ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
神域に立ったと同時に、周囲の景色が変わり、私は神殿の内部にいた。
今回は神域内を歩くことなく、既に着席している精霊ルビスの前に立っている。
笑顔のルビス様は椅子を勧めてくれたので、
遠慮せず彼女の対面に着席した。
「お久しぶりです。こんなに早く会えるとは思ってませんでした」
「私としては渡りに船という心持ちですな、ルビス様」
軽い挨拶の後に、近況を聞いてみる。
どうも予想以上にリンガイアという地には、聖母信仰が根付いていたようだ。
それは、いままで名がない"聖母"という存在への信仰だった。
名が与えられ、聖母=ルビスという方向性が与えられた。
そのため、ルビス様に信仰という力が集まって力を得たそうだ。
丁度、私が神殿内に入ったから、神域へ呼んでくれたと言うことらしい。
力を得たという証拠なのか、背中に翼が生えている。
この姿のルビス様が明らかになったときは、大地の精霊なのに翼が!?と、
驚いたことが思い出されてくるものだ……。
私がそう考えていると、ルビス様の方から喫緊の問題を、
話題として取り上げてくれた。
「ヴェルザーが持つ不死の魂への、対抗策を悩んでるんですよね?」
「そうなります。バラン殿は前任の天界の精霊が死んだことが、
深く心に突き刺さっているようで、たとえ可能でも頼みづらいと言うことです……」
「こう見えて神です。さっきも説明しましたが力を得てます。
封印とか、その手のことは任せてください」
ルビス様は力強くそう言い切り、サムズアップして得意げな顔をした。
知っているんだなサムズアップ……。
「ヴェルザーがしつこく蘇らず、
この世界で悪さができなければいいわけですよね?」
「そうですが……何か妙案でもありますかな?」
もし、ヴェルザーを倒した際に、ルビスの守りを掲げれば、
そのタイミングでルビス様が干渉してくれるらしい。
上手くヴェルザーの魂を封じ込めて、蘇生しないようにできるという。
そうなれば魂だけの状態は無力だ。
何も出来ないヴェルザーをルビス様の神域に閉じ込めて、
檻を作り放り込んでおくことも可能らしい。
「それは助かります。
犠牲も出ぬのであれば、私もバラン殿も憂いなくヴェルザーと戦えるというものですな」
「ただ、妙なんですよねヴェルザー。前からおかしいと思っているんですが……」
「妙とは……どういうことですかな?」
「それが伝えておきたい事なのです。
私が直接、現在の彼を確認できればいいのですが……」
難しい顔でルビス様が言った。
どうもヴェルザーの魂が不死ではない可能性があるということだ。
神々なので相手の存在が人間とは違った形で見えるのだが、
不死の魂を持っているのならヴェルザーは違う形に見えるらしい。
二年前に私がルビス様に会った後のことだ。
魔界へ赴きヴェルザーとの戦いがあったが、
あの時、ルビス様は"ルビスの守り"を通してヴェルザーを"視た"そうだ。
「彼が冥竜王とあだ名されていたのは、魂が不死であることに由来します。
倒しても倒しても蘇って、身体を復元してくるせいで大魔王と拮抗していました」
なるほど。以前から考察で囁かれていたことだ。
ヴェルザーは竜魔人になっていないバラン殿に倒されているように見えた。
では、確実に大魔王バーン>冥竜王ヴェルザーという強さのランク分けになるのでは、と。
それならば、ヴェルザーはどうやって大魔王と拮抗していたのか?
答えは倒しても蘇ってくるヴェルザー相手に、大魔王も手を焼いたからでは、
という考察も存在していた。
勿論、魔界で大魔王に匹敵する一大勢力を作り上げていたという事も、
要因の一つではないかとは思うが。
実際、ヴェルザー十二魔将は、キングヒドラもグラコス二世も、
確かに強かったので、それが十二人もいればかなりの勢力だろう。
さらに策謀に長けたキルバーンがいたのだ。
なかなかに層の厚い陣営であるといえる。
だが、現時点でもヴェルザーの戦力が、大魔王のそれを下回るかは疑問だ。
魔界で遭遇した、破壊神シドーを取り込み腕が四本あるヴェルザーは、
危うく負けそうになるほどに強かったのである。
その話を、かつてヴェルザーと戦った事があるバラン殿に聞いたが、
彼が戦ったヴェルザーより強すぎるという証言を得ることができた。
「元々、天界の精霊たちはヴェルザーの不死性を核として、
彼を石に封じたのです。
不死性に固執するヴェルザーはそれを捨てられぬから、封印は永続するだろう……と」
「つまり、何者かがヴェルザーの不死性を捨てさせることで、
彼を縛っていた石化の封印を解除したということですかな?」
「言葉にすれば簡単ですが、ヴェルザーが不死性を放棄しても、
超越的な魔法力がなければ、天界の精霊が命を賭した封印は解けません」
超越的な魔法力。
思い当たる人物は一人しかいないな。
私はポツリと大魔王……と漏らすと、ルビス様は無言で頷いた。
「ヴェルザーが超竜軍団を率いて冥竜将として、大魔王に仕えているのですから、
封印を解いたのは大魔王でしょうね」
「封印を解く際に、部下になれとでも言ったのではないですかのう……」
「かもしれません。あと、気になるのは数日前、大きな力のぶつかり合いがあり、
ヴェルザーが瀕死になったような気配を捉えたのです」
「なんと……!?」
小さい力の衝突は流石に分からないが、地上で最強クラスの力の激突は、
流石に感じ取れたらしい。
そして、聖であれ邪であれ、不死の魂の者が戦えば、
独特の力の余波があるということだ。
それがまったく感じられない事に、ルビス様はひっかかりを覚えたようである。
だが、ルビス様はここから動けないので、実際に見に行くこともできない。
二つの力が大分小さくなり、その力の減退具合からすれば、
戦った両者は瀕死の重傷で弱っている可能性が高いようだ。
「しかも、片方の気配が地上から消えてしまいました」
「では、魔界に……?
