ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
現在、
普段は少数の警邏が行われるのみだが、氷炎魔団が常駐して、
物々しい雰囲気で厳しく見回っている。
一体、何が起ったのか?
大魔王バーンが負傷して戻り、意識がないことも主な原因ではある。
その大魔王とミストバーン、マキシマムら側近がデスカールを誅殺に向かった際、
死の大地が直接、敵襲を受けたのだ。
それが故の厳戒態勢である。
敵襲は数日前の話だ。
突如、デッドリーアーマーの一団が襲来。
十体のデッドリーアーマーと彼らが抱えて現れた魔法の球から、
不死騎団と魔影軍団の魔物が大量に出現した。
じごくのよろい、キラーアーマー、しにがみきぞく、グレイトライドン、フェイスボール、
デーモンスピリット、しにがみへい、ゾンビナイト、デュラハーン……etc
一個の魔法の球に約四十体の魔物が入っていたので、
おおよそ四百体あまりの戦力がいきなり現れたのだ。
例によって不運な人間の漁師でも流れ着いたかと、
呑気な様子で現れた守備隊の魔物達は瞬殺され、報告が遅れてしまう。
死の大地は戦場と化した。
あわや
マキシマムが残した
両の刃で切り裂き、槍で突き刺し、
侵入者を見事に排除して、戦場を死の大地の表層へと戻したのだ。
彼らが向かわなかったら
ないし破壊されていた可能性もある。
さらにフレイザードとハドラーが親衛隊を率いて死の大地へ姿を現す。
ハドラーが暗黒闘気を籠めた
並の呪文が通じぬデッドリーアーマーであるが、フレイザードが
そこへ眼光鋭い
回復呪文が使える魔物を募り、大魔王の治療を命じた。
現在。
外傷は治ったものの、大魔王は寝室で眠りに就いている。
意識が戻らないのだ。
先のデッドリーアーマーの襲撃以降、特に部隊による攻撃も偵察もなかった。
恐らくは奇襲部隊の目的が、大魔王を助けに行かせぬため、
死の大地の戦力を釘付けにするためのものだったからだろう。
今回の敵襲において即応し奮戦した事で、
五名の
近衛師団長マキシマム、魔影参謀ミスト、魔軍指令ハドラー、氷炎将軍フレイザード。
この場にはいない
魔王軍出陣の際より半分以下になってしまった。
彼らは円卓に集い、重苦しい空気の中、話し合っている。
以前とは違って肉体の内部に入り込んでいるので表情はある程度分かる。
闇の衣を被っているのは、
フレイザードからの苦情への対応である。
その際、フレイザードから"ミストポーンって名前どうだ?"と提案を受けたが、
複雑な表情で断った。
ミストとマキシマムから何があったのか聞いたハドラーとフレイザードは驚愕した。
二の句が告げられぬとはこのことである。
二人にとっても大魔王バーンは雲の上の存在だった。
その大魔王が真の姿を晒し、更に上の強さを見せてなお、
ヴェルザーは食らいついたとは……。
ミストバーンとマキシマムは真大魔王バーンの肉体について話すかどうか迷ったが、
それを伏せては状況の説明ができない。
意識を取り戻した大魔王から、叱責、もしくは処刑されることも覚悟で、
二人はハドラーとフレイザードに話をしたのだった。
ハドラーは内面に野心が芽吹くことを感じた。
いま、大魔王を討てば、己が大魔王と名乗ることも可能だろう。
だが、窮状にある大魔王を討って、権力を得たとしてその盗人の王座に意味があるのか?
一個の将としての野心と、武人としての矜持の狭間で悩んでいた。
そのハドラーの内面を察したのか察していないのか、フレイザードはごくごく軽い口調で、
会議の場に言葉の爆弾を投げ込んだ。
「ハドラー様よぉ……? こりゃ、下剋上のチャンスじゃねぇのか?」
「何を言うのだフレイザードよ!?
お前はそんな事を言う男ではないはずだ!」
正直なマキシマムは、友人だと思っているフレイザードに真っ直ぐな言葉を投げかけた。
ミストは黙って、暗黒闘気を高めていつでも戦えるように準備をする。
一触即発の状態で、ハドラーは予想外の行動に出た。
「くくく……ハッハッハ……ハーッハッハッハ!!」
そう大笑いして、フレイザードの言葉を笑い飛ばしたのだ。
「大魔王様危急の際に、その権力を盗み取るなど、盗人のやり口だ。
オレが大魔王様に挑むなら正々堂々、真正面から挑んでみせる。
見損なうなよフレイザード!!」
ハドラーの裂帛の気合いがその場に満ち、不穏な空気が吹き飛ばされた。
一瞬の沈黙の内、フレイザードは大仰に拍手して喜んだ。
「なぁに、それならいいのさ。オレはハドラー様の言葉に異存はねぇ」
ふと、マキシマムがフレイザードの顔をまざまざと見て、
何かに気づいたのか手をポンと叩いた。
「そうか、フレイザード。
お前は潜在的な謀反の可能性を潰し、ハドラー殿の忠誠心が確かなものだと示すために、
わざと嫌われ者を買ってでたのか!」
「バカ野郎! 勘違いするなよマキシマム!
