ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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二十四話 朋友有り、遠方より来たる
の後にお読みください。


第二十四話閑話 ~魔影軍団長の判断~

北の果てマルノーラ大陸の西に、死の大地と呼ばれる島がある。

その不吉な名は、生き物が生息しないのではないかという荒涼たる姿からついた名だ。

木々どころか雑草さえ生えていない姿は、まるで魔界であるかのような様相を示しているが、

それを理解できるものは地上にはいない。

 

その死の大地の地下。

白を基調とした典雅な宮殿の一隅で、二人の男が対峙している。

片方は直立不動であり、その対面の人物は彼に対し片膝をつき報告をしていた。

 

沈黙の中佇み、いま一人の話を静かに聞いている男は、

白いフードを被った、裾が床まで付きそうな外套をまとった人物だ。

外套の前を開けているが、肉体は確認できない。

手足は手甲・足甲を身につけており、肌は一切見えない状態だ。

正面から確認できる外套の内側は闇だけだ。底知れぬ暗黒……。

一見すると存在感が無い幽霊のように見えるが、顔の部分から除く二つの不吉な双眸は、

強い意志と無視しえぬ威圧感を周囲に放っている。

彼の名は魔影参謀ミストバーン。

大魔王バーンに数千年付き従った側近中の側近だ。

 

無言で報告を聞くミストバーンに対する男は、

ところどころ金で装飾された紫の法衣を身につけている。

まるで高僧のようないでたちをしているが、

その頭部は骸骨であり六つの角が伸び、逆立つ紫色の毛髪がたなびく。

デスカールと言う名のアンデッドであり、かつては邪教の僧侶であった男だ。

 

 

「……ギュータを襲撃した軍勢は壊滅。

ガルヴァス殿以下、五名の死体は回収いたしましてございます。

よもや、あの軍勢が敗北を喫しますとは……。予想外の出来事ですな、ミストバーン様」

 

「ギュータの生き残りは、それほど強かったというのかデスカールよ」

 

「かつてのバルゴート、その娘カノン。バルゴートに師事したマトリフ。

彼らを除いたとしても、小国に匹敵する戦力ではありましょう。

ですが、ガルヴァス殿が率いた軍勢は、かの地を滅ぼすに十分な戦力のはずでございました」

 

「…………」

 

 

ミストバーンはデスカールの言葉に対して、一切反応を見せないで内面で思考する。

通常、地上の村を襲撃して住人を殺す場合、魔界の魔物は10もいれば十分だ。

だがそれは、取りこぼしや住人の逃走を防ぐのに十分な数ではない。

住人を一人も残さず鏖殺し、証拠も残すことなく村を焼き尽くす。

そこまでいくと、50は必要となる。完璧な仕事とは難しいものだ。

 

今回、ギルドメイン山脈の麓にある村々を襲撃する任務は、

立案から現場の指揮までガルヴァスの仕事だ。

全てガルヴァスに一任していたので、基本は100の兵を用意していた任務のはずであったが、

200の兵をギュータ襲撃に用意したという事は、デスカールの報告で初めて聞いた話である。

 

ミストバーンが部下(デスカール)を無視して、思考の海に浸りこむことがあるのはよくある事だ。

元々、数千年を生きている……存在しているらしいから、そもそも時間感覚が違うのだろう。

デスカールもそのような上司の対応に慣れているのか、

彼の考えがまとまるまで只々じっと待つのみだ。

ようやく口を開いたミストバーンの最初の言葉は疑問だった。

 

 

「何者がそれをなしたのかは確認したのか?」

 

「いえ、私が到着いたしました際には、

ガルヴァス殿以下、我が軍の死体が散乱しているだけでございました。

ギュータの村の者は、死者も含めて確認はできませんでした」

 

「監視していた悪魔の目玉は、状況を如何に報告しているのだ?」

 

 

そう。戦場の監視役たる悪魔の目玉は何を見聞きしていたのか?

当然の疑問ではある。それに対するデスカールの返答は簡潔だった。

 

 

「悪魔の目玉から報告はございません」

 

「なんだと? 理由を説明せよ、デスカール」

 

「ハッ……大魔王バーン様がピラァ・オブ・バーンと黒の核晶(くろのコア)の最終調整中で、

ご観覧がないと聞いて、ガルヴァス殿が悪魔の目玉を退けました」

 

「……そうか」

 

 

ガルヴァスにはこの任務は重要であると告げてはいる。

しかし、ルーチンワーク的な掃除仕事の側面が強いのも確かではある。

率先して任務に従事しているのは熱心で良い事だ。

彼の功名心を満たす大魔王の観覧によって、自身の活躍をアピールしたかったのだろう。

ゆえに、観覧がないと分かれば、悪魔の目玉を下げさせる判断もやむないことだと納得はする。

折悪く、不測の事態が発生してしまったわけではあるが……。

 

大魔王バーン様の栄えある居城たる鬼岩城が、ギルドメイン山脈中腹に坐するのだ。

その前に、現地の掃除をせねばならぬ。それも徹底的に、そして完璧にだ。

ミストバーンはそう考え、腹心の魔影軍師ガルヴァスに軍勢を預け、

殲滅計画の立案と指揮を一任したのだ。

 

腹心に任せきりで、進捗状況を調べなかったミストバーンにも問題はあった。

だが、碌な抵抗もなく5つの村で住人を殺しつくし、

住居を焼き払って痕跡を消し続けたガルヴァスの実績は確かである。

 

となると、ギュータの達人たちはそれほどまでに手ごわかったのか?

