ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。



第百話 旧魔王軍最高の剣士(バルトス)vs魔剣戦士(ヒュンケル)

瞬間移動呪文(ルーラ)で移動し、すぐにヒュンケルを追跡した。

だが、不死騎団のアンデッドが呪文で攻撃してくるため、

一旦、見晴らしの良い場所に降り立つ。

 

バルトス殿とヒュンケルは、既に激しい火花を散らしている。

慌てたマァムがアバン殿に、切羽詰まった声で言った。

 

 

「先生、ヒュンケルがあっちに! 助けに行きましょう!

不死騎団に囲まれてしまいます!」

 

「いや、待ってくださいマァム。

どうも一騎打ちをさせてくれているようです」

 

 

マァムとは対照的に冷静なアバン殿は、

周囲を観察してそう言った。

 

ヒュンケルとバルトス殿が剣を交えている最中だが、

周囲の死霊の騎士やがいこつは、事実、手出しをしていない。

私はあちらで指揮をしているガンガディア殿をちらりと見ると、

軽く頷いてくれている。

 

逆にこちらには不死騎団の魔物達が襲いかかってきているので、

アバン殿とマァムが抜刀して戦闘に入った。

閃熱呪文(ベギラマ)爆烈呪文(イオラ)を撃ち分けるアバン殿。

それを掻い潜った敵を、マァムが豪破一刀で真っ二つにしていた。

 

アバン殿とマァムに戦闘を任せて、

レッドオーブに込めた呪法を発動できるよう、

私は魔法力を高めて準備をしている。

 

 

「ケイン、周囲の警戒はおぬしに任せるぞ」

 

「はい。お任せ下さい御主人様(マスター)

 

 

ケインは爪を伸ばして、アバン殿たちが撃ち漏らした敵を、

近づけぬように攻撃して倒していた。

 

地獄の騎士バルトス殿と、ヒュンケルの戦いは凄絶な剣戟の応酬だった。

バルトス殿の右三本の剣が同時にヒュンケルに斬りかかるが、

その苛烈な斬撃を二つをギリギリで回避して、

一つは鎧に斜めの角度で当てて威力を殺して受けている。

 

ヒュンケルの反撃で放たれた海破斬を、バルトス殿が二刀で剣圧を切り捨て、

残り二刀でヒュンケルを捉えようとしたが、一つの斬撃はヒュンケルの前髪を切り、

もう一つの斬撃はヒュンケルの胸甲を浅く傷つけた。

 

マァムが不死騎団の魔物を、凄まじい勢いで倒しているので、

むしろアバン殿は私の側で敵を近づけぬように戦ってくれていた。

 

ヒュンケルの戦いを見守るアバン殿は、

槍にしたガイアの剣で敵をなぎ払いながら、二人の戦いを分析する。

 

 

「恐らく、前回のヒュンケルとバルトスさんの戦いは、

ヒュンケルの精神的な動揺がモロに出てしまったのでしょうね」

 

「つまり、そこまで圧倒される実力差ではない、ということですかな?」

 

「ただ、バルトスさんは間違いなく私と戦った時より、遙かに強いです。

あの当時の私がいまのバルトスさんと戦ったら、

間違いなく魔王ハドラーの間へ辿り着けなかったでしょう……」

 

 

アバン殿の分析の下で、二人の評価を聞きながら、私は彼らの戦いの推移を見守った。

アンデッドであるために、精神的動揺がない限りは息が上がらず、

平静な様子で静かに対峙するバルトス殿。

逆に息を荒げて冷や汗を掻きながらも、

揺るぎない意志を宿した眼で真っ直ぐ見据えるヒュンケル。

 

 

「父さん。あなたは本当に強い」

 

 

返事の代わりにバルトス殿の斬撃が繰り出されるが、

それを巧みに籠手で捌き、突きを入れるが絶妙な角度の剣に逸らされる。

だが、ヒュンケルに焦りはなく、嬉しそうにも見えた。

 

答えぬバルトス殿に構わず、ヒュンケルは声を掛け続ける。

 

 

「オレは魔王軍にて、人間最高の剣士だとうぬぼれていたが、

あなたはオレの慢心を真っ向から粉砕してくれた」

 

 

