ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
ロカ……。
こちらはよく知っているが、マトリフ殿が私を知っているはずもない。
無難に話をするのがいいだろう。
まさか、出会うとは思わなかったので、私自身は大分動揺しているが……。
「あんたがテランのザボエラさんかい?
オレはマトリフってんだ。ここに眠ってるデルポイとは昔の馴染みでな」
「こちらこそお会いできて光栄ですなマトリフ殿。
勇者アバン殿と共に魔王ハドラーを倒した、最高の魔法使いと聞いておりますぞ」
「そんな偉いもんじゃねぇさ。……少し話さねぇか。ダチの最期の話を聞きたいんだ」
わざわざ "テランの" とつけるという事は、私の事を知っているようだな。
どこまで知っているのかは気になるが、注意を払っておく必要があるだろう。
あの騒動で表向き最高の評価を受けたのはパプニカ戦士団だ。
見ていた人々はクロコダインやボリクスの活躍を知ってはいるが……。
「そうか……デルポイの奴は最後までパプニカの事を思ってたんだな……」
デルポイ殿が古の文献に当たってくれていて、
地の神への儀式をしにデルムリン島まで行った話までしてしまった。
聞くのが上手いというか、質問と話を促すタイミングが的確で、するすると喋らされてしまう。
まずいな。やはり、地頭がいいタイプだ。
そろそろこちらから聞いてみるとしよう。尋ねたいことがあったのだ。
「マトリフ殿。もしやと思いますが、あなたを排除したのはテムジンでしたかのう?」
「なぜ、そう思うんだ?」
「最終的にはデルポイ殿もですが、三賢者は結局全員、テムジンに排除されております。
そうなると、急に王の相談役と言う要職に就いたあなたは、
テムジンからすれば排除すべき敵ではありませんかな?」
感心したように驚いたように、マトリフ殿は私に向き直り頷いて首肯する。
「大したもんだなあんたも。実際、テムジンはオレに刺客を送ってきやがった。
まあ、そいつらを返り討ちにしたよ。そこまではいい。
そいつら、歯に仕込んだ毒を飲んで死んじまったのさ」
「随分と忠誠心の高い部下を抱えていたのですな」
「そういう見方もある訳か。
オレとしてはな、人間に愛想がつきちまったんだよ、そこで」
「愛想がつきたですか? それは一体、どういう……」
気落ちしたような感じのマトリフ殿はポツリポツリと話し始めた。
魔王ハドラーを倒したのだが、戦士ロカは命を落としてしまう。
勇者アバン、ロカ、レイラの三人は、彼が長い人生で追い求めた友人たちだった。
特にロカは、マトリフにとって人間の善性の象徴のような存在だ。
「オレはあいつの善良さを見て、人間ってのは捨てたもんじゃねぇ。
そう思って希望を抱いたんだ。だのに、死んじまってよぉ……!!」
自分で手を汚さず、他人に人殺しをさせる醜悪な
暗殺という手段に一切躊躇せず、
精神的に盲目で他人の命も自分の命も軽い暗殺者も。
方向性は違うが両方ともに、人間の醜さを象徴している。
「オレの
ロカは、あいつはそんな事の為に命をかけたんじゃねえんだよ!!!」
マトリフ殿が修行したギュータは、創始者であるバルゴートが掲げた、
"人間世界を救う真の勇者とそれを支える英傑たちを育て上げる"
という目的の為に作られた隠れ里だ。
ギュータの歴史上でも卓越した天才であるマトリフ殿は、
死に瀕したバルゴートの最期の言葉である、
"その力で勇者を支え、共に道を歩んでくれ"
そんな願いを託され、勇者の力になるためにギュータを出たのだ。
彼はギュータを出てから、長らく勇者を追い求めていた。
そして出会った勇者アバン。素朴な善性を持ったロカ。優しく彼を見守るレイラ。
そんな彼らとの触れ合いで、人間の善性への希望を持ったんだろう。
皮肉にも善性に触れて希望を得た事で、人間の悪性に対しての忌避感が強くなったのだ。
正直、人間が魔王になる世界だったら、
マトリフ殿こそが闇落ちしてもおかしくはない深い深い絶望だ。
だからこそ、その後、デルポイ殿だけに挨拶をして、パプニカを去ったのだ。
このままパプニカに居続ければ、人間への絶望から人類の敵になってしまうだろう、と。
「パプニカを捨てちまったオレはともかく、デルポイは最後までパプニカの為に戦ったんだな。
もう、オレはあいつにダチだなんて言ってやれる資格はない。
だがな、一つだけやりてぇことがある……」
「それはなんですかな」
「パプニカで何を企んでやがるんだ、魔族の旦那よ!!」
鋭い
「待たれよマトリフ殿。
テムジンの一件を考えれば、ワシらが敵意のないことは分かるじゃろう!」
「さあな。どうだかわからねぇぜ。
テムジンの件を上手く使って、あんたがパプニカ王家に取り入る機会を作っただけかもしれねぇ!
