ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
驚愕しているボリクスとクロコダインをそのままに、
ブロキーナ殿が肩に背負っている丸太を地面へ無造作に置く。
しかも片手でポンと投げたが、大きな音をさせずにふわりと着地させた。
よく分からないが大変な技量だ。
「ブロキーナ殿。オレはクロコダインと申します。
兼ねてよりあなたと戦ってみたかった。是非、一手勝負を所望したい」
「キミかぁ……魔の森でワシを探していたことがあったよねぇ~」
「おお、オレを知っておられたのか!?」
「あの頃のキミは、心がよくない波立ち方をしていたね。
さてさて、いまはどうかな?」
そう言って、老師はクロコダインを見る。ただただ、静かに。
クロコダインは、更に緊張している。
魔界へ行った時より、よほどカチコチになっているな。
ブロキーナ殿は髭をしごき、何度も頷いてからこう口にした。
「何があったの? キミの気はとても平穏だ。
魔の森を彷徨ってたキミにはよくない殺気があったからね。
いまのキミなら、戦ってみてもいいかな~。ところで、ワシ、無手だけど……」
「実はオレも無手で挑みたいと思っておりました」
「せやかて、クロコ大概にしとかな。幾ら強くても爺ちゃんやん?」
クロコダインには老師の実力が分かるが、ボリクスには分からないのか?
小柄な老人の姿にあまり脅威を感じていないのかどちらだろうか。
実際の所、ブロキーナ殿の活躍を原作で読んでいなければ、
私にも気さくな感じの小柄な老人にしか見えないのだが……。
真空の斧を鎧の背にマウントし、鎧を外して並べる。
そして、ブロキーナ老師に向き合うクロコダイン。
緊張しているのかいつもより表情も動きも硬いな。
「参ります、ブロキーナ殿」
「ちょいちょい! そのままじゃ駄目だよ、クロコダインくん」
というなり拳を繰り出してきたクロコダインの腕を取って、投げ飛ばすブロキーナ老師。
ボリクスが驚きのあまり大きな声をあげて"まじかー!!"と叫んでいる。
私も目の当たりにして驚愕はした。
驚きの声を我慢できたのは、老師の実力をあらかじめ知っていたからに過ぎない。
受け身を取って、座り込んでいる状態のクロコダインに、
ブロキーナ殿が近づいて諭すように話し始める。
「このブロキーナに敬老精神は不要だよ、クロコダインくん。
キミの本当の全力を、ワシに見せてくれんかい?」
「失礼しました。では、遠慮なく……行かせてもらう!!」
「力みすぎたままじゃ、すぐ終わっちゃうからね」
起き上がりざまに繰り出されたクロコダインの拳を、
するすると回転するようによけながら接近して、顔面に蹴りをいれる老師。
残った拳で老師を捕らえようとするクロコダインの手を、
サラッとまるで木の葉のようにフワリと回避して間合いをあける。
クロコダインが巨体に似合わない速度で踏み込み、
左右を使い分けた剛拳の応酬を、これまた体重が無いかのようにかわす老師。
更にかわした先に待ち受けていたクロコダインの尻尾による横薙ぎも、
ヒョイとバク転して回避し、一歩・二歩と軽やかにクロコダインに近づく。
易々とクロコダインの懐に入り込み、
インパクトの音が重い老師の拳撃がダメージを与えていく。
捕らえきれない老師に、膝を当てようとするクロコダインの攻撃をするりと避ける。
その膝をヒョイと両腕で掴み、倒立するようにクロコダインの顎を蹴り上げた。
が、クロコダインは尻尾で踏ん張り、少したたらを踏んで倒れずに踏み留まる。
右手に闘気を集中する。獣王会心撃だ。
だが、この溜めの多い技を老師が待ってくれるのだろうか。
そう心配していたら、老師はクラウチングスタートのようなポーズで構えて待っている。
なるほど、実力を見ることが第一だから、全力を出し切らせようという事か。
「行くぞ……獣王会心撃ッ!!!」
クロコダインの右腕から闘気流が放たれるが……。
老師は会心撃のスレスレを、凄まじい速度で走り抜けあっと言う間に距離を詰める。
