ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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第十四話 パプニカの光と影(前編)

 

パプニカ王国。

この世界の中心にあるギルドメイン大陸の南。

西にあるラインリバー大陸から見て東に位置するホルキア大陸。

そのホルキア大陸に唯一存在する王国だ。

 

海と山に囲まれた美しい街並みと、風光明媚な港町。

敷き詰められた石畳と、区画整理された街路は文化レベルの高さを表している。

時折、様式がギリシア建築に似た、神殿のような建造物が存在していた。

ダイ大原作では、不死騎団に滅ぼされた後の壊滅した街並みの印象が強く、

その前の美しいパプニカを見る事が出来たのは収穫といえるだろう。

 

現国王はレオナ姫の父、レオポルト王。

作中、名前が出てこなかったので、フォルケン王に聞いて初めて知った名前だ。

 

パプニカに来る前に、竜水晶をヨミカイン魔導図書館へ連れて行き、

案内役としてケインを置いてきた。

彼女は大分浮世離れしているので、当世の常識を学んでもらおうという事だ。

その教師役がケインなのは若干不安があるが……。

 

ケインは近接戦闘が不得手な私にとって、よい護衛になってくれる。

置いてきたのは早計だったかと思ったが、

パプニカでは危険な事は起こらないだろうという判断をしたのだ。

同行者にクロコダインとボリクスがいるという事もあり、

私は大分気が緩んでいたのかもしれない。

 

街へ入る前に変身呪文(モシャス)で耳だけ人間サイズに変更する。

変身呪文(モシャス)の強度について調べたのだが、

全身を変身する場合はミストバーンに攻撃されたアバン先生のように、

一か所の破損で露見しやすいのだ。

逆に耳の長さだけ変身呪文(モシャス)で変化させた場合、体にダメージを受けても、

変身呪文(モシャス)をかけた耳に攻撃が当たらない限り、変身が解ける事はない。

 

服装も目立つ部分だけ外す程度に留める。

いつものローブについている襟巻のような部分は外す。

これだけで印象が変わる。

あと、ヨミカイン魔導図書館にあった眼鏡をつけてきた。

これは幾つかの能力があり、その一つにレムオルを見破る力がある。

 

 

 

パプニカ市街へ入る検問所では、旅の学者であると説明した。

ボリクスは孫。クロコダインは護衛と話す。

 

衛兵は最初胡散臭そうに見て、私が提出したフォルケン王からの書状に目を通した。

押印されているテラン王国の紋章を確認。

表情が緊張していくのが確認できると思ったら、急に応対が丁寧になった。

その後、よい部屋へ案内され、やけに美味いお茶が出てきたので、

クロコダインと顔を見合わせる。

ボリクスは例によって砂糖を大量に入れていた。

 

王城から立派な役人がやってきて、彼が手続きをしている間、

太陽のシンボルが描かれた額冠を身につけた、がっちりした体格の男性が話しかけてきた。

高齢に見えるが190cm近い長身で矍鑠(かくしゃく)とした印象だ。

賢者の衣装から魔法職なのだろう。

もっとも、盛り上がった腕の筋肉を見ると、歴戦の戦士にしか見えないが。

 

 

「ザボエラ殿はフォルケン王とは、どのような知り合いなのだ?」

 

「ワシは旅先で伝説や伝承を集めておりましてのう。

フォルケン王から伺う事も多く、その際に知己を得ましてな。

その御厚情に与っておる次第でございます。ところで、貴殿はどなたでらっしゃいますかな?」

 

「おお、これは失礼した! 私はパプニカ三賢者が一人、デルポイと申す!!」

 

 

背がデカいが、声もデカい。それはともかく、彼は三賢者なのか。

まったく知らない人物だが、それもそうだろうな。

本編でアポロとマリンが20歳。エイミは18歳だ。

いまの時点で各々、10歳と8歳の年齢だ。

彼らが三賢者であろうはずはないから、先代の一人が彼なのだろう。

 

 

「うちはボリクスや。爺ちゃんでかいな。ザボ爺(ざぼじい)の倍くらいあるわ」

 

「ふむふむ。ボリクスというのか。孫のアポロよりちょっとお姉さんだな。

アポロは引っ込み思案だからな。連れてきてやれば良かったわ」

 

 

