたお前の負けだよジャミラス」
周囲を囲むテランの戦士達は、油断無く武器を構え、
フォルケン王は闘気を込めた拳を握りしめている。
ギュータの民は呪文を撃てるようにしているし、浮いているチョコマと、
雷竜剣を地面に突き刺しているボリクスもジャミラスの逃走を防ぐ構えだ。
「ここにいる人間達とは、ちっとばかり覚悟が違ったな?」
「お、おのれぇ! フェザーストーム!!」
ジャミラスの鋼鉄の羽根を暗黒闘気で飛ばす技だ。
手数が多く、いままでこれを食らった相手は蜂の巣になって死んだ。
自信満々の奥義を、眼前のロン・ベルクに叩きつける。
が、次の瞬間、ロン・ベルクはジャミラスの背後に立っていた。
「星皇十字剣。……もう、終わってるぞジャミラス」
「なにを馬鹿な事を……」
言っているのだと喋ろうとしたジャミラスは、
己が身体の中心から十字に切り裂かれていることに気づき、
最後まで理解できないといった顔で絶命した。
「ボリクス。テランへの攻撃があったということは、
魔王軍も脅威の一つだと考えているということだろう。
竜水晶と一緒に、竜の神殿へ一旦戻れ」
「せやな……。
テランへ寄るやろし」
「ここは任せろ。ジャミラスの様子では魔王軍の情報は、
あまり新しくはなさそうだが、注意するに越したことはない」
力強く頷いたボリクスは、白いドラゴンの姿をした竜水晶の背に乗り、
竜の神殿へ飛んで行った。
オーザムの主要産業は漁業と林業だ。
漁業は沿岸。林業は森の側に集落を構えている。
ザボエラの献策で、戦況が厳しくなった場合、
南の洞窟から海底を通って、テランへ脱出することになっていた。
ザボエラからの情報を得てなお、
オーザム王アギロは逃げるつもりがなかった。
アイスゴーレムを500体準備しており、拳士団は猛者揃い。
魔法兵団も精強であり、猟師が中心の弓兵隊も人数が多く士気も高い。
みながオーザムを守ろうと、民兵達も王都に集まっていた。
彼はかつて人類の七王国中、最強の戦士であると自負していた。
だが、テランのフォルケン王に敗北し、自分は第二位の強者だと名乗るようになる。
戦いは二日続いており、ザボエラ達が敷設した
その安全地帯を上手く活用して、なんとか氷炎魔団の猛攻を退けていた。
凄まじい勢いで攻め寄せる炎と氷の魔物達。
フレイム、ブリザード、氷河魔人、溶岩魔人、炎の戦士、ブリザードマン、ヘルプラネット……。
オーザム側の有利な点として、厳しい寒冷地になれているという点がある。
だが、敵の氷炎魔団は過酷な環境を物ともせず、間断なく攻撃を繰り返していた。
吹雪や寒冷地の悪天候を物ともせず、交代交代で城の城壁を攻撃してくる。
炎は勿論強力だが、氷柱や氷の弾丸のような攻撃も、
寒さに慣れたオーザムの兵にも堪えた。
弓兵達は火矢で敵を射ることで、氷系の魔物を倒す事ができる。
だが、炎系の魔物に当たれば、彼らを活性化させてしまう。
なんともやりづらい戦いとなっていた。
城壁を登る魔物達は、拳士や戦士団が叩き落とす。
ホークブリザード、アイスコンドルなどの、空から攻撃する魔物は、
果断で容赦ない氷炎魔団の猛攻相手に、オーザムは粘り強く戦っている。
アイスゴーレムたちは強力で、王都への侵入を許してはいなかった。
既に100体以上倒されてしまってはいるが、彼ら無しでは氷炎魔団に、
王都は瞬時に蹂躙され、国民を避難することもできなかっただろう。
現在、敵将のフレイザードを押しとどめるため、
アイスゴーレムたちがフレイザードと戦っていた。
アギロ王は戦闘前に、三分の二の国民をテランへ逃がす決定をしている。
だが、三分の一の国民は、志願して後方支援をしてくれていた。
氷炎魔団の猛攻を支えきれず、戦いの均衡が押しきられる前に、
後方支援のために残った国民を、もう避難させるべきではと判断した。
自分が中心になって決死隊を作り、打って出ている間に、
後方支援をしている者達を逃がそう……そう考えたときにそれは起こった。
フレイザードを囲んでいた200体のアイスゴーレム。
50体ほどを炎の腕で溶かし、氷の腕で砕いた猛将フレイザード。
その彼が動きを止めて何かしている。
右手に
宿したように見えるが遠くて確認できない。
その瞬間、チカッ!と光った彼の手元から放たれた魔力の矢が、
あらゆるものが存在しないかのように軌道上のものを消し去っていった。
「い、いまのはなんだ!? なにが起こった!」
「わ、わかりません。アイスゴーレムが100体、体を抉られたようになっていて、
まったく動きません!!」
ザボエラからの書簡で敵の戦力や技はある程度把握していた。
把握していてこの有様だ。
いや。あんなものは知っていてもどうすることもできない……。
アギロ王は先ほどの決断を部下達に伝える。
「よし、王都を捨てる! 時間を稼ぐぞてめぇら!
