ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
いつもご感想・誤字報告ありがとうございます。
今週の投稿はこれで最後になりますので、また来週お会いしましょう。
大陸中央ギルドメイン山脈の西、深い森に抱かれた自然豊かな国テラン。
その王城の前に我々は立っている。
ダイの大冒険では、オーソドックスな形であるロモス城の四分の一ほどの大きさだ。
城というよりは、小領主の館といった風情である。
断られる可能性が高いが、門番にフォルケン王への面会を頼んでみる。
30分ほど待たされたので、きちんと王に確認に行っているようだ。
その時点で好感が持てる。
恐らくは他国だったら、すぐに追い返されている所だろう。
戻ってきた兵士が三倍の人数になってはいたが。
「王は魔族にはお会いにならぬ。早々に立ち去られよ」
やはり駄目か……。予想通りではある。
五年経ったとはいえ、魔族のハドラーが世界を乱した後だ。
小国とはいえ、王と軽々しく会えるわけではないのだ。
むしろ、問答無用で攻撃されないだけ、
テラン王は理性的な対応をしてくれたと言えるだろう。
となるとテラン王フォルケンは、ダイ大の作中で受けた印象通りの人物だろうな。
若干、危険な賭けではあったが、
魔族がどの程度忌避されているかの調査としては満点だった。
兵力の揃っている他の大きな国へ行く前に、
魔族への差別について体感できてよかったかもしれない。
精強な騎士団を抱えたカール辺りだったら、問答無用で捕縛される可能性もある。
もっとも、私達が大人しく囚われるかどうかはともかくとして。
そのように考えていたが、思考を中断して横を見ると、
怒りで歯をむき出しにしたボリクスが立っていた。
「なんやワレッ! 舐めてんのちゃうぞ!!」
激怒して突っ込もうとするボリクスを、
クロコダインがヒョイと掴み、その場を辞去する。
神殿がある湖は祭壇がある場所だったはずだ。
一目で分かるものであるし、それを目印に探してみよう。
表情をコロコロ変えながら周囲を見渡し、怪訝な顔をするボリクス。
「随分、小さい国やなぁ。ちょっとした街か村くらいなん?
どっか、でかい国と戦って負けたんかここ?」
「いや……このテランという国は自然主義・平和主義の国じゃからのう。
神を敬いすぎるが故に、武器や道具の開発を禁じたのじゃ。
いずれ必ず災いをもたらすといってのう……」
彼女は呆れたように鼻を鳴らす。
不貞腐れて明らかに機嫌が悪くなった。
「アホやなぁ……そないな事いうたかて、敵は武器持ってるやろ?
自分を殺しに来る奴とも争いは良くない言うんか?」
「極端な平和主義の弊害じゃなぁ。故にこの国は人口が150人ほどじゃ」
未来では更に減少し、人口50人になってしまうが。
やはり人は主義主張よりは便利さを求める。
一人、また一人と国民が去って行って、この閑散たる有様だ。
雑談をしながら歩いていると、肩口を押さえ血を流している者が座り込んでいる。
近寄ると、私が魔族であるせいかギョッとした様子だが、
「治療するだけじゃ」と声をかけると、緊張しつつも大人しくしてくれる。
話を聞くとグリズリーが率いるモンスターの集団が現れて、
戦える者が挑んだが歯が立たないらしい。
彼は子供たちを庇って怪我を負ったので、国王に助けを求めようと王城へ急いでいたようだ。
他の住人は大きい頑丈な家や、村長の家に立て籠もっているがどれほどもつか分からない。
「クロコダイン、ボリクス。先に行って村を助けてくれぬかのう」
「うむ、任せておけ」
「むしゃくしゃしとったところや! 先、行くでおっさん!!」
怪我を治療した村人に、国王の下へ向かい救援を連れてくるように話す。
私も周囲の家の様子を確かめながら歩いてゆく。
私が二人を先行させたのは、戦えるものが早く行った方が、