確かルビス様は、魔界の様子は分からぬと伺いましたが?」
「はい。私が使えるこの世界での権能は、
あくまで人間の神が有する権能の範囲……つまり地上だけです。
魔界には及びません」
瀕死のヴェルザーがいずこかへ……。
恐らくは追っ手をかけられては堪らないと、
魔界の己の領地へ逃げたのか?
まさか、いまから魔界へ行って様子を見るのは危険だろう。
大魔王勢力の本拠地でもあるわけだし。
「魔影軍団が超竜軍団に増援を出した件についても、
妙だと思っていましたが、魔王軍で何かあったのかもしれませんな……」
「そうですね。その可能性は高いでしょう。
いまは難しいかもしれませんが、あなたに調査をお願いしても──」
と、そこでルビス様の声が止まった。
何かに驚いたように息を呑む。
「こ、これは……!? ザボエラ、上を見てください!」
私は天井を見上げると、恐らくは
行ったことは無いが、原作を読んだ際に何度も見たことがある。
そして、玉座で眠る大魔王バーンの姿を確認することができた。
しかし、大魔王は妙に疲弊しているように見えるが……?
私はルビス様に何が起っているのか尋ねてみる。
「推測になりますが……。
大魔王が何か大きな負傷をして、意識を失っているのだと思います」
「強大な力を持った彼の精神と、
この神域が偶然繋がりを持ってしまったわけですかな?」
「そんなところでしょうね。
ただ、彼と私は特に繋がりがないんですが、何故繋がったんでしょう……」
私の表情を不安と捉えたのか、"あちらからは何も出来ません"と、
ルビス様は私に言った。
ガッツポーズのような事をして"これでも神ですから!"と付け加えた。
……サムズアップと言い、こう、昔のアイドルっぽいムーブをするな、この人。
いや、神か。
あちらからは何もできない……?
つまり、こちらからは干渉できるということか。
千載一遇のチャンスではないだろうか。
現在、魔王軍は百獣魔団、妖魔士団、不死騎団が壊滅して、
六大軍団の半数は機能していない。
百獣魔団はフレイザードに生き残りが連れて行かれたり、チウに従った者もいる。
不死騎団は残党がまだ多少いて、パプニカの周囲に隠れ潜んでいるそうだが……。
外伝作品で不死騎団長を勝手に名乗るスカルナイトが悪さをしていて、
鬼岩城を偵察に行ったヒュンケルやクロコダインに倒される話があったな。
しかし、精神世界で大魔王と会見することで、大魔王陣営の状況を把握できるなら、
やるべき価値があるのではないだろうか?
虎穴に入らずんば虎児を得ずともいう。
情報を得るために、ある程度は危険を冒す必要もあるだろう。
なにせ、ヴェルザーが瀕死というのも気になる。
先ほどバラン殿やノヴァに聞いた話では、超竜軍団にヴェルザーの姿を見た者は、
誰もいないというのだから。
姿を見せていなかったヴェルザーが、いずこかで重傷の可能性がある。
これは、何か謀反を起して大魔王によって手傷を負わされたのか?
大魔王が意識を失うほどの傷を負っているのも、
ヴェルザーとなんらかの諍い、やはり謀反で争ったせいか……?
推測だけではダメだ。
確たる情報を得る必要があるな……。
となれば、やってみる価値はあるだろう。
私はルビス様に提案してみた。
「あちら側へ行けますかなルビス様?