ほう……彼はアポロの祖父に当たる人物のようだな。

確かマリンとエイミは両親健在の姉妹。

アポロはなぜかパプニカ王家臣下の人物が養父と書かれていたが、

デルポイ殿はなかなかの老齢だ。

つまり、あと、10年持たないという事だろうか……。

 

 

「爺ちゃん腕太っといなぁ! まるで戦士やんか?」

 

「賢者は武器を持って戦う事もできるからな。

そうは言っても、魔法に傾きがちゆえ、私が見本を見せているのだ!」

 

 

デルポイ殿が逞しい腕を曲げて力こぶを見せている。

ボリクスの手がデルポイ殿の肩にまで届かないので、

デルポイ殿の賢者にしてはやけに筋肉質な腕を、ジャンプしてバンバン叩いていた。

 

 

「デルポイ様。フォルケン王が紹介されたお客人ですぞ。あまり失礼は……」

 

「おっと、これは申し訳ない。良い宿を取ったので、そちらへご逗留くだされ」

 

「いやはや、何から何まで申し訳ありませんのう」

 

 

その日は宿に泊まり、翌日にパプニカ大神殿の横にある法術工房へ案内してくれるという事だ。

クロコダインは宿の一階にある飲み屋で意気投合した兵士の連中と、

パプニカ戦士団の教練を見てくると出かけて行った。

まあ、パプニカ内部でクロコダインの力を借りるようなことは起こらないだろう。

念のためもう一度変身呪文(モシャス)をかけ直し眠りに就いた。

 

 

翌朝、法術工房の前まで来ると、デルポイ殿が小さな女の子を連れていた。

はて、アポロに妹でもいたんだろうかと思ったが、

近づいていくとなにやら既視感がある。

髪の色といい、雰囲気といい……まさか……!?

 

 

「あなたが学者さん?

ちょっと意地悪そうなお爺ちゃんだと思ったけど、表情自体は落ち着いてて知的ね。

デルポイは人がいいから、てっきり騙されてるのかと思ってたわ」

 

「姫、なんてことを仰るのか!

このデルポイが礼儀作法をきちんとされるよう、言ったではありませんか!」

 

 

姫……この時期レオナ姫は4歳のはずだが……。

随分と達者に闊達に喋るものだのう。

 

 

「そんなこと言っても、あなたはこないだも詐欺師に騙されてたじゃない。

でも、今回はあなたの勝ちよデルポイ。この人は悪人じゃなさそう。

……もっとも、お人よしタイプの善人って感じじゃないけど」

 

「姫、そ、その辺りで!! 申し訳ないザボエラ殿。

大変失礼な真似をしてしまった!!!」

 

「いやいや、お気になされるなデルポイ殿。

ところで、姫ということは、パプニカ王女レオナ姫でございますな。

ワシは旅の学者、ザボエラと申す者でございます。こちらは孫のボリクスですじゃ」

 

「え、あたしのことも知ってるんだ。公式行事にも出てないのに。

本当、お爺ちゃん何者?」

 

 

腰に手を当てたボリクスがスッと前にでる。

 

 

「なんや、生意気なチビやな。おもろいやんけ!」

 

「ふーん。あたしもあなたの年になれば、チビじゃなくなるわ」

 

 

とにらみ合っている。

デルポイ殿が緊張して見守っているが、私は心配してなかった。

 

 

レオナ姫がスッと拳を突き出す。

それにボリクスが拳を軽く当てて、二人して大笑いしている。

気が合いそうだとは思っていたが、出会った瞬間に意気投合してるな。

 

ホッとしているデルポイ殿に声をかける。

 

 

「……デルポイ殿。この場は、礼儀は不問という事に致しませぬか」

 

「そう言っていただけると、助かりますザボエラ殿! フォルケン王には良しなに!!」

 

「いえいえ……」

 

 

レオナ姫とボリクスは外で待つという。

私はデルポイ殿と法術工房へ入っていく。

雰囲気としては工場というより、神事を司る神殿のようである。

法術の見学を始めて分かった事だが、完成までは時間がかからないのだ。

ただ、素材を使えるための下準備に、大分時間がかかることが理解できた。

 

まず、法衣などの服飾は糸の段階から仕込みが大変だ。

月光を15日、陽光を30日当てなければならない。

その後、パプニカの聖堂で聖水を使い、浸して洗い半年。

それでようやく織るための準備が整うようになる。

金属も同様の手続きを行うもので、これはやり方を習っても自分で出来るものではない。

 