命がいらねぇやつだけオレについてこい!」
「王……。みんな、王に続けぇ!!」
アギロ王の背後には400人ほどの兵がついて来ていた。
彼らが決死隊となって、脱出する部隊と彼らが護る国民の、
時間稼ぎをするのだ。
「龍撃波動拳!」
フォルケン王から学んだ、武神流の技を駆使するアギロ王。
その後、クロコダインにも師事し、斧と拳足を使うそのスタイルに憧れている。
フレイムとブリザードを20体近く屠った後、
殺到する氷河魔人に玄武鉄山靠を打ち込む。
アギロ王と決死隊は凄まじい勢い、まさに獅子奮迅の活躍をして、
氷炎魔団の侵攻を押しとどめ、王都から後方支援をしていた者達と、
彼らを護衛する戦士達は逃げおおせた。
魔界において百獣魔団に並ぶ猛者である氷炎魔団。
その猛者達が、人間の決死の戦いに、一瞬、怯んだ。
が、その時、彼らの怯懦を正すべく、
氷炎将軍がゆっくりと歩いてきた。
わざとらしく拍手しながら、先頭に立つアギロ王を眺めながら話しかける。
「よぉ、景気のいいことしてるじゃねぇか?
オーザム王アギロだな?」
「氷炎将軍とかいうやつか?」
「おうよ! オレはフレイザードってんだ。死ぬまでの短い間、覚えててくれよ!」
炎の腕を伸ばしたフレイザードの攻撃を、背負っていたバトルアックスで切り払う。
踏み込んだアギロ王の蹴りが、フレイザードの氷の腕にヒビを入れ、
間髪入れず振り下ろされたバトルアックスで、腕が砕かれてしまう。
「時間稼ぎに付き合って貰うぜフレイザード!」
「わりぃわりぃ……こいつは予想外だ」
砕かれた氷の腕が、倍ほどの氷の刃として作り直された。
アギロ王は冷や汗をかきながらも、驚愕の言葉を飲み込む。
「なんでぇ、やるじゃねぇか。引きこもるから大した兵がいないかと思ってたが……。
なかなか粘るし、アイスゴーレムなんざ用意して、おもしれぇな」
「フン……オレの師匠には及ばねぇがな」
「師匠? 誰だよ言ってみな」
フレイザードの言葉にアギロ王はニヤリと笑いながら答えた。
「オレには二人師匠がいてな。
鼻っ柱をへし折ってくれた、テランのフォルケン王……」
フレイザードは事前に得ていた情報で、テランについても知っていた。
だが、人間年齢78歳のフォルケン王が、目の前にいる筋骨隆々の戦士の師匠なのか、
という疑問が浮かぶ。
そう考えたとき、ハドラーの"人間をあまり侮るなよ?"という言葉を思い出し、
気を引き締めるフレイザード。
「それと、武神流最強のクロコダインってお人よ。
あの人に憧れて、オレも斧と拳の二刀流、張ってんだ!」
「クロコダイン……! なるほどな。ザングレイが狙ってる奴は、
やはり名が知れた猛者ってことだな……」
「お喋りは終わりだ! 行くぜフレイザード!!」
アギロ王の斧の強烈な斬撃と、空を切り裂く蹴りを回避するフレイザード。
距離を取ったフレイザードが氷のブレスを吐くと、
アギロ王の背後から飛んだ
「ハッ! やるじゃねぇか!」
「そう簡単に人間はやられねぇぞフレイザード!」
「氷しかねぇ国だって聞いてたから、ちょっと舐めてたわ。
お礼におもしれーモン見せてやるぜ」
人差し指を上げて
中指、薬指と炎がついてゆき、最後は五指全てに
「ぬうううん!
その絶大な火力はアギロ王と周囲の兵達を吹き飛ばした。
アギロ王は彼を庇って
"馬鹿野郎"と小さく声をかけながら軽く頭を下げた。
ゆっくり近づいてくるフレイザードの足音に、逃げた連中は無事、
テランへの海底トンネルをくぐって行けただろうか……?
