ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
雨が降っている。
月並みだが、故人の死を悼む人々の悲しみが、
天から降り注いでいるように感じてしまうのは感傷からだろうか。
デルポイ殿の葬儀はしめやかに行われた。
参列する人々は絶えることなく、
彼がどれほど慕われていたか雄弁に物語っている。
発見された時、周囲には15体のモンスターが死んでいたそうだ。
呪文を封じられてしまったのか、焼け焦げている4体の魔物を除いて、
腰の剣で戦い勝利している辺り、見事な腕前だった……。
警備兵たちが駆け付けた時には、背後から奇襲を受けたのか、
デルポイ殿は背中からサソリの魔物の爪に貫通されていたという。
警備兵たちは殺到して救おうとしたが、一蹴されてしまった。
その際にデルポイ殿の体が地面に落ちた。
そこで魔法兵たちがやってきてサソリの魔物に対して、
すぐにサソリ自体は逃走したが、魔法兵たちは思案した結果、追わなかった。
やはり、国家の重鎮であるデルポイ殿の安否を優先したそうだ。
だが、時すでに遅く……デルポイ殿は事切れていた……。
デルポイ殿を殺したサソリの魔物。
呪文を弾くという特徴から考えれば、恐らくは魔のサソリだ。
そうなると、下手人はやはりテムジンという事になるだろう。
それが分かるのは現時点では私だけになるわけだが。
デルポイ殿の孫のアポロが泣いている。
彼の肩を抱いている男性が、デルポイ殿の年の離れた弟らしい。
アポロの養父とは彼になるのだろうか。
泣いて棺に縋り付き、離れようとしないアポロに親族が困っている。
気持ちが分かるだけに、無理やり引きはがすわけにもいかないのだろう。
そのアポロにスッと近づいたレオナ姫がアポロの名を呼んだ。
こちらを向いたアポロに、レオナ姫はピシャリと彼の頬をはたいた。
「アポロ! あなたは未来の三賢者なのだから泣くのはやめなさい!
そんな暇があるなら、一日でも早く一人前になることの方が大切よ!」
凛とした声が響く。まさしく、正論ではある。
だが、強い人間の意見だ。参列客には強い王女に見えたことだろう。
幼いのに泣かず、毅然として姫は立派だという声が聞こえる。
もっとも私には……泣かないのではなく、
というように見えた。
その言葉を受けたアポロは、涙を拭いて立ち上がり、こう宣言した。
「ぼく……私が必ずや太陽のシンボルを受け継ぎ、三賢者としてお爺様の跡を継ぎます。
パプニカに平和をもたらす三賢者になってみせます!」
その宣言を聞いて、集まっている参列者は涙する者、アポロを称える者と様々だ。
レオナ姫と視線が少し交錯する。
こちらをしっかり見て、軽く頷いて御付きの者を引き連れ去って行った。
充分だ。やはり、彼女は手紙の内容を理解してくれたのだな。
そう考えている私の周りを、パプニカの魔法兵が囲む。
そして、彼らを率いている男はテムジンだ。
謹厳な表情をしているが、私は彼の素顔がそうではないことを知っている。
「ザボエラ殿、ご一緒願おう。
貴殿には三賢者デルポイ殿殺害の嫌疑がかけられている!」
レオナ姫の方は安心だが、
ボリクスがクロコダインやパプニカ戦士団と合流できるか心配がある。
だが、そこはレオナ姫がサポートしてくれるに違いない。
あの姫は実に聡明だからな。
ならば、私は私のするべきことを、為すだけだ……。
私は大人しく彼らに同行する事にした。
同行した施設は城ではなく、テムジンの私邸のようである。
地下二階ほど下りたフロアは、一切の飾り気がなく、
まるで地下迷宮であり、モンスターが出てきそうな雰囲気すらある。
全部で六つも牢が並んでおり、腐臭なのか死臭なのか分からない不快な臭気がする。
壁は破損しており、牢としての態を為していないが、
恐らくはここに入れられた時点でお仕舞なのだろう。
テムジンが直々に聴取するというので、それまで待つことになる。
簡単に馬脚を露してくれたのは助かるが、少し落ち着く為に状況を整理しよう。
何故なら私は、この世界に来てから初めての激情に駆られていたからである。
溜め息に怒気が籠もった。
……怒りが私の体内を駆け巡っていた。
テムジンへの怒りか? いや、違う。
私がいま一番憤りを覚えているのは、
私はテランの竜の神殿で、何を考えていた!?