魔法力の込め方だけ習って行ったが、

デルポイ殿に一年ほど逗留しないかと勧誘されてしまった。

私の魔法力が高いせいだろうが。

 

「アポロという孫がおりましてな。まだ10歳。

成人まであと5年。それまでは三賢者の地位におらねばなりますまい」

 

なるほど……パプニカだと成人は15歳だったのか。

レオナ姫が14歳の誕生日の月にデルムリン島にやってきていたのは、

あくまで地の神への儀式の為だったわけだ。

 

「年寄りのワシが言うのもなんですが、デルポイ殿は引退されて、

他の三賢者に任を任せてもよろしいのでは?」

 

「それができればよかったのだが……。

海の賢者セイドは魔王との戦のおりに死に、いま一人の風のルメスは病に倒れたのだ」

 

「なんと……つまらぬことをいいました。忘れてくだされ」

 

「いやいや、かえって気を使わせてしまいましたな。

もし、よろしければザボエラ殿が三賢者になりませぬか?

貴殿の魔法力、学者にしておくには惜しい!」

 

そんな気軽に国家の重職を勧誘してもいいのかと思ったが、デルポイ殿は真剣だった。

まあ、それはともかく、現国王レオポルト殿の話などをしながら、法術工房を後にした。

 

 

外へ出ると工房の前がなにやら騒がしい。

飛翔呪文(トベルーラ)で空を飛んでるボリクスの背に、

レオナ姫が乗っていておつきの者達が慌てている。

ボリクスの背におんぶされたレオナ姫は大笑いしているが、

側付きの者たちは冷や冷やしている事だろう。

私もこれはまずいと思って、ちらりとデルポイ殿を見るが神妙な顔をしている。

 

 

「どうされた、デルポイ殿……?」

 

「姫は、半年前に母君を亡くされてな……。

我々に心配を掛けぬよう、明るく振舞ってはおいでだったが、

あんなに心の底からの笑顔、久しぶりに見た……礼を言うザボエラ殿」

 

「いや……礼を言われる筋合いの事ではありませんな。

孫のボリクスは困ったお転婆者ですが、姫に笑顔を取り戻させたならようございました」

 

そうかレオナ姫はヒュンケルの侵攻で父王を失った。

母親はどうなったのかと思っていたが、この時期に亡くなっていたのか……。

下りてきたレオナ姫もボリクスも、デルポイ殿に拳骨を喰らっていた。

 

二人と別れ、我々は宿へ戻った。

法術は技法については学べたが、

素材を用意する難易度が高く、再現する事は難しいと話した。

ボリクスはレオナおもろいから、パプニカに買いにくればええんちゃう?

そんな感じで気楽に言ってくれていた。

 

クロコダインはバダックという戦士と仲良くなったという。

もしかして、あのバダックだろうか?

どうもパプニカ戦士団は少し肩身が狭い所があるらしい。

パプニカは魔法が盛んな地だ。

故に純粋な戦士たちは役割が限られる。

愚痴をいいながら酒を飲んでいたが、妙に気が合って楽しかったという。

 

完成する法衣を見せてもらうため、あと三日ほど滞在する事にしている。

翌日、法衣を織っていく工程を見た後に、レオナ姫がある場所に案内してくれた。

 

美しい海が見える場所にある墓地だ。

この聡明な少女が、私達を信頼してくれてのことだろう。

事の重さを感じる。

デルポイ殿とボリクスも神妙な顔をしていた。

もちろん、私もだが。

 

「母上、半年前に亡くなったの。よく分からない病気で。

母上を看ていた医者が何人も亡くなったわ。

毒が出るって言って、父の側近のテムジンだけが最期まで看てくれたの」

 

明らかに気落ちした表情のデルポイ殿が言葉を続ける。

 

解毒呪文(キアリー)を全身にまとわせるような繊細な魔法力操作を要したのだ。

私は回復は回復呪文(ホイミ)程度しか使えなくてな……。

あの時ほど、悔いたことはない」

 

病気なのに毒、だと……?

どういうことだろうかと思いながら、母の墓に花を供えるレオナ姫を見る。

 

「母は王家の墓に入れなかったの。王家の墓が穢れるって。

父上も最後は折れて。あたしは最後まで反対したの。

でも、ここで良かったって思う。見晴らしのいい場所だし」

 

確かに美しい丘だ。海も見えるし見晴らしもいい。

だが、レオナ姫の母の墓の周囲は、一切草木が生えていない。

供えた花も一日で枯れてしまうらしい。

ここへ来るまでに、あれだけ雑草が生い茂っていたというのに……。

 

"王妃は呪われて死んだのだ!"