ダチの墓参りついでだ。あいつの守りたかったパプニカはオレが守ってやる!」
タイミングをずらした
まずい、呪文が展開される速度が早過ぎる!
回避が間に合わないので
直線的に距離を取った私の移動コースを読んでいたのか、
着地点ぎりぎりに
寸前のところで、
自分が呪文を使いだしたせいで分かるが、マトリフの呪文の使い方は非常に上手い。
しかも、彼には
だが、彼が必勝を期するなら、戦いの組み立てが違うのではないか?
もしかすると、これは……。
「どうしたよ、そんなもんじゃねぇだろ!」
「ならば仕方ありませんな」
マトリフが
私が右腕に集中した呪文の力で、
「なんだそりゃ?」
「さて、なんですかのう?」
問答の後、私がマトリフへ
難なく回避し、マトリフは魔法力を放出し滑るように移動しながら、
そして、移動した先から
私は一切移動せず、そのすべてを
「
私の放った
通常の
しっかり回避して地面に空いた穴を確認し、こちらを見やって話しかけてくるマトリフ。
「すげぇ呪文だな。相手の呪文を取り込んで、増幅して打ち出すってか?」
「正解はお教えしませんぞ、マトリフ殿」
コミックスに収録されていた説明文が、
"自分の手を汚さず他人の力ばかり利用するザボエラらしい必殺呪文だ……!!"
という感じで使い手がザボエラだという一点で卑劣認定され、
説明文まで敵に回った勢いがあり当時は笑ってしまった。
先ほどのように
逆に
代わりに
受ける呪文に応じて、放つ呪文の取捨選択が必要になるテクニカルな呪文だ。
さらに一個前の
その場合、
ただ、
最初は攻撃せず、呪文防御かと錯覚させるブラフを仕込んだのだ。
もっとも、マトリフ殿は惑わされなかったのだが……。
ザボエラがサタンパピーを集めて
呪文攻撃を無効化する性能自体は、副産物的なものなのだろう。
恐らく極大呪文でも吸収できるのだろうが、極大呪文は使い手が非常に少ない。
それゆえまだ試せてはいないが、呪文の性質上は可能だろう。
と思っていたが、その機会がやってきたようだ。
両腕に強力な魔法力を集中させたマトリフがこちらを向いている。
「さて、手加減はそろそろやめだ。こいつを喰らっても涼しい顔でいられるかな?