左右から違う角度の斬撃が凄まじい速度で放たれ、

片方を鎧の魔剣で弾きながら、もう片方を鎧の肩当てで受ける。

肩当てが吹っ飛ぶが、斬撃をまともに受けなかったのは流石だ。

 

 

「本当に感謝している。オレの心の奢りを晴らしてくれて……父さん」

 

「…………」

 

 

バルトス殿は答えず、時間差で袈裟斬りと逆袈裟斬りを組み合わせた、

苛烈な斬撃を繰り返し、そこへヒュンケルが大地斬で技の出かかりを潰す。

そのヒュンケルにバルトス殿の下段からの斬撃が巻き上がるが、

間に合った海破斬で受けきれず、その一太刀は逆の肩当てを切り飛ばした。

 

 

その間にアポロに指揮を任せたマトリフ殿が、瞬間移動呪文(ルーラ)でこちらへ合流。

戦況を聞くマトリフ殿に、アバン殿が手を出さないように頼み込む。

 

 

「もう少し時間を下さい。

どんな結末になるにしろ、決着をつけさせてあげたいのです」

 

「まぁ、デスカールが介入してこねぇと発動できんから、見守る他はねぇけどな。

で、大丈夫なのかアイツは? お前さんの見立てではどうだ、アバンよ?」

 

「いまの愛弟子(ヒュンケル)なら、必ず大丈夫です」

 

 

そう言い切れるアバン殿の信頼が素晴らしい。

マトリフ殿は口笛を吹いて、アバン殿の言葉に頷いた。

 

 

ひときわ大きな音を立てて、バルトス殿の剣の一本がへし折られ、

真っ向からバルトス殿の剣圧を食らったヒュンケルが鎧が破壊され、

ざっくりと斬られてしまう。

地面が剣圧の形で鋭利な爪痕が残るほどだ。

 

鮮血を飛び散らせながら、剣にしがみついて立ち上がるヒュンケル。

流石に駆け寄ろうとするマァムをアバン殿が止めた。

 

 

「先生、でもヒュンケルが……!」

 

「彼は死なせません」

 

 

力強く言い切るアバン殿だが、その握りしめた拳に血がにじむ。

 

 

「ここでバルトスさんを乗り越えられないと、ヒュンケルは一生悔いが残ります。

ギリギリまで、見守ってあげてください」

 

 

私もいつでも介入できるように見守ってはいるが、

流石にレッドオーブに籠めた呪法を維持しながらでは、

あまり効果的な攻撃はできなさそうではある。

 

バルトス殿は右手に大きく力を込めて引き、

左手を前に突き出して、見栄を切るような構えを取った。

あれがヒュンケルのブラッディースクライドの原型となった技か。

 

対するヒュンケルは、剣を逆手に持ち替えて、

闘気を籠めた斬撃を放たんとする構えはアバンストラッシュか……!

 

マァムとアバン殿が周囲の敵をほとんど倒してしまった為、

我々はヒュンケルの戦いを静かに見守っている。

 

そう思った刹那、バルトス殿の剣から螺旋状の剣圧が放たれて、

ヒュンケルを襲ったと思った時、下方から放たれたアバンストラッシュの威力が、

バルトス殿の技である修羅渦旋衝(しゅらかせんしょう)の威力を逸らす。

逸らされた剣圧が、不死騎団の隊列に突き刺さったが、

その隙を見逃さず、接近したヒュンケルの大地斬で、

バルトス殿の剣が叩き落とされる。

 

しかし、流石にそこで精根尽き果てたのか、膝を突いてしまうヒュンケル。

だが、まだ二刀残ったバルトス殿の剣が、ヒュンケルを襲わんと振るわれた時、

バルトス殿がヒュンケルに声をかけた。

 

その目に赤い光はなく、理性を宿した瞳をしている。

 

 

「ヒュンケル、本当に強くなったな。立派になって、私は……」

 

「父さん!」

 

 

そこへ斬りかかるバロンの一刀。

それを返す刀で切り払い、バロンの腕を切断するバルトス殿。

剣を持った腕ごと切り落とされ、バロンが苦鳴を上げる。

見事な剣の冴えだ。

 

 

「貴様、裏切るのかバルトス!」

 

「お前に命じられる謂れはない、バロン」

 

 

バロンが腕をくっつけて、また振るえるようにしている間に、

テムジンとその部下七名がやってきた。

 

