ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
パプニカでの戦が終わってから二日後。
壊された城壁の修復、敵対的な不死騎団残党の討滅、怪我人・重傷者の治療、
市民の慰撫や食料の配給……など。
様々にやるべき事は多く、王が執務室で全体の総指揮をして、
レオナ姫やマトリフ殿、それに三賢者は精力的にあちこちを駆け回っていた。
朗報としてはガンガディア殿が流した毒が、特別に調合されたものであり、
実は数日で自然に分解されてしまうものだったことはありがたかった。
モルグ殿と不死騎団の穏健派をデルムリン島へ送って戻った私に、
一年前に司教になったパルナス殿が訪ねてきた。
彼は三賢者であったがアポロに譲った後、
なり手がいなかった司教位に就いた奇特な人物だ。
パルナス殿は就任してすぐ、司教の持つ強大な権限を縮小した。
祭政に渡って広範に、絶大な権限を有する司教。
司教が持つ祭祀の権限は良い。
主導するべき立場である。
だが、政治において有する権限はおかしい。
そう主張してほとんどの政治的権限を廃止した。
司教の権限は祭祀に限定され、政治的な力は殆どなくなった。
早い段階でテムジン派を処刑・追放できていたから可能だったことで、
国内での反発や批判も一つずつ解きほぐしていったという。
彼は自分は凡人だからというが、その地道な作業は簡単なものではない。
まさしく、頭が下がる思いとしか言い様がない。
そのパルナス殿が言うには、王が私との面会を望んでいるということだ。
格式張った対応はなしで、非公式に会談の場を用意し、
私に感謝の言葉を言いたいとのことである。
そうまで言われると断るわけにはゆかず、
パルナス殿について王の執務室へ向かった。
私が入室すると、文官が三名補佐について、書類に囲まれている所だった。
文官達に下がるように言って、書類仕事の手を止めて立ち上がり、
わざわざ私を出迎えてくれた。
王は大怪我を負った後だと聞いたが、元気そうな様子である。
原作ではレオナ姫に顔の傷を治療して貰っていたマリン殿が、
椅子を勧められ、パルナス殿と共に着席すると、
王はまず頭を下げて私に礼を言った。
「ザボエラ殿には国難を救って頂き、感謝の言葉もない」
私はすぐ立ち上がり、王に頭を上げるように言って、
落ち着かないので座りましょうと促した。
「私は今回、さほど役に立ってはおりません。
パプニカは自国の力で魔王軍に打ち勝たれたのですぞ」
事実そう思っていたからこその言葉だったが、
勇者アバンとロカ、レイラとかつての勇者パーティーの派遣。
ロカとレイラの子、マァムやアバンの弟子の戦士ヒュンケルなど、
パプニカには足りていない強力な前衛職を連れてきてくれたこと。
そもそも
その後の水路へ毒を入れられた件では、惜しみなく
水を用意してくれて、国民の不安を払拭してくれた。
レオポルト王は私の功績を、列挙して褒め称えてくれる。
過去の功績も考慮してくれるのかと思いつつ、
私は静かに王からの感謝の言葉を傾聴した。
「魔王軍襲来直前の準備もそうだが、それより何年も前からの尽力。
勿論、我が国の者達も奮闘してくれたが、あなたが来ねば甚大な被害を被っただろう。
心から感謝したい」
「私もパプニカ四賢者の末席におるものです、陛下。
微力ながら力を尽くさせていただきました」
やったことはデスカールの呪法からガンガディア殿とバルトス殿を切り離し、
私はそれを維持して逃げ回っただけだ。
だが、王に私の功績が大であると吹き込んだ、
レオポルト王からは、事態が一区切りしたら必ず祝いの品を贈りたい、と言われた。
いままで、ほぼ必ず報償やパレードの類いは断ってきた。
流石にパプニカの臣下という身分で、王からの報償を辞退するのはよくないし、
戦後の国民の士気向上に役立つならと、今回は一切断らず素直に受けることにした。
恐らくは新しいパプニカの法衣だろうか。
私はそう軽く考えていたのだ、この時は……。
王の御前を退去した直後、私を探していたエイミ殿に呼ばれる。
