ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
デルムリン島までの旅程は順調なはずであった。
……過去形なのは、順調ではなくなったからである。
航海二日目、急な嵐に巻き込まれ、船が大揺れしたのだ。
長く海に生きてきたという船長も驚くほどの嵐らしい。
危険を感じたので、自分の得意分野で問題を解決する事にした。
勿論、呪文を用いて対処するという話である。
私はクロコダインに支えてもらいながら甲板に出て、
船長は私を拝んで感謝していたが、そんな事よりも船内の状況を確かめるよう頼んだ。
姫の護衛として同行した魔法兵団副団長のコルキ殿が、
怪我人がいたら回復呪文のご協力をお願いしたいと頼んできた。
20代後半ほどの年齢だが、童顔を嫌ってか口髭を生やしている。
混乱が収まってからすぐにテキパキと指示を出している姿に、信用してもよさそうだと考えた。
肝心のレオナ姫は、
被害状況を確かめた船長が、真っ青な顔をして戻ってくる。
船底に収納されていた水の樽が破損しており、
デルムリン島までの飲み水が持ちそうもないということだ。
水は航海で大切な要素だ。
しかも、ここは南の海で陽光も厳しい。
水なしで航海するのは非常に危険だと言わざるを得ない。
最悪の場合、船を置いて私が
いま、パプニカはテムジンたちの処刑が行われているし、
テムジン派の逮捕・拘禁が一斉になされている。
血生臭い事から姫を避けるための旅でもあるし、このままデルムリン島までの旅程を続行したい。
やむを得ないか。折を見て広めようと思っていた呪文だ。
私はこの場では姫を除くと最高位にある、コルキ殿に水を作り出す呪文があることを説明した。
「なんと……そのような秘呪文が存在するとは……」
「旅の中で発見したものですがのう。
攻撃呪文としてはフレイムや溶岩魔人など火属性モンスターに有効な程度じゃ。
しかし、どこでも飲用の水が用意できるのは、優れものと言ってもいいじゃろう」
「感謝いたします、ザボエラ殿。 船長!
比較的無事な樽を修理しろ。適当な木箱をばらして補修に充ててかまわん!」
無事な水樽や破損した樽を組みなおし、四つ樽ほどの樽を用意した。
そこへ
本来なら樽くらいなら破壊してしまう水圧だが、
習得してから威力の調整はちょくちょくやっていた。
注がれた水を試飲した船長とコルキ殿が、
そこへ姫が割って入ってきた。
「コルキも船長も落ち着きなさい。
まず、ザボエラ殿は私達が水で苦しむ運命から救ってくれた恩人なのですよ。
あなた達は恩人の持ち物の所有について、外から他人がとやかく言うつもりですか」
二人はレオナ姫の言葉に恥じ入り、謝罪してきたが私は特に気にしていないので鷹揚に許した。
協議の上で決めようという事にした。
「ところで、ザボエラ殿。
試しに習得したいので、あたしだけ先行で契約させてもらえませんか?」
契約できない可能性もあるし、物は試しでとレオナ姫が言ってきた。
もしかすると、自分が先に習得したかったのだろうかと考えたが、
まあ、構わぬかと姫に教授する事にした。
翌日、甲板掃除をしながらすごいスピードで走り回るボリクスに、
威力を落とした
それからの船旅は順調に進み、デルムリン島へ無事到着した。
上陸しようとするレオナ姫はコルキ殿にひょいと捕まってしまった。
「姫、まずは我々が出向き、島の安全を確かめて参りますから大人しくしてください」
「あたしも一緒に行きたかったのに。ボリクスは一緒に行くんでしょ?」
「ま、うちは戦えるから、当たり前や。レオナも戦えるようになったらな」
「ずーるーいー。安全が確認できたらすぐ呼んでね!」
不服そうにしているレオナ姫のおでこを、ボリクスがデコピンしている。
王の考え通り、レオナ姫の気分転換になればいいと思っていたが、心配はいらないようだな。
そう考えながら、私とコルキ殿、クロコダインとボリクスはデルムリン島へ降り立った。
浜辺にモンスターたちが集まってくるが、遠巻きに眺めているだけだ。
襲ってくる感じはなく、好奇心で眺めているようにみえる。
待っていればブラス殿に連絡がいくだろうからと思っていたら、本人が現れてくれた。
「パプニカ王国の方々とお見受けしますが、デルムリン島に何の御用ですかな?」
「突然の来訪失礼致します。私はパプニカ魔法兵団副団長コルキと申します。
パプニカ王国王女、レオナ姫をお連れし、地の神への儀式を行いたく参りました」
「わしは島のモンスターたちをまとめております、鬼面道士のブラスと申します。
おもてなしができる場所ではありませんが、お越しください」
案内されてブラス殿の家へ行く。
ダイはいないが、まさかダイはいますかとは聞けないだろう。
コルキ殿が40年ぶりに行われていなかった地の神への儀式をするため、
大穴の場所を教えていただきたいと話すのを横で聞いていた。