いくぜ……
「
マトリフ殿の方向ではなく、上空へ向けて。
「そろそろやめにしませんかのう。ワシの実力を見たかったのか分かりませんが……。
マトリフ殿も本気を出してはおられませんじゃろう?」
「そんな事もわかっちまうのか? 後学の為にどこで分かったか聞いていいかい?」
「いやいや、あなた相手には手札は見せぬ方が上策でしょうかな」
正直、本気でマトリフ殿がこちらを始末する気なら、
もっとも、こちらには
「ハッハッハ、くえねぇ爺さんだぜ。いきなり悪かったな。
あんたの心底を知りたかったんだ。すまねぇ」
「いやはや、肝を冷やしましたぞ
ワシはマトリフ殿のお眼鏡に適いましたかな?」
ニヤリと笑みを浮かべ、右腕を差し出してくるマトリフ殿。
悪かったなと一言、謝罪の言葉が添えられる。
「けっこう本気だったんだがな。あんた、大したもんだぜ」
テムジンの事件のあらましを聞いて、街で情報を仕入れてから、
状況を推理した結果、私の事を怪しいと感じたらしい。
それで本人に直接会って、人物を確かめたかったという。
正直、冷や冷やしていたらしい。
極大呪文を複数修めていそうな強大な魔法力の魔族が、
反撃に一切それを使ってこないってのはどういうことだ……と。
「デルポイは
あんたの内面をきっちり評価して信頼してたんだろうな。
オレは爺だが、賢しいガキだなまったく」
「マトリフ殿……」
「あんたの眼鏡、魔法力を感じるからなんか曰くありの品だろ?
帽子もかぶってねぇのに魔法力を頭から感じるって事は、なにか呪文がかかってるって事だ。
複数の魔法の品で身を固めた方がいいぜ。
実は
生まれつき魔法力に敏感な者、邪気や気配を感じる力が強い者(おそらくメルルの様な)、
もしくは、一流の魔法使いが時間をかけて観察すれば分かるレベルだから、
容易くはばれないだろうとは言われた。
そして、一応、こいつを身につけておきなと、聖石のペンダントを貰う。
「そいつは、呪文を一つ込めておける。それ自体が破壊されなければ呪文は維持されるもんだ。
部分
「貴重なものではありませんか? ワシが頂いてもよろしいのですかな」
「詫びの一つだ。だが、これでも足りねぇと思ってる。
あんた、オレに頼みたいことがあるんじゃねぇか?」
ああ……この人は多分、あと一押しを待っているんだ。
恐らくは、マトリフ殿の内面では決まっている。選択はなされているのだろう。
だが、選択した道を歩き出すかどうかはまた別の話だ。
さて、一押しの前に幾つか聞いておきたい。
「人間への絶望はどうですかな。今も根強くあるのでしょうか?」
「まあな。だが、ちぃと前ならロカたちが晴らしてくれたさ。
直近だとアンタたちだ。人間に愛想が尽きたってのも本音ではある。
では、あるんだが、オレも人間なんだよな……それからは逃れられねぇ」
そう口にするマトリフ殿は苦いような悔しいような、
嬉しいような複雑な表情をしているように私には見えた。
「パプニカに戻られた理由は、デルポイ殿の墓参りだけではなかったのでしょう?」
「パプニカを救った
キラーマシンを片付けたのはワニ男の兄さんだっていうじゃねぇか。
10歳ちょっとのお嬢ちゃんが
逗留して数日の国の為に命をかけて戦ってくれる奴らがいる。
それだけでオレの胸は熱くなったさ」
「人助けをしておくものですな。マトリフ殿にそれで評価して頂けるとは」
鼻を掻きながらあちらを向いて口笛を吹くマトリフ殿。
もしかして、照れているんだろうか。
「話を聞いてる間にあんたの
だが、会話から推測するとあんたは、まっとうな人物に見えるんだよな。
例えば、会った瞬間にドブみてぇな心底が透けて見えたテムジンとは違ってよ」
「それでなぜ、ワシと戦う事を選択されたのですかな?」
頭をぼりぼりかきながら、マトリフ殿は若干歯切れが悪く言う。
「オレはまぁ、控え目に言っても、天才なんだわ。
知識もため込んでるし、見抜く力もあるんだが、信じるっていう決断が難しい。
となるとオレは臆病だからさ。どうしようか迷っちまうんだ。
で、自分で決められねぇから、
「ほう……マトリフ殿の中のロカ殿はどう答えたのです?」
「戦ってみて、見極めりゃいいってな。
ハハッ、まったくあいつ死んじまった癖にそんな事を言いやがる……」
そう今度こそ照れてそっぽを向きながら口に出すマトリフ殿は、
本当に、心の底から嬉しそうだった。
聞きたいことは聞いた。
さて、マトリフ殿が歩きだせる一押しをするとしようか。
「まったく……なんでオレはパプニカから逃げちまったのかね……。
この歳になって、ようやく "逃げはおおかた悔いを残す" ってわかったつもりだったんだがな」
「逃げてはおられぬでしょう」
「いや、オレは……」
「戻って来られた。そして、これからは逃げることはないでしょうな。
それはつまり、逃げてはおらぬとワシは思うのですよ。
敢えていうなら……」
「おう。敢えていうなら……?」
「少し休んでいたと。そういう事ではないですかのう?」
マトリフ殿はあっけにとられた顔をしていたが、少しずつ震えるように笑いだし、
最後はしりもちをついて、大笑いした。
「あんた、面白ぇえんだな。こんなに笑ったのは、何年ぶりになっちまうんだろうか……!」
「マトリフ殿。三賢者としてパプニカを支えられるつもりはございませんか?