"テムジンの話は……放っておいてもいい。
あれは丁度いい事件で、レオナとダイの顔合わせにも成長にも適度な話だ。
二人の絆を高めるためにも、できるかぎり起こしておいた方がいいだろう。"
丁度いい事件!! なんて傲慢な考えだ!?
私はこの世界へやってきて、まだ客人のつもりだったのだろうか。
まぎれもなく現実であり、人が生き、人が死ぬのだ……。
それを肝に銘じて行動する必要がある。
気を緩めてはいけなかったのだ……。
これから先、人類でテムジンのような危険性を持った人物は早々いない。
偽勇者一行くらいだが、彼らは懲らしめれば善良さを取り戻す。
だが、どうしようもない邪悪な人間がいたとしたら、
人間を救う価値はあるのだろうか……?
ふぅ……少し怒りで思考が先鋭化しているな。落ち着こう。
ある意味、私が知っているダイの大冒険本編の物語は、
いまの時点で崩れてきている。
あくまでそれは参考という事として、いまある世界の現実に対して、
真摯に向き合っていく必要があるのだろう。
デルポイ殿の死は、その教訓としては苦すぎるが……。
現状に思考を戻して、テムジンの行動を考えてみよう。
テムジンは本編でレオナ姫を"ダイ爆発!!!"の事件で抹殺し、
パプニカ王を孤立化させて実権を得ようとしていた。
つまり、そこまでの段階で、敵対者たちを葬ってきたことが窺える。
デルポイ殿のように……。
以前戦った魔界の魔物たちの方が、テムジンなどより遥かに強いだろう。
だが、人類社会への悪影響という点では、テムジンの方が危険度が高い。
まさかとは思うが、マトリフを追い出したのもテムジンなのか……?
もし聞けるなら本人に尋ねるしかないだろうが。
重臣たちを排除して、王に最も信頼される人物として国政を牛耳るわけだ。
それが彼の目的なのだろう。
そんな野心の為にあんな良い人物が命を落とした……。
テムジンがやってきたら
怒りを抑えろ。
いまやるべきことは、動いてくれているはずのレオナ姫たちの為に、
少しでも時間を稼ぐことだ。
私の前に、テムジンが7人の魔法兵と一人の青年を連れてきた。
賢者の法衣を着ている。若いように見えるがバロンだろうか?
原作より10年前で成人しているという事は、本編の時に25歳以上だったのか。
テムジンはニヤニヤしながらこちらに話しかけてくる。
「丁度いいところに来てくれたよザボエラ。
デルポイを消すことは決まっていたが、誰に罪をなすりつけるか困っていたのだ」
葬儀の時の厳粛な表情とはまったく違う。
邪悪な司教という題材で作り上げた、彫刻のような顔をしている。
ああ、ダイ爆発!!!の時も己の企みを語り出すときは、こんな感じだったなこの男。
まるで仮面を外したかのような変貌っぷりだ。
「つまり、デルポイ殿を殺害したのは貴殿か、テムジン殿」
「さて、なんのことかな? それは貴様の罪になるのだよザボエラ。
貴様は今日、この牢で自殺する。一枚の手紙を書いてな。
"パプニカの法術の秘密を盗もうとしてデルポイ殿にとがめられ、
モンスターをけしかけて彼を殺害した。
だが、罪の意識に苛まれて、死んでお詫びをする"
とでも書くか?」
なんとも短絡的だな。だが、一つ気になる事がある。
海と風の三賢者は本当に戦死と病死なのか?
それを尋ねた瞬間のテムジンの顔を比喩する表現は、
悪魔のような顔としか言いようがないだろう。
「よくわかったな!!