レオナ姫を筆頭にマトリフ殿、アバン殿、そしてガンガディア殿が待つ応接室へ向かった。
パプニカのような古い城ともなれば、幾つもの用途によって応接室が存在する。
ここは密談を行うため、特に壁が分厚く作られた部屋だ。
まず、情報共有が必要だろう。
私はロモスで起きたことをみなに話した。
キギロがヨミカイン魔導図書館へ訪問し、ボリクスとチウを連れ、
共にロモスへ向かったこと。
あの地で暴走していたメネロおよび、妖魔士団との戦いについて。
最後、キギロが命を賭けてメネロを救い、
その遺志を汲んで、彼女はヨミカイン魔導図書館で預かっていること。
運命の悪戯か、メネロが暴走してほとんどのロモスの人々を眠らせた事で、
妖魔士団が住民を虐殺することもなかった。
そのおかげで、奇跡的にロモスの人的被害は少なく終わったと締めくくった……。
話を聞き終わったガンガディア殿は、暫し瞑目し、ため息をついて話し出した。
「キギロの最期はそうでしたか……。
まったく彼らしくない、いや、黄泉返った彼らしい……。
そう、言った方がよいのかもしれません」
ガンガディア殿は若干俯きがちに、眼鏡を押さえながら同僚の死を評した。
そして、ここからが本題だ。
ベルクスを蘇らせて部下にして、影武者を使って本人は居留守をしていた、
不可解極まりないデスカールの行動についてである。
マトリフ殿が茶をすすりながら、ガンガディア殿に今回の話し合いにおいて、
核心に繋がる話題を振った。
「あの激戦の最後に話した、お前さんの言葉の続きが聞きてぇなガンガディアよ」
「勿論、説明させていただくつもりです、マトリフ。
この件について私は伝聞ではなく、
己の目と耳で聞いたことを、皆さんにお話しさせていただきたい」
そう前置きして、ガンガディア殿は話を始めた。
「あれは地上侵攻の前に遡ります。
私とキギロ、バルトス殿が反英霊として黄泉返らされ、初仕事での出来事でした……」
デスカールが同盟相手と話し合いに行くというので、護衛として同行した時の事だ。
彼とヴェルザーがお互いの利害のために、密約を結んだ姿を見ていたらしい。
ヴェルザーが欲するのは地上である。
大魔王バーンが地上支配ではなく、
地上を吹き飛ばすという目的を、冥竜王ヴェルザーは知っていた。
つまり、大魔王が先んじれば、欲する地上は吹き飛ぶ。
それゆえに焦ったかつてのヴェルザーは、手勢を率いて戦いを挑んだ結果、
当代の
だからこそ、現時点でも地上を欲しているヴェルザーの目的は、
非常に分かりやすく納得できるものだ。
逆によく理解できなかったのは、デスカールの動機だ。
ガンガディア殿からデスカールが大魔王に反旗を翻す理由が語られたが、
"神である大魔王バーンを永遠の存在として崇めてゆく"ということだった。
それを聞いた我々は困惑してしまったが、ガンガディア殿はフッと苦笑し、
"ヴェルザーも似たような反応を示したものだよ"と付け加えた。
「その、なに? デスカールは大魔王バーンを神として崇めたい……わけなの?
気持ち悪いけど、いまだって部下なんだから、
魔界の神を自称するバーンなら好きに崇めろって言わない、それ?」
大分ストレートに気持ち悪いと言ってしまうレオナ姫だが、私も同じ気持ちだった。
神として崇めたいのなら、なぜ神を裏切るのか、ということだ。
「私もそれをデスカールに問うたのだが、
答えとしては"私を救って下さった時のお姿に価値がある"という事でしたね。
推測だが高位の魔物は真の姿、化け物染みたものが存在する場合が往々にしてある」
だから、大魔王には別の真の姿があって、それを嫌っての話なのかもしれない、
とガンガディア殿は推測を述べた。
私は老バーンと、若き姿の真バーンの存在を知っているので、
デスカールがなぜ真バーンの事を知っているのかが疑問だったが、一旦それは横に置いた。
老大魔王バーンを神として崇めること、それがデスカールの目的だという事実が重要だからだ。
そしてそれは、大魔王の意志を無視して、一方的な事を考えている……ということのようだが?