いま、パプニカはテムジン派の穴を埋めるため、一人でも多くの人材を欲しております」
それまで明るく笑っていたマトリフ殿が、若干、眉根を寄せて渋い顔をしている。
マトリフ殿が賢者と言う肩書が好きではない事は分かっているが、
一応、今後の予定を確認するために尋ねてみたのだ。
「オレは三賢者って柄じゃねえさ。なにより、賢者ってのは気にいらねぇんだよ昔から。
賢き者って言葉面が気にいらねえんだよな。エラソーっていうか」
「ふぅーむ……役職はパプニカ宮廷付き大魔道士マトリフ。
それでよいではありませんか? ドスが利いておりましょう?」
大魔道士という肩書に対して、ドスが利いていると言っていた覚えがあったのでそう付け足す。
私の言葉を聞いたマトリフ殿は、一瞬真顔になって堪え切れなくなったかのように笑いだす。
「クックック……。勘弁してくれよ。あんまり一度に笑わされると腹が痛ぇ。
よし、一緒に王宮へ行こうぜ。オレはシャイでさ。一人は決まりが悪いんだよ」
レオポルト王への面会に同行する約束をした。
何か思いついたのかマトリフ殿が、ポンと掌を叩き私に向き直って尋ねてくる。
「そういや、いまの三賢者誰だ。ザボエラさんよ?」
「三賢者はパルナス殿一人ですな。彼を手伝ってあげてもらえませんかのう」
「ハハッ、若いやつは苦労した方がいいんだよ。まあ、手助けはしてやるがな。
ところで、面白そうなやつはいるかい。あんたの目から見て」
レオナ姫の事を話しておいたら興味を持ったらしく、指導を約束してくれた。
私の魔族であることについては、同席するから王や姫には話しておいた方がいいぞとは言われた。
そして、実は一番聞きたかった人物について、マトリフ殿に居場所を聞いてみた。
誰かと言えば、アバン先生だ。
おっと、この呼び方もアバン殿に直しておかないと。
「アバンか……。紹介してやりてえが、パプニカを辞してから会ってねぇんだよな。
ただ、2年前の話になるが、ロモスのネイル村にはちょくちょく顔を出してるはずだ。
一筆書いてやるから、レイラに会って聞いてみてもいいかもしれねぇな」
しかし、アバン殿か。
彼は独特な勘の鋭さのようなモノを持っていた気がする。
正直に魔族だと最初から話をした方がいいのだろうな……。
マトリフの
独自設定
選択した呪文系統だけ魔法力上乗せで威力アップ。
選択しなかった呪文の魔法力は霧散しますという辺りは私の独自設定になります。
ザボエラはああいう使い方をしましたが、
この呪文はむしろパプニカ辺りで、魔法兵の隊長が覚えて、
味方に呪文を撃たせて攻撃すれば強そうな気がしています。
独自呪文ですが、習得難易度はどのくらいなのでしょうかね。