ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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次回更新は金曜日の23時になります。


第二十一話 母となった僧侶

アリアム殿の寝室に行ったレイラ殿は戻って来ない。

残っていたマァムに聞いたところ、アリアム殿はロモス咳だという。

 

一読した毒草庫のノートに書かれていたので、実は詳細を知っているのだ。

ロモスの風土病の一つで、子供の頃に罹れば大したことがなく、

大人になって再び病に罹る事もないらしい。

だが、ロモス外の──当然、子供の頃に罹り抵抗力を得ていない──

大人がロモス咳を患うと、極めて致死率の高い病になってしまうのだ。

 

アリアム殿は子供の頃、パプニカで過ごし、両親と共にロモスへやってきたという。

つまり、子供の頃にロモス咳に罹っていないのだ。抗体が無いということだろう。

私は常に持ち歩いている毒草庫のノートを開く。

ロモス咳に対する特効薬の作り方が書かれている。

勿論、私ならば調合する事もできるのだ。

迷う私にクロコダインが私に尋ねてきた。

 

 

「ザボエラ、アリアム殿を治療する事はできるのか?」

 

「可能じゃが……」

 

「お爺さん! うちのお爺ちゃんを助けて!!」

 

 

マァムが私に頼んでくるが……難しい所ではある。

爪を刺して薬を注射するにしても、

盗賊として素早さを身上とするレイラ殿に見とがめられずに治療するのは不可能だ。

 

会ってすぐの人物が魔族だと正体を明かして、

特効薬があるから治療させてほしいと爪を刺す。

……いやいやいや。

私が彼女(レイラ)の立場でも信用などできようはずもない。

こんなことならマトリフ殿にもついてきてもらって、

身の証を立ててもらえばよかったかもしれない。

……結論が出ないな。やはり、正体は明かさない方がいいか……。

 

 

”この歳になって、ようやく……

逃げはおおかた悔いを残すってわかったつもりだったんだがな"

 

 

弱気になったところで、マトリフ殿の言葉が思い出される。

……そうだな……。確かにその通りだ。

デルポイ殿を救えなかった時のように、悔いを残してもいいのか?

会って間もない相手ではあるが、縁が出来たのならそれを大事にするべきだ。

そうして、マァムを見ると、彼女は祈るように私を見つめている。

戦士ロカはいない。彼女は父を失っているのだ。

その上、祖父も失えば、その心の傷はいかばかりだろうか……。

 

 

"あんたは賢いから特にアドバイスもないが……レイラはオレより勘が鋭い。

で、あいつの好みはロカみたいな真正直な男だ。ま、ヒントはここまでだが頑張れよ"

 

 

マトリフ殿の言葉を思い出した。つまりだ。

レイラ殿からの信を得るなら、馬鹿正直に行くしかないか。

 

 

「クロコダイン。ワシは助けようと思う。ついてきてもらえぬか?」

 

「分かった。オレも力になろう」

 

「ボリクス。マァム殿と一緒にいてくれぬか」

 

「ええで、任しとき!

安心しろや、マァム。ザボ爺がお前の爺ちゃん助けてくれるで」

 

「え、本当に!!」

 

 

その声を後ろに聞きながら、アリアム殿の寝室へ行く。

苦し気な呼吸と、咳が酷くすでに意識が無い。

驚くレイラ殿に声をかける。

 

 

「ロモス咳ですな?

ワシは特効薬を持っておりますので、それでアリアム殿を癒しましょうぞ」

 

「待ってください。

ロモス咳は不治の病です……! いままでそんなこと誰もできませんでした」

 

「いまから、ワシの姿が少し変わりますのじゃ。ですが、信じて頂けませんかのう。

あなたが信じて下さることで、アリアム殿を救う事ができるのですぞ」

 

 

そう言って聖石のペンダントを外し、変身呪文(モシャス)を解いて魔族の姿を晒す。

目にもとまらぬ速度で抜き放ちダガーを構えるレイラ殿。

私は彼女に話しかける。

 

 

「いまから体内で薬を調合します。その間、ワシは完全に無防備になりますのじゃ。

怪しいと思われるなら刺していただいても構わぬが、それではアリアム殿は救えませんぞ」

 

 

レイラ殿の前にクロコダインが立ちはだかり言葉を足す。

背中しか見えないが、いつもの頼りがいのある表情をしているんだろう。

 

 

「ザボエラはアリアム殿を治療しようとしているのだ。

信じてもらえんだろうか? 本来なら、疑われるかもしれぬ姿を晒そうとは思わん!」

 