テムジン自体はロードコープスのようだが、

七名の部下たちは帽子を被っていない嘆きの亡霊のように見える。

 

 

「くくく、丁度いい! 裏切り者共々、ここで殺してやるわヒュンケル!」

 

 

爆烈呪文(イオラ)閃熱呪文(ベギラマ)が放たれるが、

マァムが割って入り、既に展開している鎧の聖剣で呪文を弾く。

 

 

「マァム、手出しはむよ──」

 

「もう、お父さんとの一騎打ちじゃないんだから、

私が手出しをしても構わないでしょ!」

 

「だ、だが……」

 

 

そこへ瞬間移動呪文(ルーラ)で隣へ来たアバン殿が、ヒュンケルに声をかけた。

 

 

「あなたの負けですよヒュンケル。それに、これから私も手を出します。

私にも文句を言いますか、ヒュンケル?」

 

「くっ……先生……」

 

 

ヒュンケルのその言葉を漏らした瞬間に、再度攻撃呪文が飛ぶが、

マァムが武鋒・豪破一刀で四体のテムジンの部下を真っ二つにする。

アバン殿が二体を、槍に変えたガイアの剣から放たれる虚空閃で食らわせ、

ヒュンケルが空裂斬を放って、一体を葬った。

 

 

「ファハハハハハッ!! 愚か者めが!

すぐにこやつらは復活す……ん? おい、何をしている貴様ら!」

 

 

大地に伏して転がっている部下たちを蹴り飛ばすテムジン。

部下たちは身じろぎもせず、そのまま灰となった。

呆然とするテムジンに、バロンが焦った声を上げる。

 

 

「て、テムジン様! 復活しません。滅ぼされています!!」

 

「ば、ばかな! ひっ、光の闘気……というやつだというのかッ!」

 

 

そう、暗黒闘気で存在しており、倒されて蘇るアンデッドだとしても、

光の闘気で暗黒の生命の根源を絶てる空の技なら滅ぼせるのだ。

勿論、光の闘気を籠めた武鋒・豪破一刀も同様である。

 

アバン殿はバルトス殿に頭を下げ、膝を突いて謝罪をする。

 

 

「申し訳ありませんバルトスさん」

 

「アバン殿……頭を上げてくだされ」

 

 

頭を下げたままのアバン殿は、バルトス殿に言葉を続けた。

 

 

「あなたに託されたというのに、私の未熟からヒュンケルを魔王軍に奪われ、

魔王軍の戦士として育ってしまいました」

 

「いえ、よいのですアバン殿。いまのヒュンケルを見れば分かります。

私の教えた基礎を、アバン殿が伸ばしてくださり、立派な戦士としてくださった……」

 

「バルトスさん……」

 

 

その二人の姿を見て、涙を流すヒュンケル。

感動的な光景だが、その向こうでは見苦しく腰を抜かし、

なんとか距離を取ろうとするテムジンとバロンの姿が見えた。

 

何かに気づいたのか、大声をあげるテムジン。

 

 

「ガ、ガンガディア!!!」

 

「何かねテムジン殿? いや、様と呼べと言ったかな?

おっと失礼。"仰った"、と言い直した方がよろしいですかな?」

 

「そ、そんなことはどうでもいい! は、早く、わしを助けろ!」

 

 

ガンガディア殿は眼鏡をくいっと位置を調節し、

思いため息をつきながら、面倒くさそうに返事をした。

 

 

「悪いが全軍の指揮を執っていたはずの人物(テムジン)が働いていないので、

私が指示を出さねばどうしようもなくてね。忙しくて助けられない」

 

「き、貴様!」

 

 

その会話の間に、アバン殿へ斬りかかったバロンが、

一刀で剣を弾き落とされ、返す刀で虚空閃を放たれ滅ぼされた。

 

 

「ヒッヒィイイイイイイ!!」

 

「どこへ行くんだテムジン。貴様はオレが殺すと言ったはずだ」

 

「お、おのれヒュンケル! お前も道連れにしてくれるわ!