そして、クロコダインの身長の二倍ほど垂直にジャンプし、
全身を旋回する闘気をまといながら凄まじい衝撃音と共に蹴り技を放った。
ズシ~ンという音を立てて、クロコダインは倒れる。
凄まじい勝負だった。ボリクスは口をポカーンと開けて固まっている。
私はボリクスに声をかけ、二人でクロコダインに駆け寄った。
クロコダインに
すぐ意識を取り戻したが座るのが精いっぱいのようだ。
「ブロキーナ殿、ありがとうございました。このクロコダイン、己が未熟を知りました。
これからも精進して行きたいと存じます」
「まぁ、謙遜しなくてもいいよ。
クロコダインくんは既に十分強いし、実力の基礎は固まってる。
だけど、惜しむらくは互角以上の相手と戦えたことがあまりなかったね?」
魔界へ行く前のクロコダインが、誰と戦っても彼自身が強すぎて、
勝負にならないと不満を抱いていたことすら見抜くのか……。
流石と言うべきか、拳を交えたからこそ、
その内面の気持ちを酌む事ができるのかもしれないな。
「ワシはねぇ……見ての通りの小さく弱い人間なんじゃよ。
戦った敵は自分より大きく強い奴ばかりでね。
常に苦戦、常に辛勝。楽に勝てた戦いなんて若い頃は一度もなかったよ……」
そう語る老師の瞳はサングラスでうかがい知れないが、
過去の自分を垣間見るような、過去の自分と対話しているような、
瞑想しているような……そんな静謐さを感じた。
「それが悔しくて、人生において様々な技を作ったんだ。
でもね、
「それは、老師……まさか……」
「キミなら使えそうな気がするんだ。天性の強靭極まりない肉体と剛力。
そして、憎しみではなく穏やかな心で闘気の力を振るう事ができる胆力。
武神流、習ってみないかい。クロコダインくん?」
「よろしくお願い致します、老師!」
おお……クロコダインが武神流を修める事になるのか。
驚いている私の横をボリクスが通って行って、うちも強くしてくれ!と頼んでいた。
出来る事を見せてくれるかいという老師に、
拳に
「ボリクスくんは、闘気の制御を学んでみようか。
キミの強さへの道は闘気を操る所にある」
「えー、うちにも武神流教えてーなー。カッコえーやん!」
「その
ワシがひっくり返っても手に入らない力だ。
それを完璧に制御する術を学んだ方が、キミは強くなるよ」
「どんくらいやろ? どんくらい、
その老師の笑みは、ニヤリというよりギワリという笑みだった。
滑らかな動きで右手で天を、左手で地を指さす。
「天地の狭間において並ぶ者なし……ってくらい?」
そう、悪戯っぽく笑った。
老師の山小屋に滞在して修行を重ねること三日。
クロコダインとボリクスが弟子入りして、ブロキーナ老師に教えを請うている。
私は一旦ネイル村へ戻り、アリアム殿とレイラ殿に話をして礼を言ったが、
二人から食料を大量に渡された。
なんでも、長老や村の人々が、
看てもらった礼だと食料を大量に持ってきてくれたらしい。
私宛の礼なのでどうしようか困っていたという。
ありがたくいただいて、老師の小屋へ戻る。
戻ってきた私に、出会って開口一番でボリクスが見せてきた。
「見てみい、ザボ爺!
「できるもんじゃのう……」
ボリクスは闘気を操る修行をひたすらにしており、
ナイフサイズの剣を作り出すことができた。
さしずめ
「ボリクスくん、いいねー。いいよいいよ。それ、1時間維持して」
「えー! そんなん無理やん!!」
「やる前から諦めちゃダメ。やってできなかったら……」
「できるまでやる! やろ! わかった、やったるわい!!」
膨れっ面ながらも老師の言った通り、
ブロキーナ殿は決して怒らない。
だが、出した課題を絶対に撤回したり緩めたりしない。
「やはり、師に就くものですな。たった三日でボリクスが随分と伸びましたのう」
「この子はまず、力の制御に全力投入するべきだね。
強大すぎる力を持て余すと、その先には破滅が待ってるだけだし」
ブロキーナ殿にはボリクスが
"下手に強い技を教えるのは危ない。
そう言った老師は、基礎訓練を施してはいるが、
ポイントポイントに達成感があるので上手く行っているようだ。