考え込んでいる私の横で、アバン殿が手を上げて発言をした。
「一見すると大魔王バーンを排除したいヴェルザー。
そして、その大魔王バーンを神として崇めたいデスカール。
二人の利害は対立するものではありませんか?」
アバン殿の疑問は尤もで、それに対してガンガディア殿が説明を続けた。
「実は気象異常の影響で、数百年後に起るはずの皆既日食が近い内に発生するらしい。
正確な時間や日時については教えてもらっていないがね」
「皆既日食……」
「それを用いた禁呪法については……勇者アバン。
あなたの方が詳しいはずだ」
「……まさか、凍れる時間の秘法……ですか!?」
「まさにその通りです。
それを使い、大魔王を生きた彫像にすることがデスカールの目的です」
なるほど……。
ヴェルザーとしては彼の地上支配に大魔王バーンが邪魔だ。
デスカールは老バーンを神として偶像として崇めたい。
老バーンを凍れる時間の秘法で、それこそ生きた彫像にしてしまえば、
デスカールは御神体として飾って、崇め奉れば良いだろう。
そうなってしまえば大魔王バーンは無力化される。
つまり、ヴェルザーとしては大魔王抵抗を、
考慮する必要がなくなるのだ。
その時点で最大の障害である大魔王バーンは排除されるわけで、
ヴェルザーとしてはデスカールとの目的の齟齬はなくなり、
手を取り合って協力できるわけか。
「ヴェルザーはデスカールに
そこで凍れる時間の秘法で彫像となった大魔王を、崇め続ければ良いだろう、と。
ヴェルザー自身は地上を制覇した後に、天界を滅ぼしたいようですが……」
「やれやれ……。気味の
そいつは一旦おいとくとして、二人の利害が一致して、
ヴェルザーとデスカールの悪党同盟が成立したことが重要だな」
ゲンナリしながらマトリフ殿はそう口にして、
レオナ姫もお茶を飲みながら"なにそれ……"とこぼしている。
「この場合、ヴェルザーの目的から推察すると、
単純に魔王軍の内部分裂として喜んではいられませんね」
アバン殿が言いたいのは、別に大魔王に反旗を翻す意志があるからと言って、
ヴェルザーやデスカールを味方にカウントできるわけではないということだ。
「デスカールはワケがわからねぇから放っておくにしても、
ヴェルザーは地上征服だろう?
マトリフ殿の言うとおりだ。
敵陣営が分裂しても、隙に乗じる事は可能だろうが、
どちらかとよしみを結ぶのは難しいだろう。
そして、魔王軍内部の争いに関連して、重要な情報の裏打ちができた。
魔王軍でも感知していたなら、ほぼ確実なのだろう。
先だってアバン殿から、気象の異常について聞いていた為、
皆既日食が早まる可能性については我々は知っていたのだ。
「アバン殿。
いまから皆既日食の起る、正確な日付を割り出すことは可能ですかな?」
「カールにある祖父の邸宅から、道具を集める必要があります。
長年の気象記録から割り出すものですので、異常気象の際はベリーベリーハードですね」
「なんだ、面白そうだな。オレも混ぜてくれよ」
目を輝かせながらマトリフ殿が口を挟んでくるが、
レオナ姫から"師匠はやることが他に山積みでしょうが!"とひっぱられてしまう。
「静かな環境が必要でしたら、一旦、ヨミカイン魔導図書館へ来ますか、アバン殿?