闇魔法呪文(ドルクマ)!!」

 

 

流石に覚悟を決めたテムジンの呪文を、上半身の鎧がないヒュンケルが受け切れそうもない。

そこへ、横合いから火炎呪文(メラミ)が飛び、闇魔法呪文(ドルクマ)を圧倒した。

 

 

「お、おのれ、何者だッ!」

 

「何者だぁ? 言ってくれるじゃねぇか……こっちはテメェを忘れてねぇのにな」

 

「……ヒィイイイイ! マ……マトリフ!!」

 

 

テムジンの足元に火炎呪文(メラ)の残り火が燃え続ける中、

かつてパプニカの権力の中枢にあり、マトリフ殿を追い出した男(テムジン)が、

惨めな姿を晒していた。

 

テムジンの前に立ったマトリフ殿は飄々として、皮肉めいた言葉を投げかける。

 

 

「寂しいぜテムジン。覚えてねぇってか?

テメェがイビって追い出したこのオレをよ?」

 

「う、うるさい! 貴様のようなどこの馬の骨とも知れぬ男を、

三賢者だの、王の顧問だのと、許せると思うのか!!」

 

「オレは別に地位だの権力だのはどうでもいいんだよ。

デルポイを……。オレの友達を殺しやがったのは許せねぇんだ!!」

 

 

マトリフ殿の手に氷系呪文(ヒャド)が宿る。

私にはどうなるか結末が読めたが、既に気迫で敗北しているテムジンは、

見苦しく逃げだそうとしている。

 

 

「アポロやレオナ、オレの弟子は未来を担う輝ける魂だ。

テメェみたいなクソ野郎の命を背負わせるつもりはねぇ!」

 

 

そうして放たれた氷系呪文(ヒャド)

 

 

「そんな氷系呪文(ヒャド)如きで、ワシを倒せるも──」

 

 

テムジンは最後まで言葉を続けられなかった。

さきほどの火炎呪文(メラ)の炎に、氷系呪文(ヒャド)が重なり、

消滅エネルギーが発生してテムジンはこの世からその姿を消した。

 

私は離れたところにいるガンガディア殿の顔を見たが、

ポツリと"お見事"という形に口が動いたように見えた。

 

私は瞬間移動呪文(ルーラ)で移動して、回復呪文(ベホイミ)を受けているヒュンケルの横に立つ。

 

 

「バルトス殿、初めまして。私はザボエラと申します。

ブラス殿の友人と言えば、分かっていただけますかな?」

 

「おお、ブラス殿はお元気なのですか?」

 

「はい。デルムリン島で暮らしております。

ところで、いまは洗脳は解けておりますかな?」

 

 

バルトス殿は頷いた。

恐らくだが、ヒュンケルの放ったアバンストラッシュには、

空の技が含まれている。

空裂斬の効果で、バルトス殿を洗脳していた"何か"が粉砕されたのだろう。

 

だが、予断は許さなぬ状況だ。

この場にあの男が現れれば、直ぐにでも盤面はひっくり返されてしまう。

 

そう思った瞬間、不死騎団が一斉に列を開け、

死霊の騎士、コンキスタグール、ボーンクラッシャーなど、

強いアンデッドを引き連れたデスカールが姿を現す。

 

 

「何をしているのかバルトス?」

 

「最早、貴様の言うなりにはならぬぞデスカール!

我が命をかけて、貴様を倒す!」

 

「……笑止! 我が傀儡に甘んじておれば良かったものを……。

壊れた玩具は処分せねばなるまい……」

 

 

デスカールの手の平に現れた魔法玉から魔力が放たれた瞬間、

私はレッドオーブに籠めた呪法を解放した。

その呪法を全力の魔法力で底上げして、デスカールの呪法に叩きつける。

 

私はこの時、デスカールの呪法に対抗する事だけに集中していたため、

懐中にあったベルクの血判状が光り出したことに気づけなかったのだ……。

 

 




独自設定

修羅渦旋衝(しゅらかせんしょう)
ヒュンケルのブラッディースクライドの原型となった技です。
地獄の騎士バルトスの六本の腕は、払い技が得意な腕。剛剣の腕、素早い剣の腕とあって、
その中の突きが得意な腕から放たれ、地底魔城の壁に大穴を穿つほどの威力でした。

デルポイ
第十四話 パプニカの光と影(前編)に登場した先代のパプニカ三賢者で、
太陽のシンボルを授けられた人物でした。
アポロの祖父に当たります。
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