被害を減らせるであろうという考えからだった。
恐らくは私はゆっくり行った方がいい。
家々に怪我人や逃げ遅れた者たちが潜んでいた。
無論、私が魔族であることで拒否反応を現すものもいたが、
先ほど助けた村人の名前を話すと受け入れてくれるようになる。
怪我人を助け、動ける者にはついて来てもらう。
私は土地勘がないし、同じ住人を説得してもらうためだ。
怪我人を一人、また一人助ける内に、
みながどんどん協力的になっていった。
そろそろ重傷の者はみな治療が終わっただろう。
間に合わず天に召された者もいたが……。
そろそろ、クロコダイン達に合流した方がいいだろう。
動ける住人に薬草を幾つか渡し、他の住人を探しに行った。
もしもの事を考え、ケインを置いて彼らの護衛を任せる。
村の開けた場所。湖の中心には祭壇がある。
10体ほどのモンスターが屍を晒していた。
ごうけつぐまを筆頭に何種類かのモンスターがいて、
彼らを相手にクロコダインがたった一人で奮戦している。
さそりばちをメラミで撃ち落とした所、こちらは大丈夫だと言われてしまう。
「状況はどうなっておるのじゃクロコダイン?」
「そこの路地を入った先の方から、子供の叫び声が聞こえたのだ。
ボリクスがすっとんで行ったぞ! 頼むザボエラ!!」
「わかった。ワシも向かおう」
ボリクスがグリズリーを相手に格闘戦を繰り広げていた。
小柄な少女が背後の二人を庇うために、
自分の胴二つ分くらいはあるグリズリーの腕を止めている姿は、目を疑ってしまう光景ではある。
尤も額に輝く紋章の意味を知る者ならば、納得の姿ではなかろうかと思うが。
背後でうずくまっている老婆と、心配そうに抱き着いて泣いている少女。
ボリクスは二人を守るため、グリズリーの前に立ちふさがっている。
「ボリクス、右へ避けるのじゃ!」
そう声をかけた瞬間、
ボリクスはヒョイと羽が生えたかのような動きで右へ跳ぶ。
虚を突かれたグリズリーがバランスを崩したので、
私は
そこへボリクスがグリズリーの顔面に、
「へへん! どんなもんや! 強いやろ!」
「グリズリーに苦戦しておってはのう」
一言釘を刺した私をキッとにらんでくるボリクス。
この体に慣れへんのや!と私に大声で怒鳴ってきた。
ごうけつぐまだけかと思っていたが、まさかグリズリーもいるとは。
グリズリーに率いられただけのモンスターの襲撃にしては、
種類も雑多であり、数が多すぎるように思えるが……。
「……もしや、
うずくまっていた老婆は、驚愕の表情を張り付かせたまま、そう話しかけてきた。
よく見るとスタンダードな魔女の帽子だが、縦に目がならんだデザインが特徴的な帽子。
まさか不思議な帽子では……?
一緒にいる女児は、目がウルウルしている感じなのでもしかして……。
占い師のナバラ婆さんとメルルだろうか?
ナバラ婆さんの声を聞いた村人が現れてきて、
ボリクスを
ボリクスは困惑しているが、
近寄ってきた子供たちの感謝の言葉にまんざらでもない風だ。
そこへ、クロコダインがフォルケン王と兵士たちを連れてやってくる。
クロコダインは落ち着いた表情をしているが、
対照的にフォルケン王は険しい顔つきだ。
私達に怒っているわけではない。
自責の念が強く表れているように見て取れる。
同行した兵士たちは四名なので、
残りは動けない村人の救助だろうか。
こちらへ近づいてきて私に一礼し、ボリクスに跪くフォルケン王。
「
追い返したにもかかわらず、我が国の民の命を救っていただき、
そのご慈悲に感謝の言葉もございません」
「うちはボリクスや。テラン王、お前の名はなんや?」
「フォルケンにございます。ボリクス様」
ボリクスは指を差してフォルケン王を糾弾した。
「平和主義いうてもな! 王を慕って集まった民を守らへんでどうするんや!!