 

"不気味な怨念に違いない! 不名誉極まる!"

 

そんな声が聞こえる中、レオナ姫は抵抗し、毎日花を供えにやってきていた。

 

 

「母上にあたしの友達を紹介したかったの。

あなたたち、あと三日でパプニカを出ていっちゃうんでしょ?

だから、母上に会ってもらいたくて」

 

 

ボリクスが墓の前まで行き、頭を下げて祈る。

レオナの友達のボリクスや、かーちゃんにも会いたかったで、と。

そう墓前に声をかけた。

 

 

母親の死を周囲に疎まれ続ける……。

まだ4歳の少女が背負う運命ではない。

デルポイ殿が泣いている。ボリクスは涙をこらえているが鼻水が垂れている。

私も目頭の熱さをこらえるのに必死になっていた。

だが──レオナ姫は泣いていない。

 

 

「ありがとう付き合ってくれて。

今日はあたしが好きな美味しいケーキのお店に行きましょ。

あなたたちがいる間に、パプニカのいい所を沢山見て貰って、

好きになって欲しいから」

 

 

私は墓に祈る時、周囲の土を少量持ち帰った。

クロコダインはパプニカ戦士団の宿舎に泊まるらしい。

若い戦士がやってきてそう話して帰った。

 

持ってきていた試験管を何本か並べ、薬液を満たす。

そこへ、墓地の土を混ぜてゆく。

 

 

ザボ爺(ざぼじい)それ、なにやってんのや?」

 

「何もないのなら……後二日でこの国を去る事になるのう」

 

「なんかあったらどうなるんや?」

 

「逗留が長引くかもしれんな……」

 

 

私は並べた試験管の一つが、濃い紫色に染まるのを見てため息をついた。

嫌な予感が当たっている。

毒草庫のノートを開きつつ、もう一度確認するが間違いはなかった。

これは、自然界に存在する毒ではない。

レオナ姫の母上は、病で死んだのではなかったのだ。

何者かが意図的に調合した毒に殺されたということか……!

何者か? いや、答えは出ている。テムジンだろう。

誰も近寄れない状況にして、解毒呪文(キアリー)をまとい、

唯一王妃に近づいて毒を盛り続けたのだ。

 

明日の朝一番にデルポイ殿へ連絡を取らねば。

そう思い床に就いた。

 

 

翌朝、宿屋の主人の怒鳴り声に近い、切羽詰まった大声に起こされる。

 

「ザボエラ様! 失礼します。城から使いの方が見えております。

至急のお話があるそうで、一緒に来てくださいますか!!」

 

階下に降りた私とボリクスが聞いたのは、

デルポイ殿が魔物に殺害されたという話だった。

 

 




独自設定
三賢者の一人デルポイ……太陽のシンボルを与えられている。
アポロの実の祖父で、息子と娘をハドラーの起こした大戦で失っているため、
孫であるアポロを引き取り育てていた。
そのため、ここで祖父を失ったアポロを、
デルポイの年の離れた弟が引き取る事になります。

単純にアポロの父と言うと、元ネタのアポロンの父はゼウスなのですが、
ゼウスはちょっと名前の語感が強すぎるので、
有名なデルポイの神託から取りました。

デルポイやパプニカの人々がザボエラに丁重だったのは、
フォルケン王の親書に
「ザボエラは自分を超える学識を収めた優れた人物なのでよろしくお願いしたい」
という一文が公式文書の文飾の限りを尽くして書かれていました。
こう言われると、パプニカ側は
「いままで知らなかったけどフォルケン王の親族=王族か!?」
と深読みしてしまってテラン王族への対応になってしまった感じです。


海の三賢者セイド……ポセイドンからです。

風の三賢者ルメス……ヘルメスですね。
ギリシャ神話はカッコいい名前が多いので、
そのまま使うと語感が強すぎて使いづらい感じでした。
どの程度削って脇役くらいの存在感まで落とすか苦労します。

法術の法衣の製法……技法は真似できるけど、素材の準備難易度が高い感じに設定しました。

パプニカ王レオポルト……レオナのレオが付く男性名を探していると、
レオナルドかレオポルトだったのでした。
どちらか悩みましたが、レオナルドはよく聴くので、
レオポルトを採用しました。

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