大魔王と話すことが出来て、現状少なすぎる敵側の情報が掴めればと考えますが?」
「それは……あまりお薦めはできません。
もしかすると罠を張っている可能性もありますし……」
「彼の精神世界に閉ざされる可能性はありますかな」
私の質問を聞いたルビス様は、一休さんのように両手の人差し指を頭に当てる。
ポクポクポクと考えて、効果音こそないがチーンという音と共に、
考えがまとまったように見えた。
「私たち神々は魂と精神の専門家です。
その領域であるのなら、たとえ大魔王と言えど遅れはとりません」
「ならば、乗り込んでみても良いのでは?
最悪、何かありましたら、私がルビス様を逃がしますので……」
「ダメです! あなたはそうやってすぐ自分を犠牲にしようとしませんか?
もう、あなたもこの世界の一個の命なのです。
ボリクスやクロコダイン、マトリフにアバン、
グレゴリーアとザムザ、あなたの死を悲しむ人は沢山います」
怒られてしまったな……。
そういえば、似たようなことが以前あったか。
思い出した。ルビス様に言ってなかった気がするので、
情報をここで共有しておいた方が良いだろう。
「以前、バラン殿が暴走したことがあったのですが、
その際、大魔王の鬼眼を攻撃したようなのです」
「……え? なんです、それ?」
「そして、昏睡状態に陥った大魔王は、様々な世界を夢で見て回ったと聞いております」
「ちょっと、そんな話は聞いてないんですが!!
つまりそれって、大魔王が他の世界が存在することを知っているってことですか!?」
ルビス様は驚愕して身を乗り出している。
やはり言ってなかったか……。
恐らく、人間の神の残留思念から、私の呪いにシドーが紐付けられていた事は知っていたが、
私に内包された呪いの世界に、意識を失っていた大魔王が訪問していた話をした記憶が無い。
取りあえずシドーが私の呪いから出てくる前、呪いの管理人としてグレゴリーアがおり、
そこへ意識を失って様々な世界を旅していた大魔王が、フラリと訪れた事を掻い摘まんで話した。
眉根を寄せて聞いていたルビス様は、腕を組んでうーんと唸りながら背中を曲げている。
再会したルビス様から、どうにも90年代ヒロインのような印象を受けるな……。
夢の世界で出会ったことを考えれば、つまり、私が大魔王の精神と、
この神域を繋ぐ触媒になってしまったということだろうな。
だが、ここはチャンスではないだろうか。
ルビス様が一緒にいるのなら、魔族の神の最後の話を聞かせてやれば、
魔族とドラゴンが魔界へ押し込められた理由に納得がいくはず。
何せ本人がいて話をするのだ。
証拠としてこれ以上のモノはないだろう。
私はアピスト=精霊ルビスとラーミア、当時の
大魔王に聞かせてやるべきでは無いだろうかと提案してみた。
「あ、そうですね。そうでしたね……。大魔王はその事を知らないんだ」
「左様ですルビス様。
彼の主観では神々は、力ある魔族と竜を無理矢理に魔界へ押し込めたと……。
地上を人間に与えたのは、彼らに力がなかったからだと憤っていたはずです」
真実を聞かせたからといって、大魔王がすぐに納得して善良になることを、
期待しているというわけではない。
それこそ数千年に渡る怨みというものもあるだろう。
だからこそ、彼に考える材料を与えてやるべきかもしれない。
しかし、大魔王は力こそ正義、力あるものは無い者に対して何をしても構わない。
そういう論理で行動している部分もある……。
だが……と私が悩んでいる間に、上に映し出された謁見の間は薄くなっていく。
「このままでは消えてしまいますかなルビス様?」
「はい。恐らくここに繋がったのも偶然です。
同じ偶然が起る確率はかなり少ないでしょうね……」
グズグズしている時間はないが、もう一度、確認だけしておこう。
「この神域に戻ること自体は容易いですかな?
それとも、私が時間を稼いだ方が良い類いのものですか?」
「大丈夫です。私が念じるだけで、すぐこちらへ戻れます。
そうすれば、あちらからの干渉は防げますよ。だって、私、神ですもの!」
自信満々でいうルビス様に礼を言って、私の覚悟は決まった。
一応、魔界の神について話す場合、襲来した"大いなる闇の根源"については、
その名前が禍々しすぎるので大魔王には言わない方がいいだろうと話した。
説明の過程で"邪悪な存在"くらいは言ってもいいだろうが、
"大いなる闇の根源"という文言は、大魔王のいらぬ興味を惹くだろう。
その言葉は使わないようにと、ルビス様に口裏合わせだけはしておいた。
そして、私はルビス様の手を取り、大魔王の謁見の間の形をした、
彼の精神世界へ入っていった。
独自設定
90年代ヒロインのルビス様
そういえば翼があったなという事を思い出して、
今回、リンガイアでの信仰を得たので生えてきたことにしました。
【挿絵表示】
外伝作品
ダイの大冒険 それぞれの道という短編小説集の、
「鬼岩城へ」という話に不死騎団長を勝手に名乗って、
不死騎団残党を率いているスカルナイトが登場します。