バルトス殿とヒュンケルもそちらへ行きますし、ガンガディア殿も同行されますな?」
「勇者アバンの助手をさせて貰えるのはありがたいね。
それに、パプニカを攻めていた不死騎団の者が、いつまでもいるのはよくないだろう」
「助かりますガンガディアさん。凍れる時間の秘法については?」
「ハドラー様をあなたに凍結された際に調べ尽くしたよ。
尤も手に負えなかったがね」
苦笑いするガンガディア殿に、アバン殿が頭をかきながら"よろしくお願いします"と言っていた。
さて、ヴェルザーとデスカールの同盟に対して、どう対処するかではあるが、
一旦、ヨミカイン魔導図書館へ戻ってから、リンガイアへ向かおうと思っている。
リンガイアにはヴェルザー率いる超竜軍団が攻め寄せているはずだ。
バラン殿、ダイ、ラーハルト、ボリクスと鍛え直したリンガイア戦士団、それにノヴァもいる。
負けるはずのない戦力なので、ここで押し切ってヴェルザーだけでもなんとかしたい。
それに、リンガイアは原作で敗北している国なので、
放っておくと危険な気がしてしまう。
もし、ここでヴェルザーを倒せるのなら、ヴェルザー・デスカール同盟の一角を崩せる。
やらない手はないだろう。
カールも原作でリンガイアと同じ超竜軍団に滅ぼされている。
だが、カールは現在の魔影軍団が、慎重すぎる戦い方をしているせいか、
カール騎士団が非常に有利に戦っている。
パプニカへの戦況報告も、魔影軍団侵攻部隊を◯日に撃破、
というものがほとんどだと聞いていた。
超竜軍団という六大軍団最強戦力を、かつての冥竜王ヴェルザーが率いている。
ガンガディア殿の補足では既に謹慎は解かれているだろうが、
一週間あまりヴェルザーは謹慎中だったようだ。
つまり、超竜軍団はこれから本格的に攻勢を仕掛けてくるのだろう。
さらに、魔影軍団も油断はできない。
聞いた話では副団長はダブルドーラだが、依然として魔影軍団軍団長はミストバーンである。
彼の正体を考えれば、本気で攻め落とす気になれば、
恐らくどの国も適わないのだから。
そのためにミストバーンの外見を伝えて、ケインに似顔絵を描いて貰って、
わざわざカールには送ってあるし、出現したらすぐ伝えるように言ってある。
我々はヨミカイン魔導図書館へ戻った後、誰をリンガイアへ連れて行くか、
その話し合いをしていた。
マトリフ殿が自分を連れて行ってくれと言っていたが、
レオナ姫が"師匠、自分だけ書類仕事から逃げようとするのはずるいわよ!"
と叱ったので隅っこでいじけていた。
そこへ、エイミ殿がやってくる。
顔色を見ると、良い話ではなさそうだ。
マトリフ殿を叱ったせいか、腕を組んで眉をひそめていたレオナ姫だが、
エイミ殿の顔色を読んで、表情を和らげて水を向けた。
「どうしたのエイミ。何か起ったのかしら?」
「はい、姫様。先ほどリンガイアから急使が参りまして、
魔影軍団が大量に現れ、超竜軍団と連携して攻め寄せてきているそうです!」
「おいおい、待てよ。魔影軍団ってのは、さまようよろいとかだろ?
そいつらはカールを攻め寄せているんじゃねぇのか?」
隅っこでいじけていたマトリフ殿が飛んできて、エイミ殿に疑問をぶつけた。
「はい。ですから、ありえないことが起きました……」
「ありえねぇことが起きたらどうするよエイミ?」
マトリフ殿の口調が変わった。
恐らくこれは弟子を……エイミ殿を試しているな?
「まず、攻めてきた事実を認めます。
その上で現実に即した対処をするべきです。原因はあとで考えましょう」
「へへ、言うようになったじゃねぇか、エイミ。正解だ」
あり得ないことが起こった場合、慌てることなく対処を考える。
何故?を考えて行動を止めてしまうより、
事実をありのまま認めた上で対処を考える、エイミ殿の言うことは正しい。
三賢者はマトリフ殿の指導で別々の方向へ才能が芽吹くこととなった。
極大呪文を覚えて攻撃に傾いたアポロ。
エイミ殿は二人とは違い、中級までだが全ての攻撃呪文を扱える器用さがある。
実は
原作のように使えないために嘆くことにはならなさそうだ。
弟子の成長を垣間見て、マトリフ殿は満足そうに笑い、
エイミ殿に幾つかリンガイアの状況について質問をしていた。
さて、私としてはどう動くべきだろうか……?
独自設定
司教パルナス
"第七十八話 黄泉返る軍勢"で司教位にあることが明示されましたが、
その頃から権限の縮小や政治に関わらないという地道な活動を行っていました。
テムジンがあれやこれやと手を出して、パプニカ司教の権限を増大させていたせいで、
彼はテムジンが張り巡らせた権力の枝を落としていった感じになります。
バルトス殿
ガンガディアがハドラーに対して"ハドラー様"と呼び、
キギロは呼び捨てだったことは作中で示されていました。
話し方が丁寧だったのですが、バルトスに対してなんと呼んでいたか分からずじまいでした。
なので、作中のガンガディアの態度から考えて、バルトスに殿をつけて呼ばせています。