親分は子分守るのが不文律や! 最低、そんくらいせえや!!!」
「返す言葉もございません」
首を垂れて膝をつくフォルケン王を庇う様にメルルがボリクスに言う。
「王様は優しい人なの。あまり虐めないで……」
「え!? べ、別に虐めてるわけやないで。ケジメっちゅーやつや……」
消え入るような声でメルルがそう話す。
それに応えるボリクスも若干困惑している感じはあるが。
そろそろかな……と私が仲裁に入る事にする。
「フォルケン王。
ワシはあなたの自然主義や平和主義は、良い事であると思うておりますのじゃ。
ハドラーの戦乱の後、人々は平和を希求しておりますからのう……」
そこで言葉を止め、髭を触って周囲を眺める。
フォルケン王は驚いたように私を見て、見定めるように話を聞いている。
一呼吸おいて、ゆっくり落ち着かせるように続きを語り始める。
「ですがのう、自然や平和を守るにも、力が必要な場合もあるのですじゃ。
グリズリーには王の主義主張は分かりますまい。
彼奴らを止めたのは
「ザボエラ殿……」
「主義主張を通す為、それを信じて集ったものを自衛するべき力。
よもやそれは過剰な暴力とはなりますまい。
年寄りの言葉、よろしければご一考いただけますかのう?」
「ハッ……肝に銘じまする」
最初にテラン王フォルケンに魔族であると明かして訪問したのは、
彼は理性的であり、誠実で正直さを重んじる人物だろうと考えたからだ。
その姿から、愚直と言ってもいい内面が見てとれる。
もし、
その時点で信頼を失うだろうと思えた。
彼ならば、まず、姿を偽るという嘘をついた事から、
信頼には値しないと判断しただろう。
正直さを重んじる相手に対しては、正直さを最大の武器として使う。
そう思って行動したのだが、これほどに上手くいくとは思わなかった。
亡くなった者達を埋葬した後、
湖面の祭壇に長年できなかった祭儀を行った。
曰く、
その煙は霧散して、テランを守ってくれるという古の祭儀だ。
ボリクスは意外な事に祭儀に寛容というか熱心で、子供達や国民に手を振っていた。
その後、テラン城へ是非にと請われ、逗留する事に。
食事も贅を尽くしたものではないが、
品が良く考えられたレパートリーで、落ち着いて食事を楽しめた。
ボリクスが眠ったあと、クロコダイン用にベッドを三つ並べているという話を聞きながら、
フォルケン王が見せてくれた
更に王自ら
普段語る機会が無いのか、興が乗ってしまい側近が王を止めに来るまで続いた。
眠る前に一つ考えたことは、今回のモンスターの襲撃はなんだったのかということだ。
フォルケン王に聞いたところ、あれほどの数のモンスターが攻めてくる事は、
魔王ハドラーの大戦の時以来らしい。
その当時は傭兵を雇って凌いでいたという事だが……。
私が気がかりなのは、このテランの東にはギルドメイン山脈が広がっている。
まだ出来てはいないだろうが、そこは魔王軍の本拠地である鬼岩城がそびえ立っていたはず。
まさか、鬼岩城を設置する立地を探している時期だろうか?
人間の小さな集落があるから潰しておこうと先走った、バーン配下の者の攻撃か?
流石にここまで小さな襲撃まで、大魔王バーンが関わってはいないだろうが……。
フォルケン王の主義には反するかもしれないが、
なにか武具を融通して、せめてあの程度の襲撃を撃退できるように援助すべきか……。
などと考えながら眠りに付いた。
翌日、正式に祭壇の湖──名前がついているとは思わなかった──
の湖底に眠る竜の神殿へ入る許可を得た。
地図を見ているとテランはギルドメイン山脈の西側にあるんですよね。
ベンガーナはそれより南なので、
もしもテランが普通の規模の王国だったら、
まず最初に攻め落とされていそうです。
人口50人で大した備えもなかったので、
長く見過ごされたという感じでしょうか。