なんとなく聞いたんだ。なんとなくな!」
ミストバーンもやっとフレイザードの考えを推測できた。
だが、わざわざそんなことをしたのは何故なのか……。
同じ疑問に至ったのか、ハドラーもフレイザードに不思議そうに尋ねた。
「わざわざ、何故にそんな事を口にしたのだフレイザードよ」
「いやぁ……オレ、ヴェルザーが嫌いでさ。で、デスカールも辛気くさいだろ?
ノリもわりーし」
頭をポリポリ掻きながら、そっぽ向いて話すフレイザード。
「何を言っている? 意味が分からんぞフレイザード」
「もし、いま、ハドラー様が妙な謀反気を起こしたら、ヴェルザー陣営と組むんだろ?
オレはあいつらと仲良くしたくねーんだよ。
それに……マジな所……」
急に表情を引き締めたフレイザードは、炎の手に力を込めてこう発言した。
「ザングレイが死ぬ原因になったデスカールの野郎と、同じ側に立つつもりはねぇよ。
金輪際、な!」
それを聞いたマキシマムは"よく言ったフレイザード!"と席を立って背中を叩く。
ハドラーは"余計な気を回しおって……"とまんざらでもない顔でフレイザードを見ていた。
ミストバーンはフレイザードを見て苦笑した後、
現在の状況についてどうするべきか意見を求めた。
まず、死の大地に近いカールを攻めているダブルドーラを退かせる。
死の大地の守護をやらせるべきだ。
いま、一人でいるのは危険であると。
これについてはハドラー親衛隊のアークデーモン数名と、
急使を走らせてすぐに魔影軍団とダブルドーラに撤退の命令を伝えた。
そして、一番の問題である大魔王を如何にして覚醒させるか……。
数年前に竜魔人バランに鬼眼を直撃され、意識を失ったことがあったが、
あの時といまでは状況が違うのだ。
鬼眼にダメージを負い、大魔王が夢の中で別の世界を彷徨っている時……。
大魔王バーンは身じろぎもできなかったが、意識がある時は会話することができたので、
魔王軍は頭を失ったわけではなかった。
だが、いまは違う。
最高指導者である大魔王から、まったく指示がないのだ。
一刻も早く目を覚まして貰わねば、推移する状況について行けなくなってしまう。
ミストバーンはそれを考えると、
暗鬱たる気持ちで魔王軍の行く末について考えるのであった……。
カール東岸にあるジニュアール家の邸宅。
海に面した崖の上にあり、ギリギリまで生い茂る森と小さな山。
そして海を隔てる境界線のように、静謐な佇まいで建てられており、
貴族の邸宅としては贅を尽くされたものではない。
だが、見るものが見れば、機能的であり、
洗練されている事が理解できるだろう。
アバンは祖父の肖像画を眺め、一礼した。
既に執事のドリファンには、必要な書物と道具を探しに行って貰っている。
老執事であり、ジニュアール1世から仕えていたドリファンは、
アバンの祖父の助手も行っていたこともあった。
ある意味、道具や書物などの場所について、
このジニュアール家において彼の右にでる者はいない。
その間、アバンは祖父に思いを馳せていた。
かつて、天変地異をいくつも予測して公表。
多くの人の命を救ったが、それが故に気味悪がられてしまい、
敬われるより、恐れられ世間から一歩遠ざかってしまった。
祖父の研究がいま、世界の役に立とうとしている。
もし、祖父が知ったとしたら喜ぶだろうか?
それとも、眉根を
秀ですぎているが故に、気難しかった祖父の反応はいまでも予想できない。
物思いに耽っていたアバンの背後、玄関に誰か来た気配がした。
遠慮無く開けられた扉の向こうに、
「アバン!!