「教えて頂けるのは基礎と、闘気の制御になりますかなブロキーナ殿」
「あの子は多分、様々な攻撃呪文と、
いまは、闘気の制御を頑張ってくれればいいんだ。それに多分……」
「多分?」
「ボリクスくんは、アバンくんが上手く教えられるタイプかな~って思うんだよね、わし」
やはりアバン殿か……。その根拠は分からないが、私は最初から武術系は放棄している。
呪文は理屈立ててやれば理解できるが、殺気や闘気はどうもピンとこない。
そう考えていると、巨大な魚を担いだクロコダインがやってくる。
「いいねー、クロコダインくん。キミ、上手いじゃない」
「老師の教えて下さったポイントが良かったのです。捌いて朝飯にしましょう」
完全に師と仰いでいるクロコダイン。山小屋で世話になって三日。
実は今年もあと三か月あまりなので、
その間、ブロキーナ殿に修行をつけてもらえる許可を得たのだ。
クロコダインには武神流を。ボリクスには闘気を制御する方法を。
それぞれ教えてくれるという。
話は三日前に遡る。
ブロキーナ殿に技を教えてもらえるという事は、戦士を捨てるという事。
そう考えたクロコダインは、神妙な顔をして私に語り掛けてきた。
「ザボエラ。お前に強化してもらった真空の斧を手放さなければならないかもしれん」
「うむ……武道家を目指すならやむを得んじゃろうな」
深刻な感じで話す私たちに、軽い雰囲気でブロキーナ殿が話しかけてきた。
「え、ワシ、クロコダインくんに斧を捨てろっていったっけ?」
「いや、そんなことは。
ですが、老師。教えを受けるという事は、武道家になるのでは?」
老師がクロコダインの下まで歩いてきて、
足をポンポンと叩き見上げてこう話しかけてきた。
「クロコダインくんは背が高いじゃない。
だから、斧を持つだけで人間でいう槍のリーチになるんだよね。
切り結ぶなかで近寄って、近距離乱戦で拳足や尻尾を振るって戦えばいいじゃない?」
「で、では、如何にすればよろしいのでしょうか老師」
「柔軟にいこうじゃない。柔らか~く考えてみようよ。
拳足を振るうから斧を捨てないといけないってのもおかしいね。
戦士か武道家じゃなくて第三の道があるんじゃないかな?」
そういうブロキーナ殿の言葉に固まる私達。
クロコダインは困惑しているが、私にはピンとくる職業があった。
所謂、バトルマスターだ。
武器を使う戦いと、格闘を得意とする近接戦闘のスペシャリスト。
「バトルマスター。失われて久しいけど、斧と拳で戦う
ねえ、クロコダインくん?」
「ありがとうございます、老師……!!」
そんな会話が三日ほど前に繰り広げられて、いまではすっかり武神流の高弟だ。
私は二人の修行を見ていたかったが、テランには竜水晶を待たせてある。
クロコダインとボリクスに話をして、
私は何度か生活必需品を持ってくると説明をして戻る事にした。
何かあった時の為に、ヨミカイン魔導図書館直通のキメラの翼を渡しておく。
二人に別れを告げ、テランへ戻る。
竜水晶は元気だったが、
休みなしで話を聞いていたので倒れてしまったらしい。
竜水晶から週に一回やってきて話をする時間を設けて、
それをゆっくり編纂して行けばいいのではないかという提案があった。
人間を気遣ってくれているので、彼女の内面も進歩しているのではないだろうか。
フォルケン王はそれを受けて、人員を増やす方向で調整を進めているようだ。
ヨミカイン魔導図書館へ戻った我々は、状況を話し合っておいた。
竜水晶は戻ってくるなり、私に話をしてきた。
「ザボエラ。今度、我をボリクスの下へ
「ブロキーナ老師の下へかね? 構わんよ一緒に行けばよいじゃろう」
「私は
「それは助かるな。収納が出来る魔法の筒を渡しておくかのう」
ヨミカイン魔導図書館の機能を色々と調べる。
その過程で竜水晶から相談を受けたのだ。
ヨミカイン魔導図書館には、守護する存在として、英霊を召喚できるという話だ。
そういえば、そういう存在がいたな。
ガンガディアに占拠された時に、倒されたという話だったが……?