ダイ爆発!!!でテムジンは、
"14歳になられたこの月のうちに~"
という説明をしていたのだが、あれはレオナ姫をあのタイミングで連れていくための方便。
デルポイ殿が調べた地の神の儀式は、別に年齢についての記述はなかったのだ。
ブラス殿はコルキ殿から儀式についての説明を聞き終えると、
思い当たる穴があるので案内しようという話になった。
私とコルキ殿、ブラス殿、クロコダインが同行して、
危険はないか確かめに行くことになった。
数刻後、場所を確認して戻ってくると、ダイとレオナ姫、ボリクスが話をしていた。
レオナ姫は待っていられず降りてきてしまったようだ。
ボリクスにはダイが
その上で、彼の前で竜の紋章の力を使わないように言い含めておいた。
ボリクスは特例だが、通常は竜水晶の説明の通り、
成人してから使えるようになるのが
幼い頃に暴走して周囲の者を傷つけては大変だと話をしておいた。
そう考えて儀式の為の道具を下ろしている姿を眺めていると、島が少し揺れた。
まさか火山が活発になっているのかと気になってしまったが、
ブラス殿によると休火山で長らく噴火はしてないとのことだ。
だが、妙な事に数日前から地震が頻発しているらしい。
そのように話をしていたら、私にも理解できるほどの邪気が島全体を覆う。
そして、さきほどまで穏やかだったモンスターたちが、暴れ出したのだ。
暴れるモンスターを
取り合えず、コルキ殿に姫を連れて船へ戻るように話をした。
まずは、苦しんでいるブラス殿に
混乱を鎮静化する呪文だが、効果を現してくれたらしく楽になったようだ。
一瞬、大魔王バーンの侵攻が早まったのかと肝を冷やしたが、
デルムリン島、邪気……と考えていくと、ピンク色の邪神像が脳裏に浮かんだ。
そう、劇場版一作目の邪神像の事である。
ブラス殿に何か像のようなものがあるかと尋ねると、場所を教えてくれた。
邪気に抗っていたせいか、
場所を知っているそうなので、ブラス殿ではなくダイが案内してくれるという。
私とクロコダイン、ボリクスとダイが洞窟へ向かう事に。
クロコダインがダイを肩に乗せて、行き先を指さしてくれと頼む。
危険な状況だが、ダイはやけに楽しそうにクロコダインの肩に乗って方向を指示していた。
邪神像がいるであろう洞窟に到着した。
奥へ進んでいくと、見上げるほど広い空洞に出て、そこに劇場版の邪神像がいることを確認した。
既に直立してこちらを見据えている。
ダイがオレも戦うというが、ボリクスに拳骨を喰らって、クロコに任せとき!と叱られている。
ボリクスにダイを任せて、私とクロコダインが戦う事になった。
何体かいたモンスターは普段は温厚な島の者達だ。
怪我をさせないよう
邪神像が拳を叩きこんでくるが、真空の斧でクロコダインが捌いていく。
邪神像が行動できるほどの空洞ではあるのだが、イオ系の爆発を伴う呪文は崩落の危険がある。
クロコダインが邪神像の腕へ闘気を込めた斧を食らわせるだけで、
邪神像の腕が容易く両断され派手な音を立てて砕け落ちる。
ああ……竜の紋章をちょっと出しただけのダイに敗れる程度の相手だ。
先だって戦ったキラーマシンとは強度がそもそも違うだろうし、
激戦を潜り抜けてきたクロコダインとは、
「クロコダイン!
いまから一撃で決めるので、みなを瓦礫から守ってくれんか!」
「おう、任せろ!!」
私の意図を汲んで、ボリクスとダイを庇ってくれるクロコダイン。
フラフラした邪神像がこちら側に倒れそうだったので、
クロコダインが勢いをつけてドロップキックを食わらす。
上手い具合に後ろに倒れてくれたので、こちらには瓦礫がこないで助かった。
ダイが興奮したようにクロコダインの強さを賞賛している。
私は邪神像の瓦礫を眺めながら、背後の祭壇にある
そこに呪文の契約魔法陣が刻まれており、これならしっかり呪文契約ができそうだった。
その横に朽ちたメモ書きのようなものがあり、それに目を通して驚くことになる。
どうやら邪神像は、魔王ハドラーの後方基地として機能していたデルムリン島で、
キラーマシンとは別の方向性で作られた戦闘兵器兼モンスター洗脳装置だったようだ。
当時、地底魔城にいたハドラーの邪気は、
パプニカ・ベンガーナ・ロモス辺りまでは覆っていたが、
本人が赴かなければカールやリンガイアまでは影響が無かったらしい。
ハドラーの邪気を込めその影響範囲を広げながら、
戦闘もできる移動する前線基地がこの邪神像であり、なんと製造者はブラス殿らしい。
この事は私の胸にしまっておくとしよう。
いまのブラス殿は知らない事でもあるだろうし。
ブラス殿の所へ戻り、パプニカの船から下りてきたコルキ殿に説明した。
かつての魔王軍の兵器が眠っていたが倒したから大丈夫だろう、と。
コルキ殿に
研究はザボエラ殿に一任されておりますのでと言っていたが、