カールを訪れたのに、また私に顔も見せないで帰るつもり?」
フローラ女王が軍装のまま来ていた。
後ろにはホルキンスが立っており、何人かの騎士と共に、
ここまでやってきたようだ。
「フローラ様、一体、なぜここに……」
「マトリフ殿から一報を頂いていたのよ。
あなたがジニュアール邸を訪れるってね」
両手を腰にやって得意げにこちらを見るフローラ女王。
横からホルキンスが補足した。
「それだけじゃない。魔影軍団が急に陣を引き払って撤退したんだ。
だから、王都の守りはそのままに、騎士団の精鋭でカール全土を偵察している」
「魔影軍団の撤退が、何らかの策の可能性はないか、
伏兵のための擬態ではないか確かめるためにですね?」
アバンの言葉にホルキンスは頷く。
魔影軍団の撤退。
侵略してきた軍勢が撤退してしまうということは、彼らの本拠地で何か起ったのだろう。
つまり、地上の拠点たる鬼岩城、もしくは魔界での政変か?
ホルキンスに尋ねると既に、各国に魔影軍団撤退の報は送ってあるという。
ならば、ザボエラの耳にも入っているだろう。
そのままリンガイアで超竜軍団を敗退させることができれば、
残る軍団は魔影軍団、氷炎魔団の二つになる。
逆に攻勢をかける手もあるが、まずは自分の役割として、
皆既日食の日時を割り出さねば……と考えていると、
怖い顔をしたフローラ女王が二人の間で腕を組んで立っていた。
ホルキンスが咳払いをして、外で見張っておりますといって席を外した。
フローラ女王は堰を切ったように、アバンに文句を言い立てている。
それを聞いているアバンは、元気そうで何よりだと思った。
以前、マトリフに言われたことがある。
女王フローラに挨拶もせず、アバンの書をひっそりと、
カールの図書館に寄贈してきた時のことだ。
"……あのなクズのオレが言うのも何だが……。
年頃の女の子の年月をなんだと思ってんだよ、お前。
顔くらい見せろ、 顔くらいな!"
そう真正面から叱られてしまった事を思い出す。
「……って、聞いてますかアバン!」
「す、すいませんフローラ様。ちょっと考え事を……」
「まったく。あなたはそうやっていつも……」
アバンは表情を引き締めて、フローラ女王を真正面から見据えて話し始めた。
「フローラ様。いま、私は天変地異の調査をしています。
祖父の研究成果を使いヨミカイン魔導図書館で、
皆既日食の日時を割り出さねばなりません」
突然のアバンの言葉に、フローラは少し考えてこう言った。
「突飛な話だけど、アナタのことだからきっと、それは世界の為なのねアバン?」
「はい……だから、もう少しだけ私のわがままを通させてくださいフローラ様」
「本当、あなたズルいわ……アバン。あー、もう!」
と頭をくしゃくしゃにしてから、左手を腰に当て、右手でアバンを指さして言った。
「この戦争が終わったら、必ず私の玉座の前に来て。約束よアバン!」
「分かりました。必ずはせ参じますフローラ様」
そこへ、道具をとって来たドリファンがやってくる。
「おやおや、お客様ですか……これは女王陛下!
お茶でもお出ししましょうか?」
「ごめんなさい、ドリファン。突然押しかけてしまって……。
正式な訪問ではなくて、別の用事があって……」
「ありがとうございます、ドリファン。
ホルキンス達も外にいますので、お茶でも出してあげてください。
それでは!」
ドリファンの荷物を片手で受取り、手を振って足早に外へ出るアバン。
「え、ちょっと待ちなさいアバン!!」
追いかけたフローラ女王は
怒りで肩を震わせている女王に、声をかけづらいホルキンス以下騎士達。
どうしようかと悩んでいる時、遠慮がちにお茶を勧めてくるドリファンの言葉を聞き、
渡りに船と飛びつき、女王に一休みしましょうと声をかけるのであった。
魔界にある冥竜城。
一度は反旗を翻した新参の十二魔将に攻撃されてしまったが、
破損箇所は修理してあり、城としての役割は果たせるようになっている。
城を統べる者は冥竜王ヴェルザー、その人であり、
彼自身、巨大な竜族である。
つまり、住人の基準が竜族であるため、
作り自体が巨体に合わせた広いものとなっていた。
そして、今、主であるヴェルザーは回復液が満ちた泉に浸かっていた。
瀕死の重傷であったため、意識はなく眠りに就いている。
その姿を見ているバズズがベリアルと話をしていた。
地上はアトラス一人に任せているが、デスカールが移動させた鬼岩城から、