そのような結論となるのは自然な考えだ。

状況だけ見れば、ギュータにいた者達が、ガルヴァスと部下五人。

さらに200の魔界の魔物を殺しつくす力を保有していたという事か。

……流石にありえないだろう。

 

隠れ里ギュータと言えば、出身者には勇者のパーティーにいたマトリフがいる。

気の利いたものがいれば、マトリフに救援を求める事もできただろう。

マトリフ……? 勇者アバンの仲間……?

いや、この場合は、勇者アバンその人の関与を考慮に入れた方がよかろう。

 

 

「勇者アバンへの監視は……すぐに発見されてしまうから停止していたか?」

 

「仰る通りでございます。悪魔の目玉が一月で10体破壊されまして停止しました。

各国を回っているのも、ヒュンケルを探索しているであろう事は明白でございますれば……」

 

 

卒業の日にアバンの弟子であるヒュンケルは師を討とうとし、

とっさに反撃したアバンによって川に落ちた。

ヒュンケルを回収したミストバーンは、

その憎しみのこもった目を気に入った大魔王バーンからの指示で、

彼にアバンへ対抗する手段として、暗黒闘気の修行をさせているのだ。

そうとは知らないアバンは、世界各地を探し回っているのだろう。

 

 

「そのアバンだが、マトリフが彼に協力を求めた場合、ギュータで起こった事の説明はつくか?」

 

「……確かにアバンとマトリフがギュータにやってきていたのならば……。

ギュータの民は凡百の村人ではございません。

この結果も納得ゆくものでございましょうな……」

 

 

ガルヴァスはハドラーを見つけるまで、魔軍司令候補として大魔王バーンに見いだされていた男。

極大爆烈呪文(イオナズン)極大閃熱呪文(ベギラゴン)を修め、戦闘能力としてみればかつての魔王ハドラーをやや上回る。

メネロはイバラの鞭を自在に操り、鋭利な葉を刃としたり、

多彩な能力を持つガルヴァスの補佐官だ。

ブレーガンも若輩ながら人間に敗北するような腕前ではないし、

ダブルドーラはそもそも人間に容易く倒せる存在ではない。

ザングレイも剛力無双であり、適任者がいなければ百獣魔団長になる可能性がある。

ベグロムは姑息な所があるが、暗黒闘気を身につけ剣術に応用する業師だ。

このメンバーが魔界の魔物を指揮している。

その軍勢が敗北するのはそうそう考えられない事ではある。

 

相手がアバンとマトリフに率いられたギュータの達人たちであっても、

敗北するかどうか気になる所ではある……。

だが、現実を見れば、ガルヴァス以下壊滅しているのだ。

やはり、恐るべきは勇者アバン。あの後、修行して力を増したのだろう。

始末するべきかと一瞬考えるが、アバンに対しては大魔王バーンよりの厳命があった。

勇者アバン討伐は、復活したハドラーへ下される最初の任務(褒美)という事になっている。

つまり、よほどの事が無い限り、彼を抹殺する事はできないのだ。

ならば、些細な疑問は無視し、結果を重視するとしよう。

 

結果としては、いささか報告を怠っていた部下が死んだ。

そうではあるが、ギュータから人はいなくなり、ギルドメイン山脈の麓にある村々から、

人間(ゴミ)を排除した上で、大魔王様の御座所を作るという計画は遂行されているのだ。

長時間黙考しているミストバーンに、珍しくデスカールが如何するか尋ねる。

 

 

「ミストバーン様。ギュータの者達を追って、始末いたしますか?」

 

「無用だデスカール。この作戦の最初の目的はそもそもゴミ掃除だ。

バーン様の鬼岩城をギルドメイン山脈に建設するに際し、ゴミがいては不敬に当たる。

それが故に山脈周囲の村を滅ぼし、綺麗にすることが本義であろう」

 

 

どうせ地上は全て吹き飛ぶのだ。放っておけば死ぬ連中は放置してよい。

それに、六大軍団侵攻の際、猛者がいるのは悪くはない。

六大軍団の目的はギルドメイン山脈の掃除とはわけが違う。

 

計画の発端からして、大魔王バーン様はなにを欲されたのか?