薄れゆく意識の中、最後まで民のことを考えた王を、
フレイザードの伸ばした腕が刺し貫こうとした時……。
地面から伸びた岩の壁がそれを阻む。
瞬く間に、岩の壁がフレイザードとアギロ王の間に、
十個ほども出現して両者の間を遮った。
「……誰だ? 邪魔をしやがったのは!」
声は激高しているが、冷静に
気配の先に二発飛ばす。
二つの
その人物が手の中に作り出した
竜巻のように上空へ威力を逃がしつつ、
フレイザードは心の中の警戒心を最大に引き上げる。
話は聞いているのだ。
いま、魔王軍で一番危険視している人物が、
自分の前に現れたのだろう……と。
チラリと見ると、アギロ王や生き残りの兵たちは、
鎧の騎士たちが担ぎ、一カ所に集めている。
鎌を持った魔族の女が、そいつらを使役しているのだろう。
白髪でヒゲを蓄え、杖を持った老魔族が立っていた。
一瞬、大魔王かと思うほどの魔法力を感じるが、違うことは分かっている。
威圧感を周囲へ放出するタイプではないが、まるで大山を目の前にしたかのような、
圧倒的な魔法力を感じて、フレイザードは全力の戦闘態勢に入った。
「初めましてフレイザード殿。
私はヨミカイン魔導図書館館長であり、パプニカ四賢者の一人、ザボエラと申します」
「あんたの名前は聞いてるぜ。
チンケな手柄に興味はねぇが……大魔王様が一目置く男……。
オレがここで倒せば、ハドラー様にも自慢ができそうだな」
「……さて、なにやら過分な評価を頂いているようですな」
ザボエラの杖が伸び、爪が傘のように開いた。
その爪が強大な魔力を帯びているのを見て、フレイザードは驚愕と共に納得する。
すぐに右腕の氷の刃を凶悪な姿に変え、左手の拳がまとう炎を燃え上がらせた。
かくして氷炎将軍フレイザードは、己の戦歴の中で、
最強の敵と対峙することとなる……。
解説
各軍団の侵攻の本気度と戦力評価
氷炎魔団 本気度A+ 戦力A
総勢約4000が戦闘慣れしており、魔王軍の中でも歴戦の猛者揃いです。
さらに通常デバフになるオーザムの気候が、
まったく彼らの行動の阻害要因になりません。
フレイザードは集団戦闘にも長けており、兵力を分散させず、小出しにせず、
集中して迅速で的確に叩きつける運用をしてきます。
魔影軍団 本気度C 戦力B
やる気がないというかそもそもミストバーンは鬼岩城にいて、
対カール戦線はダブルドーラが指揮をしています。
彼は人間を舐めていますので、少数の偵察部隊を送って失敗しました。
尤もご存じの通り、魔影軍団の鎧系は肺の間で、
幾らでも量産可能なので戦闘が長引くと危ういでしょう。
猛禽旅団 本気度D 戦力C
大魔王がちょっと博愛精神?を発揮して、
「ジャミラスも古参だし爆弾と心中させるよりは戦闘に出して、
その功績に応じて処遇を決めよう」
という温情のような温情じゃないような考えから、軍勢を指揮して、
テラン攻略の任に就きました。
ジャミラスは一年前に得た情報で人口50人の国を舐めてました。
テランの情報が古すぎたこと、その後、追加の情報があったのに、
ダブルドーラに輪をかけて舐めていたジャミラスが見なかったこと。
フォルケン王とテランの兵が強かった事。
ギュータの民、チョコマ、ボリクス、ロン・ベルクがいたことが、
ジャミラスの運の尽きでした。
……普通、高速で走ってくる鳥系魔物の地上の兵団と、
天空を飛び回る鳥系魔物の兵団って、
かなり強い兵種なんですが……このような事になりました。
あと、通常の軍団より兵数が少なく2000あまりです。
独自設定
ロン・ベルク流剣術
星やら惑星の名前がついています。
基本的に多数を一気に片付けるよりは、一対一の決闘専門の剣術です。
あと、流星剣と太陽剣があり、分かる方は分かる元ネタです。
チョコマ
本作では初登場時11歳スタートで、現在20歳くらいです。
小さい頃は前分けおでこだったんですが、
いまは前髪を下ろしてます。背は小さいです。
【挿絵表示】
ボリクス
ボリクスは背が伸びました。人間年齢17歳くらいの外見です。
背景がオレンジ色なのは白だと雷竜剣の放電が見えなくなってしまって……。
【挿絵表示】