「会ったばかりの方を信じられるわけないじゃないですか!」

 

「分かった。アリアム殿に何かあれば、このクロコダインが命を捨てよう」

 

「え!?」

 

「だから、オレの友を信じてやって欲しい……!!」

 

 

納得したようにダガーを仕舞い、促すレイラ殿。

私はアリアム殿に爪を刺す。

ロモス咳の特効薬もそうだが、衰えた体力を補う薬草も投与しよう。

三人にとっては緊張感溢れる、永劫にも思える時間が過ぎた。

 

五分ほどして、呼吸が落ち着いて眠りが深くなるアリアム殿。

驚いてゆっくりと近づき、へたり込むように座り込むレイラ殿。

アリアム殿の手を握り、涙を流す。

そして、私の方に向き直り、深く頭を下げる。

 

 

「申し訳ありませんでした。

助けようとして下さったあなた達を、疑うような真似をしてしまいました」

 

「いや、ワシがあなたの立場でも、疑いしか生まれん状況ですからな。お気になさらず」

 

「いえ、実は……」

 

 

レイラ殿に渡したマトリフ殿からの手紙を読んだ。

 

"ザボエラという人物は頭がいいし、理を持って諭してくれるだろうが、

レイラ(お前さんは)そういうタイプに警戒心を持つだろう。

だから、もしも、馬鹿な真似をしたら、無条件で信頼してやってくれ"

 

と書かれていた。

 

確かにレイラ殿は理性的かといえば、直観に従う感覚タイプではあるな。

しかし、もうちょっと一言二言、こちらに助け舟を出して欲しい所だったが。

そう思っていると、ボリクスがマァムを連れてきた。

 

 

「お爺ちゃん、もう大丈夫なの?」

 

「ええ。こちらのザボエラさんが治して下さったわ」

 

「な、言うた通りやろ? ザボ爺はすごいんや」

 

「うん! すごい! すごいや!!」

 

 

その間、レイラ殿の信頼は大分得られたように思う。

少々、扱いづらいものだが、ロモス咳の薬については調合法を教えておいた。

一般的な認識では毒を使うので、驚かれたが基本的な部分を話しておいた。

 

 

「毒であるとか薬であるとかは、使う側の人間が量の多寡、

調合によって利益になるか不利益になるかで決めているのじゃよ。

毒物も薬草もそれぞれが己の身に宿る薬効を発揮しているにすぎん」

 

 

と話したところ、やけに感銘を与えてしまったようだ。

 

 

翌日、すっかり起き上がれるようになったアリアム殿と話をしている。

アリアム殿が僧侶としての腕前以外にも、薬草に詳しかったのだ。

その知識で咳止めを調合し、それで発症から時間を稼いでいたようである。

彼に特効薬の調合法を伝えて、苦しんでいる人がいれば、

薬をあげてやって欲しいし、調合法を広めてもらって構わないと話した。

 

 

「しかし、ザボエラ殿の功績にせずともよいのですか?」

 

「いや、別にそれで利益を得ることを目的とはしておりませんからな。

これは恐らくロモスの国益に繋がりましょう」

 

「国益ですか?」

 

「ロモスがこれほど広い国土を誇っているのに、

人口が増えなかったのはロモス咳あってのことでしょうな」

 

 

軽く話をして終わりにしようと思っていたが、熱が入ってしまって長話をしてしまっている所だ。

 

 

「そこまで大きな視野で見たことがありませんでしたね。

恐らくは王がやるべきことだと考えてしまっているかもしれません」

 

「政治の領域の話でしょうからな。

ロモス咳の薬については、ワシの名を出さない事を条件にしていただければ、

広めて頂いて構いませぬぞ」

 

 

そこでアリアム殿の顔が曇る。

真剣な顔で私に問いかけてきた。

 

 

「本当によろしいのですか?