軍団を編成し競い合わせ、後々の世まで通用する最強の軍勢を所望されたのである。

つまり、彼ら六大軍団と軍団長の成長も兼ねているのだ。

それなりの強者がいて、そ奴らと戦う事で強くなるならバーン様の御心に沿う。

ギュータの者達も、マトリフも最強の軍勢の糧となればよい。

 

アバンはそれこそ最初の生け贄となる。

実は本人(ハドラー)には言っていないが、勇者アバン討伐は、魔軍司令ハドラーに対しての、

大魔王バーンから下された最初の試練になっているのだ。

これがこなせないなら、別の者を魔軍司令の座に据える必要がある。

暗黒闘気で強化され、8年も魔力を回復する眠りに就いていたのにもかかわらず、

かつて敗れた勇者に対して勝利できない者に、地上侵攻軍の司令官は務まらないからだ。

 

ミストバーンの内心の述懐を知らぬデスカールは、(こうべ)を垂れて上司に返答を返す。

 

 

「ハッ……左様でございましたら放置しておきます」

 

 

実はデスカールはギュータの生き残りを追跡できていなかったのだ。

だが、もしも探すように言われたら探せばいい。

それに、長年の付き合いでミストバーンがこういうだろうことは予想で来ていた。

"大魔王様のお言葉はすべてに優先する"

恐ろしくも苦々しくも思う事があったが、いまのデスカールにとってはありがたい。

ホッと胸をなでおろすデスカールに、ミストバーンは言葉を続ける。

 

 

「すぐに他の者を召集し、まずはギュータを焼き尽くせ。人の痕跡が残らぬよう。

そして、ギルドメイン山脈のふもとにある村は全て消す作業を続行せよ。

バーン様の鬼岩城を置くという名誉を、ギルドメイン山脈にくれてやるのは良い。

だが、それを人間どもが仰ぎ見るが如き不敬は、絶対に許されてはならないのだ」

 

「ハハッー!! すべては我らが大魔王バーン様の御心のままに」

 

 

ミストバーンはデスカールに対して、

ガルヴァス以下全員にハドラー同様の暗黒闘気の杯を与えるよう命じた。

これ以後、暗黒闘気の力によって、蘇生する事ができるようになり、

個々人で異なってくるが、強力な力を身につける事も可能だ。

最初の蘇生には数年程度の時間がかかってしまうが、

ハドラーが回復の眠りから覚める辺りに蘇ればいい。

ダブルドーラは素体から見直す。

研究中のデッドリーアーマーと同じ金属を用いればよいだろう。

彼のコアも暗黒闘気に浸し、身に宿る闇の力を強化せねばならん。

ミストバーンの指示を聞いた後、恭しく礼をしてデスカールは去って行った。

 

直後、ミストバーンは彼の側近であるシャドーから、

鬼岩城の動力に対しての点検について意見を求められる。

それに回答しながら、地上を吹き飛ばすための巨大な黒の核晶(くろのコア)に対して、

魔力を注いでいる大魔王バーンの事を考える。

黒の核晶(くろのコア)は制作者の魔力に反応するという以上、制作者が魔力を込める必要がある。

故に大魔王バーンその人が最終的な仕上げを行うしかないのだ。

 

死の大地の地下に眠るバーンパレス。魔王軍六大軍団に配備する魔物たちを集める作業。

現状、回復の眠りに就いているハドラーを魔軍司令として、

自分は魔影参謀として彼の部下になる。

六大軍団長に連なる者は、超竜軍団軍団長に竜の騎士バランが内定。

現在、埋まっている席次はミストバーンとバランの二つだ。

そのバランも冥竜王ヴェルザーとの戦いで失った手勢、竜騎衆の候補者選定の為に、

地上を回って人材確保を行っているという。

 

魔界の大魔王バーン領はその広大さゆえに、魔界の強豪が攻め寄せてくる事も多々ある。

ほとんどは守備隊に任せておくのだが、

まれに強力な存在がいる際は、ミストバーンが出陣する事がある。

その場合、敵を蹂躙するだけになってしまうので、見込みがあれば相手を勧誘する事がある。

そうして選定されたのがガルヴァスやブレーガンたちであるのだ。

 

無論、その大魔王領を守る守備隊である魔界の兵も、魔界で補充する事になる。

志願者もいれば、攻めてきた敵勢力を取り込む場合もあるのだ。

その辺りの人材への対応もミストバーンの仕事だ。

ミストバーンの仕事は非常に多い。多すぎるといってもいい。

友人のキルバーンは、正確には大魔王バーンの部下ではない為、

協力を仰ぐわけにもいかないだろう。

 

だが、疲れを知らないミストバーンは、仕事の多さに手間がかかることを実感はしても、

それを嫌であるとか不服であるという事は考えてはいない。

数千年に渡って仕えてきた主の為。

偉大なる大魔王バーンの大望の為に、ミストバーンは勤勉に働いていた。

 

後にミストバーンはこの時の判断を後悔する。

デスカールの言った通り、ギュータの生き残りがどこへ行ったか調べればよかったと……。





ミストバーンとの直接対決はもう少し先になります。


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