海のセイドはわざと増援を遅らせ、風のルメスは病の際に医者を買収して毒を盛ったのだ!」
「なぜ、そのようなことを? 貴殿は国内でも重く用いられる重鎮ではないか。
みながその意見に耳を傾けたじゃろうに。重臣を廃する必要もなかったのではないか?」
「……いにしえのパプニカは神々を敬う祭政一致の国だった。
その頃に戻し、国王なぞ廃して、私が教皇として君臨するのだ。
逆らう重臣を一人ずつ排除し、最後には神の名の下に王すら抹殺するのだ!」
強い憎しみのこもった口調で言い放った。
本編ではレオナ姫を抹殺した後、王国の実権はすべて自分のものだと語っていた。
王権を否定して、神権の代行者として、自分が宗教的な最高権力者になりたかったわけか。
その時──
私の肩を
見えない誰かを確認しつつ、準備は整ったことを知る。
さて、あと一つ。最後に聞いておくべきことがある。
「最後に聞きたいのじゃが……。王妃様を毒殺したのも貴殿じゃなテムジン殿」
「なんのことやら?」
「しらばっくれても無駄じゃよ。王妃様の墓の周囲は雑草も生えなくなっておった。
土を採取して調べたのじゃ。混合された海の魔物と山の魔物の毒。
それから魔のサソリの毒が検出されたぞ。
人為的に調合せねば、海と山の魔物の毒が混ざることなどありえんじゃろう?」
「大したものだなザボエラ。そこまで調べ上げるとは。
残念だ。もう少し早く会えたら、その頭脳をわしの為に役立てて欲しかったが……」
「ふむ……冥途の土産はくれんのかのう?
王妃様を毒殺したのは貴殿じゃろうテムジン殿?」
狂気の哄笑をあげるテムジン。
長い間笑っていて、バロン以外の魔法兵たちが若干動揺している。
「ヒッヒッヒッヒ!! 欲張りだな、ザボエラよ。だが、欲深い者は好きだぞ!
教えてやろう。王妃は私が殺した。あの女は王の心の支えだったからな。
しかも、魔王との大戦中もことごとく、私の施策に反対しおって……!!」
流れるように王妃への恨みつらみ、怒りを叩きつけるテムジン。
もうよいだろう。十分聞いたはずだ。
「さて、おしゃべりはここまでだ。デルパァ!!」
魔法の筒から魔のサソリが姿を現す。
「デルポイと仲が良かったようだな。喜ぶがいいぞ!
あいつを殺した魔のサソリに仲良く殺されるがいいわ!」
「ボリクス。待たせたのう……。
テムジン以外、好きにやってよい!」
その言葉と共に、ボリクスが姿を現す。
事前に渡しておいた、きえさり草の効果を解いたのだ。
ボリクスは掌から放たれた
間髪入れず
魔のサソリに体当たりして、一撃で仕留めた。
「デルポイ爺ちゃんの仇だ!!」
「こ、このガキを止めろ!」
7人の魔法兵が殺到してくるが、殴り、蹴り、頭突きを食らわし、無力化していく。
この陰気な地下室の入り口に、
テムジンが雇った兵が、階段を転げ落ちてくる。
それを合図としてレオポルト王とレオナ姫、パプニカ魔法兵たちがなだれ込んできた。
「大人しく降伏せよテムジン。貴様の私兵は全て制圧した。
生き残った者は投降している。勝ちの目はないぞ」
レオポルト王が静かに、テムジンに対して降伏勧告を言い渡す。
唖然としていたテムジンが、ようやく我に返って怒りと共に叫んだ。
「こ、これはどういうことだ!!」
その叫びに応えるかのように、
レオナ姫が冷たい表情でテムジンに言い放った。
「どうもこうも、デルポイを殺した犯人を捕まえに来たのよテムジン。
まさか、三賢者の海のセイドや風のルメスも、お前が殺害してたとは思わなかったわ。
……それに……母上を……!」
陽気なレオナ姫を知っているからこそ、感情を殺した冷たい声音にぞっとする。
横にいたレオポルト王が静かにテムジンに話しかける。
「テムジン、なぜだ。お前は祖父の末弟として、私の大叔父として支えてくれたというのに。
このような凶行に走った理由はなんなのだ?」
冷静な発言だ。愛した妻を、王妃を殺した相手だというのに。
「それだよ、それなのだよレオポルト!