さまようよろいなどの増援を向かせているので、リンガイアに押し切られることはないだろう。
一日前、既に
外すこと自体、ヴェルザーの指示であり、バズズは反対したのだが、
大魔王バーンは意識がないはずだと言って、ヴェルザー自身も大怪我ゆえ意識を失った。
外そうとする行為、それ自体が大魔王に知れるはずで、
大魔王の意識があったら
そう思いながらも、バズズは必死で、
ヴェルザーの体内にある
危惧された爆弾の起動はなく、
助かったことは良かったが、いささか面食らってしまったバズズは、
これがどういうことなのだろうかと考えている。
「大魔王は死んだのだろうか?」
「わからん。ヴェルザー様から詳細を聞いていないからな。
死んでいないにしろ、ヴェルザー様並の怪我で意識がないのだろう」
できれば死んでいてくれれば、これからやりやすくなるが……とベリアルは言った。
「残念だが……まだ、あいつは生きているぞ。油断はするなよ」
意識を取り戻したヴェルザーがベリアルに話しかけた。
回復液に浸かって一日あまりである。
失われた腕は、まだ再生できてはいなかったが、
大きな傷は塞がっており、ヴェルザーの意識ははっきりしている。
「バーンの肉体は凄まじい力を秘めている。
流石に魔界の頂点に君臨した大魔王よ。容易くオレの制御下には入らぬ」
しかも、ヴェルザーの体内から脱出する際、
老バーンが己の肉体に
まずはその解除から始めねばならない。
恐らくだが大魔王の最高クラスの魔法力で、
あの時点で残る全ての魔力をつぎ込んだ
通常なら直ぐに解けるはずの
だが、ヴェルザーは焦ってはいない。
どうせ、時間の問題であるし、大魔王の最強の肉体は手に入れた、と。
ベリアルがヴェルザーに今後の方針を問うた。
「如何致しますかヴェルザー様?
お体が治りきるまで、いま動かしている計画は止めておきますか?」
「いや、ダメだ。オレはまだ動けぬが、お前達に幾つか命じたいことがある」
ヴェルザーは己も回復しきってはいないが、機を逃しては仕損じると、
腕が再生し次第、直ぐさま地上へ侵攻を開始すると話した。
バズズは驚愕して主に考え直すように言う。
「お、お待ちください。ご再考をヴェルザー様!
取り込んだ大魔王の力を制御してからの方が……」
「いや、大魔王が意識がないのなら、こちらから先んじるべきだ。
今度こそ息の根を止めてくれるわ!」
息巻いているヴェルザーに、ベリアルが尋ねた。
「暗黒回廊の調整は完了いたしましたが、本当に宜しいのですかヴェルザー様?」
そう。ベリアルはその最終調整を行っていたのだ。
破壊神シドーは世界を破壊するために暗黒回廊で、
別世界の魔界から悪魔達を召喚した。
シドーを吸収したヴェルザーにはその知識もあったため、
暗黒回廊をこの世界にもう一度作り上げることに成功したのである。
「安心しろ。召喚した悪魔たちはオレの下僕だ。
破壊神を吸収したことで、オレはあやつらの主でもある!」
「ならばよいのですが……」
ヴェルザーは長年欲していた地上を征服した後、
太陽溢れる地上をこそ本拠地としても良いと考えていた。
デスカールに魔界を預け、あの辛気くさい世界はくれてやってもいいだろう。
その後、石にしてくれた屈辱を晴らすために天界へ攻め入り、
精霊共は皆殺しにしてやると、残虐な復讐心を燃え上がらせる妄想をしていた。
ふと我に返ったヴェルザーは、ベリアルに方針を話す。
「リンガイアからは頃合いを見て退け。
「ハッ……。地上のアトラスに伝えておきます」
「オレはまた回復の為の眠りに入るが、デスカールのよろい共を前に押し立てて、
超竜軍団の被害は抑えろよ。それと……」
一つベリアルとバズズに命じて、冥竜将ヴェルザーは眠りに就いた。
「やるのかベリアル殿……?」
「次に起きたときに地上に浮上していなかったら、お叱りでは済まぬぞ」
「むぅ……致し方ないか」
二人が渋っているのには理由がある。
ヴェルザーが眠りに就く前の最後の命令は、
冥竜城を地上へ出せという事だった。
二人としては地上へ拠点たる冥竜城影ノ城を出そうとした時、
そのような苦い経験があるために、主の言葉をそのまま首肯できなかった。
しかし、気短なヴェルザーの勘気を恐れて、実行の準備を始めるのであった。
独自設定
ミストポーン
目に光が宿って闇の衣をまとっているだけの
当初、
そのままでいるはずだったのですが紛らわしいという苦情を受けてこうなりました。
【挿絵表示】
何をしたかというと、大魔王が残った魔力をほとんどつぎ込んで、