私としては功績はザボエラ殿に帰するべきだと考えておりますが……」

 

「ワシは魔族ですからな。

魔王ハドラーの侵攻から5年……年が明ければ6年になりますか。

記憶が薄れたというには短い時間でありましょう」

 

「人間として恥ずかしくはあります。

人間にも善悪がおり、魔族にも善人・悪人がいるのですから。

それは個々人の問題であり、種族として差別する事は間違っています」

 

 

アリアム殿の見解は、実に僧侶らしい意見ではある。

だが、その基本的な部分の齟齬で、人・魔族・ドラゴンは争っていたのだ。

ドラゴンは種族的な限界で脱落してしまったが……。

 

 

「そこは矢面に立てぬワシの代わりに、

アリアム殿が功績を受けていただければよいのではありませんかのう。

アリアム殿の発言力が増して、

将来的に魔族への風当たりが弱まれば十分に利益になりますぞ」

 

「分かりました。ザボエラ殿に救っていただいた命です。

その種族を思い、己の名声を求めぬ高潔なお心に感服致しました。

微力ですが力を尽くします」

 

 

高潔とは……なにやら勘違いされてしまったが……。

悪い方での話ではないから、そのままにしておこう。

ロモス咳の薬については、毒を持ったモンスターの毒袋などが必要になるので、

安全な処理の仕方を教えたが、他の薬草についての話が白熱してしまった。

病み上がりなのに無理をしてとレイラ殿に怒られるアリアム殿の姿を横目で見ながら、

やはり素直に明かしてよかったのだと心から思った瞬間だった……。

 

 

なんだかんだでネイル村に三日ほど滞在してしまった。

その間に、村長の腰が悪いとか、案内してくれた狩人の父親の古傷などなど……。

ネイル村の調子が悪い人たちを治して回った。

 

そのおかげでもあるまいが、アバン殿の代わりに、

ブロキーナ老師を紹介してもらえることになった。

ただ、老師への紹介状を書くことは書くが、つかみどころがないタイプの人なので、

会って紹介状を見せたとしても、武術の教えを得られるかどうかは保証できませんとは言われた。

 

ちぎれそうなほど手を振っているマァムに、いつまでも手を振っているボリクスを呼びながら、

魔の森を横断して、ブロキーナ殿の住む小屋を目指す。

その名を聞いてから、クロコダインがやる気を出している。

実はブロキーナ殿の存在を知ってから探していたが、

影も形も見つからず、出会う事すらできなかったので戦ってみたいと思っていたらしい。

 

 

レイラ殿の地図を頼りに山中を二時間ほど歩き、小さな山小屋を発見。

ブロキーナ老師の住まいだろう。

ボリクスが振り返り、私に尋ねてきた。

 

 

「ここに住んどる爺さんの名前はなんやった?」

 

「ブロキーナ老師じゃな。拳聖、武術の神様……様々な呼び名があるのう」

 

「オッケー、分かった!

ブロキ~ナの爺さ~~ん! いたら出てきてーなぁ!!

 

 

ボリクスが大音声でブロキーナ殿を呼びたてた。

クロコダインが唖然としている。私も正直驚いた。

珍しくクロコダインが怒り、ボリクスを叱っている。

 

 

「ボリクス、老師に対して失礼だろうが!」

 

「おらんのやから、尋ねなあかんやん? なに緊張してるねんクロコ?」

 

「いや、オレはな、礼儀の話をしているのであって……」

 

 

やれやれと思いながら二人の口論を眺めているが、

ふと横を見ると1.5mくらいの丸太を、軽々肩に乗せた老人が立っている。

白髪と白いひげを蓄え、痩身ではあるが弱々しくなくむしろ、

天と地の狭間にそびえ立つ山の様な存在感がある。

目線はサングラスで隠れているので、表情はよく分からないが……。

まぎれもなく、ブロキーナ老師だ。

 

 

「あちゃ~。

ワシの住んでる所、軽々しく言っちゃだめだっていっておいたのにな~」

 

「うわ、びっくらこいた! いつの間におったんや爺さん?」

 

 

背後から話しかけられたボリクスがびっくりしていた。

ボリクスは素直に驚いているが、クロコダインは驚愕の表情から声も出ない。

 

 

「ネイル村のレイラ殿からご紹介に与りました。

ワシはザボエラと申す、見ての通りの魔族です。

ワシと言うよりは、このクロコダインとボリクスに、

武術の神と言われるあなたのご指導を頂きたく参りました」

 

「これはご丁寧に……キミ、マトリフさんに最近会った?

なんか、そういう気配がするよ」

 

 

さて……簡単には弟子を取らない方だというのはよく知っている。

作中で迎えられたのはマァムとチウくらいだ。

どう切り出せば指導を許可して貰えるのだろうか……?

 

 

 

 




独自設定
ロモス咳……風土病とかあるのかなと設定しました。
パプニカは発展しているイメージがあるのですが、
ロモスは魔の森が鎮座しているせいか、
いまいち人口が少ない印象がありまして。
何か人が増えづらい理由が、魔の森以外にもあるかなと考えてみました。



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