コルキ殿は契約したそうに石板を見つめている。
船上では実地で呪文を試せないが、契約は試させてあげてもいいだろう。
地の神への儀式を終わらせた後、ダイとレオナ、ボリクスは仲良くなっていた。
「ダイ君は何年かしたらパプニカにおいでよ。
留学するのもいいと思うんだ」
「え、いいの爺ちゃん!?」
「……その前に礼儀作法を身につけんといかんじゃろうな」
コルキ殿がブラス殿への礼の品々と、パプニカへの入国許可証を渡している。
その様子を横目で見ながら、ブラス殿に再訪の約束を取り付けておいた。
一旦、パプニカに戻るが私は近い内にまた来て、洞窟に何か危険なものがないか、
調査に来る旨をブラス殿に伝えデルムリン島を去った。
本来はダイについての話を色々しておきたかったのだが、
用が済んだ後にいつまでもいるわけにはいかない。
船中で
デルムリン島の邪神像については、原作にはなかったことだ。
このタイミングで邪神像が目覚めたという事は、
あの時に水がなくなった船内からレオナ姫をパプニカに戻すという選択を取った場合、
最悪デルムリン島が壊滅していたかもしれない。
劇場版の事件を考慮しなければいけないとなると、
例えば二作目のベルトーザなどもだが、
私が妖魔士団長にならないので彼が重用されるかどうか不明な所がある。
そして、
実はここに
劇場版第二作目はストーリーよりは
紋章を解放したダイと互角に戦うベルトーザの強さ。
そして、ダイたち三人を蹴散らす
その辺りの設定的な部分が記憶に残っている。
近接戦闘が得意ではない私としては、
召喚獣のように使い、騎乗する事も出来る
解析は進められるが、地面が無いと実演ができないので研究はこの辺りまでになる。
しかし、劇場版の事も考慮する必要があるとしたら、
新生六大将軍に相当するデスカール達も存在するのだろうか?
まだ、本来の六大団長も定まってないはずなので、
影武者である彼らがその位置にいるわけはない。
だが、このままいけばクロコダインは百獣魔団長にならないだろうし、
私も妖魔士団長になることはない。
影の六大団長だと相当するのは……、
百獣魔団はザングレイで妖魔士団はメネロだったか。
あの二人がその任に就く可能性がある。
ただ、彼らが脅威かといえば、新生六大将軍で危険なのはデスカールくらいだ。
彼は暗黒闘気を使いこなし、
更に相手の魂を抜き去ってしまう"脱魂魔術"は極めて恐ろしい術といえるだろう。
他の六大将軍は、上手くすれば竜騎衆のガルダンディーとボラホーンで完封できる。
あとは、彼らを束ねる豪魔軍師ガルヴァスだが、
恐らくは
強くはあるが、絶対的に危険ではあるとはいえない。
彼らの存在が表舞台に出てくる可能性を考慮しておく必要はあるだろう。
帰りの船旅は順調に進み、パプニカ港に無事到着した。
港ではレオポルト王が迎えに出ていて、レオナ姫を待っていたようだ。
そして、パルナス殿がクロコダインに声をかけ鎧を進呈したいという。
クロコダインは驚くが、同じく
戦士団の者が三人で担いできた鎧をクロコダインに見せる。
当惑するクロコダインに、我々パプニカ戦士団の感謝の気持ちだ、受け取ってくれという。
その場で身につけるクロコダイン。
どうやら獣王の鎧と言うのは比較的メジャーなデザインらしい。
基本的なデザインは獣王の鎧のそれだが、肩や胸部の飾りなど細部が異なる。
色あいも相まってか、ロトの鎧のような雰囲気だ。
バダックがクロコダインの動きを阻害しないように作ってくれたらしい。
私は事前に聞いていたから驚きはないが、
クロコダインはみなの手を握って感謝している。
しかし、呪文が通じないクロコダインというのは……ほとんど無敵なのではと思ってしまった。
それにしても、予定よりパプニカ滞在が長くなってしまった。
テランやヨミカイン魔導図書館へ戻る前に、デルポイ殿の墓へ花を供えに行った。
そこには、意外な人物が墓前で手を合わせていた。
怪訝そうにこちらを見る姿は、あちらはともかく私はよく知っている人物である。
何を隠そう、大魔道士マトリフなのだから……。
独自設定
邪神像の製作者……魔王軍時代の記憶はあまりないようなので、
ブラス老自身は覚えてない事です。
ハドラーの後方基地であったデルムリン島ですので、
色々な研究も行われていたのかと考えました。
コルキ……魔法兵団副団長。
ザボエラが精鋭ではない人をという話をしたが、
姫の随員という事で副団長が同行する事に。
魔法兵としては並よりちょっと上程度ですが、
集団を統率するのが上手いタイプです。
クロコダインの鎧をロトの鎧風にしてみました。
肩当てをちょっとロト風にして、紋章っぽいものをつけた感じです。
ロトの鳥のマークはないので、何か別の紋章がつくかもしれません。
鎧を描くのは苦手なので、ほぼ獣王の鎧ですが、
クロコダインの姿を思い浮かべる際の一助になれば幸いです。
【挿絵表示】