わしは後から生まれただけで、はるかに優れていたのに王になれなかった!
貴様の祖父・父は愚鈍極まりない愚物!
生まれの順序で決まってしまう王権は間違っているのだ!!」
唾を飛ばし、怒りを表しながら、身振り手振りで感情を表しながら話すテムジン。
ボリクスが殴ろうと進み出るが、私が彼女の肩を掴んで止める。
テムジンに罰を与えるのは、我々がするべきことではない。
「ゆえに神の、パプニカの神々に王権をお返しし、私が最高指導者として治めるのだ!
優秀な……完璧な私が、神の言葉を代弁して治める!
ロモス、ベンガーナ、カール! 全て征服して神聖パプニカ帝国を築き上げるのだ!!」
「そのような子供の妄想の為にデルポイを……我が妻を……
手にかけたのだなテムジン!!」
会話中に左手に
抜刀したレオポルト王が、抜き放った剣で両断する。
彼についての情報をほとんど持っていなかったが、剣士として中々の腕だ。
「ぎゃああああああああああ~~~!」
「我が妻を殺しただけだったら、私は夫として彼女の仇を取って終わっただろう。
だが、貴様はデルポイを、セイドやルメス他にも多くの者を殺している。
ならば、その罪を明らかにすることが私の王としての使命だ」
痛みと怒りで顔が歪むテムジンにそう言い放つレオポルト王。
魔法兵たちがテムジンに縄を打ち、彼の私兵たちも捕縛していく。
陰気な地下を出て、私がテムジンの私邸を振り返った時、
大きな振動があって何かが出現した。
皆が動揺する中、大きな影が地面を揺らしながら姿を現す。
あれはキラーマシン……。もう動くのか!!?
「キラーマシィ~~~ン!!! ぎゃははははは! よくやったぞバロン!
こいつらを皆殺しにしろ!!」
うなだれていたテムジンが急に発狂したように話し始めた。
そうか。いつの間にかいなくなっていたが、バロンが姿を消している。
あのキラーマシンはどの程度完成しているんだ?
「周辺の国民を避難させよ!」
「王もお逃げください。この場は危険でございます!」
レオポルト王と魔法兵たちが言い合っている。
こちらを見たキラーマシンが、剣を振りかぶった。
テムジンがこちらにいるのに、攻撃するつもりか?
つまり、バロンはテムジンを見限ったのか……!?
「バロン、やめろお~~~~!」
テムジンの絶叫と、レオナ姫を思わず庇うレオポルト王の姿。
だが、私の視線の先に、あの大きな姿が見える。
突っ込もうとしたボリクスが、こちらを見てニヤリとした。
彼が動いているなら、私達が慌てる必要はないという、確かな信頼があるからだ。
その時──重い踏み込みで地面の石畳が爆ぜる音と、
鋼鉄のような強度の拳がキラーマシンを吹っ飛ばす音は同時に聞こえた。
ダイ爆発!!!が三話構成だったのでパプニカ編が同じ三話になりました。
といいたかったのですが、単純に後編が長くなりすぎて分割する事に……。
独自設定
王妃様が盛られた毒については、
私も毒に対して知識があるわけではないので、フワフワッとさせております。
毒草庫にあったザボエラノートが早速役に立ちました。
パプニカ王がレオナ姫の言葉で兵を動かしてテムジン逮捕に動いてくれたのは、
十四話でデルポイに話していた詐欺師の話で大人顔負けの賢さを発揮。
王家を相手に詐欺を働こうとしていた輩の嘘を暴き、逮捕に貢献したからです。
それ以後も、宮中での揉め事を幾つも解決しており、"子供の戯言"ではなく、
姫の言葉には値千金の価値があるという存在感を得ていました。