「英霊は普段は幽霊として図書館内にいて、必要に応じて実体化して戦うようだ。
ただ、実体化した状態で倒されると、二度と呼ぶことはできないということだな」
「召喚の条件はなんじゃろうか?」
「所縁の品が必要不可欠だ。しかし、必ずしも物理的な物品である必要はない。
例えばその人物に関する、口伝の逸話でもよいそうだ」
「ほう、逸話?」
ケインも調べたようで彼の話を聞くと、戦士の英霊を呼びたければ生前の武具。
魔法使いの英霊を呼びたければ、杖や水晶玉。魔術書などがいるらしい。
そういうものがなければ、その人物が活躍した逸話を話すことで召喚が可能らしい。
ただ、ガンガディアに沈められた際に、機能に破損があって、
以前は何体か召喚されていた英霊が、一人だけになってしまっているとのことだった。
これは誰を召喚するか熟考する必要があるな。
翌日は外で
やはり、これは非常に面白い呪文だ。
設置型でそのままだと指し示したポイントに魔法陣を刻み、
10秒後に岩の槍が出現し敵を攻撃する。
この出現タイミングを呪文発動後すぐに変更したり、遅らせることも可能だ。
できるかどうか不安だったが、
つまり、火属性+土属性で相手を攻撃する事が出来る。
パプニカ魔法兵団からの使いの方に、試した成果をまとめたレポートを渡した。
包帯を巻いているのでどうしたのかと尋ねたら、
魔法兵団はコルキ副団長を除くほとんどがマトリフ殿に挑んだらしい。
その上で、まとめて敗北したので、一から訓練をやり直しているという話だった。
魔法使いではあるが、やはりモンスターと戦ったり、国内の治安を守る兵でもある。
相手の力を認めれば、最早わだかまりもなく、協力してパプニカのために仕事をしているらしい。
それから年明けまでは忙しい日々が続いた。
テランはベンガーナやギルドメイン山脈のふもとの村からの移住者が増えているらしい。
元々、テランは人口減少から村がそのまま無くなる事もあったくらいだ。
そういった、空き家だらけの村が点在している。
取り合えず、現状はそこに住んでもらっているが、
人が更に増えるようなら手を入れる必要が出てくるだろうな。
北部にある漁村のウルス村との交易ルートを整えたり、交渉に際して助言をした。
フォルケン王は床に臥せっていることがほとんどなくなり、
エネルギッシュに仕事をしているらしい。
私が持ってくるヨミカイン魔導図書館の写本を楽しみにしているようだ。
人間、やはり諦観の日々を送るよりは、やりがいの中で生きた方がいいのだろう。
ロモスではレイラ殿とアリアム殿に伝えたロモス咳への治療薬について、
アリアム殿から王に面会して熱心に説いてくれたらしい。
ロモス王シナナ殿は彼の進言を受け入れ、
国家事業として治療薬の製造と普及に取り組むという事だ。
最初、アリアム殿は一切の報酬を受け取らないという事だったが、
私が助言をして王都からネイル村の街道を整備する事業を報酬とすることにした。
あまり下賜される報酬を断るのは、国側のメンツを潰すことにもなる。
私もパプニカで結局、クロコダインの鎧と言う形で報酬を受け取る事になった。
ロモスは大陸一つに国家一つだというのに、住民が少ない。
他の国が町が集まって国家を為しているのに、
ロモスの場合は村が集まって国を作っている感じがある。
自然豊かな国土であるのに人口が少なく、国力が低くなってしまっているのだ。
障害になっていたロモス咳が無くなるのであれば、移住者も増えてくるだろう。
そうして人口が増えてくれば、国力が上がってくることになる。
年が明けた朝。
ブロキーナ殿の山小屋からは、
クロコダインが呼び寄せたガルーダによって、手紙がたまに届けられる。
修行はそろそろ終わるので、そちらへ戻ると記されていた。
最初は三日に一度くらい様子を見に行っていたのだが、それが一週間になり二週間になり、
既に一か月は二人の顔を見ていないが、心配はないだろうという事は手紙で分かる。
ケインが用意した朝食を食べた後、外で呪文の研究をするかと思った所、
竜水晶がパプニカからマトリフが来たぞと伝えてきた。
マトリフ殿は何度か訪ねてきているので、呪文の研究の話だろうかと要件を予測していた。
実はそのマトリフ殿の来訪が、新年最初の事件のきっかけになるのだが、
この時の私は知る由もなかった。
独自設定
クロコダインを倒した蹴り技
影技という漫画の裂破という技をご存じの方は、
あんな感じの蹴り技が決まったとお考え下さい。
ストーリーが始まってから1年経過しまして、
次の話から本編開始10年前から本編開始9年前になります。
仕込みの部分が多かったので長くなりましたが、徐々に短くなっていきます。
場合によっては3・4年あたりから、本編開始2年前まで飛ぶ場合もあるかもしれません。
本編開始2年前は六大団長結成・鬼岩城完成・ハドラー復活と予定が詰まっています。